【完結】現世の魔法があるところ 〜京都市北区のカフェと魔女。私の世界が解ける音〜

tanakan

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第二章 カフェ・ノードの魔女

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「それは悪いなぁ。なら魔法のことを教える授業料と美味しいランチとまかないい付きで!どう?」

 はい。と私はうなずく。ええ感じにまとめたなぁと柚さんは残り少ないジンリッキーを口元に運ぶ。

「でも琴音ちゃん来てくれたら嬉しいなぁ。お話ししていると楽しいし」

 向けられた視線に私は両手をバタバタと振る。

「私のお話は面白くありませんよ」

「そんなことはないで?別におもろいことを語るだけがお話ちゃうと思うねん。琴音ちゃんは人の話をしっかり聞ける子やからな。自分以外の人が伝える気持ちと言葉をしっかりと聞けることができとる!まぁそのせいで多少は生きにくいかもしれへんけど、魔女の素質としては立派なもんやで!」

 なぁ!と柚さんはミーナさんに目配せをして、ミーナさんもそれに静かにうなずく。

 私はそれ自体が魔法だと思った。口元に運ぶ鳥もも肉のソテーからはローズマリーの香りがして、お腹の底まで沁みる。何よりもこのお店の雰囲気が暖かくて、なんだか生きていてもいいんだと私は思った。気がつけば頬を何か暖かい液体がゆっくりと流れ落ちていく。

 自分の涙だと気がつくのに私はしばらくかかった。それは悔しくて流す涙とは全然違う。

「おい柚!きさま琴音に何をした!泣いているではないか!」

 驚き毛を逆立てるタールーは立ち上がり柚さんに詰め寄る。言葉が出ない私は首を左右に降ると、ちょっあかん!と柚さんは湿った大きなくしゃみをした。

「まぁ私たちも似たようなもんだったからね」

 そういってミーナさんは優しく微笑えむ。私は嬉しくて楽しくて。どこかホッよする。口の中は幸せな味で包まれていて、どう言葉にしていいかわからないまま私は、鳥もも肉のソテーを食べ続けた。わちゃわちゃとたわむれる柚さんとタールーを横目にミーナさんは丁寧にお辞儀をする。

「それでは琴音ちゃん。よろしくお願いします」

「よろしく・・・お願いします」

 私はなんとかそれだけは言葉にしてミーナさんにそう言葉を返す。
 そんな温かな間接照明の満ちる夜に私が魔女になるためのお手伝いが始まったのだ。

 
 アルバイトの初日、遅めの朝食をとりながらニュース番組をぼんやりと眺めていた。気持ちの中はドキドキと不安で支配されていてこんな感情を感じるのはいつぶりだろう。それでも私の心はニュースで流れる事柄に徐々に支配されてしまう。

 感受性が高すぎる。そんなことを昔、教師に言われたことがあった。たとえばニュースの中で誰かが死んだり、心ない人が誰かを痛めつける。自分とは何も関係がないと思える事柄にすらまるで自分がその人を亡くしてしまったり、自分自身が痛めつけられてしまっているような感覚におちいってしまう。

 学校生活でも同じだった。誰かが宿題を忘れて先生に怒られてしまったり、失敗をしてみんなの笑い者になる。そんな時にも自分が怒られているように錯覚さっかくしたり、自分が笑い者になっていると感じた。ぎゅっと胸が締め付けられてその場からどうしようもなく逃げ出したくなったのだ。だから私はできるだけ周りの人がそうならないように努力したつもりだった。

 今思えばそれは誰かのためではなく自分のためであったとは思うけど、少なくとも誰かに必要とされていると思いたかった。だから私は中学と学校を休んでしまうまでは陸上部で短距離を駆け抜けるのに没頭していたのかもしれない。たいした結果は残せなかったけれど、それでも走っている間は心を支配する赤の他人から流れてくる感情を忘れることができたから。

 もうグラウンドを走ることはできなくなってしまったけれど、それでもその感覚は今でも覚えている。

 子供たちが並ぶ列に車が突っ込んだというニュースが流れ始めて私はテレビのスイッチを切る。心がどうしようもなく重たかった。
 そろそろ家を出ようかな。とランチタイムに間に合うために私はしっかりと身支度を整える。それでも早すぎる時間ではあるけれどはやる私の心がのんびりすることを許してくれなかった。

 母は私がお店のお手伝い、もといアルバイトをあっさりと許してくれた。

 正直、さすがの母でも学校にいかないで・・・なんてことを言うかと思ったけれど母はあらあらと楽しそうに笑う。


「今度お母さんも行こうかしら?工務店の二階にあるあのお店よね?いつかいってみたかったのよねー」

 と呑気に笑っていた。ミーナさんのお店を母が知っていたことが正直意外ではあったけど、この街にある店なのだから不思議ではない。

 家を出ると吹き下ろす冷たくなってきた風が身体を冷やす反面、降り注ぐ太陽の光が身体をぽかぽかと温める。まるで北風と太陽だなと思いつつ私は堂々と大通りを北上する。

 それはどこか運動会の日の空気を感じ、駆け抜けた校庭をなんだか私は思い出した。
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