【完結】現世の魔法があるところ 〜京都市北区のカフェと魔女。私の世界が解ける音〜

tanakan

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第二章 カフェ・ノードの魔女

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「噂をすればなんとやらだねー。ご挨拶の準備をしてね」

 はい。と私はカウンター横で早鐘みたいに鼓動を速める胸をメモ帳で押さえながら何度か深呼吸をした。すると狭い階段のはずなのにほとんど同時に三人のマダム・・・というにはとてもおばあちゃんに見える年齢を重ねた淑女しゅくじょたちが姿を現した。

 背の高いほっそりとした女性は髪を後ろに流してまとめている。きれいな白髪は染める必要がないと言わんばかりに堂々としていて、首元に巻かれたスカーフとピシッとした藍色のシャツ、そしてタータンチェックのフレアスカートがとてもおしゃれだった。
 
 隣にはふくよかすぎる体躯をした女性がいてあら!とお店に響くほど大きな声をあげる。ゆったりとしたジーパンに竜と虎が争う柄をしたスカジャンにその身を包んでいてとても迫力がある。そして最後のその後ろから大柄な女性の後ろに隠れるようにしていた小さな女性もまた顔を出した。白い開襟シャツを若草色のカーディガンで包み、前髪の一部が紫色で染められている。紺色のチノパンからは赤いパンプスが目に入った。

 表情に刻まれた曲線がこれまで長い間生きてきたことを示しているのに、なんともみんな若々しい格好をしている。ダメダメ。と私は一度首を振りそんな考えは心から追い出した。

「いらっしゃいませ。カフェ・ノードに!三名様でよろしいですか?」

 私はいつもより浮ついた声で三人をまっすぐと見て言うと、その三人は互いに顔を合わせる。
 なんか失敗しちゃったかなと私が不安になっていると、三人は示し合わせたかのようにまったく同じ速さで私を見返した。

「あらぁ!塚つかださん!かわいい女の子がいるわ!どうしたことでしょう!?」

「本当ね!あらやだ私の若い頃とソックリね。平井ひだりさん!」

 塚田さんと呼ばれたふくよかな女性はうっとりと頬に手を当て、一転呆れた表情を浮かべる平井さんと呼ばれた女性は口を開けて塚田さんを見返している。

「お嬢ちゃん気にしないで!お嬢ちゃんはかわいいから、ビッグスクーターを乗り回す不良老女になんてなりはしないわ!」

 きよしさん!と呼ばれた他のふたりよりも小柄な女性はそんなに必死にならなくてもと私が思うほど、大丈夫と励ましてくる。どうしたものかと私がミーナさんに視線で助けを求めると、ミーナさんは笑いをこらえるのに必死で私の視線には気がつかない。
 三人はいつの間にか私を取り巻き、さらに私は落ち着かない。

「ねぇねぇ。頬を触らせて、あらやだ!すべすべのふるふるよ!若さをちょっとわけてちょうだい!」

 平井さんは私の顔をなで回す。

「だめよ。あんたが若さを吸ったらお嬢ちゃんはすっかりおばあちゃんになっちゃうわ!」

 パタパタと平井さんの背中を叩く清さんがいる。

「もう。本当にかわいくて食べちゃいたい」

 冗談か本気かわからない口調でうっとりと塚田さんがそういった。ミーナさんよりもこの方々の方がずっと魔女みたいだと私はされるがままに思った。

「どうぞ。お席にご案内します!」

 私がそういうとはーい!と三人並んで私の後についてきて、席についてもなお少女のように落ち着かないようすで互いに言葉を交わしている。その姿はとても可愛らしいと私もまた思わず笑顔になる。
 思い出したように三人はミーナさんへ三人はいつもの!と言い、ミーナさんはかしこまりましたと笑顔で返す。

「それでは西賀茂倶楽部にしがもくらぶのみなさま。ご紹介します。琴音ちゃんです」

 あらやだかわいいお名前!と平井さんが歓声を上げて、塚田さんと清さんもそれに続く。すっかりと照れくさくなってしまった私は頭をぐしぐしと掻く。西賀茂倶楽部?と首をかしげるとミーナさんは一度うなずく。

「この北区西賀茂に住む素敵な淑女の方々です。旦那さんがいない間にここでランチをいつも楽しんでくれています」

 なるほどと私は再びその淑女たちへと視線を向ける。

「あらやだ。亭主ていしゅは元気で留守がいいの。子供みたいに何にもできないんだから」

 塚田さんは眉を吊り上げてそういって、そうそうと清さんが続く。

「それにここでの情報交換はビジネスにも十分役立つんだからねぇ。平井さん!」

「そうそう。むしろ私たちのおかげでうだつのあがらない旦那を支えて上げてるの。感謝してほしいわ」

 平井さんは頬に手を当て高らかに笑いそして首をかしげて私を見る。

「でも琴音ちゃん学校はいいのかしら?」

 その言葉に私は胸がきゅうっと締め付けられて少し呼吸が速くなる。どう答えてよいものかと悩んではみたものの上手い返し方は思いつかない。

「私・・・実は今は学校にいけてなくて」

 思ったよりもすんなりと素直な言葉が出てきた。今まで聞かれることはなかったけど、このカフェにいると嘘がつけないとあらためて思う。

 それがミーナさんの作るこのカフェにある雰囲気なのかはわからない。三人は互いに顔を見合わせて言葉を選んでいるのだろうか、一瞬の沈黙が流れる。

 やっぱりこうなるよねと私が目を伏せ次の言葉を待っていると清さんが真っ先に口を開いた。

「あらあら別にいいんじゃない?学校なんて必要だけど大切ってわけじゃないわ!」
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