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7 お決まりの展開
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「で、時間大丈夫?」
「え?」
二人同時に時間を確認すれば、午後七時前。
「うわっ! もうこんな時間! すみません、私戻りますね! あ、でも何かあったらすぐ言ってくださいね?! では!」
「お、おう……」
颯爽と帰っていく結華を見て、そのドアが閉まると、
「……はーーーー……」
湊は上を向き、
「ディアラ」
「クルゥ」
空間を泳ぐように現れたディアラに、湊は苦笑を向けて。
「なあ、ディアラ。アイツ……結華、さ。悪意なんてこれっぽっちもなかったよな」
それは、確信めいた声音をしていた。起因するのは、湊のもとの種族の力。人が周りに向ける感情を、直感で捉えてしまうもの。
「クルル、クルルルゥ」
ディアラはダンボールの上に降りると、主人を見上げ、それを肯定するように長い尾を振った。
「……初対面のおれにここまでするとかさ、……良いやつ過ぎて罪悪感が湧くよ……」
「クルゥ」
それだけじゃないだろう? そんな顔をするディアラに、
「いや、だって、誰だって戸惑うだろ。あっちだって混乱するはずなのにさ、またすぐおれんとこ来て、詳しく教えろなんてさ。……ほんとに頼りたくなっちゃっても、……しょうがないだろ……」
湊はダンボールに頬杖をつき、そこに顎を乗せ、ほんの少し赤い顔になって、ハァ、と息を吐いた。
❦
ガチャリ
「うぉっ」
結華が家への階段へと向かっていたら、二◯一号室──朝陽の部屋のドアが開き、結華は
(あぶねっ!)
と、後ろへ飛び退る。
「ん? あっ、すみません! 急に開けちゃって……大丈夫ですか?」
出てきた朝陽はすぐに状況を察したらしく、慌てて結華に近寄ると、「怪我とかしてないですか? 本当すみません」と、眉尻を下げて謝ってきた。
「あ、いえいえ。ドア側を歩いていた私の責任ですし。お気になさらないでください」
「そうですか? 本当に大丈夫ですか? どこか打ってたり……」
心配そうに言ってくる朝陽に、
(優しいイケメンは癒やしだなぁ……)
などと結華は思いながら、
「いえ、本当に大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
笑顔で応える。
「そうですか……? それなら……」
朝陽もこれ以上は、と思ってくれたのか、まだ気にしているようだが引き下がった。
「……あ、それと」
今度は結華へまっすぐ顔を向けてきた朝陽に、
「? はい。何かありましたか?」
問題でも起きたのか、そう思って、結華は問いかける。その顔を見た朝陽は、僅かに視線を迷わせ、
「──いえ、なんでもないです。今度からちゃんと気をつけますね。失礼しました」
気持ちを切り替えたように、しっかりした声を結華に向けた。
「いえ、ご心配ありがとうございます。こちらも同じことが起こらないよう気をつけますね」
では失礼します。と結華は頭を下げ、家への階段を登っていった。
「……やっぱり、そうだよな……?」
その背中を見ていた朝陽は、何かを確かめるように呟き、
「どうしよ……」
と、呟きながら階段を降りていった。
❦
(よし! まだ両親とも帰ってきてない! セーフ!)
結華は素早く自室に入ると、湊とのやり取りと注意点と思いつく限りの諸々をアプリにメモし直し、部屋に置いてある、ブルートゥースで繋いでいるコピー機でコピーして、その紙を財布の中に仕舞った。スマホを持っていない状況が起きた時のための保険である。
「よし、たぶんこれで大丈夫!」
結華は財布を仕舞い、ベッドに座り、
「…………」
だんだんと冷静になってきた頭に、先程までの湊とのアレコレが駆け巡る。
「……あれは人助け。そう、人助け。変な意味のもんじゃない。うん、そう」
(例えばあれだ、溺れて心肺停止になった人を助けるために心臓マッサージして人工呼吸するようなもん! 見た目はそれより切迫してないし!)
幼い頃を除けば、異性と抱き合う経験など皆無の結華だ。今更に顔が熱くなってくる。
「いや、だから、あれは人助け! 変なことを考えるな! 失礼に当たる!」
結華は両頬をパチン! と叩いて、深呼吸し、
「……よし! 晩ごはんの準備!」
下の階へ降りていった。
❦
「あ、おはようございますー」
友達とともに学校へ着いた結華は、門扉近くの花壇の世話をしていた用務員に挨拶する。
「おはようございますー」
(ん?)
その聞き覚えのある顔と声に、結華は思わず足を止める。
「あれ?」
あちらも結華に気づいたらしく、
「……あ、アパートの──」
結華は言われる前に素早くその人に歩み寄り、
「その辺の話は今は無しでお願いします!」
と笑顔で言って、それにぽかんとした用務員をそのままに、
「え、なに?」
「なんの話ー?」
「まあまあまあまあ」
友人二人の背を押しながら、校内へと入っていった。
で、朝。結華にとって天変地異的なこと──いや、予想して然るべきだった気もする──が起こる。
「えー、ちょっと珍しい時期ですが、転校生が来ましたー」
やる気の無さそうな声で言う担任のそれに、クラス内がざわつく。そして結華は、嫌な予感を覚えた。
(いや、この学年は三クラス。当たるとしても三分の一。……いや待て、同時に複数人転校生来ることってある……?)
「はーい。入ってきてくださーい」
(当たるな当たるな当たるな)
結華はまた盛大にフラグを立てた。もうフラグですらないかも知れない。
ガラリ
ドアを開けて入ってきた転校生に、クラス内は更にざわついた。
銀髪? イケメンじゃない? カラコン?
などなど、主に女子の声が聴こえる。
そして結華は、頭を抱えたくなった。
「はい。自己紹介してー」
「えー、すっごい田舎から引っ越してきました。佐々木湊です」
ホワイトボードにサラサラと名前を書いた湊は、あの満面の笑みをクラスの生徒へ向け、
「これからよろしくお願いします!」
と元気よく言った。
「え?」
二人同時に時間を確認すれば、午後七時前。
「うわっ! もうこんな時間! すみません、私戻りますね! あ、でも何かあったらすぐ言ってくださいね?! では!」
「お、おう……」
颯爽と帰っていく結華を見て、そのドアが閉まると、
「……はーーーー……」
湊は上を向き、
「ディアラ」
「クルゥ」
空間を泳ぐように現れたディアラに、湊は苦笑を向けて。
「なあ、ディアラ。アイツ……結華、さ。悪意なんてこれっぽっちもなかったよな」
それは、確信めいた声音をしていた。起因するのは、湊のもとの種族の力。人が周りに向ける感情を、直感で捉えてしまうもの。
「クルル、クルルルゥ」
ディアラはダンボールの上に降りると、主人を見上げ、それを肯定するように長い尾を振った。
「……初対面のおれにここまでするとかさ、……良いやつ過ぎて罪悪感が湧くよ……」
「クルゥ」
それだけじゃないだろう? そんな顔をするディアラに、
「いや、だって、誰だって戸惑うだろ。あっちだって混乱するはずなのにさ、またすぐおれんとこ来て、詳しく教えろなんてさ。……ほんとに頼りたくなっちゃっても、……しょうがないだろ……」
湊はダンボールに頬杖をつき、そこに顎を乗せ、ほんの少し赤い顔になって、ハァ、と息を吐いた。
❦
ガチャリ
「うぉっ」
結華が家への階段へと向かっていたら、二◯一号室──朝陽の部屋のドアが開き、結華は
(あぶねっ!)
と、後ろへ飛び退る。
「ん? あっ、すみません! 急に開けちゃって……大丈夫ですか?」
出てきた朝陽はすぐに状況を察したらしく、慌てて結華に近寄ると、「怪我とかしてないですか? 本当すみません」と、眉尻を下げて謝ってきた。
「あ、いえいえ。ドア側を歩いていた私の責任ですし。お気になさらないでください」
「そうですか? 本当に大丈夫ですか? どこか打ってたり……」
心配そうに言ってくる朝陽に、
(優しいイケメンは癒やしだなぁ……)
などと結華は思いながら、
「いえ、本当に大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
笑顔で応える。
「そうですか……? それなら……」
朝陽もこれ以上は、と思ってくれたのか、まだ気にしているようだが引き下がった。
「……あ、それと」
今度は結華へまっすぐ顔を向けてきた朝陽に、
「? はい。何かありましたか?」
問題でも起きたのか、そう思って、結華は問いかける。その顔を見た朝陽は、僅かに視線を迷わせ、
「──いえ、なんでもないです。今度からちゃんと気をつけますね。失礼しました」
気持ちを切り替えたように、しっかりした声を結華に向けた。
「いえ、ご心配ありがとうございます。こちらも同じことが起こらないよう気をつけますね」
では失礼します。と結華は頭を下げ、家への階段を登っていった。
「……やっぱり、そうだよな……?」
その背中を見ていた朝陽は、何かを確かめるように呟き、
「どうしよ……」
と、呟きながら階段を降りていった。
❦
(よし! まだ両親とも帰ってきてない! セーフ!)
結華は素早く自室に入ると、湊とのやり取りと注意点と思いつく限りの諸々をアプリにメモし直し、部屋に置いてある、ブルートゥースで繋いでいるコピー機でコピーして、その紙を財布の中に仕舞った。スマホを持っていない状況が起きた時のための保険である。
「よし、たぶんこれで大丈夫!」
結華は財布を仕舞い、ベッドに座り、
「…………」
だんだんと冷静になってきた頭に、先程までの湊とのアレコレが駆け巡る。
「……あれは人助け。そう、人助け。変な意味のもんじゃない。うん、そう」
(例えばあれだ、溺れて心肺停止になった人を助けるために心臓マッサージして人工呼吸するようなもん! 見た目はそれより切迫してないし!)
幼い頃を除けば、異性と抱き合う経験など皆無の結華だ。今更に顔が熱くなってくる。
「いや、だから、あれは人助け! 変なことを考えるな! 失礼に当たる!」
結華は両頬をパチン! と叩いて、深呼吸し、
「……よし! 晩ごはんの準備!」
下の階へ降りていった。
❦
「あ、おはようございますー」
友達とともに学校へ着いた結華は、門扉近くの花壇の世話をしていた用務員に挨拶する。
「おはようございますー」
(ん?)
その聞き覚えのある顔と声に、結華は思わず足を止める。
「あれ?」
あちらも結華に気づいたらしく、
「……あ、アパートの──」
結華は言われる前に素早くその人に歩み寄り、
「その辺の話は今は無しでお願いします!」
と笑顔で言って、それにぽかんとした用務員をそのままに、
「え、なに?」
「なんの話ー?」
「まあまあまあまあ」
友人二人の背を押しながら、校内へと入っていった。
で、朝。結華にとって天変地異的なこと──いや、予想して然るべきだった気もする──が起こる。
「えー、ちょっと珍しい時期ですが、転校生が来ましたー」
やる気の無さそうな声で言う担任のそれに、クラス内がざわつく。そして結華は、嫌な予感を覚えた。
(いや、この学年は三クラス。当たるとしても三分の一。……いや待て、同時に複数人転校生来ることってある……?)
「はーい。入ってきてくださーい」
(当たるな当たるな当たるな)
結華はまた盛大にフラグを立てた。もうフラグですらないかも知れない。
ガラリ
ドアを開けて入ってきた転校生に、クラス内は更にざわついた。
銀髪? イケメンじゃない? カラコン?
などなど、主に女子の声が聴こえる。
そして結華は、頭を抱えたくなった。
「はい。自己紹介してー」
「えー、すっごい田舎から引っ越してきました。佐々木湊です」
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