アナタはイケメン達に囲まれた生活を望みますか?  ▶はい いいえ

山法師

文字の大きさ
7 / 27

7 お決まりの展開

しおりを挟む
「で、時間大丈夫?」
「え?」

 二人同時に時間を確認すれば、午後七時前。

「うわっ! もうこんな時間! すみません、私戻りますね! あ、でも何かあったらすぐ言ってくださいね?! では!」
「お、おう……」

 颯爽と帰っていく結華を見て、そのドアが閉まると、

「……はーーーー……」

 湊は上を向き、

「ディアラ」
「クルゥ」

 空間を泳ぐように現れたディアラに、湊は苦笑を向けて。

「なあ、ディアラ。アイツ……結華、さ。悪意なんてこれっぽっちもなかったよな」

 それは、確信めいた声音をしていた。起因するのは、湊のもとの種族の力。人が周りに向ける感情を、直感で捉えてしまうもの。

「クルル、クルルルゥ」

 ディアラはダンボールの上に降りると、主人を見上げ、それを肯定するように長い尾を振った。

「……初対面のおれにここまでするとかさ、……良いやつ過ぎて罪悪感が湧くよ……」
「クルゥ」

 それだけじゃないだろう? そんな顔をするディアラに、

「いや、だって、誰だって戸惑うだろ。あっちだって混乱するはずなのにさ、またすぐおれんとこ来て、詳しく教えろなんてさ。……ほんとに頼りたくなっちゃっても、……しょうがないだろ……」

 湊はダンボールに頬杖をつき、そこに顎を乗せ、ほんの少し赤い顔になって、ハァ、と息を吐いた。

 ❦

 ガチャリ

「うぉっ」

 結華が家への階段へと向かっていたら、二◯一号室──朝陽の部屋のドアが開き、結華は

(あぶねっ!)

 と、後ろへ飛び退る。

「ん? あっ、すみません! 急に開けちゃって……大丈夫ですか?」

 出てきた朝陽はすぐに状況を察したらしく、慌てて結華に近寄ると、「怪我とかしてないですか? 本当すみません」と、眉尻を下げて謝ってきた。

「あ、いえいえ。ドア側を歩いていた私の責任ですし。お気になさらないでください」
「そうですか? 本当に大丈夫ですか? どこか打ってたり……」

 心配そうに言ってくる朝陽に、

(優しいイケメンは癒やしだなぁ……)

 などと結華は思いながら、

「いえ、本当に大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 笑顔で応える。

「そうですか……? それなら……」

 朝陽もこれ以上は、と思ってくれたのか、まだ気にしているようだが引き下がった。

「……あ、それと」

 今度は結華へまっすぐ顔を向けてきた朝陽に、

「? はい。何かありましたか?」

 問題でも起きたのか、そう思って、結華は問いかける。その顔を見た朝陽は、僅かに視線を迷わせ、

「──いえ、なんでもないです。今度からちゃんと気をつけますね。失礼しました」

 気持ちを切り替えたように、しっかりした声を結華に向けた。

「いえ、ご心配ありがとうございます。こちらも同じことが起こらないよう気をつけますね」

 では失礼します。と結華は頭を下げ、家への階段を登っていった。

「……やっぱり、そうだよな……?」

 その背中を見ていた朝陽は、何かを確かめるように呟き、

「どうしよ……」

 と、呟きながら階段を降りていった。
 
 ❦

(よし! まだ両親ふたりとも帰ってきてない! セーフ!)

 結華は素早く自室に入ると、湊とのやり取りと注意点と思いつく限りの諸々をアプリにメモし直し、部屋に置いてある、ブルートゥースで繋いでいるコピー機でコピーして、その紙を財布の中に仕舞った。スマホを持っていない状況が起きた時のための保険である。

「よし、たぶんこれで大丈夫!」

 結華は財布を仕舞い、ベッドに座り、

「…………」

 だんだんと冷静になってきた頭に、先程までの湊とのアレコレが駆け巡る。

「……あれは人助け。そう、人助け。変な意味のもんじゃない。うん、そう」
(例えばあれだ、溺れて心肺停止になった人を助けるために心臓マッサージして人工呼吸するようなもん! 見た目はそれより切迫してないし!)

 幼い頃を除けば、異性と抱き合う経験など皆無の結華だ。今更に顔が熱くなってくる。

「いや、だから、あれは人助け! 変なことを考えるな! 失礼に当たる!」

 結華は両頬をパチン! と叩いて、深呼吸し、

「……よし! 晩ごはんの準備!」

 下の階へ降りていった。

 ❦

「あ、おはようございますー」

 友達とともに学校へ着いた結華は、門扉近くの花壇の世話をしていた用務員に挨拶する。

「おはようございますー」
(ん?)

 その聞き覚えのある顔と声に、結華は思わず足を止める。

「あれ?」

 あちらも結華に気づいたらしく、

「……あ、アパートの──」

 結華は言われる前に素早くその人に歩み寄り、

「その辺の話は今は無しでお願いします!」

 と笑顔で言って、それにぽかんとした用務員をそのままに、

「え、なに?」
「なんの話ー?」
「まあまあまあまあ」

 友人二人の背を押しながら、校内へと入っていった。
 で、朝。結華にとって天変地異的なこと──いや、予想して然るべきだった気もする──が起こる。

「えー、ちょっと珍しい時期ですが、転校生が来ましたー」

 やる気の無さそうな声で言う担任のそれに、クラス内がざわつく。そして結華は、嫌な予感を覚えた。

(いや、この学年は三クラス。当たるとしても三分の一。……いや待て、同時に複数人転校生来ることってある……?)
「はーい。入ってきてくださーい」
(当たるな当たるな当たるな)

 結華はまた盛大にフラグを立てた。もうフラグですらないかも知れない。

 ガラリ

 ドアを開けて入ってきた転校生に、クラス内は更にざわついた。
 銀髪? イケメンじゃない? カラコン?
 などなど、主に女子の声が聴こえる。
 そして結華は、頭を抱えたくなった。

「はい。自己紹介してー」
「えー、すっごい田舎から引っ越してきました。佐々木湊ささきみなとです」

 ホワイトボードにサラサラと名前を書いた湊は、あの満面の笑みをクラスの生徒へ向け、

「これからよろしくお願いします!」

 と元気よく言った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...