アナタはイケメン達に囲まれた生活を望みますか?  ▶はい いいえ

山法師

文字の大きさ
10 / 27

10 放課後

しおりを挟む
「ごめん。図書室って言っちゃったから、万が一二人が図書室に来た時のために、そこに行かせて。図書室、殆ど人いないから、あんまり疲れないとは思う。たぶん」
「おっけー……マジ都会って人多いな……」
「ここ、言うほど都会じゃないけど?」
「だとしたら、おれは都会に行ってたら、即死してた気がする」

 図書室に着いた二人は、部屋の奥へ行くと、

「ごめんね。学校案内のつもりだったんだけど、逆効果だった」

 結華は小声で言いながら、躊躇いなく湊の両手を握る。

「いや……今まで住んでたとこがさ、殆ど人いなくて、清浄な空気に包まれてたから、油断した。……そのうちこの空気にも慣れれば、そんなに苦じゃなくなると思う……」

 そう言いながらも湊は、長く息を吐き、

「今、人目ないからさ、少しだけ抱きしめていい?」

 それに一瞬固まった結華だったが、

「よし、どんとこい」
「ありがと……」

 湊に抱きしめられ、

(これは人助けこれは人助け)

 結華は念じながら、湊の回復を待つ。
 数分して、

「……それなりに良くなった。ありがとな」

 まだ重たい空気を纏っている湊だったが、声は少し元気を取り戻しているようだった。

「ほんとに大丈夫? もう少ししていいよ?」
「いや、そろそろ時間だろ? 戻らないと」
「え、あっ、ホントだ」

 壁の時計を見れば、次の授業まであと五分。

「戻ろう戻ろう。あ、湊が先戻ってね。私はタイミング見計らって、ズラして戻るから」
「……なあ、そこまで気にすることなくね?」
「え?」
「ただ偶然一緒になって、一緒に教室に入っただけ。そう見えてもおかしかないだろ?」
「そうかな……」

 あの軍団はそう思ってくれるだろうか、と結華は悩む。

「大丈夫だって。それに、ただ横にいてくれるだけでも癒やされる。だから、そうしてくれると助かる」
(なるほど。そっちがメインか)
「それならそうしようか。あ、でもちょっと待って。二人にここ行くって言っちゃったから、なにか借りてく」

 結華は、ちょうど目の前にあった棚から一冊本を手に取り、

「行こっか」

 と湊へ声をかけた。

 ❦

 帰りのホームルームも終わり、結華が湊を見れば、やはりまだぐったりしていた。結華は湊へラインを送り、それに気づいた湊が、文面を読んで少し驚いた顔をした。そして返信された内容は、『それ、大丈夫なのか?』というもの。大丈夫だからと送り、道の途中で倒れられたら困るとも送り、湊は結華をちらりと見て、ため息を吐くと、了解のスタンプを返してきた。
 帰る人が下の階──下駄箱へと向かう中、結華は屋上を目指していた。正確には、屋上に繋がるドアの前。
 ここの屋上は立ち入り禁止で、面白みもない場所なので、生徒が来ることはほぼ皆無。つまり──

「あ、来た来た」
「お前ってほんとさぁ……」

 結華が到着して数分。湊がやって来た。

「普通ここまでする?」
「病人状態の人をほっとけないでしょ」

 結華は湊の手を取ると、屋上のドアへ並ぶように座り、

「はい」
「っ?!」

 結華のほうから、湊を抱きしめた。

「おま、ほん……まあ……いいや……」

 湊はそう言うと、結華を抱きしめる。

「はー……魂もだけど……精神的にキツかった……」
「前の学校じゃどう過ごしてたの? 女子に囲まれてなかったの?」
「田舎だからさ、殆どが小中高と同じメンバーなワケよ。見慣れたメンバーなワケよ。だからさ、すごく気が楽だった」
「なるほど……あ」
「あ?」

 結華は湊から少し離れ、

「物理的距離が近いほうが良いんだよね?」
「え? うん……うん?!」

 カーディガンを脱ぎだした結華を見て、湊は驚き、次には慌てた。

「お、ちょ、」
「布一枚でも無くなれば、少しはマシになるんじゃない? ……湊?」

 カーディガンを脱ぎ終えた結華が湊を見れば、その湊は肩を落として俯き、顔に手を当てていた。

「驚かせんなよ……」
「なんの話? 湊もブレザー脱いで」
「……はいはい……」

 ゆるゆるとブレザーを脱ぎ終わった湊に、また結華のほうから抱きつく。

「おまえさ……マジほんと……なに……?」
「? 何か間違ったことした?」
「いや、すごくありがたいけど……」
「ならなに?」
「……なんでもない……」

 そして日が傾いていき、音楽が鳴り出す。

「あ、帰らなきゃ。……大丈夫になった?」
「なったけど……なに? この音楽」

 結華から離れ、ブレザーを着ながら、湊が聞いてくる。

「帰りの音楽。これが終わって十五分すると、門が閉まっちゃう」

 結華も、カーディガンを着ながら答える。

「じゃ、帰ろう」

 結華の差し出された手を見て、湊は一瞬躊躇い、

「……うん」

 その手に、自分のそれを重ねた。
 手を繋いだまま帰ると言う結華に、誰かに見られたらどうすんだと、湊が言う。

「別に? 食堂で一緒のとこ見られてるしね。友達と手を繋いでたってなんの不思議もないでしょ」
「……。結華が良いならいいけどさぁ……」

 不満、というより、困ったような顔と声になっている湊へ、

「嫌なら離すよ?」
「……そういう意味じゃねぇよ……」

 湊はそう言うが、手を離す素振りは見せないので、結華はそのままにした。
 そして電車に乗り、

「あ、スマホ見ていい?」
「どうぞ」

 その言葉に、結華は湊から手を離し、スマホを見て、

(……やっちまったぜ……)
「……あのさ、湊」
「なに」
「食堂で一緒になった、美紀って子と香菜って子がいたでしょ?」
「ああ、うん」
「その二人に、私達の仲が疑われています」
「へぁ? ……あー……」
「いやもっと驚いてよ」
「そう言われてもなぁ……」

 湊は両手でつり革を掴み、

「仲良し三人なんだろ? なのにあの時、食堂から出た時、結華はおれだけと行動した。それでおれは助かったけど、あの二人から見れば不可思議な行動だ。なにかあるんじゃないかと思っても不思議じゃない」
「……冷静に分析するなあ」

 結華は呆れたように言ったあと、

「なら、提案なんだけど。もし湊が良いって言ってくれるなら、湊がうちのアパートに住んでること言ってもいい?」
「? そうすっと、なにがどうなるんだ?」
「私は大家の娘として、住人に目を配らないといけない。そういう理由が作れる」
「それで納得してくれんの?」
「一応はしてくれると思う。湊がこの環境に慣れて、私とも普通の距離で接するようになれば、二人からの疑惑も晴れる」
「そ。なら、いいけど」
「じゃあそう説明するね」

 結華は言うと、スマホを操作し、言った通りの説明をしたようで、満足げな顔をして、スマホを仕舞う。

「……」

 湊は横目で、ずっとそれを見ていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...