アナタはイケメン達に囲まれた生活を望みますか?  ▶はい いいえ

山法師

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13 心のうねり

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 バスケの試合進行は早い。ルールをよく理解して見ていないと、あっという間にゲームは終わってしまう。

「大鷹センパーイ!」

 けれど、集まった大多数の女子には、それはあまり重要ではないらしく、そしてやって来た他校やほかのチームメイトにもあまり興味はないようで、主に朝陽に黄色い声援を送っていた。

「みんな声枯れないのかな」

 結華の呟きに、

「枯れても出すんだよー」

 美紀が言う。

「応援は力になるしな。これを応援と言っていいのか少し疑問だが」

 続けて言われた香菜のそれに、「「分かる」」と、二人は頷いた。
 試合をしている中で、朝陽より活躍する他校の選手もいる。けれど朝陽は乱されず、場の状況を見極め、途中休憩ではなにやら発言していた。

「……大鷹先輩ってさ、ポイント? ガード? っていうポジだっけ?」

 結華の質問に、

「そう聞いてる。司令塔のような役割を果たすんだと」

 香菜が答えてくれる。

「司令塔ってエースなの……? 得点バンバン入れる人がエースじゃなくて?」
「その辺はあれじゃないか? ノリ的な」
「ノリかぁ」

 そして、一回目の練習試合では、紅蘭が勝った。まだ二回三回とあるので、女子はほぼ帰らず声援を送り、「こっち向いてくださーい!」などと言う。

「向くかねぇ」
「無いに一票」
「無いに一票」
「おっと? 無いの票しかないぞ?」

 と、朝陽が、結華達二年のいるほうへ顔を向けた。

「あ、全員負け」

 そして朝陽は、誰かを探しているような素振りを見せ、

「あ」

 結華と目があった。そして笑顔になる。
 その瞬間、一際ひときわ耳に響く声が周りから上がった。

(……わたしのことを認識したのは別に良いとして……なぜ笑顔を向けてきた?)
「笑ったねー」
「笑ったな」
「リップサービス的なもんかなー?」
「あ、なるほどリップサービスかぁ」

 そこで結華は、ポケットに入れていたスマホが震えているのに気づく。

「あ、ごめん。ちょい抜けるわ」
「いってらー」

 人混みから抜け、電話に出る前に、

「あ」

 こっちに向かって歩いてくる湊が目に入る。やはりぐったりしている湊は、結華へと顔を向け、いつもより弱々しく手を上げた。
 結華は、周りの人──主に女子──がこっちを見てないことを確認すると、スマホを仕舞いながら小走りで湊へ近寄り、すぐにその手を取って体育館から遠ざかる。

「どのくらいヤバい?」

 校舎内の一階、その階段下という、それなりに目につかない場所に湊を連れ、湊へ聞いた。

「いや……すぐ良くなると思うんだけど……周りの騒々しさと人の心のうねりがすごくて……」

 しゃがみ込む湊に合わせ、結華も床へ膝を付き、肩に手を回すようにしてなるべく接触面積を多くする。

「心のうねりって?」
「ほらさ……前にちらっと言ったろ……人の感情がなんとなく分かるって……あそこ、食堂よりも感情が膨れ上がってて、みんな興奮して……それがほぼ一人に向かってるから、細い水が集まって太くなって、大河みたいになった上に、その、大鷹、だっけ。に集まるから、あの人の周りでぐるぐるうねるんだよ……余波がすげぇんだ……」
「まじか、ヤバいね。今度からは行かないようにしよ」
「そうする……」

 湊は大きく息を吐くと、

「それなりに戻った。大丈夫だと思う。ありがと」

 そう言って手を離しかけ、

「……やっぱもうちょいこのままでいい……?」
「全然大丈夫。あ、でもちょっと待って」

 結華は手を一度離すと、美紀達とのグループラインに『ごめん用事できた! 先帰ってて』という文と、ごめんねのスタンプを押し、またポケットに仕舞って湊の手を握る。

「……声、鼓膜がやられるかと思った……」
「ああ、すごいよね、あの声援。大鷹先輩、このままバスケで推薦入学の予定らしいよ、大学」
「へえー……」

 湊は声を棒にして、結華に寄りかかってくる。相当ダメージを受けたんだな、と結華は肩に回していた手を背中に移動させ、少しでも精神を安定させようとさすってみる。

「……結華ってさ……」
「なに」
「モテるとか言われない?」
「……湊」

 結華の声が、少し低くなる。

「なに……」
「私は小学生の頃から今まで彼氏どころか恋愛というものに全く縁がなかったんですよね。分かる? 周りは幸せそうなのに、自分だけ取り残される感。ボッチ辛い。オーケー?」
「ふうん……縁、ねぇ……」
「あ!」

 そこで、聞き覚えのある声が耳に届いた。

「ん?」

 姿を見せたのは伊織。伊織は結華を見て、

「ここにいたんですね!」

 顔を輝かせたあと、その結華へ凭れかかっている湊を見て、

「……あ、と……お邪魔でしたか……?」

 顔を赤くして、目を彷徨わせる。

(誤解される!)
「あ、そういうんじゃないから。ちょっと湊ね、体調を崩しやすいんだよね。だから少し休んでたの」
「そ、そうでしたか……」
「そのとーりだから心配すんなー……」
「いや……大丈夫ですか……?」

 湊の元気のない声で、本当に体調が悪いのだと思ってくれたらしい伊織に、結華は問いかける。

「四月一日くん、私か湊のこと探してた? ここにいた、とか言ってたけど」
「あ、それは……」

 伊織はやや俯き、口をモゴモゴさせ、その視線が結華と下とを往復する。

「何かあった? 家に不備とか」
「いえ、その……あの……結華先輩のこと探してて……」
(……あれ? いつの間にか呼ばれ方が名前にアップグレードされてる)
「なにかな?」
「良いよー遠慮なく言いなー。おれだいぶ良くなってきたからさ、気にしなくていいよ」

 湊は結華から手を離し、笑顔になって大丈夫だとアピールする。

「で、では……」

 伊織は覚悟を決めたような顔で、湊とは反対側の結華の隣へしゃがみ込み、内緒話でもするように結華の耳に手を当て、

「その、これからご予定がなければ、一緒に帰れませんか……?」
(………………は?)
「よ、予定はないけど……? なんで……」
(なんで私……?)

 驚いて固まりかけている結華へ、いつの間に正座になったのか、「だ、駄目でしょうか……」と、伊織が上目遣いで聞いてくる。結華はその光景に、ここは天国かな? と現実逃避して、その誘いの理由を考えることを放り投げたくなった。

「いーんじゃね? 帰るとこ一緒だし。ただ、悪いけどおれも一緒でいい? ちょっと事情があってさ。二人だけに出来なくてマジ悪いけど」
「えっ?! あ、いや、その、そ、そういうことでないので……?! ぜ、全然大丈夫です……?!」

 なぜか湊と伊織の間で話が進んでいく。けれどまあ、湊の言う通り帰る場所は同じだし、一緒に帰るくらい問題ないだろう。誰かにそれを見られても、「家が近いから」という、ほぼ正答に近い答えを返せるし。
 そう思った結華は、「うん、良いよ。断る理由もないし」と言った。そしたらまた、伊織の顔が輝く。

(……なんでか分からないけど、懐かれたってことかな)

 結華はそう結論づけ、

「湊、立てる?」

 と、手を差し出す。

「うん。いつも悪いな」

 湊は苦笑しながら、その手を取って立ち上がる。
 まだ全回復はしていないんだろう。このまま手を繋いで帰りたいが──

(四月一日くんがいるからなぁ)

 また誤解されかねない。どうするか。と、結華が考えていると。

「伊織も手、繋ぐ?」

 湊がまた、変なことを言った。

「え?」「は?」
「おれじゃないよ? 結華とだよ」
「えっ!」「はあ?」

 お前は何を言っているんだ。結華はそう言おうとして。

「え、その、良いん、ですか……?」

 期待と不安が混じった伊織の顔に、

「……」

 しょうがない、てか、この子を悲しませたくない。と諦め、

「じゃ、一緒に帰ろうか」

 と、伊織へ手を差し出した。


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