銀色九尾な孤の彼と

山法師

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始まりの日

1 声が届いた

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『申し訳ありません』

 悲痛な〝声〟が届く。
 幼い子どもの、泣き叫ぶような、耳を塞いでも自分の〝心〟に届いてしまう声。

 ──そんなこと言わないで。

 必死に呼びかける。心に届く〝声〟へ、無我夢中で。

『どうか、お許しを。申し訳ありません。どうか』

 ──そんなこと言わないで。そんなふうに言わないで。

 助けるから。君のこと、絶対に助けるから。
 叱られる覚悟を決めて親の手を振り切り、〝実際の声〟で止める周囲へ「ホントに聞こえてる」と訴え、〝心に届く声〟のもとへと走る。
 誰かの、君のもとへ。

『お役目を果たせず、申し訳ありません。どうか、どうか、お許しを。今一度、お役目を果たす機会を』

 息を切らしながら、〝声〟がするほうへ駆けていく。駆け登る。
 泣いてしまっているけれど、そんなこと知るもんか。あとで叱られるんだから、今さら泣いたって、叱られ方が強くなるだけだから。
 自分のことはどうでもいい。自分のことなんかどうでもいい。
 誰か、君を、助けなきゃ。思いに突き動かされるまま、〝声〟へ呼びかける。

 ──助けるから、今行くから。すぐに助けるから。絶対に助けるから。だから、待って。

『どうか、どうか、お願いいたします。今度こそ、お役目を果たします。どうか、誰か。……せめて』

 ──助けるから、待って。あと少し、あと少しなんだ。君のところまで、あと少しで着くから。

 必死に呼びかけ、駆け登っていく先、あと少し、本当にあと少しでたどり着く。

『お役目を果たす価値もない自分ならば、せめて』

 駄目だ。ダメだよ、言っちゃ駄目だ。
 その先を、あとに続く言葉を、言ってはいけない。言わせてはいけない。
 お願い、そんなことを。

『せめて、死なせてください』

 そんなこと言っちゃダメだ! 言わないで! 助けるから! 絶対に助けるから!!

 今すぐ──

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