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12 瞬間移動的な魔法
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「それとも私の家に食べに来る?」
「……、…………え、え、えぇえ?!」
再起動したセイは、目を見開き、声を大にして、その驚きをとても分かりやすく表現してくれた。
「ちょっ……ちょ、ちょっと待って下さい……? え? は?」
セイはナイフとフォークを皿に置き直し、左手で口元を押さえて目を彷徨わせる。
「だから、お節介なことだって、言ったでしょ?」
「いや、あの、それは、全然。むしろ、あ、いえ、その」
その右手はふわふわと動揺を示すように動いて、その視線は斜め下を向いて。私の発言に相当混乱したのか、顔と耳が赤くなっている。
………あれ? でも、人って混乱すると顔赤くなるっけ?
「嫌なら嫌って言ってくれていいよ。ただの提案だし。私がやりたいこと言ってるだけだしね」
「やりたいこと……」
「うん」
とても気楽に言ってみる。セイの負担にならないように。
押し付けがましいのは、好きじゃない。
「…………なら……その……」
セイは、私をチラチラと見ながら、なんでか、恥ずかしそうに。
「お願い、したい、です……」
それでいて、とても嬉しそうに、そう言った。
*
「で、じゃあ、さっきの話の続きだけど」
料理を食べ終え、飲んでいた食後のコーヒーをテーブルに置き、私はスマホを手に取った。
「私が行くか、セイが来るか、どっちがいい? あ、てか、セイの家ってどこ? 私の家から近い?」
「あ、はい。それほど遠くはないかと」
セイも飲んでいた紅茶を置き、スマホを鞄から──本当はその中の異空間から──出し、地図アプリを開く。
「ええと、僕の家は、ここです」
そして、テーブルに置かれたスマホの、地図に表示されたその場所を見て。
「……キミ、お金持ち?」
心の声が出てしまった。
そこは、有名な高級住宅街。セイの言う通り、電車を乗り継げば、私の家から一時間とかからない場所だけども。
「あ、いえ、そういう人達が住んでいる場所ではありますが、これは……」
セイは、一瞬、視線だけで辺りを見回して、口を開いた。
「僕が昔から持っている家です。設定上は先祖代々受け継いできている家、ということになっていますが」
「……なるほどね?」
五百年生きてるもんね?
「税金がかかりまくるんですよね。古い家なので定期的に修繕もしなくちゃいけないし。お金が貯まったら、建て替えるか引っ越すかしようかと思ってるんですけど」
苦笑いするセイを見て、ふと、思う。
「ねえ、ちょっと下世話な……お金の話になるけど、聞いていい?」
声をひそめ、そう言ってみると。
「? 何についてですか? あ、それと、声は普通にしていいですよ。今さっき僕らの周りに、防音の膜を張りましたから」
……。さらっと凄いことするんじゃないよ。
「あー、うん。分かった」
私は声量を戻し、
「いやさ、セイ、この前も札束をぽんと出したじゃない? そんで、こんなとこに住んでる。のに、今、お金を貯めるって言った。……どういう状況なの?」
「ああ、それは、魔法を使うのには結構なお金が必要だからですね」
魔法、金がかかるの?
「それなりに生きてきましたから、少し前までなら貯蓄はそれなりにあったんですが……現代のショーとかは大掛かりなものが多くて。事前に結構な規模の魔法の準備をしなければなりませんし、魔法道具も現代では貴重品なので、高くて。代用品とかを用意する努力もしてるんですけど……まあ、儲けは昔ほど無いんですよね」
「はぁ……なんか、大変だね」
「でも、それなりに好評なので。なんとか維持はできてるって感じです」
「そっか。……じゃ、話を戻すね。ここと、私の家、どっちにする?」
再度聞けば、セイは少しだけ考え込んで。
「……僕、地方公演とかもありますし。いつも家に帰る訳でもないので……良ければ、ナツキさんの家にお邪魔させていただければ……」
「あ、そっか。営業回りがあるって言ってたっけ。え、じゃあ、あんまり会えない?」
「いえ、本当のところを言うと、距離はそんなに問題ないんです。ナツキさんの家には一度お邪魔しましたから、座標が分かります。あとは僕が陣を引けば、どこからでもナツキさんのお家に行けるかと」
「? えっと、どゆこと?」
首を傾げる。座標とか、陣とか。これも、魔法関係なんだろうか。
「そうですね、例えるなら……ナツキさん、ファンタジーものの本とか、読んだことあります?」
「まあ……マンガとか、アニメとかなら」
「それに、瞬間移動するような魔法、出てきたりしませんでした?」
「ああ、うん。足元がパアッと光ったり、景色が一瞬で変わったりして、別の場所に移動するやつ?」
「そうですね、そういうやつです。それで、そういうことが出来るんです、僕」
へえ、そっか。そっかそっか。
「……凄くない?」
「見栄えはしますよね。よくやりますよ、ショーとかで。ほら、壇上にいたのにいつの間にか客席の後ろにいる、とか。下準備は必要ですが、それほど魔力は消費しませんし、コンスタントに出来る魔法です」
ニコニコと説明してくれるが、こっちはついていくのに必死だ。
マジックが本当に魔法なのだから、これをお客さんが知ったら大騒ぎになるだろうな。
「良かったらお見せしましょうか」
「え?」
セイは言うなり、自分の紅茶をソーサーごとテーブルの端に寄せ、反対側のテーブルの端をトン、と指で叩く。
「ここに、この紅茶を移動させます」
「へえ、うん。……どうやって」
「今、ここを指で叩きましたよね」
セイは再び、トン、と同じ場所を同じ様に指で叩く。
「これで、印が付きました。あとは、この紅茶。カップとソーサーと一緒に──」
言いながら、ソーサーの周りのテーブルを、ぐるりと指でなぞる。すると、なぞったところがポゥ、と薄緑に光った。
「光った……」
「はい。これで簡易の陣の完成です。で、移動させます」
セイは指をパチンと鳴らす。と、見ていた場所から紅茶が消え、
「……」
反対側に、その紅茶が。
「……凄くない?」
「ありがとうございます」
爽やかな笑顔を見せるセイと、今起きた現象に思考を持っていかれかけてから、私はハッとする。
「え……と、今更だけど、こんなところでやって大丈夫? 今ここ、結構人がいるけど」
店内には十人ほどの客と、三人ほどのホールスタッフ。私はキョロキョロと周りを見ながら、不安な声を出してしまった。
「大丈夫ですよ。だってこれは、手品ですから」
ニコッと笑ったセイは、紅茶を手元に引き寄せ、カップを持ち上げて、一口飲む。そして、カップをソーサーに戻して、口を開いた。
「ですので、僕がナツキさんの家に伺う方が、ナツキさんも楽なんじゃないかと。この前は結構な時間お邪魔させていただきましたから、まだ僕の魔力の残滓が残っているはずです。それを辿れば、ナツキさんの家に……あ、えっと、そのままお家に上がらせてもらうのはあれでしょうから、アパートの前に移動できます」
「へ、へぇ……」
魔法やべぇ。
「では、僕がナツキさんのお家に伺うということで、……いいでしょうか?」
急に心細そうな顔になるな。別に断らないから。
「……、…………え、え、えぇえ?!」
再起動したセイは、目を見開き、声を大にして、その驚きをとても分かりやすく表現してくれた。
「ちょっ……ちょ、ちょっと待って下さい……? え? は?」
セイはナイフとフォークを皿に置き直し、左手で口元を押さえて目を彷徨わせる。
「だから、お節介なことだって、言ったでしょ?」
「いや、あの、それは、全然。むしろ、あ、いえ、その」
その右手はふわふわと動揺を示すように動いて、その視線は斜め下を向いて。私の発言に相当混乱したのか、顔と耳が赤くなっている。
………あれ? でも、人って混乱すると顔赤くなるっけ?
「嫌なら嫌って言ってくれていいよ。ただの提案だし。私がやりたいこと言ってるだけだしね」
「やりたいこと……」
「うん」
とても気楽に言ってみる。セイの負担にならないように。
押し付けがましいのは、好きじゃない。
「…………なら……その……」
セイは、私をチラチラと見ながら、なんでか、恥ずかしそうに。
「お願い、したい、です……」
それでいて、とても嬉しそうに、そう言った。
*
「で、じゃあ、さっきの話の続きだけど」
料理を食べ終え、飲んでいた食後のコーヒーをテーブルに置き、私はスマホを手に取った。
「私が行くか、セイが来るか、どっちがいい? あ、てか、セイの家ってどこ? 私の家から近い?」
「あ、はい。それほど遠くはないかと」
セイも飲んでいた紅茶を置き、スマホを鞄から──本当はその中の異空間から──出し、地図アプリを開く。
「ええと、僕の家は、ここです」
そして、テーブルに置かれたスマホの、地図に表示されたその場所を見て。
「……キミ、お金持ち?」
心の声が出てしまった。
そこは、有名な高級住宅街。セイの言う通り、電車を乗り継げば、私の家から一時間とかからない場所だけども。
「あ、いえ、そういう人達が住んでいる場所ではありますが、これは……」
セイは、一瞬、視線だけで辺りを見回して、口を開いた。
「僕が昔から持っている家です。設定上は先祖代々受け継いできている家、ということになっていますが」
「……なるほどね?」
五百年生きてるもんね?
「税金がかかりまくるんですよね。古い家なので定期的に修繕もしなくちゃいけないし。お金が貯まったら、建て替えるか引っ越すかしようかと思ってるんですけど」
苦笑いするセイを見て、ふと、思う。
「ねえ、ちょっと下世話な……お金の話になるけど、聞いていい?」
声をひそめ、そう言ってみると。
「? 何についてですか? あ、それと、声は普通にしていいですよ。今さっき僕らの周りに、防音の膜を張りましたから」
……。さらっと凄いことするんじゃないよ。
「あー、うん。分かった」
私は声量を戻し、
「いやさ、セイ、この前も札束をぽんと出したじゃない? そんで、こんなとこに住んでる。のに、今、お金を貯めるって言った。……どういう状況なの?」
「ああ、それは、魔法を使うのには結構なお金が必要だからですね」
魔法、金がかかるの?
「それなりに生きてきましたから、少し前までなら貯蓄はそれなりにあったんですが……現代のショーとかは大掛かりなものが多くて。事前に結構な規模の魔法の準備をしなければなりませんし、魔法道具も現代では貴重品なので、高くて。代用品とかを用意する努力もしてるんですけど……まあ、儲けは昔ほど無いんですよね」
「はぁ……なんか、大変だね」
「でも、それなりに好評なので。なんとか維持はできてるって感じです」
「そっか。……じゃ、話を戻すね。ここと、私の家、どっちにする?」
再度聞けば、セイは少しだけ考え込んで。
「……僕、地方公演とかもありますし。いつも家に帰る訳でもないので……良ければ、ナツキさんの家にお邪魔させていただければ……」
「あ、そっか。営業回りがあるって言ってたっけ。え、じゃあ、あんまり会えない?」
「いえ、本当のところを言うと、距離はそんなに問題ないんです。ナツキさんの家には一度お邪魔しましたから、座標が分かります。あとは僕が陣を引けば、どこからでもナツキさんのお家に行けるかと」
「? えっと、どゆこと?」
首を傾げる。座標とか、陣とか。これも、魔法関係なんだろうか。
「そうですね、例えるなら……ナツキさん、ファンタジーものの本とか、読んだことあります?」
「まあ……マンガとか、アニメとかなら」
「それに、瞬間移動するような魔法、出てきたりしませんでした?」
「ああ、うん。足元がパアッと光ったり、景色が一瞬で変わったりして、別の場所に移動するやつ?」
「そうですね、そういうやつです。それで、そういうことが出来るんです、僕」
へえ、そっか。そっかそっか。
「……凄くない?」
「見栄えはしますよね。よくやりますよ、ショーとかで。ほら、壇上にいたのにいつの間にか客席の後ろにいる、とか。下準備は必要ですが、それほど魔力は消費しませんし、コンスタントに出来る魔法です」
ニコニコと説明してくれるが、こっちはついていくのに必死だ。
マジックが本当に魔法なのだから、これをお客さんが知ったら大騒ぎになるだろうな。
「良かったらお見せしましょうか」
「え?」
セイは言うなり、自分の紅茶をソーサーごとテーブルの端に寄せ、反対側のテーブルの端をトン、と指で叩く。
「ここに、この紅茶を移動させます」
「へえ、うん。……どうやって」
「今、ここを指で叩きましたよね」
セイは再び、トン、と同じ場所を同じ様に指で叩く。
「これで、印が付きました。あとは、この紅茶。カップとソーサーと一緒に──」
言いながら、ソーサーの周りのテーブルを、ぐるりと指でなぞる。すると、なぞったところがポゥ、と薄緑に光った。
「光った……」
「はい。これで簡易の陣の完成です。で、移動させます」
セイは指をパチンと鳴らす。と、見ていた場所から紅茶が消え、
「……」
反対側に、その紅茶が。
「……凄くない?」
「ありがとうございます」
爽やかな笑顔を見せるセイと、今起きた現象に思考を持っていかれかけてから、私はハッとする。
「え……と、今更だけど、こんなところでやって大丈夫? 今ここ、結構人がいるけど」
店内には十人ほどの客と、三人ほどのホールスタッフ。私はキョロキョロと周りを見ながら、不安な声を出してしまった。
「大丈夫ですよ。だってこれは、手品ですから」
ニコッと笑ったセイは、紅茶を手元に引き寄せ、カップを持ち上げて、一口飲む。そして、カップをソーサーに戻して、口を開いた。
「ですので、僕がナツキさんの家に伺う方が、ナツキさんも楽なんじゃないかと。この前は結構な時間お邪魔させていただきましたから、まだ僕の魔力の残滓が残っているはずです。それを辿れば、ナツキさんの家に……あ、えっと、そのままお家に上がらせてもらうのはあれでしょうから、アパートの前に移動できます」
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