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21 夕食
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「ちょっと声かけていいー?」
「え?! あ、はい! だ、いじょうぶです!」
後ろのキッチンからのナツキの声に、セイは声がひっくり返りそうになりながら応えた。
「……いや、本当に大丈夫?」
案の定、ナツキに訝しがられてしまう。
「いえ、あの、お三方と話をしていたもので……」
「お三方?」
「あ、ミケさんたちです」
振り返りながら言えば、ナツキは調理台に手をついているのだろう、身を乗り出すような体勢で首を傾げていた。
「ああ、読み取れるかって話? 読み取れたんだ?」
「……結構、はっきりと……」
「そっかぁ。ちなみに、私が言ってた疑問は解消された?」
「あ、えっと……ざっくりまとめて言いますと、僕があなたといると、あなたへの危険が減るということを見抜いていたからだそうです……」
「へえ」
ナツキは理解したような、まだしっくり来てないような声で応じたが、
「……」
膝上の三匹はセイを、呆れも込めた目で睨んだ。お前はヘタレかと。
無理です、とセイは一応念を送っておいた。
「あ、でさ、声かけた理由なんだけど。いい?」
「あ、はい」
「料理が完成しましてね。盛り付けて並べて食べたいんだけど、セイ、ここのテーブルと、そのローテーブル、どっちで食べたい? 私、夜は大体ローテーブルで食べてるんだよね。あ、強制じゃないから、こっちって思ったほうを言ってくれて良いよ」
「そうですね……」
と、子猫たちがこっちで食べろと言ってくる。セイは断る理由などないので、
「では、ローテーブルで、良いですか?」
「おっけ」
そしてまた動き出したナツキを見て、自分も手伝うためにと立ち上がろうとした、が。
「あの……」
子猫たちがそのままでいるどころか、腹から胸へと登ってきた。
「動けないんですけど……?」
問題ない、このまま行け、と命令を出されたので、セイは三匹が落ちないように手で支えながら、ナツキの元へ向かう。
「ん? ……ん? それは、どういう状況?」
ナツキに真っ当な疑問を投げられた。
「いえ、なぜか、このままでナツキさんの方へ行けと、言われ……思念を送られまして……ぅわっ?」
三匹はまた動き出す。セイの両肩へ、頭の上へと登って、座り心地を確かめ、最終的に、そこから動かなくなった。
「え? このまま? 手伝えと……?」
戸惑っているセイの声と言葉に、ナツキは笑って、
「じゃ、そのまま手伝ってもらおうかな。その子たちの毛は抜けたら一瞬で消えちゃうけど、一応手を洗ってからね」
「は、はい……」
*
料理を全部並べ終えてから、私はちょっと、やっぱり少しは呑みたいな、という気分になってしまった。
「あのさ、セイ」
「はい」
「ちょっと呑んでいい? あ、セイもなんか呑む?」
キッチンの向こうの冷蔵庫を指しながら言えば、子猫たちから解放されたセイは一瞬戸惑ったような顔になったけど。
「……ここは、ナツキさんの家なので、その、どうぞ……」
よく分からないけど、良いと言ってくれたので。
「そう? なら発泡酒呑むかな。で、セイは何呑む? 私は明日も仕事あるからさ、軽くしか呑めないんだよね。てか、お酒あんま強くないし」
「え、そうなんですか」
「うん。今のセイみたいに、会う人みんなに、お酒に強いっぽい印象を与えるみたいだけど。で、何呑む? 発泡酒とかワインとか日本酒とかしかない……あ、前に誰かがくれたウイスキーもあるな。……誰に貰ったんだっけか……」
記憶を辿っていると、
「では、僕も発泡酒で」
「いいの? ザル越えて枠のセイには物足りない気がするけど」
「いえ、調子乗って羽目を外したりしたくないので……」
言いながら、居住まいを正すセイ。
この前のこと気にしてんのかな。
「じゃ、持ってくんね。あ、そのまま呑む? グラスに注ぐ?」
「あ、ではグラス……あ、えと、手伝います」
二人でキッチンに戻って、私は食器棚からグラスを二つ取りながら、セイに冷蔵庫のどこに発泡酒があるか教えた。
で、お盆にグラスを乗せて、冷蔵庫から片手に一つずつ発泡酒を持って冷蔵庫を閉めようとしてたセイへ、
「あ、もう二本追加で」
「え? はい」
お盆を差し出しながら言えば、セイは素直に、持っていたお盆に発泡酒を四本置いた。
「持ちますよ」
「じゃ、お言葉に甘えて」
お盆をセイに渡して、一緒にリビングへ戻る。
子猫たちはみんな、ソファの上で丸くなって寝てた。
「では」
お盆からお酒とグラスをローテーブルに置いて、キッチンに戻るのは面倒だったので、そのお盆は横の棚に立てかけて。
「じゃ、いただきます!」
「はい、いただきます」
向かい合わせになって座っていた私たちは手を合わせて、箸に手を伸ばした。
「でさ、セイ。今日、料理についてどう思った?」
料理を一口ずつ食べてからプシュッ、と缶のタブを開け、聞いてみる。
すると、セイは難しい顔になった。
「正直……ナツキさんのやっていることを見ていても……自分にそれが出来るとはとても……」
「そういう方向じゃなくてね、やってみようかな、とか、面白そうだな、とか、今やってるコレどうなってるのかな、とか、思えたかなーって」
手酌でグラスに発泡酒を注ぎながら言ったら、セイはぽかんとした顔になる。
「何事もキッカケは些細な興味だったりするのさ。嫌だと思いながら料理を覚えようとするより、楽しみながらやって欲しい。そんで、やっぱ料理なんてムリ! ってなっても、それはそれでしょうがない」
言いながら注ぎ終え、グラスの半分ほどまで飲むと、
「んでも、まあ、食べられないのはやっぱ少し心配かな。体質的に少食の人もいるけど、セイはそういうんじゃないんでしょ?」
で、グラスを置いて、セイを見たら。
「……」
難しい顔をしていた。難しいっていうか、悩ましい?
「……ナツキさん。ちょっと、空気が壊れるかも知れないんですけど、言っていいですか」
「え?! あ、はい! だ、いじょうぶです!」
後ろのキッチンからのナツキの声に、セイは声がひっくり返りそうになりながら応えた。
「……いや、本当に大丈夫?」
案の定、ナツキに訝しがられてしまう。
「いえ、あの、お三方と話をしていたもので……」
「お三方?」
「あ、ミケさんたちです」
振り返りながら言えば、ナツキは調理台に手をついているのだろう、身を乗り出すような体勢で首を傾げていた。
「ああ、読み取れるかって話? 読み取れたんだ?」
「……結構、はっきりと……」
「そっかぁ。ちなみに、私が言ってた疑問は解消された?」
「あ、えっと……ざっくりまとめて言いますと、僕があなたといると、あなたへの危険が減るということを見抜いていたからだそうです……」
「へえ」
ナツキは理解したような、まだしっくり来てないような声で応じたが、
「……」
膝上の三匹はセイを、呆れも込めた目で睨んだ。お前はヘタレかと。
無理です、とセイは一応念を送っておいた。
「あ、でさ、声かけた理由なんだけど。いい?」
「あ、はい」
「料理が完成しましてね。盛り付けて並べて食べたいんだけど、セイ、ここのテーブルと、そのローテーブル、どっちで食べたい? 私、夜は大体ローテーブルで食べてるんだよね。あ、強制じゃないから、こっちって思ったほうを言ってくれて良いよ」
「そうですね……」
と、子猫たちがこっちで食べろと言ってくる。セイは断る理由などないので、
「では、ローテーブルで、良いですか?」
「おっけ」
そしてまた動き出したナツキを見て、自分も手伝うためにと立ち上がろうとした、が。
「あの……」
子猫たちがそのままでいるどころか、腹から胸へと登ってきた。
「動けないんですけど……?」
問題ない、このまま行け、と命令を出されたので、セイは三匹が落ちないように手で支えながら、ナツキの元へ向かう。
「ん? ……ん? それは、どういう状況?」
ナツキに真っ当な疑問を投げられた。
「いえ、なぜか、このままでナツキさんの方へ行けと、言われ……思念を送られまして……ぅわっ?」
三匹はまた動き出す。セイの両肩へ、頭の上へと登って、座り心地を確かめ、最終的に、そこから動かなくなった。
「え? このまま? 手伝えと……?」
戸惑っているセイの声と言葉に、ナツキは笑って、
「じゃ、そのまま手伝ってもらおうかな。その子たちの毛は抜けたら一瞬で消えちゃうけど、一応手を洗ってからね」
「は、はい……」
*
料理を全部並べ終えてから、私はちょっと、やっぱり少しは呑みたいな、という気分になってしまった。
「あのさ、セイ」
「はい」
「ちょっと呑んでいい? あ、セイもなんか呑む?」
キッチンの向こうの冷蔵庫を指しながら言えば、子猫たちから解放されたセイは一瞬戸惑ったような顔になったけど。
「……ここは、ナツキさんの家なので、その、どうぞ……」
よく分からないけど、良いと言ってくれたので。
「そう? なら発泡酒呑むかな。で、セイは何呑む? 私は明日も仕事あるからさ、軽くしか呑めないんだよね。てか、お酒あんま強くないし」
「え、そうなんですか」
「うん。今のセイみたいに、会う人みんなに、お酒に強いっぽい印象を与えるみたいだけど。で、何呑む? 発泡酒とかワインとか日本酒とかしかない……あ、前に誰かがくれたウイスキーもあるな。……誰に貰ったんだっけか……」
記憶を辿っていると、
「では、僕も発泡酒で」
「いいの? ザル越えて枠のセイには物足りない気がするけど」
「いえ、調子乗って羽目を外したりしたくないので……」
言いながら、居住まいを正すセイ。
この前のこと気にしてんのかな。
「じゃ、持ってくんね。あ、そのまま呑む? グラスに注ぐ?」
「あ、ではグラス……あ、えと、手伝います」
二人でキッチンに戻って、私は食器棚からグラスを二つ取りながら、セイに冷蔵庫のどこに発泡酒があるか教えた。
で、お盆にグラスを乗せて、冷蔵庫から片手に一つずつ発泡酒を持って冷蔵庫を閉めようとしてたセイへ、
「あ、もう二本追加で」
「え? はい」
お盆を差し出しながら言えば、セイは素直に、持っていたお盆に発泡酒を四本置いた。
「持ちますよ」
「じゃ、お言葉に甘えて」
お盆をセイに渡して、一緒にリビングへ戻る。
子猫たちはみんな、ソファの上で丸くなって寝てた。
「では」
お盆からお酒とグラスをローテーブルに置いて、キッチンに戻るのは面倒だったので、そのお盆は横の棚に立てかけて。
「じゃ、いただきます!」
「はい、いただきます」
向かい合わせになって座っていた私たちは手を合わせて、箸に手を伸ばした。
「でさ、セイ。今日、料理についてどう思った?」
料理を一口ずつ食べてからプシュッ、と缶のタブを開け、聞いてみる。
すると、セイは難しい顔になった。
「正直……ナツキさんのやっていることを見ていても……自分にそれが出来るとはとても……」
「そういう方向じゃなくてね、やってみようかな、とか、面白そうだな、とか、今やってるコレどうなってるのかな、とか、思えたかなーって」
手酌でグラスに発泡酒を注ぎながら言ったら、セイはぽかんとした顔になる。
「何事もキッカケは些細な興味だったりするのさ。嫌だと思いながら料理を覚えようとするより、楽しみながらやって欲しい。そんで、やっぱ料理なんてムリ! ってなっても、それはそれでしょうがない」
言いながら注ぎ終え、グラスの半分ほどまで飲むと、
「んでも、まあ、食べられないのはやっぱ少し心配かな。体質的に少食の人もいるけど、セイはそういうんじゃないんでしょ?」
で、グラスを置いて、セイを見たら。
「……」
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「……ナツキさん。ちょっと、空気が壊れるかも知れないんですけど、言っていいですか」
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