酔い潰れた青年を介抱したら、自分は魔法使いなんですと言ってきました。

山法師

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20 三匹からの思念(お言葉)

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 頭が回らず、セイは言われるがままにソファに座ってしまった。けれど、この場所では、自分の姿がナツキに丸見えだ。変なことはできない。
 と、思ってから、変なこととは何だろうと思いを巡らせてしまい、その思考が何を指すかを理解してしまって、セイはすごく居た堪れない気分になった。

「はぁ……」

 小さく、ナツキに聞こえない程度に息を吐く。膝に頬杖をついて頭を乗せ、けれど耐えきれず下を向いて、この煩悩をどうにかしなければとひたすらに考える。
 けれど、あの微笑みが消えない。頬を掴まれた時の熱が消えない。不思議そうに無垢な瞳を向けてくる、あの、今までになく近い距離のあの顔が、消えてくれない。
 彼女のあの行為は、普通のものなのだろうか。ほかの、友人たちなどにもしているのだろうか。そう考えた途端、

──自分だけに、向けて欲しい。

「っ……!」

 衝動的に叫びだしたくなったが、セイは両手で思いっきり口を塞ぎ、目もつぶり、なんとかそれを抑えた。

『ニァ』
「?! え、あ、シロさん……?」

 目を開ければ、いつの間にか、足元にシロがいた。それも、ちょっと怒っているような気配を放ちながら。
 と、肩に重めの何かが乗った。

『ミュ』

 クロだった。

「え、え?」
『ナオゥ』

 そしてどこに居たのかミケもやって来て、ソファに上り、セイに顔を向けながら、寝そべる。
 そして三匹とも、お前は何をやっているんだと、そういう気配を放ってきた。

「いや、その…………面目次第もございません……」

 セイはまた息を吐く。それはため息を指していた。

「側にいたというのに守りきれず……逆にナツキさんのお力を借りてしまい……」

 まあそれは気にするな。こちらにも落ち度がある。と、いってくる気配。

「え? それじゃ、なぜそのような……?」

 ──ナツキを心配する気持ちも分かる。だが、お前、帰ってきてからナツキに頼りっぱなしだろう。

「ぐっ」

 ──お前の中に、我々と似たような傷があるのも分かる。我々より長く生きているからこその、様々なものを抱えてしまっているというのも分かる。だが、いや、だからこそ、ああいった際にナツキが頼れるとしたらお前だけだ。気を引き締めろ。

「う……はい……」

 セイは項垂れたあと、

「……今更ですが皆さん、これほどまでに高等な自我をお持ちだったんですね」

 ナツキの力のおかけだ、と、セイの膝に乗りながら、三匹がニィニィ鳴いて伝えてくる。

 ──ナツキは、自分が思っているより身に秘めた力が強い。だから素人技術でも、悪霊を消滅させることができる。けれどだからこそ、狙われる確率も高い。悪霊だけでなく、様々なモノに。

「そうですね。僕もそこを危惧しています。……それ、今日、ナツキさんとの話で少し出たんですが、なぜ僕はあなた方の審査をパスできたのですか? どこの誰とも分からない、加えて僕がナツキさんやあなた方の脅威になるかも知れない存在だと、気づいていたはずですよね?」

 セイが不思議そうな顔を向けると、
 それはお前が、今までになく純粋だったからだ。と、伝えられた。

「そうですかね。僕だって人間ではあるので、それに子供でもないので、あまり純粋とは言えないと思いますが……」

 ──精神の話ではない。魂の話だ。

「!」

 魂。それは、師匠も言っていた言葉。なのに、忘れかけていた言葉。

『お前の魂はなぁ、純粋すぎて、加えて純度も高すぎて、一歩間違えるとお前を壊しちまうかもしれない。実際、オレに初めて会った時には、壊れかけてただろ』

 それを聞いた時、その、師に出会った頃の自分を思い出したくなかったセイは、頭の後ろで手を組んで、顔を背けた。それを見て笑いながら、師匠は続ける。

『けど、お前の魂であることには変わりない。今だってそれは自ら傷を癒やして、もとに戻ってきてる。これからは扱いを間違えず、何も傷つけないくらい柔らかな布で何重にも包むようにして、大切に扱え。な?』
『それ、具体的にどうすればいいってこと?』
『自分を大切にしろ。そんで、自分を大切にしてくれるやつを大切にしろ。絆が深まれば深まるほど、それが魂を守ってくれる。分かったか?』
『はぁん……大切に、ねぇ……』
『オレはお前を大切に思ってるぞ?』
『頭を撫でるな! 揺らすな!』

「…………」

 遠い、記憶。もう二度と会えない人との、大切だった記憶。なのに、忘れかけていた。けれど、思い出せた。

「っ……」

 少し目尻に滲んだ涙を拳で荒く拭うと、セイは子猫たちに向き直る。
 それを見ていた三匹は、ニャオぅと鳴く。

 ──ナツキの魂は、体質と環境のせいで穢れを取り込みやすい。

 ──だが、お前が側にいれば、穢れは浄化されていくだろう。

 ──加えて、お前の、それほどの力。ナツキにそれを向ける気のないお前は、ナツキを守る力になれる。

 ナツキを守れる力になれる。そう伝えられた思念に、セイは一瞬呆気に取られ、次には慌てだした。

「え、いやでも、大丈夫ですか? 僕だって人ですし、人というのは時に自分の意思と違う行動を取ってしまうことだってありますし……」
『ミャう』

 ミケが鳴く。

 ──お前、何かナツキに守護を施しただろう?

「え、あ、は、それは」

 間違いなくあの石のことを言っているのだろうなと思うけれど、それを素直に白状するのを、セイは躊躇ってしまう。

『ニィ』

 クロが、

 ──我らの力が及ばなかったこともあってナツキに災難が降り掛かってしまったが、その守護の力のおかげで、あれだけで済んだのだ。

「あ、ああ、まあ、それは……」

 ナツキには言っていないが、あの、アカネと言う名の幽霊。自分が引き金となってああなってしまったのはその通りだが、そうでなくとも、いつ爆発するように悪霊化しても不思議でないほどの、負の気配をまとっていた。それも、強力な悪霊に成ってしまうだろうほどの。

『ニァおぅ』

 シロも、

 ──お前がナツキを想う力が、ことを最小限に収めたという訳だ。我々は、より、お前を信頼出来る材料を得た。

「……」

 なのでお前を認めてやっている。と、伝わってくる。

「ど、どうも……」

 セイは、はは、と笑いながらなんとか返事を返したが、頭の中ではまた、叫びだしたくなっていた。
 自分は、猫にまで悟られるほど分かりやすい行動をしているのだろうか。それとも、彼らの自我がここまで確立されているからこそ、見抜かれたのだろうか。
 どっちにしろ、知られていることが猛烈に恥ずかしい。


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