酔い潰れた青年を介抱したら、自分は魔法使いなんですと言ってきました。

山法師

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50 二人でのクリスマス

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 さて、そろそろクリスマス、という今日この頃。というか、今日。
 有給を取った私は、昨日の夜遅く──つーか今日の午前二時過ぎな筈──に帰ってきたらしいセイの頭を撫でつつ、いつ起こすか迷っていた。
 あれから、行き帰りのハグが日常化して、セイも少し、『これ』に慣れてきた。
 この、起きたら抱きついている、という状態に。

「セイ?」
「んんぅん……」

 まだ、駄目っぽい。セイは私の胸元に、頭をグリグリと押し付けてくる。
 スマホで確認すれば、現在時刻、午前七時三十七分。普通に起きると言ったセイだけど、八時まで待つか、と、タイマーをセットして、頭を撫でるのを再開した。
 髪の毛、触り心地が良いんだよなぁ。クセがあるのに絡まないし。私の髪は硬質なほうだから、触り心地、違うんだよなぁ。
 あと、セイは、届いたお箸に感動して、ニコニコして使っている。見ていて少し恥ずかしい。

『お揃いですね』

 とか、言ってくるし。それに、箸の長さを割り出す時に、セイの手の大きさを測ったけど、私より、大きい。背は私より、少しだけ低いのに。
 骨格も、まあ、当たり前だけど、違う。ウエスト周りとか。細身なのに、セイのほうがしっかりしている。私のほうが背が高いのに。ちょっと、悔しい。ミクトの気持ちが少し分かった。
 そんなことをつらつら考えながら頭を撫でていたら、タイマーが鳴った。止める。セイは起きない。

「セイ、朝だよ」

 撫でつつ言う。
 起きないね。……ものは試しか。

「セイ、大好き」

 セイがぴくりと動いた。けど、それだけ。

「セイは私のこと、どれくらい好きかな」
「……ナツキ、さん……」
「うん、何かな」
「あなたじゃないと……やです……」
「私も、セイじゃないと嫌だなぁ」
「ナツキさん……好きです……」
「嬉しいなー。大好き、セイ」

 会話は成立してるけど、セイは半分夢の中だ。

「大好きなセイと、今日は一日ずっと、一緒なんだよなぁ」
「……んん……」
「起きて、一緒に朝ご飯、作りたいなぁ」
「あさごはん……食べたい……で、す……うん?」

 あ、起きた。

「おはよう、セイ。朝だよ」

 こっちを向いたセイに、朝の挨拶。

「……おはよう、ございます……」

 顔を赤くしてそろりそろりと、私から離れていく。

「ん、どうする? もう少し、こうしてる?」

 頭を撫でて、聞く。

「い、え……起き、ます……」

 セイは、顔を赤くしたまま、ゆっくり身を起こし、

「その、洗面台、行ってきます……」

 立ち上がってフラフラと、洗面所に向かっていった。
 セイを起こすには、ごはんがキーワードらしいな、やっぱり。
 そう考えつつ、着替える。洗面所に向かえば、

「……」

 じっと鏡を見ているセイが居た。着替え終えてはいる。

「支度、まだかな?」
「あ、や、大丈夫、です」

 ぱっとこっちに顔を向けたセイと、場所を替わる。歯磨きからネックレスまでの一連をこなす。
 セイの歯ブラシとコップも、買って置いてある。セイは全てを空間に仕舞うけど、私が、

『置いて欲しいな』

 と、言ったら、置いてくれるようになった。
 この、可愛いちゃんめ。
 リビングへ向かい、

「終わったよー」
「あ、はい」

 昨日の食器を片付けてくれていたセイに、声をかける。

「さて、予定通りのメニューで良いかな?」
「はい。頑張ります」
「ん。一緒に頑張ろうね」

 頭をぽんぽんしたら、また、赤くなった。

「それじゃ、始めますか」
「は、はい」

 朝ご飯は、セイと一緒に初めて食べた朝ご飯だ。それを一から、セイと一緒に作る。
 今日の予定とかご飯のメニューは、既に決めてある。セイと一緒に決めた。
 二人でエプロン──これもセイ用のを買った──を着け、調理開始。
 サラダ用の野菜を洗ってもらい、終わったら、交代。説明しながらそれを切ったり、ちぎっていく。お皿を用意してもらって、盛り付けもしてもらう。ドレッシングのボトルを出してもらい、それらをテーブルへ。
 ホットサンドは、説明しながら私が作る。はい、完成。
 そして、牛乳を用意してもらって、ヨーグルトも、見本を見せつつ用意してもらう。マーマレードの瓶を出してもらって、はい、完成。

「「いただきます」」

 セイがホットサンドを食べて、一言。

「……感動です」

 そんなにか。

「美味しく思ってもらえてるなら、良かった」
「いえ、それも、なんですが……この状況が、夢のようで……」
「現実だから、安心してね」

 ぽつぽつ話しながら、ゆっくり食べる。

「「ごちそうさま」でした」

 二人で顔を見合わせ、クスリと笑う。前に、私もでしたを付けようかと迷っていたら、

『ナツキさんはそのままが良いです』

 と、セイに言われ、そのままだ。
 そっから、セイに後片付けをしてもらっている間に、私はケーキを焼く準備に入る。
 そう。クリスマスケーキ、買うのではなく、私が作ることになった。

『流石にこれは、買ったほうが見た目も味も良いと思うよ?』
『ナツキさんのが良いです。作ってるところ、見てたいです』

 合わせて、子猫たちからの追撃もあり。
 作るのはいちごのショートケーキだ。

「終わりました」
「オッケー、ありがとう。それじゃ、作ってくね」

 子猫たちがセイに登っていくのを横目で見つつ、スポンジの材料を説明して、計量。型にクッキングシートを敷いたり、粉をふるったり。最終的に混ぜ合わせて型に流した生地を、予熱の終わったオーブンへ。

「で、二十五分ほど焼きます。その間に、洗いものをします」
「やります」
「よっしゃ任せた」

 おおー、洗いにくいホイッパーも、みるみる綺麗になっていく。

「セイ、ありがとうね」
「いえ、これくらいは。……終わりました」
「おおー」

 思わず拍手をしてしまう。

「セイ、ちゃんと上達してるよ。料理、出来るようになってるし、そのうちケーキも作れるようになるよ」
「……そしたら」

 セイが振り向く。

「作れるようになったら、食べてくれますか?」

 水色の瞳が、真剣に。

「食べるよ。もちろん。セイが作ってくれるんでしょ?」
「はい。ナツキさんに、食べて欲しいので」

 ……もうさ、君は。そんな眼差しでさ。

「ミケ、クロ、シロ、ちょっとセイから、いいかな?」

 三匹とも、ぴょん、と飛び降りてくれる。

「セイ、良い?」

 腕を広げる。

「……あ、はい……」

 顔を赤くしたセイも腕を広げてくれて、私はセイを抱きしめる。セイも、抱きしめ返してくれる。

「セイ、ありがとう。大好きだよ」
「僕も、……僕は、愛してます」

 おおう。

「ありがとう。愛してる。I love you.」

 ちょっとノッてみたら。

「……。I love you from the bottom of my heart.Everyday I fell more and more in love with you.」

 う、うおおぅ……。

「伝わりましたか?」
「な、なんとか聞き取れた……ありがとう、セイ」

 そのうちに、スポンジが焼き上がる。うん、生焼けもコゲもない。よし。
 用意していた網の上に天板を乗せ、軽く上から落とす。

「はい。冷まします」

 ネットを被せながら言って。それから時間を確認。

「そろそろ支度するね」
「はい」

 私は、生成りのシャツ・黒のストレッチジーンズに着替え、ナチュラルメイクをして、飴色のジャケットを着て、髪を整え、コートを持つ。

「おまたせ」

 支度を済ませていたセイが私を見て、固まった。

「? どっか変?」
「あ、いえ、違、その……」

 セイは顔を赤くして、顔を逸らし、

「その、嬉しくて……とても、お似合いです……」
「なら良かった。ありがとう」

 三匹にお留守番を頼み、フレンチレストランへ。
 ──セイにネックレスを貰った、フレンチレストランだ。


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