酔い潰れた青年を介抱したら、自分は魔法使いなんですと言ってきました。

山法師

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 鏡のウロコを落として、お風呂掃除、終了。

「あー終わった終わった」

 続きになっている洗面所に上がり、足と手を拭いて、捲っていた袖とズボンの裾をもとに戻す。

「今はー……七時か」

 スマホで時間を確認。合わせて、

『お風呂場、終了。そっちはどう?』

 ハテナスタンプと一緒に、セイに送る。
 さて次は、ご飯の準備かな。

「お風呂掃除終わったよ。何か出来ることある?」

 台所に居る母に、声をかける。母がこっちへ振り向く。

「ありがとう、ナツキちゃん。ゆっくりしてて、いいのよ?」
「いやいや、せっかく帰ってきたんだし。親孝行させてよ。……晩ごはん、お鍋?」

 母に近寄り、土鍋があることを確認しつつ、聞いてみる。

「当たり。肉団子のお鍋。今、作ってるから」
「手伝わせて」

 母は迷う素振りを見せ、「でも……」と口にする。

「やらせて? ね」
「……なら、少し、手伝って貰おうかしら」
「やるやる」

 そうして、二人で肉団子鍋を作る。

「お父さん、何時に帰って来るんだっけ」
「十時、過ぎるかもって。二次会は行かない予定って、聞いてるけど……」

 父は今日、忘年会だ。規模の大きい会社に勤めているからか、忘年会の規模も大きい。そして父は歳もあるけど優秀な人員なので、今では中々の上役だ。仕事に対して真面目な父は、忘年会の不参加を、ほとんどしたことがない。

「ミクト、結局、友達の家に泊まってくのかね?」

 弟のミクトも、友人たちと宅呑みをしているらしい。帰りがどうなるか、連絡は来ていない。

「どうなのかしら……楽しんでくれてたら良いんだけど」
「そうだねぇ……お鍋、出来たね」
「そうね、ありがとう、ナツキちゃん」
「二人が帰ってくるまでどうしてようか。……アオイの話、聞く?」
「そうしようかしら。……一緒に暮らし始めたんでしょう?」
「うん。その辺も話すよ。飲み物用意するから、居間に行ってて」
「ありがとう」

 母が台所から出たのを確認してから、スマホを確認。何か通知が来てた筈。
 セイからだった。

『お夕飯、食べました。美味しかったです。これからお風呂に入ります』
『お夕飯、良かった。お風呂、ゆっくり浸かってね。こっちはお夕飯まだなんだ。肉団子鍋の予定だけどね』

 お風呂のスタンプ、花束のスタンプ、を、送って。

「では、お茶でも淹れますか」

 スマホを仕舞い、棚から急須を取り出した。

 *

 母に、セイ──アオイの話をしながら、家の話も聞く。
 ケイコ伯母さんは運悪く──運良く? ──悪いか。インフルエンザに罹ったらしく、寝込んでいるとのこと。
 母は時々、様子を見に行ったり、ご飯の差し入れをしてるそうだ。
 そんなことを話して、情報収集もして、現在八時半。
 一度、セイからメッセージが来て、

『お風呂、上がりました。ナツキさんのレモネードは、やっぱり美味しいです』

 私はそれに、

『ありがとう、嬉しい。セイが作ってくれるレモネードも、美味しいよ!』

 ハートのスタンプとともに、メッセージを送った。

「どうする? なんか軽く作ろっか?」

 コタツに入りながら、聞く。

「そうねぇ……ナツキちゃんのお土産は、みんなで食べたいし、何か軽く、お腹に入れておきましょうか」
「じゃあ、作ってくる……一緒に作る?」
「そうね、何を作りましょうか」
「じゃがいもあったよね。ジャーマンポテト、作らない?」
「そうね、おつまみにもなるし……そうしましょうか」

 台所へ移動し、ジャーマンポテトを作っていると、スマホに通知。揚げているところだったので、様子を見つつ、スマホを確認。セイだ。

『もし、お邪魔でなければ、お時間ある時に電話をしても良いですか?』

 私は母にあとを頼み、自分の部屋に上がりつつ、通話ボタンをタップする。

『……ナツキさん?』

 おっと。声が、とても寂しそうだぞ。

「うん。今日、お疲れ様。今ね、自分の部屋に居るよ。どうしてた?」
『その……声が、聴きたくて……』
「そっか。私も声聞けて、嬉しい。安心する」
『そ、ですか……?』
「そうだよ? 好きな人の声だもん。安心するよ、私は」
『……僕もです。ナツキさんの声が聴けて、今、凄く、幸せです……!』

 泣きそうになっている。

「ありがとう。……あのさ、今からでも、帰ろうか?」
『──いえ、大丈夫です。大丈夫になりました。……また、電話しても、良いですか……?』
「もちろんだよ。私からも電話するね」
『ありがとうございます。……あの、ナツキさん』
「うん」
『……ナツキさんのこと、好きです』
「ありがとう。私も好き。愛してるよ」
『僕もです。……では、その、おやすみなさい』
「おやすみ。寝れなかったら、かけてきてね」
『はい。ありがとうございます。……では、失礼します』

 プツッと切れた。……セイ、大丈夫かな。寝る前にも、何か送ろ。
 そして、台所に戻り、母がジャーマンポテトを盛り付けていたので、お礼を言いつつ、ケチャップとマスタードを冷蔵庫から出す。
 居間に行き、コタツに入り、ジャーマンポテトの写真を撮り、電話の内容を話しながら、ジャーマンポテトを食べる。
 家族ラインに連絡が来たのは、十時過ぎ。
 父からは、今から帰る。
 ミクトからは、何も無し。

「お父さん、帰ってくるね」

 言ったら、「そうね」と、ホッとしたように母は言った。
 父の帰りを待ちつつ、晩ごはんの準備をする。
 コタツにカセットコンロを用意して、お鍋を乗せて。
 ただいま、と玄関から声がした。父の声だ。
 二人で出迎えれば、それなりに酔っていて。まあ、だろうなと思っていたので肩を貸し、居間へ。

「ああ、鍋だなぁ……我が家の鍋だ……」

 父が泣き出す。父は泣き上戸だ。

「あなた、コートを」
「ああ、自分でやるよ。大丈夫だ」

 父は半分泣きながら、コートを脱ぎ、スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し。
 母はそれらを持って、たぶん、寝室に向かった。

「お父さん。これね、お母さんと私で作ったの」
「そうか……母さんと二人で……」
「はい、お茶」

 少しぬるめのお茶を渡せば、父はそれを、一気飲みする。

「おかわりする?」
「いや、大丈夫だ。……ミクトは、帰ってきてないのか?」

 少し酔いが覚めたらしい父に、帰ってきてないと伝える。

「そうか……母さんからミクトのこと、聞いたか?」

 父が、コタツに入りながら、神妙に聞いてくる。

「聞いたよ、色々。家にいる時間が減ったとか、寝不足に見えるとか。……何か、心当たり、ある?」
「いやぁ……それがな。私にも寝不足に見えるんだが、ちゃんと寝ているし健康だと、言われてな。……ただ、青春を謳歌してるだけなら、良いんだが」

 そこに母が戻ってきて、先に食べていようかという話になって、お鍋を温め、お茶を用意し、ミクトの分を取り分けてから、三人で鍋を食べた。

 *

「ふぅ……」

 片付けをして、風呂に入って、自分の部屋で。
 今、零時前。

『今から寝るよ。おやすみ。あ、あと、こんなの作ったよ』

 ジャーマンポテトの写真を添え、送信。
 のあとに、おやすみのスタンプ。
 電気を消し、布団に入って、すぐに眠気が来た私は、そのままストンと、眠りについた。


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