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71 高峰の過去と現在
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「どう思う? 今の」
演奏を終えて座った高峰に聞かれ、涼は、
「良いと思うが……お前、ギター再開したの、夏休みっつってなかったか?」
と聞いた。
「そうだよ」
涼の部屋で、弦の加減を気にしながら、高峰はそれを肯定する。
「前より上手くなってねぇか?」
「だと、良いけど」
「他のには聴かせたか? 墨ノ目の」
「いや、聴いてもらっては、ないかな。もう少し、こう、話せる自信がついたらと思ってる」
「……父親の?」
「そう」
落ち着いた顔で、中学の頃によくしていた運指練習を始めた高峰を見ながら、涼は思う。
人それぞれ、苦労があるのだな、と。
高峰瑞樹の父親は、高峰を『立派な社会人』にしようと、躍起になっていた、らしい。なのに息子はギターで稼ぎたいと言ってきた。父親は息子に『説教』をし、ギターやアンプや諸々を壊させ、金輪際、そういうことを口にするなと、キツく言った。またギターを弾いていたら、持っていたら、その話をしたら今以上に叱ると言って。
その父親は、去年の春に、急性アルコール中毒で死んだそうだ。高峰は、脳裏にギターのことが過ったが、周りのこと──涼も含む──を考えてしまい、それを胸の奥に仕舞った。
父親の死で夢が叶うかもしれない。そう思ってしまった高峰は、変わってしまった涼へも、罪悪感で何も出来ず。けれど、涼の素行が良くなったという噂を耳にして、体育祭での涼を見て、買うだけなら、と、新しいギターを手に取った。
手に入れてしまったらもう、弾きたくて仕方が無くて。文化祭で、Aクラスがカフェを──市販品じゃない自作のスイーツでカフェをやると聞き。
『ぐずぐずするなよ?! 俺が先にパティシエになっちまうからな?!』
そして、弾こう、と、決め、買ったけれど、目に付くからと仕舞い込んでいたギターを、引っ張り出したのだという。
「……ならさ、顔出しNGで配信とかしたらどうだ?」
高峰が顔を上げた。驚いた顔をしていた。
「聴いて欲しい気持ちはあるんだろ? そもそも、後夜祭では顔出してたし。声も出したくなきゃ、ギターの動画だけ配信すりゃ良い」
「……反応、あると思う?」
「俺は反応する。それに、……癪だが、光海も。その友達も、聴いてくれる。三木がインフルエンサーなの、流石に知ってんだろ」
「……知ってる、けど……」
「なら拡散とか、宣伝してもらえ。夢、叶えんだろ」
高峰は、軽く笑い、
「橋本、なんか、戻ったっていうより、変わったね。成川さんの影響かな」
「うるせ。もうアカウントだけでも作っちまえ」
「うん、そうしようかな」
高峰は、膝の上にギターを置いたまま、スマホを手に取った。
◇
「ねぇみつみん」
「んー?」
「このアカウント名、どなたさんが考えたの? ご本人?」
ご存知コーヒーチェーンにて。
私は、桜ちゃんとマリアちゃんとに、その、ハード系ロックシンガーのアカウントのフォローを頼んでいた。
「二人で考えたって言ってたけど」
アカウント名は『John Doe』。名無し。
「ある意味分かりやすくて良いんじゃないか」
「まあねぇ。すぐに身バレしないことを祈るよ」
「あれ、迫力あったしね」
ジョン・ドゥさん──高峰さんの、後夜祭での演奏は、誰かが撮影していたらしく、それなりに拡散された。
それと、そのジョン・ドゥのアカウントに投稿されている、幾つかの演奏動画。見る人が見れば──すぐにはと思わないけど──高確率で、高峰さんだと分かるだろう。特に、後夜祭での生演奏を聴いた人たちは。
「フォローしたぜ。回すぜ」
「どうもどうも」
「これ、友人からの紹介、とか言えば良いのか?」
フォロー数がまた一つ増えた。マリアちゃんだ。
「だと思う。細かいところはまあ、ご本人へ確認をお願いします」
「分かった」
「で、話は変わるけどさ。てか、変えていい?」
桜ちゃんに「いいよ」と言うと。
「今年のクリスマス、どうする? もう、予定ある?」
「まだ具体的には。希望を言うなら、みんなとも過ごしたいし、涼とも過ごしたいし、イヴと当日はバイト先混むから、シフト入れたいし……みたいな」
「私は今のところ予定は入ってないが……映画に出てみないかと、軽く話を貰っていてな。まずは今撮っている映画の、その撮影を見てみないかと、言われている」
「マリアちゃんすごいじゃん! それって、文化祭の映画の影響?」
聞けば、「らしい」と返事が返ってきた。
「もともと、そっちにも興味はあったしな。受けようかと思っていたが……そうなると、クリスマス、どうなるか分からないな」
「それは気にしなくていいよぉ。自分のやりたいことやるのが一番だよ!」
桜ちゃんの言葉に、私も同意する。
「で、桜ちゃんはどうしたいの?」
「えーとね。みんなで過ごしたいから、みつみんの店でクリスマスパーティーしたいな、とか、思ってた。当日とか関係なく」
「一応聞くが、みんな、とは、誰を指してるんだ?」
「マリアちゃんでしょ、みつみんでしょ、橋本ちゃんでしょ、ユキさんでしょ、アズサさんでしょ、あと、弓崎さんと高峰っち。知り合いにはなったし」
全部で8人か。……多いな。事前に言っておけば、席、確保してくれるかな?
「なら、全員でクリスマスグループ作るか? 相談してからだが。それなら、日程調整も難しくないだろうしな」
「私はそれで良いよ。高峰さんには、涼から伝えてもらおうか?」
「おう、イエイイエイ! ならそれで行こう!」
そして、その場で連絡をして。
クリスマスグループが出来上がりました。計8名、全員揃っております。
演奏を終えて座った高峰に聞かれ、涼は、
「良いと思うが……お前、ギター再開したの、夏休みっつってなかったか?」
と聞いた。
「そうだよ」
涼の部屋で、弦の加減を気にしながら、高峰はそれを肯定する。
「前より上手くなってねぇか?」
「だと、良いけど」
「他のには聴かせたか? 墨ノ目の」
「いや、聴いてもらっては、ないかな。もう少し、こう、話せる自信がついたらと思ってる」
「……父親の?」
「そう」
落ち着いた顔で、中学の頃によくしていた運指練習を始めた高峰を見ながら、涼は思う。
人それぞれ、苦労があるのだな、と。
高峰瑞樹の父親は、高峰を『立派な社会人』にしようと、躍起になっていた、らしい。なのに息子はギターで稼ぎたいと言ってきた。父親は息子に『説教』をし、ギターやアンプや諸々を壊させ、金輪際、そういうことを口にするなと、キツく言った。またギターを弾いていたら、持っていたら、その話をしたら今以上に叱ると言って。
その父親は、去年の春に、急性アルコール中毒で死んだそうだ。高峰は、脳裏にギターのことが過ったが、周りのこと──涼も含む──を考えてしまい、それを胸の奥に仕舞った。
父親の死で夢が叶うかもしれない。そう思ってしまった高峰は、変わってしまった涼へも、罪悪感で何も出来ず。けれど、涼の素行が良くなったという噂を耳にして、体育祭での涼を見て、買うだけなら、と、新しいギターを手に取った。
手に入れてしまったらもう、弾きたくて仕方が無くて。文化祭で、Aクラスがカフェを──市販品じゃない自作のスイーツでカフェをやると聞き。
『ぐずぐずするなよ?! 俺が先にパティシエになっちまうからな?!』
そして、弾こう、と、決め、買ったけれど、目に付くからと仕舞い込んでいたギターを、引っ張り出したのだという。
「……ならさ、顔出しNGで配信とかしたらどうだ?」
高峰が顔を上げた。驚いた顔をしていた。
「聴いて欲しい気持ちはあるんだろ? そもそも、後夜祭では顔出してたし。声も出したくなきゃ、ギターの動画だけ配信すりゃ良い」
「……反応、あると思う?」
「俺は反応する。それに、……癪だが、光海も。その友達も、聴いてくれる。三木がインフルエンサーなの、流石に知ってんだろ」
「……知ってる、けど……」
「なら拡散とか、宣伝してもらえ。夢、叶えんだろ」
高峰は、軽く笑い、
「橋本、なんか、戻ったっていうより、変わったね。成川さんの影響かな」
「うるせ。もうアカウントだけでも作っちまえ」
「うん、そうしようかな」
高峰は、膝の上にギターを置いたまま、スマホを手に取った。
◇
「ねぇみつみん」
「んー?」
「このアカウント名、どなたさんが考えたの? ご本人?」
ご存知コーヒーチェーンにて。
私は、桜ちゃんとマリアちゃんとに、その、ハード系ロックシンガーのアカウントのフォローを頼んでいた。
「二人で考えたって言ってたけど」
アカウント名は『John Doe』。名無し。
「ある意味分かりやすくて良いんじゃないか」
「まあねぇ。すぐに身バレしないことを祈るよ」
「あれ、迫力あったしね」
ジョン・ドゥさん──高峰さんの、後夜祭での演奏は、誰かが撮影していたらしく、それなりに拡散された。
それと、そのジョン・ドゥのアカウントに投稿されている、幾つかの演奏動画。見る人が見れば──すぐにはと思わないけど──高確率で、高峰さんだと分かるだろう。特に、後夜祭での生演奏を聴いた人たちは。
「フォローしたぜ。回すぜ」
「どうもどうも」
「これ、友人からの紹介、とか言えば良いのか?」
フォロー数がまた一つ増えた。マリアちゃんだ。
「だと思う。細かいところはまあ、ご本人へ確認をお願いします」
「分かった」
「で、話は変わるけどさ。てか、変えていい?」
桜ちゃんに「いいよ」と言うと。
「今年のクリスマス、どうする? もう、予定ある?」
「まだ具体的には。希望を言うなら、みんなとも過ごしたいし、涼とも過ごしたいし、イヴと当日はバイト先混むから、シフト入れたいし……みたいな」
「私は今のところ予定は入ってないが……映画に出てみないかと、軽く話を貰っていてな。まずは今撮っている映画の、その撮影を見てみないかと、言われている」
「マリアちゃんすごいじゃん! それって、文化祭の映画の影響?」
聞けば、「らしい」と返事が返ってきた。
「もともと、そっちにも興味はあったしな。受けようかと思っていたが……そうなると、クリスマス、どうなるか分からないな」
「それは気にしなくていいよぉ。自分のやりたいことやるのが一番だよ!」
桜ちゃんの言葉に、私も同意する。
「で、桜ちゃんはどうしたいの?」
「えーとね。みんなで過ごしたいから、みつみんの店でクリスマスパーティーしたいな、とか、思ってた。当日とか関係なく」
「一応聞くが、みんな、とは、誰を指してるんだ?」
「マリアちゃんでしょ、みつみんでしょ、橋本ちゃんでしょ、ユキさんでしょ、アズサさんでしょ、あと、弓崎さんと高峰っち。知り合いにはなったし」
全部で8人か。……多いな。事前に言っておけば、席、確保してくれるかな?
「なら、全員でクリスマスグループ作るか? 相談してからだが。それなら、日程調整も難しくないだろうしな」
「私はそれで良いよ。高峰さんには、涼から伝えてもらおうか?」
「おう、イエイイエイ! ならそれで行こう!」
そして、その場で連絡をして。
クリスマスグループが出来上がりました。計8名、全員揃っております。
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