学年一の不良が図書館で勉強してた。

山法師

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105 年度末試験。……を、終えて

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 年度末試験は期末と違って、5日間に渡って行われる。テストの科目数が多いためだ。

「絶対大丈夫です。対策もバッチリなんですからね。全部のテスト、平均超えだって夢じゃないですよ。あ、だよ」

 朝の電車の中で、涼の手をしっかり握って、その顔を見て、励ますんじゃなくて、事実を述べるように言う。

「うん、もう、うん。分かった。ありがとう、一旦やめてくれ。(……試験よりお前のことで頭がいっぱいになりそうだから)」

 空いてる手で顔を覆うようにしながら言われて、なんか、やり過ぎたっぽい。と、理解する。

「(分かりました。一度やめます)」

 私は言ってから、涼へ体を寄せる。そしたら涼が小さく唸った。……大丈夫だろうか。
 けど、図書室に入ったら、気持ちの切り替えが出来たのか、涼は、今日の分の試験対策に取り掛かり始める。
 私も負けちゃいられない。目指せ総合5位以内だし、もう一回、1位を取れるなら取りたい。
 そして、1日目。
 危なげなく全てを終えることが出来て、そのまま5人で、2日目の対策。からの、涼と二人で、更に対策。
 そのまま、2、3、4日目を終えて、5日目。最終日だ。
 今日で終わりだからって気を抜かないように、集中を高める。そして、テスト開始。

「…………」

 出来てるな、うん。ちゃんと解けてるし、解答ズレも無し。自己採点のためのチェックも出来てる。
 そして、昼過ぎ。最後のテストを終えて。

「涼、どうでしたか?」

 答案用紙が回収されてすぐ、私は涼の席に向かった。

「……分からん。手応えは、あった気がする。けど、やっぱ緊張してたし、自己採点してみないと分かんねぇ。……ちゃんと結果が戻ってこないと、本当のところも分かんねぇけど」

 その緊張がまだ解れていないのか、涼は伏し目がちで、手を握ったり、開いたり。

「大丈夫です。終わって、それだけの判断力が残ってるんですから。脳はそれほど、疲弊してないと思いますよ。……それと、打ち上げ、どうします?」

 ご褒美とは別個で、また5人でカラオケ打ち上げをすることになっているのだ。

「ああ……行ける。大丈夫。つーか、行って、この緊張を解したい」

 そんな訳で、私、涼、桜ちゃん、マリアちゃん、高峰さんの5人で、カラオケへ。
 お昼代わりに軽く食べつつ、それぞれ歌う。
 バラードを歌い終えた高峰さんへ、

「高峰っち、それ、次の配信で歌うの? 前のリクで出てたよね」

 桜ちゃんが、言う。

「ああ、うん。やっぱり色々歌わないと、視聴者数、稼げないし。歌いたいのも歌うけどね」

 ジョン・ドゥの配信は大体好評で、フォロワー数も着実に増えていってる。大樹もファンのままだし。

「じゃ、次、俺な」

 涼がマイクを持ち、歌い出す。選んだのは、ヘヴィメタル。さっきから涼は、静かな歌と激しい歌を交互に歌っている。
 そして次は、私の番だ。
 選んだのは最近ハマっているバンドの曲。全員日本人だけど、全編英語の歌詞で、歌詞も、曲もカッコいいのだ。
 と、歌っていたら、涼と目が合った。サビのところだったので、そのまま、振り付け通りに笑顔を向ける。
 ……涼の目が、丸くなった。なぜ。
 歌い終えたら90点台で、私にしては中々の高得点だ。

「んで、3周したけど、どうする? 自由に歌う? もう1周する?」

 桜ちゃんが、みんなを見ながら聞いてくる。

「……あー、ちょっと、休憩してくる」

 涼はそう言って、出ていった。

「……追いかけたほうがいいかな?」

 なんか、様子が変だった。大丈夫かな。

「追っかけるかは自由だけど、追っかけたら、橋本ちゃん、それこそ爆発するかもだね」

 へぇい? 桜ちゃん?

「そんな気がするな。振り付けとはいえ、あそこで笑顔を向けられたら、な」

 マリアちゃん、なんか、呆れてます?

「うん、まあ、橋本にはさ、成川さんの一挙手一投足が、途轍もない威力を発揮するんだよ」

 なにそれ怖い。

「えっと、じゃあ、追いかけないほうが良い……の、かな……」

 そう言いながら、席に戻って。
 スマホに何かが来てた。

『(お前は俺を殺す気か)』

 ……わぁ……。

『(次から気を付けます)』

 と、送った。

 ◇

「……あー……くそ」

 トイレ脇のソファに座った涼は、雑念を振り払おうと頭を振る。
 振り付けなのは分かってる。分かってても、あの笑顔は反則だろ。

「(何が、次から気を付けます、だ。このヤロウが)」

 どう、気を付けるつもりだよ。笑顔をやめるのはやめろ。老若男女問わず、他のヤツには向けるな。

「……疲れてんな、やっぱ」

 テストの緊張が解れてきたのは良いが、反作用のように、単純な思考しか出来なくなっている。

「……自己採点、出来っかな……」

 ため息を吐いて、なんとか思考を正常に回す努力をしながら、涼は、戻るために立ち上がった。

 ◇

 カラオケを終えて、自己採点のために涼の家に向かってるけど。

「……あの、涼」
「ん」
「こっち、向けます?」
「今は無理」

 即答された……。
 涼は、手を握ってはくれてるけど、前を向いたまま、目を合わせようとしてくれない。

「悪い。今、疲れてんだ。顔見たら、……(こう、衝動のままに動きそうで怖い。お前のためにも向きたくない)」
「(……衝動のままにって、どんなですか?)」
「(聞いてくれるな。嫌われたくない)」

 ……。

「あの、そんな状態で、自己採点、出来ます? 明日に持ち越します?」
「自己採点はしときたい。少しは安心しときたい」
「……分かりました。私も何か、えーと、刺激? しないようにします」

 言ったら、握っていた手に力が込められて。

「それがもう刺激なんだわ」

 どうしろと。
 自己採点の結果とは別の不安を抱きつつ、涼の部屋へ。

「では、始めていきますか」
「おう」

 普通に答えてくれるけど、まだ、目、合わせてくれないな。
 そして、私の採点結果は。
 ……範囲内には、収まってるだろうな。ほぼ、合ってるし。けど満点じゃないんだよなぁ……悔しい……。

「私は大丈夫そうですけど、涼はどうですか?」

 横目で見ながら、聞いてみる。

「……たぶん、大丈夫。けど、今、思ったより頭、働いてねぇわ。やっぱ光海の言った通り、少し休憩してから、もっかい見直すわ」
「私が見るのは、駄目ですか?」
「ん、や、それは大丈夫」

 問題用紙を渡されて、採点していく。……これは。

「涼、これ、全部、平均超えどころか、高得点取れてますよ。すごいですよ。……涼?」

 反応が無いな、と、横を見れば。

「…………涼……?」

 ローテーブルに頬杖をついて、目を閉じて……寝てる?
 相当、気を張ってたんだなぁ。ていうか、涼の寝顔、初めて見たかも。
 ──あっ?!

「っんぐ?!」
「うぁ、だ、大丈夫ですか?!」

 手から顎が外れて、ローテーブルに顔面ダイブ。結構鈍い音がした。

「……ぁあ? なに? ってぇんだけど……? ……寝てた? 俺」

 顔を向けられ、「はい、あの、寝てて、そのままローテーブルに、顔を……」と説明する。

「マジか……通りで痛ぇワケだ……ちょっと、寝るわ」
「はい、そのほうが……はい?」

 涼? そこは、私の膝の上なんですが?

「……寝ぼけてます?」
「そんな気はしてる」

 そんな気はって……本当にそのまま寝始めたし……。

「……涼?」

 ……起きないな……頭撫でても起きないな……。

「緊張、抜けました……?」

 小声で聞いてみる。けど、すぅすぅ寝てるから、当たり前に、反応なし。
 まあ、いいか。帰るまでまだ、時間あるし。
 今日、バイト入れてなくて、良かった。

「お疲れ様。涼」


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