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第一章 そこは竜の都

二十三話

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 音がしそうな勢いで手を抜かれ、今度はヘイルが呆気にとられる。

「……あぁ」
「アイリス、気分はどう? 身体に変な感じはない?」
「気分、は大丈夫です。身体……」

 アイリスは胸に手を当て、腕を曲げ、首を傾げた。

「変な感じ……というか、中で何かが渦巻いてるような……?」

 知っているもののようで、知らないような。

「それは多分、ヘイルの魔力ね。少し時間を置けば落ち着くわ。……それじゃ」

 ブランゼンは左の掌を上に向け、一瞬のうちに光の珠を作り出した。

「まずはこれ……までいくかしら。掌を光らせる事は出来そう?」
「え、えぇと……」

 見よう見まねで、アイリスも左手を上にする。

「ヘイルは一旦髪を直して」
「あ、ああ……そうだな」

 はたと頭に手をやり、ヘイルは立ち上がった。

「手伝っ「こっちの区切りがついてもまだやってたらね」……」

 部屋を後にするヘイルは完全に意識の外で、アイリスは掌に集中する。

「ん、んぅん……?」

 何となくだが、感覚は解る気がした。
 自分の中で渦巻く増えた魔力。これを、腕を通して手の先まで持って行けばいい。

「水が流れるようなイメージを持つと、やりやすいと思うわ。力を抜いて、自然体で」

 言われた通り、肩の力を抜いて呼吸を深める。流れが、滑らかになる。

「……あ」

 掌が淡く、光を零す。

「そうそう! そのまま、見えない手で魔力を集めるように……?!」

 瞬く間に光の珠が出来る。

「出来ました!」

 はしゃぐように言いながら、アイリスは右手を添えて光を強くした。

「凄いですね……魔法って思考、想像力が強く影響するんでしょうか」

 珠は形を変え、四角く、丸く、花や動物の姿へと次々に移ろう。

「……そうね……それじゃあ、今度はそれを戻しましょうか。土に水が染み込むように」
「染み込む……」

 するり、と光は手の中に収まり、沈むように消えた。

「どうでしょうか」
「……アイリスって、魔法使った事無いのよね?」
「はい。使えるほどもありませんでしたし」
「そうよね……ええ、上手く出来てたわ」

 ブランゼンの評価に、アイリスは胸をなで下ろす。

「家の物を使う時も、同じ様にやるの。魔力を放出し、器に注いで作動させる」

 ブランゼンは言いながら、室内を見回す。

「今ここで試せそうなもの……は……」

 そして目の前のローテーブルに視線を留めた。

「これでやりましょうか。アイリス、この縁に手を当ててみて」
「こう、ですか?」

 幾何学模様が付けられた盤面の縁に、手を添える。

「そのままで、さっきみたいに魔力を、今度はテーブルに流す。出来そう?」
「やってみます」

 数瞬後、天板が波打った。

「え!」
「簡単な模様替えね。ただ魔力を通すだけならランダムなものになるの」

 波はすぐに落ち着き、見ると天板の幾何学は、見事な唐草模様に変わっていた。

「……ただ通す以外だと、どうなるんですか?」

「頭の中にしっかりした完成図を思い浮かべるの。その情報をテーブルに流せば──」
「……あ」

 アイリスの声に呼応するように、またテーブルが波打つ。


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