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第二章 竜の文化、人の文化

三十二話

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「戻ったな」

 上からの声に、はっと顔を上げる。見れば、ヘイルの顔が心なしか笑んでいる様に見えた。

(笑っ……?!)
「良かった! 戻ったわねアイリス!」
「むぎゅっ!」

 驚くのもつかの間、ブランゼンに抱き締められ、潰れた様な声が出た。

「良かった……あ、でも、アイリス。体に不調は? 変に感じる所はない? 魔力は?」

 ブランゼンの腕の中に収まったまま、矢継ぎ早にされる質問に、アイリスは目を白黒させる。

「えっと、その、えーっと……変な、感じはしません。痛みとか、違和感とかも、ないです。魔力も、多分正常だと思います」

 もぞもぞと動きながら聞かれた事を確認し、答えるアイリスに、ブランゼンは長く息を吐きながら腕を解いた。

「はーーーーー…………なら、一旦は大丈夫かしらね……でも後でちゃんとした検査をしたいわ」
「そうだな。侍医にでも話を通すか」

 上からかかる声に、アイリスはハッと思い出す。

(私、まだヘイルさんの膝の上だった!)
「す、すみませんヘイルさん! 今降りますので!」

 わたわたと体を離すアイリスを、何故かヘイルは引き戻した。

「?!」
「いや、後から何かあるとまずい。このまま一の客間へ運ぶ」
「え?! いや、だ、大丈夫です! そこまでお手を煩わせる訳には……!」
「気にするな。俺がしたいからしているだけだ」
(気にしますぅ!)

 心の中で絶叫したアイリスだが、当然ヘイルには届かない。はくはくと口を動かすばかりのアイリスを、ヘイルはしっかりと横抱きに抱え直した。

「あなたねぇ……」

 ブランゼンは呆れ顔になり、ファスティは微笑ましげに眺めるばかり。
 誰もこの状況を変える気がないと、それだけはなんとか理解したアイリスだった。


  ◆


 本当にそのまま一の客間と呼ばれた部屋まで運ばれ、道中(私は荷物、私は荷物……)と念じていたアイリスは、ソファに降ろされてやっと、肩の力を抜いた。
 ちなみにファスティは侍医を呼びに行くと途中で別れ、今この場にはアイリスとヘイルとブランゼンの一人と二竜さんにんだけだ。

「ヘイル、あなたそれ、着替えてきたら?」

 ブランゼンの指摘で、アイリスはヘイルの格好がいつもと違う事に気付く。
 いつも下ろしている長い髪は結ってあり、服も装飾が施され、体の形に沿うものを身に着けていた。

「会議用の服のままなんでしょう? 診察にあなたは同席しないんだから、ちょうど良いじゃない」
「……ああ、まあ、そうだが……」

 それに対し、歯切れ悪く応じるヘイル。アイリスは首を傾げたが、ブランゼンは何か察したらしく、ヘイルの側に寄り小声で何事か呟いた。
 するとヘイルの顔が一気に顰められた。

(何を言ったんだろう……)

 気になるが、おいそれと聞くのも憚られる。どうしようかと逡巡した丁度その時、扉がノックされた。

「ファスティでございます。ウェイレさんをお連れしました」

 それにヘイルが返事をすると、ゆっくりと扉が開かれ、ゆったりと入ってくるファスティと共に、

「やあやあやあ! 君が噂のアイリスちゃんかい?!」

 とても溌剌はつらつとした声でそう言いながら、元気いっぱいといった笑顔をした女性が入ってきた。

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