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「……圭介」
翌朝。
スマートフォンのアラームで目を覚ました奏夜は、唸るような声で恋人の名前を呼んだ。
「んあ? なに? そーちゃん。あ、おはよ」
同じベッドで寝ていたために、奏夜のスマートフォンのアラームで一緒に目を覚ました圭介が、あくびをしながら起き上がる。
「……おはよう……なんか、体が、痛いんだけど。あと、……変」
「えっ」
奏夜の訴えを聞いた圭介は、一瞬動きを止めたあと、心配そうな表情を見せた。
「どうしたそーちゃん。どこが痛い? 変って?」
奏夜を落とさないようにベッドから降りた圭介の問いかけへ、奏夜は諦めにも似た気持ちで答える。
「股関節とかが痛い。筋肉痛的な感じで。あと、後ろによくわかんない違和感がある」
「え」
奏夜の言葉を聞いて、圭介はまた動きを止めた。
その痛みと違和感は、つまり。
「昨日の圭介とのアレだと思うんだよな……遅れてきたんだ……」
顔をしかめた奏夜の渋い声に、圭介は呆然とした様子で口を動かす。
「その、筋肉痛? はともかく、違和感も遅れて来るんだ……?」
「他に説明のしようがないだろ」
昨日、最後まで致したあと。
それぞれシャワーを浴びてから圭介が作った遅めの昼ご飯を食べ、もう少し一緒に過ごしたい気持ちが二人ともにあったので、圭介の実家に顔を出すのは今日へ持ち越すことにして、部屋でダラダラと過ごした。
結果的に泊まることになったが、昼間のあれ以外はキス程度で収めていた。
どちらにしろ、奏夜はしっかり動けていたので、体に異常はきたしていないと、二人で結論づけたのだ。
だが、朝起きてみたら、痛みと違和感に襲われている。
「う、動ける……?」
「わかんない……ちょっと動いてみる……」
圭介に不安そうに聞かれ、奏夜はそろそろと起き上がった。
ベッドから体を起こすのは、なんとか成功した。
けれど、立ち上がるとなると……。
「げ、限界! 無理! これ以上は無理!」
「マジか……」
圭介の手を借りながら立ち上がろうとした奏夜は、圭介と抱きしめ合う形で引っ張り上げてもらっていたが、中腰のような姿勢になったあたりで限界を告げた。
奏夜はベッドへ腰を下ろし──圭介に下ろしてもらったとも言える──無事に座れたことに息を吐いてから、頭を抱える。
「足腰がぷるぷるする……後ろにうまく力入んないし……立てないって……今日、午後からバイトあるんだけど……?」
「ごめんな、そーちゃん。次から気をつけるとしか言いようがないけど、ホントごめん」
言葉通りに申し訳なさそうな声が聞こえて、顔を上げる。そんな奏夜の目に映ったのは、床に正座をしてしょんぼりと項垂れている圭介だった。
肩を落として背を丸める圭介を、もとから責めるつもりはなかったけれど、こうされると少し小言を、なんて気持ちすらなくなってしまう。
「……まあ、遠慮しなくていいって言ったのは俺だしな。俺も次から気をつける。バイトは体調不良で休むことにするから気にすんな」
圭介の頭を撫でながら言えば、圭介はちらりと奏夜を見やって、口をもにょもにょと動かす。それに首を傾げたら、圭介は口元を左手で隠すような動作をし、奏夜から視線を逸らした。
「圭介?」
どうした? という意味を込めて呼びかけると、「……いや、さ」と照れたような声を出される。
「次からって、そーちゃんが言ってくれるの、嬉しいなぁって。あ、次、あるんだ、って、改めて思えたっていうか」
嬉しそうに言ってくれるのは、こちらとしても嬉しいが。
「圭介。少なくとも今日明日は無しだからな? 俺のこの状態が改善されて次の日に余裕がある時だからな?」
「わかってる。わかってます。そーちゃんに負担かかるのは俺もヤダ」
釘を差すように言うと、圭介はしっかり頷いてくれる。
それを見てホッとしていると、圭介は、ハッと何かに気づいたように顔を上げた。
「そーちゃんさ、その状態だと今日あんま動けないよな?」
「そうなるな」
「じゃあ俺、そーちゃんのお世話していい?」
「は?」
何を言っているんだと顔をしかめたけれど、圭介は良いことを思いついたとばかりに顔を輝かせたあとは、楽しそうににこにこしている。
「今日の予定バイトだけだもんね? 午前もここでゆっくりする予定だったじゃん?」
「うん、まあ」
「午後もここでゆっくりしよ。俺も家に帰るの、明日よりあとにする。一日安静にしても改善しないならそれもう病院じゃん。だから様子見も兼ねて、ゆっくり、な?」
にこにこしながら提案してくる圭介を見ていると、それもアリなんだろうか? と思えてしまうので不思議だ。
「ん、まあ……圭介がいいなら、ゆっくりさせてもらえるとありがたい、かな……?」
「オッケー決まり! そんじゃ、朝の洗顔代わりにあったかい濡れタオル持ってくる!」
「そこまで?!」
そんな、幼児にするみたいに世話になる訳には、と言った奏夜だが、「いいじゃん今日くらい」「俺の責任なんだから俺がお世話する」「いいでしょそーちゃんお願い。ね?」と、最終的には押し切られる形でお世話されることになった。
なんでお世話されるのをお願いされるんだ、とも思ったが。
(まあ、圭介がいいって言うなら)
良しと思ってしまうので、しょうがない。
自分は圭介に弱いから。
だから、まあ、いいか、と奏夜は思ってしまう。
「じゃあ待っててね、そーちゃん。あ、その前に、ちょっと」
部屋を出ようとした圭介が足早に戻ってきて、蕩けるような笑顔とともにキスをされた時、(あ、早まったかな)とも思ったけれど。
「ん……」
キスを普通に受け入れてしまう自分もいるので、どっちもどっちか、と奏夜は内心で苦笑した。
翌朝。
スマートフォンのアラームで目を覚ました奏夜は、唸るような声で恋人の名前を呼んだ。
「んあ? なに? そーちゃん。あ、おはよ」
同じベッドで寝ていたために、奏夜のスマートフォンのアラームで一緒に目を覚ました圭介が、あくびをしながら起き上がる。
「……おはよう……なんか、体が、痛いんだけど。あと、……変」
「えっ」
奏夜の訴えを聞いた圭介は、一瞬動きを止めたあと、心配そうな表情を見せた。
「どうしたそーちゃん。どこが痛い? 変って?」
奏夜を落とさないようにベッドから降りた圭介の問いかけへ、奏夜は諦めにも似た気持ちで答える。
「股関節とかが痛い。筋肉痛的な感じで。あと、後ろによくわかんない違和感がある」
「え」
奏夜の言葉を聞いて、圭介はまた動きを止めた。
その痛みと違和感は、つまり。
「昨日の圭介とのアレだと思うんだよな……遅れてきたんだ……」
顔をしかめた奏夜の渋い声に、圭介は呆然とした様子で口を動かす。
「その、筋肉痛? はともかく、違和感も遅れて来るんだ……?」
「他に説明のしようがないだろ」
昨日、最後まで致したあと。
それぞれシャワーを浴びてから圭介が作った遅めの昼ご飯を食べ、もう少し一緒に過ごしたい気持ちが二人ともにあったので、圭介の実家に顔を出すのは今日へ持ち越すことにして、部屋でダラダラと過ごした。
結果的に泊まることになったが、昼間のあれ以外はキス程度で収めていた。
どちらにしろ、奏夜はしっかり動けていたので、体に異常はきたしていないと、二人で結論づけたのだ。
だが、朝起きてみたら、痛みと違和感に襲われている。
「う、動ける……?」
「わかんない……ちょっと動いてみる……」
圭介に不安そうに聞かれ、奏夜はそろそろと起き上がった。
ベッドから体を起こすのは、なんとか成功した。
けれど、立ち上がるとなると……。
「げ、限界! 無理! これ以上は無理!」
「マジか……」
圭介の手を借りながら立ち上がろうとした奏夜は、圭介と抱きしめ合う形で引っ張り上げてもらっていたが、中腰のような姿勢になったあたりで限界を告げた。
奏夜はベッドへ腰を下ろし──圭介に下ろしてもらったとも言える──無事に座れたことに息を吐いてから、頭を抱える。
「足腰がぷるぷるする……後ろにうまく力入んないし……立てないって……今日、午後からバイトあるんだけど……?」
「ごめんな、そーちゃん。次から気をつけるとしか言いようがないけど、ホントごめん」
言葉通りに申し訳なさそうな声が聞こえて、顔を上げる。そんな奏夜の目に映ったのは、床に正座をしてしょんぼりと項垂れている圭介だった。
肩を落として背を丸める圭介を、もとから責めるつもりはなかったけれど、こうされると少し小言を、なんて気持ちすらなくなってしまう。
「……まあ、遠慮しなくていいって言ったのは俺だしな。俺も次から気をつける。バイトは体調不良で休むことにするから気にすんな」
圭介の頭を撫でながら言えば、圭介はちらりと奏夜を見やって、口をもにょもにょと動かす。それに首を傾げたら、圭介は口元を左手で隠すような動作をし、奏夜から視線を逸らした。
「圭介?」
どうした? という意味を込めて呼びかけると、「……いや、さ」と照れたような声を出される。
「次からって、そーちゃんが言ってくれるの、嬉しいなぁって。あ、次、あるんだ、って、改めて思えたっていうか」
嬉しそうに言ってくれるのは、こちらとしても嬉しいが。
「圭介。少なくとも今日明日は無しだからな? 俺のこの状態が改善されて次の日に余裕がある時だからな?」
「わかってる。わかってます。そーちゃんに負担かかるのは俺もヤダ」
釘を差すように言うと、圭介はしっかり頷いてくれる。
それを見てホッとしていると、圭介は、ハッと何かに気づいたように顔を上げた。
「そーちゃんさ、その状態だと今日あんま動けないよな?」
「そうなるな」
「じゃあ俺、そーちゃんのお世話していい?」
「は?」
何を言っているんだと顔をしかめたけれど、圭介は良いことを思いついたとばかりに顔を輝かせたあとは、楽しそうににこにこしている。
「今日の予定バイトだけだもんね? 午前もここでゆっくりする予定だったじゃん?」
「うん、まあ」
「午後もここでゆっくりしよ。俺も家に帰るの、明日よりあとにする。一日安静にしても改善しないならそれもう病院じゃん。だから様子見も兼ねて、ゆっくり、な?」
にこにこしながら提案してくる圭介を見ていると、それもアリなんだろうか? と思えてしまうので不思議だ。
「ん、まあ……圭介がいいなら、ゆっくりさせてもらえるとありがたい、かな……?」
「オッケー決まり! そんじゃ、朝の洗顔代わりにあったかい濡れタオル持ってくる!」
「そこまで?!」
そんな、幼児にするみたいに世話になる訳には、と言った奏夜だが、「いいじゃん今日くらい」「俺の責任なんだから俺がお世話する」「いいでしょそーちゃんお願い。ね?」と、最終的には押し切られる形でお世話されることになった。
なんでお世話されるのをお願いされるんだ、とも思ったが。
(まあ、圭介がいいって言うなら)
良しと思ってしまうので、しょうがない。
自分は圭介に弱いから。
だから、まあ、いいか、と奏夜は思ってしまう。
「じゃあ待っててね、そーちゃん。あ、その前に、ちょっと」
部屋を出ようとした圭介が足早に戻ってきて、蕩けるような笑顔とともにキスをされた時、(あ、早まったかな)とも思ったけれど。
「ん……」
キスを普通に受け入れてしまう自分もいるので、どっちもどっちか、と奏夜は内心で苦笑した。
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