【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。

山法師

文字の大きさ
93 / 105
後日譚

15 大豪邸

しおりを挟む
 そして天遠乃あまえのさんは、私の前から右隣に移動して、改めて日付を書いた。

『で、この日が空いてるって、合ってる?』
「合ってます、けど……あの、そもそも、私、遠野とおのさんの家を知らないんですが……」
『あら、そうだったの。えっとね、守弥かみやの住所は……』

 また同じ様に、空中に光る文字が書かれていく。

「あ、えと、メモしますので……すぐには消さないで下さい」
『あ、メモは紙か自分のスマホにしてね。支給されたのだと、誰が閲覧しててもおかしくないから』

 さらっと怖い事言わないでくださいよ。
 私は言われた通りに自分用のスマホにその住所をメモし、検索して、そこが俳優や政治家が多く住むという高級住宅街だと知った。
 ……行くのが、ちょっと怖くなった。

『じゃあ、これで伝える事は全部伝えたかしらね。分からなかったとこ、ある?』
「いえ……ない、です……」
『? 急に元気がなくなったけれど、どうしたの?』
「いえ、少し。場所に尻込みしただけです……」
『ああ、そういう事。大丈夫よ。守弥の家は大きいだけで、他の家とそこまで変わらないから』
「そうですか……」

 そういうあなたも、お金持ちの家の方ですよね? 他の家って、どういう家を指してるんですかね。

「あ、でも。てつって外に出ていいんですか?」
『そこは大丈夫。ちゃんと外出許可が出るように手配してるから』

 で、そこから約一週間後の、今日。
 ギラギラする人間バージョンのてつに少し慣れてきたなと思ったり、初めて電車に乗るてつに、乗り方をレクチャーしたりしながら、遠野さんの家に到着して。
 地図マップで確認もしたけど、改めて現物を目にすると……

「デカいな……」

 そんな言葉しか出てこない。
 大きいだけで、と言われたけど。これはその大きさが規格外ですよ。真っ白な、太陽光を反射する塀も高いし長いし、車が三台は通れそうな門だってデカいとしか言いようがないし、大豪邸だろ、これ。
 そこまで変わらないと言われていた周りの家の、何倍か大きい、広い? 広大? ですよ、天遠乃さん?
 私普段着なんですけど、こんな所でこの格好はアウトではありませんか? 大丈夫ですか?

「いつまで突っ立ってる気だ。なんだ? アレか? インターホンとやらを押せばいいんだろ」
「えっちょっ、てつ待っ」

 ピンポーン

「えっ」

 無情にも押されたインターホンは、馴染みのある音がして。なんだか急に気が抜けた。

『はい』

 そこから聞こえてきたのは、耳馴染みのない、女性の声。

「あっ、その、榊原杏さかきばらあんずと、てつ、と言います。今日、こちらに伺う予定なってまして……」
『──畏まりました。──確認が取れましたので、どうぞ、お入り下さい』

 声とともに、目の前の大きな門が音も立てずにスライドして、開いていく。

「……うわぁ……」

 そこから見えたのは、周りを木々に囲まれた、長く続く、一本道。それは緩く坂になっていて、先が見えない。

「行くぞ」
「えっえっ、待って置いてかないで……!」

 スタスタと門をくぐり抜けていくてつに、縋るようにして歩き出す。

『──お待ち下さい。てつ様、榊原杏様』

 すると、インターホンの女性の声が、抑揚なく待ったをかける。

「あ?」
『今、迎えを寄越しておりますので、もう少々お待ち下さい』
「迎え……?」

 なに? こういう時の迎えって、フィクションの定番だと、車、と、か…………。

「ホントに車だ……」

 鈍いグレーの、スリーポインテッドスターの、あの高級車が、ゆっくりと坂から見えてくる。そしてその坂を下り、私達の目の前で停車した。
 いつもの遠野さんの車と違う。いつものは日本製の、どこにでもある普通車だったはずなんだけど。

『──どうぞ、お乗り下さい』

 声と同時に、後部座席のドアが自動で開く。
 怖い。

「おら、乗るぞ」

 通常運転のてつは、そんなの気にする事もなく、車に乗り込む。
 こんな堂々としてるてつだけど、ここに呼ばれた理由は話していない。支部の中で話すのは、やっぱり憚られたからだ。……なのになんで、そんな堂々としてられるの。
 けど、私も突っ立ったままではいられない。ので、仕方なく、恐る恐る、乗り込んだ。

「あれ、運転席……?」

 中に誰もいない。すると、またあの女性の声が、今度はこの車の中から聞こえた。

『この車は、AIによる自動運転システムを採用しております。よって、運転席に人はおりません』
「へ、へぇ……」

 ナンテスゴインダ。
 私がシートベルトを締め、てつにもシートベルトの説明をして締めさせると、それを合図にか車は音もなく滑らかに発進し、坂を登っていく。そして登るうちに、だんだんと見えてきたのは……

「うわぁ……」

 あの門構えと塀とに、なんの違和感も抱かせない、洋風な邸宅、もとい、大豪邸だった。



 車は坂を登りきり、今度は緩やかに降りていく。そして豪邸の大きな扉の前で、停まった。

『どうぞ、お降り下さい』

 そしてまた、自動で車のドアが開く。

「……」

 そうだ、こんなん、タクシーだと思えばいいんだ。タクシーのドア、勝手に開閉するもん。
 私とてつが降りると、車はまた勝手に動き出し、どこかへ行ってしまった。
 どうすればいいんだろう。この、重厚そうな扉の、どこにインターホンがあるのかすら分からない。
 と。

『いらっしゃい!』
「うわっ!」

 天遠乃さんが、扉をすり抜けながら笑顔で迎えてくれた。

「ど、どうも……。遠野さんの家、初めて来ましたけど、ものすっごい大豪邸ですね……」
『そうなのよー。本家が金かけちゃったらしいのよ。まあ、入って入って』

 天遠乃さんの言葉と共に、重そうな扉が音もなく開いていく。
 遠野さんが開けているのか、と思ったら、そうじゃなかった。中に入って見渡したけど、天遠乃さん以外、この、恐らく玄関ホールと思われる場所には、誰もいない。そしてここも、すごく広い。

「……あの、遠野さんは……?」
『守弥はね、おもてなしの準備をしているわ』
「そうですか……」

 ふわふわ浮かぶ天遠乃さんの、その笑顔に気が抜ける。

「で、どこに行きゃあいい? それとそろそろ、ここに来させた目的を聞かせてもらおうか」
『あ、それはね、もう少し待って。ドアが閉まっちゃってから、ね』

 言われて、扉を見れば、ちょうど閉まるところだった。また音もなく閉じられた扉は、そのすぐ後に、僅かに機械音をさせて、沈黙した。

『よっしそれじゃあ、行きましょうか。ついてきてね』

 天遠乃さんは、ふわり、と体を横回転させて向きを変える。そして、玄関ホールからいくつも繋がる豪華な通路──たぶん廊下──のうちの一つ、目の前にある、広い通路を、進んでいく。
 ついてきてね、と言われたので、ついていくしかない。

『あのね、てつさん。今日ここに杏さんとてつさんを呼んだ理由なんだけどね』

 ふわふわ飛ぶ天遠乃さんは、こちらをちらりと振り返り、

『杏さんに協力してもらって、私が守弥を、……生きてる人の体で、感じさせてもらうためなの』
「はあ?」

 てつの眉間にシワが寄る。人間の姿でなければ、牙も剝いていたと思えるほど、圧が強まった。

「てつ、落ち着いて。危険な事じゃないから」
「詳しく説明しろ」
「……えーっと……」

 どう言えばいいかな、と、少し悩んでいると。

『私が説明するわ』

 と、天遠乃さんが、ここまでの経緯を話し始めた。

「……」

 天遠乃さんが話していくうちに、どうしてか、だんだんとてつの顔が恐ろしくなっていく。気はそれほど変化していないけど、それは恐らく、あえて鎮めているのだと、肌で感じ取った。

「て、てつ……?」
「あ゛あ゛?」

 もはやデスボイスだよ。何をそこまで。

『……本当、守弥の言った通りね。承知はしていたけれど』
「? どういう事ですか?」

 天遠乃さんの言葉に、首を傾げると。

『えっとね。守弥はね、てつさんはこの話を聞いたら十中八九、怒って止めるだろうって、言ってたの』
「え、どうして」
「んなもん、お前の身が危険だからに決まってんだろうが」

 吐き捨てるように言われたてつの台詞に、目を丸くする。

「え?」

 危険?


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

処理中です...