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第二章 思い出したくないもの
お昼ご飯
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「蓮、蓮ってば」
体を揺さぶられ我に返った。過去に思いを馳せるうちに、映画は二人が将来を誓い合うクライマックスのシーンまで進んでいたようだ。途中のストーリーを見ていなかったわけじゃないが、全く頭に入っていないので感動も何もない。スクリーンの中で知らない美男子と知らない美少女が抱擁している。映画館のところどころからすすり泣く声が聞こえるが、全く共感できない。館内で僕だけが取り残されたような感覚に陥った。
いや、そういえば一人だけ身近にいる。こういう純愛ものを快く思わない人間。
「あ、起きた?」
その人間と、退屈しのぎにヒソヒソ声で話し始めることにした。
「うるさいなあ、ずっと起きてたよ」
「嘘、さっきまで反応なかったよ」
「集中してたの」
「そう・・・・・・面白い?」
「いや全然」
「だよね、やっぱり面白くないよね」
星川美麗と感性が同じというのが少し不満ではあるが・・・・・・。仕方ない。変えようのない現実は甘んじて受け入れるしかない。
「こんなに一途な恋があるはずないのにね」
「まあこれは映画だし、所詮夢物語だよ」
「そうだよね、蓮はこれ見るの初めて?」
「初めてだよ、美麗は?」
「二回目」
「そっか、じゃあ尚更楽しめないね」
二回目、どうせどこかのタイミングで彼氏と見たんだろう。自分が楽しめないのを分かっていて、よくもまあこんな映画に付き合えるよ。
「咲ちゃん達は面白いって言ってたけどね」
「ふーん、まああの二人はそれこそ一途だしね」
「そだね」
スクリーンが暗転して切なげな音楽と共にエンドロールが流れ始めた。チラホラと席を立ち始める人間もいるが、僕と星川美麗はそのまま黙って座っていた。周りのカップル達が横目に映るのが嫌で、少しの間目を閉じた。
「蓮、行く?」
座っているのが辛くなったのか、目を開けると星川美麗は今すぐにでも席を立ちたいといった様子でこちらを伺う。
「もう少しで終わりだろ? 待とうよ」
堪え性のないやつめ。そんなだから男も取っ替え引っ替えなんだろ。少しはあの二人を見習ってほしいよ。
この短い会話の間に、エンドロールも終わって館内全体が明転した。周りの人間たちが何かに追われているように続々と席を立ち始める。後ろを振り向くと船井と田中がこちらと合流するべく移動を始めたのが目に入った。
向こうにだけ移動させるのは悪いか。ようやく重い腰をあげた。
「あ、ねえ、蓮」
「うん?」
「この後どうするの?」
「んー、とりあえずご飯食べないとだね、そこは今から船井と相談するよ」
「あ、いや、そうじゃなくて」
「? そうじゃなくて?」
「いや、やっぱりいい」
なんなんだこいつは。まあいい、いつものことだ。星川美麗の気まぐれに今さら腹を立てても仕方ない。そうこうしている間に船井たちと合流し、まだ興奮冷めやらぬ人混みをかき分け映画館を後にした。
「浅尾ー、どうだった?」
「まあまあ面白かったよ」
「初めて見たら感動するよねー」
「田中泣いてたもんな」
「な、泣いてないし!」
「嘘つけー、隣でグスグス聞こえたぞ」
「それ私の隣の人だから!」
「ははは、それより船井、ご飯どうする?」
「あー、考えてなかったな」
「咲ちゃん達ここ行ってみれば?」
そう言って星川美麗が指したポスターには【夏休み限定! カップル割!】 とでかでか書いてある。二階の小洒落たカフェみたいだが、こんな情緒のカケラもないポスターに惹かれるやつなんて・・・・・・。
「あ! いいじゃん! ほら船井行くよ!」
「え? ちょちょ、待っ、ああああ」
いた・・・・・・。ついでに、どこにそんな力があるのか、船井が引きずられて行ったため、またしても星川美麗と二人になってしまった。あまりこいつと二人でいたくないのに。
◇◇
船井>すまん、飯終わったら連絡するから星川と何か食べててくれ
自分>了解
「美麗、僕らはどうする?」
「どうしよっか」
どうしよっかって、いやどうするんだよ。いつもこうだ。何をしたいのか聞いても上手く躱して相手の意見を引き出す。あの時以外、星川美麗の感情が読めたことがない。
僕も流石にお腹が減ったし、お昼を抜くわけにもいかない。かと言って、これといって何か食べたいものがあるわけでもない。
「普段彼氏とデートする時はどういうお店に行くの?」
「んー、彼氏が食べたいもの食べるって感じかな? だから色々だね、和食の時もあれば中華の時もあるよ」
「美麗が食べたいものは?」
「ない」
即答。可愛げのないやつ。ちょっとイラッとしたけど、今は星川美麗と二人、この感情を表に出して気まずくなるのは面倒だ。
「じゃあ僕が決めていいの?」
「いいよー」
どうせ僕も星川美麗も食べたいものはないんだ。サッサと食べて船井たちと合流しよう。となると早く出てきてすぐ食べれるファストフードか。
女子と二人でファストフード? いやいや、流石にその辺は気を使ってあげないとダメだよな。無難なところで、テナントに入ってるファミレスとかにするか。
「あ、そうだ」
するとここで星川美麗が声をあげた。
「人混みで疲れちゃったからゆっくり座れるところにしよ」
「ゆっくり座れるとこ? じゃあ三階のファミレスにする?」
「えー、あういうところって結構人目につくから案外ゆっくりできないんだよ」
「じゃあどこがいいのさ」
半ば投げやりになりながら意見を聞き出そうとする。そこまで言うんだから、星川美麗の中である程度行きたい場所が決まっているはずだろう。
僕の問いに、彼女は数瞬考える素振りを見せてデパートの外を指差した。
「あそこにしよ」
体を揺さぶられ我に返った。過去に思いを馳せるうちに、映画は二人が将来を誓い合うクライマックスのシーンまで進んでいたようだ。途中のストーリーを見ていなかったわけじゃないが、全く頭に入っていないので感動も何もない。スクリーンの中で知らない美男子と知らない美少女が抱擁している。映画館のところどころからすすり泣く声が聞こえるが、全く共感できない。館内で僕だけが取り残されたような感覚に陥った。
いや、そういえば一人だけ身近にいる。こういう純愛ものを快く思わない人間。
「あ、起きた?」
その人間と、退屈しのぎにヒソヒソ声で話し始めることにした。
「うるさいなあ、ずっと起きてたよ」
「嘘、さっきまで反応なかったよ」
「集中してたの」
「そう・・・・・・面白い?」
「いや全然」
「だよね、やっぱり面白くないよね」
星川美麗と感性が同じというのが少し不満ではあるが・・・・・・。仕方ない。変えようのない現実は甘んじて受け入れるしかない。
「こんなに一途な恋があるはずないのにね」
「まあこれは映画だし、所詮夢物語だよ」
「そうだよね、蓮はこれ見るの初めて?」
「初めてだよ、美麗は?」
「二回目」
「そっか、じゃあ尚更楽しめないね」
二回目、どうせどこかのタイミングで彼氏と見たんだろう。自分が楽しめないのを分かっていて、よくもまあこんな映画に付き合えるよ。
「咲ちゃん達は面白いって言ってたけどね」
「ふーん、まああの二人はそれこそ一途だしね」
「そだね」
スクリーンが暗転して切なげな音楽と共にエンドロールが流れ始めた。チラホラと席を立ち始める人間もいるが、僕と星川美麗はそのまま黙って座っていた。周りのカップル達が横目に映るのが嫌で、少しの間目を閉じた。
「蓮、行く?」
座っているのが辛くなったのか、目を開けると星川美麗は今すぐにでも席を立ちたいといった様子でこちらを伺う。
「もう少しで終わりだろ? 待とうよ」
堪え性のないやつめ。そんなだから男も取っ替え引っ替えなんだろ。少しはあの二人を見習ってほしいよ。
この短い会話の間に、エンドロールも終わって館内全体が明転した。周りの人間たちが何かに追われているように続々と席を立ち始める。後ろを振り向くと船井と田中がこちらと合流するべく移動を始めたのが目に入った。
向こうにだけ移動させるのは悪いか。ようやく重い腰をあげた。
「あ、ねえ、蓮」
「うん?」
「この後どうするの?」
「んー、とりあえずご飯食べないとだね、そこは今から船井と相談するよ」
「あ、いや、そうじゃなくて」
「? そうじゃなくて?」
「いや、やっぱりいい」
なんなんだこいつは。まあいい、いつものことだ。星川美麗の気まぐれに今さら腹を立てても仕方ない。そうこうしている間に船井たちと合流し、まだ興奮冷めやらぬ人混みをかき分け映画館を後にした。
「浅尾ー、どうだった?」
「まあまあ面白かったよ」
「初めて見たら感動するよねー」
「田中泣いてたもんな」
「な、泣いてないし!」
「嘘つけー、隣でグスグス聞こえたぞ」
「それ私の隣の人だから!」
「ははは、それより船井、ご飯どうする?」
「あー、考えてなかったな」
「咲ちゃん達ここ行ってみれば?」
そう言って星川美麗が指したポスターには【夏休み限定! カップル割!】 とでかでか書いてある。二階の小洒落たカフェみたいだが、こんな情緒のカケラもないポスターに惹かれるやつなんて・・・・・・。
「あ! いいじゃん! ほら船井行くよ!」
「え? ちょちょ、待っ、ああああ」
いた・・・・・・。ついでに、どこにそんな力があるのか、船井が引きずられて行ったため、またしても星川美麗と二人になってしまった。あまりこいつと二人でいたくないのに。
◇◇
船井>すまん、飯終わったら連絡するから星川と何か食べててくれ
自分>了解
「美麗、僕らはどうする?」
「どうしよっか」
どうしよっかって、いやどうするんだよ。いつもこうだ。何をしたいのか聞いても上手く躱して相手の意見を引き出す。あの時以外、星川美麗の感情が読めたことがない。
僕も流石にお腹が減ったし、お昼を抜くわけにもいかない。かと言って、これといって何か食べたいものがあるわけでもない。
「普段彼氏とデートする時はどういうお店に行くの?」
「んー、彼氏が食べたいもの食べるって感じかな? だから色々だね、和食の時もあれば中華の時もあるよ」
「美麗が食べたいものは?」
「ない」
即答。可愛げのないやつ。ちょっとイラッとしたけど、今は星川美麗と二人、この感情を表に出して気まずくなるのは面倒だ。
「じゃあ僕が決めていいの?」
「いいよー」
どうせ僕も星川美麗も食べたいものはないんだ。サッサと食べて船井たちと合流しよう。となると早く出てきてすぐ食べれるファストフードか。
女子と二人でファストフード? いやいや、流石にその辺は気を使ってあげないとダメだよな。無難なところで、テナントに入ってるファミレスとかにするか。
「あ、そうだ」
するとここで星川美麗が声をあげた。
「人混みで疲れちゃったからゆっくり座れるところにしよ」
「ゆっくり座れるとこ? じゃあ三階のファミレスにする?」
「えー、あういうところって結構人目につくから案外ゆっくりできないんだよ」
「じゃあどこがいいのさ」
半ば投げやりになりながら意見を聞き出そうとする。そこまで言うんだから、星川美麗の中である程度行きたい場所が決まっているはずだろう。
僕の問いに、彼女は数瞬考える素振りを見せてデパートの外を指差した。
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