もし、僕が、私が、あの日、あの時、あの場所で

伊能こし餡

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矢野鷹斗の場合

まりさんが付き合わない理由

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『どうして』
『ん?』
『どうしていつも泣いてるみたいに笑うの?』

  高校の卒業間近、家路の途中でまりさんは俺にそう質問した。

  自分で言うのもおかしいかもしれないが、俺は社交性もあって友達もそこそこ多かった。輪の中心にいるタイプでもなかったが、目立ちすぎず目立たなさすぎず、無難に学校生活を送っていた。
  そんなんだから、学校では笑顔でいる時の方が多かった。

  それだけに、まりさんからの唐突な質問には驚いた。いつもの俺を見ていて、どうしてそういう疑問が生まれてくるのか・・・・・・。

  ・・・・・・どうして、気付いてしまったのか。

『・・・・・・・・・・・・君の目は腐ってるの? それとも、日本語の能力が著しく乏しいの?』
『あ! ひっどい! せっかく心配してあげたのに、もう聞いてあげなーい』
『お好きにどうぞ』

  心配って・・・・・・。心配されるような振る舞いはしていないはずだけど?

『そんなことよりもう卒業だよ、まりさん思い出作りに彼氏でも作れば? この前四組のやつに告白されてたじゃん』
『えー! なんで知ってるの⁉︎』
『秘密』

  正直、その話題を出すのはかなり勇気がいった。風の噂で聞いたことだが、その話には確かな信憑性があるし、あのお喋りなまりさんが僕の前でその話題に触れないということで胸には黒いモヤモヤした感情が溜まっていた。

  いや、今こうして俺と二人で下校してるってことは、良い返事は出さなかったってことでいいんだろうけど・・・・・・。それでもまりさんの口からその旨を聞かないと不安でたまらなかった。

『むぅ。まあ別に鷹斗くんが知ってても問題ないけどさ』

  そら見たことか。問題ないってことは断ったってことでいいんだろ? な? たった一言『断った』 って言ってくれ。

『なんて答えたの?』
『ん? ふふふ、どう答えたと思う?』

  なんでそんなにはぐらかす・・・・・・!

『知ってる? 質問に質問で返しちゃダメなんだよ』
『あーそれ誰かが言ってたよ、誰だっけ』

  そんなの誰だっていいだろ。僕が聞きたいのは『断ったよ』 の一言なんだ。

『で、なんて答えたのさ、質問返しはなしね』

  結果を急ぐあまり、声を荒げてしまったことを軽く後悔した。本当のところを言うと、知りたいことをはぐらかすまりさんに苛立ちを覚えていた。
  しかしその苛立ちをぶつけられたはずの当の本人は、何食わぬ顔で『そうだなあ』 と、数瞬ほど宙を眺めた。

『秘密』
『え、それってどういう意味』
『ふふふ、ねえ鷹斗くん』

  俺の名前を呼ぶと同時にまりさんは駆け出して、数メートルほど先でクルリと俺の方を振り返ってこう言った。

『私、高校に入ってから誰とも付き合ってないんだよ!』
『知ってるよ』

  だっていつも俺とつるんでるじゃないか。もし彼氏がいたら、そんなことは許さないだろう。

『卒業するまで、誰とも付き合わなくていいやって思ってるの!』
『へえそれは初耳! どうして?』
『どうしてでしょー⁉︎』

  だから質問に質問で返すなっての。
  どうしてって、それは。
  それは・・・・・・。

  いつも俺と一緒にいるからじゃないの? 喉まで出かかったその言葉が、音になることはなかった。
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