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山本勇の場合
母の想い
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目の前の視界がぐにゃりと歪む。昔孫が見せてくれた漫画のように自分の表情も歪んでいるに違いない。
「母ちゃん」
表情が歪めばそれに呼応するように声も震える。落ち着け、今俺は母の運命を救えるかどうかの瀬戸際に立っている。怯えている暇なんてないんだ。
そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、心臓が今にも飛び出しそうなくらいに荒ぶる。
「なんね?」
そう言った母の顔はなぜかやけに白みを帯びていて、明日にでも死んでしまいそうな人間の顔に見えた。
母を救わなければ。
得体が知れぬ使命感。だけれど時間がコンマ一秒進むごとに、確かにハッキリと明瞭になっていく使命感。
俺が、俺が救うんだ。母ちゃんをこんなところで見殺しになんてできるものか!
戦地に赴いた軍人のように自分に何度も何度もそう言い聞かせる。
今一度自分を奮い立たせる。俺は軍にも入ったことがなければ命の危険に晒されたこともない。でもきっとこんな感じで、インドに行った父も自分に言い聞かせていたことだろう。
「東京に行かんってすることは出来んね?」
突拍子もない俺の問いに、母が顔を顰める。
「急になんば言い出すと? 母ちゃんがずっと楽しみにしてきとったとば知っとるやろ?」
「ばってん今都会の方は危なかよ? いつ空襲のあるか分からんとばい? 今東京に行くとか、死にに行くようなもんで」
「またなんば言い出すかね、そがん都合よく米国が攻めてくるとも思えん。勇は気ば張りすぎとるんよ、戦争やからってなんでもかんでも我慢我慢じゃ勝てる戦も勝てんくなるばい」
「そがんばってん・・・・・・」
まさにその通り、東京を焼き尽くすほどの大空襲が明日起こるんだ。でもそんなこと言ったところで信じてもらえる訳がない。
「なんね? 一人で留守番するとが怖かと?」
「あ、あぁ、うん。そがん! そがんよ! ちょっと昨日から具合ん悪くて、今も景色の回って見えると」
口から出た嘘。ついさっき布団から飛び起きるという健康体そのものな動きをしておいてそれは信用できないだろ、と自分を責める。
しかし母の答えは意外なものだった。
「まったく、そうならそう言えばよかたいね。具合悪かとやろ? 面倒見るけん今回の東京はなしたい」
「母ちゃん」
表情が歪めばそれに呼応するように声も震える。落ち着け、今俺は母の運命を救えるかどうかの瀬戸際に立っている。怯えている暇なんてないんだ。
そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、心臓が今にも飛び出しそうなくらいに荒ぶる。
「なんね?」
そう言った母の顔はなぜかやけに白みを帯びていて、明日にでも死んでしまいそうな人間の顔に見えた。
母を救わなければ。
得体が知れぬ使命感。だけれど時間がコンマ一秒進むごとに、確かにハッキリと明瞭になっていく使命感。
俺が、俺が救うんだ。母ちゃんをこんなところで見殺しになんてできるものか!
戦地に赴いた軍人のように自分に何度も何度もそう言い聞かせる。
今一度自分を奮い立たせる。俺は軍にも入ったことがなければ命の危険に晒されたこともない。でもきっとこんな感じで、インドに行った父も自分に言い聞かせていたことだろう。
「東京に行かんってすることは出来んね?」
突拍子もない俺の問いに、母が顔を顰める。
「急になんば言い出すと? 母ちゃんがずっと楽しみにしてきとったとば知っとるやろ?」
「ばってん今都会の方は危なかよ? いつ空襲のあるか分からんとばい? 今東京に行くとか、死にに行くようなもんで」
「またなんば言い出すかね、そがん都合よく米国が攻めてくるとも思えん。勇は気ば張りすぎとるんよ、戦争やからってなんでもかんでも我慢我慢じゃ勝てる戦も勝てんくなるばい」
「そがんばってん・・・・・・」
まさにその通り、東京を焼き尽くすほどの大空襲が明日起こるんだ。でもそんなこと言ったところで信じてもらえる訳がない。
「なんね? 一人で留守番するとが怖かと?」
「あ、あぁ、うん。そがん! そがんよ! ちょっと昨日から具合ん悪くて、今も景色の回って見えると」
口から出た嘘。ついさっき布団から飛び起きるという健康体そのものな動きをしておいてそれは信用できないだろ、と自分を責める。
しかし母の答えは意外なものだった。
「まったく、そうならそう言えばよかたいね。具合悪かとやろ? 面倒見るけん今回の東京はなしたい」
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