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2章 覇気の章

メトロポリス

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 三人が密林の外へ出ようとすると、猫の獣人が二人、ジャングルの南の方へ行くのを見かけました。
「本当にこっちでいいの?」
「ええ、この先に、メトロポリスに行くための手段があるの」それを聞いたロレンスはハッとしました。
「何?メトロポリスだと・・・?」

 ロレンスたちがこっそり後をつけると、木々が開けた場所に出て、
そこでは、出所が分からない首飾りやアクセサリー、
メトロポリスから密輸されたと思われるロボットやマシンなどが売られている露店ろてんが、のきを連ねています。
「ここは闇マーケット会場のようだ。
で、問題は、ここからどうやってメトロポリスへ行く方法を探すかだが・・・」

 三人があちこちを見渡していると、猫の獣人二人が、なにやらこそこそしているのを、
ロレンスが見つけました。彼がすぐるとリリスに来るよううながすと、
猫の獣人たちは、なにやら奥にある石のブロックを積み上げて造られた倉庫らしき建物の中へ入って行くのを見ます。
二人が倉庫の中に入って行くのを見た後、三人はこっそりと、倉庫の中に入ってみました。

 倉庫の中には、大きな木箱やタルなどが積み重ねられています。
その中で、怪しい一つの木箱をロレンスがどかすと、
そこに下へ降りるためのはしごがあります。三人がはしごを降りてみると、
そこは、木枠で補強された地下トンネルがずっと南の方まで続いていて、
しかも、トロッコが走るための本格的な鉄の線路がかれていました。

「そうか、獣人たちはこのトンネルを通って、メトロポリスに密入国していたんだ。
丁度ちょうどいい、トロッコがあと一つ残っている、これに乗って行こうぜ」
三人が木製のトロッコに乗り、発進のレバーを倒すと、
トロッコは鉄の車輪から火花を出しながら、線路の上をすべるように走って行きます。

 線路が終わると、トロッコは車輪から火花を出しながらゆっくりと止まり、
三人はトロッコを降り、地上へと続くはしごを上って行きました。
「どこへ出るのかな?」すぐるが木のふたを開けると、そこは物置部屋のようです。

 三人が物置を出ると、そこは大きな十字架をかかげた祭壇さいだんのある大きな部屋で、
天井近くの壁には、色とりどりのステンドグラスがはめ込まれていて、
パイプオルガンの音色がひびいています。

「まるで、教会の礼拝堂れいはいどうみたいだ」
三人が辺りを見渡していると、女性用の僧衣そうい
身にまとう若いシスターがやって来ました。

「ようこそ、分教会のメトロポリス教会へ」
シスターは静かに頭を下げて挨拶あいさつをします。
「分教会・・・そういえば、教会のもう一つの流派『正教会』とは対立しているって、
キャンベルちゃんが言っていたっけ・・・?」

「はい、かつてはそうでした。ですが、『幻想界平和連盟』が二つの流派を一つにまとめました。
今では、両教会は連盟とつながっている、
いえ、連盟は二つの教会から成り立っております」
シスターがこうめくくると、すぐるは周りを見て言いました。

「ここでは、人間と獣人が共に仲良く暮らしていますね」
周りでは獣人が人間と混ざって静かにお祈りをしていたり、
あちこち走り回ったりしています。

「メトロポリスでは、獣人に対する差別がひどいと聞いておったが、それがウソみたいよの」
リリスも言うと、シスターは残念そうに言いました。
「ですが町では、獣人への差別がひどいのです。
我々分教会は古くから、人間以外の人類の存在を認めてきました。
ここはメトロポリスに住む獣人たちの避難所ひなんじょになっております」

 すぐるたち三人が教会を出ると、そこは緑豊かな草原で、奥の方には森も見えます。
「ここがメトロポリスなの?背の高い建物が密集しているようなところを想像していたけど・・・?」
「ここはグリーンパーク、自然が少ないメトロポリスの自然保護区さ。
ここを東に抜ければ、お前がイメージしているような町に出るぞ、
メトロポリスは、地上に降りた伝説の超文明の人々が築いたとされる都市国家だ」

 ロレンスがそう言うと、三人はグリーンパークを東へと進んで行きました。
草原や花畑をけ、森を抜けて辺りが明るくなると、
そこは背の高い白の建物や鏡面の壁を持つ建物、
高架こうかの上を大蛇のように曲がりくねりながら走っている道がある大都市で、
その周りを、清潔せいけつそうな洋服をまとって歩く人間たちや、
闇マーケットで見たロボットたちが行きかい、
車輪のない車が空中をすべるように走り抜けていました。

「わあ!すごい町!まるで、SF映画に出てくる未来の町みたいだ!」
すぐるが驚いて言うと、リリスがまたたずねます。
「えすえふ・・・?えいが・・・?なんじゃそれは・・・?」
「SFっていうのは、『サイエンス・フィクション』の略称りゃくしょうで、
科学をテーマにした現実界リアリティの空想物語で、
映画って言うのは、同じく現実界リアリティの映像を見せる技術だよ」

「ほう、ますます現実界リアリティ興味きょうみがわいてきたぞ」
「オレも現実界リアリティってのがどんな所なのか、気になって来たぞ」
三人がそうやって、近未来的な街中を歩いていると、
人々はロレンスやリリスを、汚いものでも見るような目で見ています。

「まあ、いやらしい獣人!」
「悪魔め!何しに来た!」その視線に二人が委縮いしゅくしていると、
警官たちが三人を見つけ、追いかけてきたので、
三人はすぐさま路地裏に逃げ込み、
途方に暮れていると、『こっちだ』と言う声がしました。

 三人は声のした方へ行くと、町のはずれに出ました。
そこにいたのは、白衣をまとい、茶髪のショートヘアーに
ひげをたくわえた知的な雰囲気ふんいきを持つ男性で、
ロレンスがハッとしました。

「あなたは、クロノス博士!」
「ロレンスか、とにかく私の家へ!」
三人はクロノス博士に連れられて、ある一軒家に入って行きます。

「助かりました。ありがとうございます。ぼくはすぐると言う旅の者です。
こっちはリリスです」すぐるはリリスを指して言います。
「そうか、私は一科学者のアイザック・クロノスと言う者だ。
知り合いのロレンスがいたのでね。
ところで、君たちは、なぜこのメトロポリスに?」
すぐるはメトロポリスにやって来た目的を話しました。

「ほう、世界を救うためにメダルと神器をさがしもとめている。
それで、『人のカギ』をさがしにここにきたと・・・
残念ながら人のカギは、あのグリードがうばっていった。
ヤツは、ロボットをさらい、他の国に売り飛ばしては、
暴利ぼうりをむさぼっている。
私たち夫婦が娘のようにかわいがっていたロボットのウェンディもヤツに・・・!」

 クロノス博士がぎゅっと目をつむると、
博士の妻らしきボブヘアーの女性がみんなにお茶を持ってきて言いました。
「グリードは、今やメトロポリスをも支配しようとしています。
ヤツの勝手を止めるためにも、今こそ連邦警察が一つにならないといけないのに・・・!」

「でも、あれじゃ、とても協力を要請出来そうもないぞ!」
ロレンスがくやしそうに言いました。
「そこで、私は探偵たんてい捜査そうさを依頼した。
アリシアという名で、南東にある隣の島国、ジパングに住んでいる。
彼女に会い、話を聞いてみるといい」すぐるは頭を下げて博士にお礼を言いました。
「博士、いろいろとありがとうございました」
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