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2章 覇気の章

ジパング国とホワイト団

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 ホテルの支払いを済ませ、橋を渡り、島国ジパングに着きました。
このジパングはニューヨー連邦に属し、人間が多い北島と獣人が多い南島に分かれています。
今、すぐるたちがいる北島は、わりとこぎれいな木製の家々が目立つ人間たちの町でした。

「へえ、メトロポリスほどじゃないけど、近代的な町だね」
「ところで、アリシアと言う者の屋敷はどこじゃ?」
「この町の北側にあるはず・・・あそこだ!」ロレンスが指さす方を見ると、
赤い屋根に、白い壁のひときわ立派なお屋敷が建っているのを見つけ、
三人はすぐさまそちらへ向かいます。

 アリシアのお屋敷は近くで見ると大きな邸宅ていたくで、玄関はみがき上げられた木製の両開きの扉になっており、
ロレンスはすぐさまドアのノッカーに手をかけて鳴らします。
すると、扉が小さく開き、中から黒いスーツをまとったたぬきの獣人が現れ、
丁寧ていねいな口調で応対しました。

「いらっしゃいませ、あなた方は連邦警察のロレンス巡査と、
その友人のすぐる様とリリス様ですね、クロノス博士から話はうかがっております」
ロレンスは警察手帳を見せて言いました。

「はい、ラクーン執事しつじちょう殿どの
アリシアさんと話しがしたくて来ましたが・・・」
これにラクーンは、残念そうに言いました。

「あいにくですが、アリシア様はお留守です。
今は南島に行かれております。ホワイト団の悪事に手をやいておられるのです」
「ホワイト団?なんですかそれは・・・?」すぐるがたずねると、ロレンスが答えます。

「ホワイト団って言うのは、人間至上しじょう主義しゅぎ
かかげる秘密ひみつ結社けっしゃだ。最近まで異能者いのうしゃ
つまり、異種族や魔法使いを排斥していた正教会に代わって、
異能者を暴力的な方法で世界から追い出そうとしているんだ。
異能者を黒とし、それを打ち消す白の人間ということでこう言う名が付いた。
構成員はみんな白装束しろしょうぞくに身を包み、白いマスクで顔をおおっている」

「なんと異様な・・・!」
「それなら、現実界リアリティでも白人至上主義をかかげ、
有色人種を追い出そうとする組織そしきがあったな」
すぐるが言うと、ロレンスがこうコメントします。

「差別があるのは、どこも一緒だな・・・」
「そうですね・・・ホワイト団は獣人たちが
住んでいる南島で悪さをしています」
「それなら、南島に行こう!」すぐるたちが南島に向かおうとしていると、
広場で大勢の人間たちがあつまっているのを見つけ、
壇上だんじょうの上で白い装束と被り物をした者たちが何人もいます。

「間違いない、ホワイト団の集会だ」ロレンスがこう言うと、
ホワイト団員がスピーチを始めます。
紳士しんし淑女しゅくじょの皆様、
我々はホワイト団、堕落だらくした正教会に代わり、この世界を浄化する者であります!
世界は今や暗黒時代!野蛮な獣が秩序ちつじょを乱し、
機械が人間にとって代わろうとし、
魔法はこの世を闇に包もうとしています!」それに人々が歓声かんせいを上げます。

「オレはロボットのせいで仕事をクビになった!」
「獣人なんて汚いし、厄介者やっかいものよ!」
「ホワイト団の言うとおり、魔法は悪魔の力を借りる、神に背く邪悪だ!」
これに、ロレンスは怒りをにじませましたが、こらえてその場をはなれました。

 橋を渡り、南島に着くと、そこは木製の壁に、陶器とうきで作られた
かわらの屋根の家々が目立つ素朴そぼくな町がありました。
そこには人間たちの姿はあまりなく、犬や猫の他、狸やきつねの獣人たちが行きかっています。

そんな中、白装束を着たホワイト団のデモ隊と、
異能者に対する差別に反対する獣人や人間のデモ隊がにらみ合っている場面に出くわしました。
このままでは両者による大衝突だいしょうとつ発展はってんしかねないと思われたその時、
両グループの間で大爆発ばくはつが起き、
互いのデモ隊は散り散りに退散していきました。

 すぐるたちも思わず目を伏せますが、違和感いわかんを覚えました。
「あれ・・・?あれほどの爆発が起きたのに、まるで手ごたえがないぞ・・・?」
三人が辺りを見回すと、
そこには、白いシャツと赤いミニスカートを着用した長い金髪をなびかせている女性が立っていました。
人間の女性と違い、狐の耳と二本の狐の尾を生やしていました。

「アリシアだ!」ロレンスが言いました。
「えっ!?あの人が探偵のアリシアさん・・・!?」アリシアが三人に気づき声をかけてきました。
「おお、連邦警察のロレンスか、連れもおるようだが・・・」
「ああ、ここで何をしているんだ?」ロレンスがアリシアにたずねます。

「うむ、南島の者たちから、ホワイト団を何とかしてほしいと言う依頼があっての、
それでここに定期的に来てはヤツらに幻術げんじゅつを使い、
追い立てようとしておるのじゃ」それにすぐるが言いました。

「あなた、ただの狐の獣人じゃないでしょう。尻尾が二本あるし、さっきの幻術だって・・・!」
「うむ、確かにわらわはただの狐獣人ではなく妖狐族、狐獣人の変種といったところよのう」
「なんだか、リリスとしゃべり方が似ているな・・・
あの、ここに来たのはあなたに聞きたいことがあるからなんです」
「うむ、そうか、では、屋敷に戻るかのう」

 アリシアの屋敷に戻った四人は、事務所になっているアリシアの自室に入り、
そこで自己紹介とここに来た目的を話しました。
「うむ・・・改めて自己紹介をしよう、わらわはアリシア・フォックスと言う者、
探偵を生業なりわいにしておる。
元々南島に住んでおったが、人を好きになって北島に屋敷兼事務所をかまえたのじゃ。
さて、お主たちの目的じゃが、メダルと神器を手にしたい、
そのためにグリードが持っておる人のカギが欲しいと、
そして、グリードを捕えたいと申すのだな」

「そうなんです、あなたに聞いてみるといいって、クロノス博士が言っていたんです」
アリシアはしばらく考え込んでから話し始めます。
「わらわもそのクロノス博士から、娘ロボットを探して欲しいと依頼されておる。
彼女もグリードの手の者にとらわれておるのだろう。
実はメトロポリスにあるメタリックロボット工場は
グリードが買収ばいしゅうした。
ヤツはそこで誘拐ゆうかいしたロボットたちを勝手に改造し、
闇市場に流しておる。
さらには、仕事を求めてメトロポリスに密入国してきた獣人たちを引き入れ、
働かせておるのじゃ」

「・・・人の弱みに付け込み、悪に加担かたんさせるとは・・・
なんたる不埒ふらちな・・・!」リリスは怒りにふるえています。
「じゃあ、早くすくい出さないと!どうすれば・・・?」
すぐるがたずねるとアリシアはこう答えます。
「メタリックロボット工場は警備けいびが厳重で、
正面から入るのは難しい。これを持って地下から入るのじゃ!
グリードの手下からくすねて来た」

 アリシアは中央に赤いMのロゴが描かれたカードを差し出しました。
「これは、メタリックロボット工場のカードキーじゃないか!
ありがとうアリシア!」ロレンスがお礼を言いました。
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