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3.最悪な出会い
しおりを挟むサラフィナは通路に人通りが少ないのを確認しながら、バルコニーを探す。外の空気が吸いたかった。
この日の夜会には既婚者である姉たちと一緒に来ている。
まだ独身で年若いサラフィナは、じきに姉たちと合流して帰宅する予定である。それまでの間の避難場所を探していた。
この厄介な魅了の力に影響されやすい男性と出会ってしまって、つきまとわれでもしたら面倒だから。
小さめのバルコニーを見つけ、誰もいないことを確認する。ほっとして、カーテンを閉めながらバルコニーに出る。
これは使用中の印だ。こうしておけば他の人は入って来ない。
サラフィナは行儀悪く手すりに肘をついた。
この日の夜風は湿気を帯びていて、正直あまり気持ちよくはない。しかし、先ほどの広間で視線を浴びているよりはずっとましだ。
そうしてしばらく黄昏れているつもりだったのに、予期しない事態が起こった。
サラフィナのすぐ横に魔法陣が出現したと思ったら、次の瞬間には背の高い男性が立っていた。
サラフィナも驚いたが、向こうはもっと驚いていた。
転移魔法だ。
これはサラフィナ程度の魔力の持ち主には使えない術である。
それを使っているだけで高い魔力の持ち主だと分かる。
そして、現れた男性を知らない人間はこの国には、いや、近隣諸国にもいない。
長い銀色の髪は後ろで丁寧にひとくくりにされている。その瞳は冷たく凍りついているかのように薄い青色だ。
美しく整った顔立ちと、引き締まった長身。
そして、何よりもこの高い魔力。
サラフィナは彼に一瞬見惚れたが、すぐに淑女の礼をとり深々と頭を下げた。
「失礼。この時間にはいつも、ここにはまず人がいないもので」
彼は気軽にそう言うと、彼女に顔を上げるように言う。
完全に支配階級の立ち居振る舞いだ。
それもそのはずで、彼は現国王の甥にあたる、コルトバーン公爵家嫡男のマーロン・コルトバーンである。
サラフィナよりも二つ年上の二十歳という年齢ながら、すでに大魔法使いと呼ばれている。
まさに、雲の上の人物だ。
彼はほとんど夜会には顔を出さないので、サラフィナが彼を見るのは二度目だった。
前に見た時の彼は、サラフィナとは付き合わない高位貴族のご令嬢方に囲まれていた。
結婚適齢期の令嬢やその親から見れば、婚約者のいない彼は、現在の社交界では一番お近づきになりたい人物に違いなかった。
サラフィナは失礼がない程度に上体を起こしたが、万が一にも魅了の力を彼に使ってしまわないように目線は下げていた。
「確か、そなたはシュドレー伯爵家の、サラフィナ嬢だったな」
「左様でございます」
サラフィナは彼が自分を知っていたことに驚いたが、よく考えれば、社交界の花だのと呼ばれ、彼を取り巻くご令嬢方からは陰口を叩かれている身である。
悪い噂は彼の耳にも届いているのだろう。
「ふむ。一度話してみたいと思っていた。魅了の力をお持ちだとか」
サラフィナは肯定の意味で頭を下げる。
「魅了の力はなかなか興味深い。もうその力を持つ者は少なくなってしまって、新しい研究はほとんどされていない。私が知る限り、娼館に一人いるだけだ。彼女は没落貴族の娘だったと言っていた。雰囲気が、そなたとどこか似ている」
サラフィナは自分がまるで娼婦のようだと言われたのだと思って、咄嗟に彼を睨みつけた。
サラフィナに何度も断られながらも口説いてきていた男性が、ようやく気持ちに応えてもらえないのだと理解して、激昂したことがある。
男性に間近で大声を出されて、とても怖い思いをした。
そしてその男は、サラフィナから魅了の力を使って誘惑されたと、ふしだらな女だと、根も葉もない噂を吹聴していた。
それを思い出してしまったのだ。
サラフィナの人柄を知る友人たちはそれを笑い飛ばしてくれた。
でも、彼女がその力を使って男を誘惑しているのだと信じた年上の男性たちからの露骨な誘いを受けることが、それ以来格段に増えた。
侮辱されるのは嫌だ。こんな力、好きで持って生まれたわけではないのに。
そういった思いが去来して彼を睨みつけてしまったけれど、すぐに冷静になって表情を消す。
何を言われても盾ついてはいけない相手がいる。目の前の彼は、まさにそのような人物だ。
国王陛下のお気に入りの甥で、いずれ名家のコルトバーン公爵になる人なのだから。
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