助けたお礼に身体を要求された冒険者♂

糸巻真紀

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アーサー

11話 乱入と談笑



 カーテンの隙間からわずかに光が差し込んでいる。光線はか細く、頼りない明るさだったが、アーサーの覚醒を手伝うには十分だった。風で木々が軋み、小鳥が近くで鳴いている。チチチ、と甲高い声が耳に刺さった。

「……はっ、ぁ……♡」

 ずん、と何かが身体の上で蠢いた。荒い息が聞こえ、汗が飛沫のように飛んでいるのが感触で分かった。が何かを認識する前に、下半身に得体の知れない波が訪れた。夢魔の類かと思ったが、アーサーを襲ったのは身に覚えのある感覚だった。――まずい。アーサーは咄嗟に腕を伸ばし、自分の腹の上に乗る、を掴んで続きを阻止しようとした。

「わっ、……あっ♡ん…っ……」

 ――が、遅かった。

「んんっ……!」

 目の前の裸体がぶるりと震える。解き放たれた濁流を肉壺で受け止めたのだから、それは当然の反応なのだろう。アーサーに跨った身体――エリックはアーサーに跨がり、脚をだらしなく左右に広げたまま、その日最初の熱く濃い迸りを受けた。白い肌は真っ赤に染まり、絶頂の余韻に浸っている。びくびくと小刻みに震え、芯のないペニスからは白濁をとぷりと零した。
 腹の上に乗られた息苦しさより、ようやく出せた開放感が勝る。本来ならば満足感を得る行為だと言うのに、眉を顰めて不機嫌な表情を崩さない。そして尚も続けようとしたエリックの身体を強引に掴み上げ、射精したばかりの陰茎を勢いよく引き抜いた。

「んああっ……♡」
「抜くだけでイッてんじゃねえ。……はぁ、朝から何やってんだ、おまえは」

 隆起が激しい亀頭にゴリゴリと削られたせいで、エリックはその刺激でイッてしまった。支えをなくした身体がアーサーの胸にふにゃりと崩れ落ち、生え揃っていない顎髭に頬ずりをしてきた。

「んへへえ……♡」
「おーい、聞いてんのか。おまえってやつは、ほんっとによ……」
「んん、なにぃ……?」
「寝ぼけてんじゃねえか」

 大方、寝起きにムラっとしたので、一番近いアーサーの部屋に忍び込んだのだろう。同衾しているはずのアダムは、昨夜から依頼のため不在にしている。このエリックという男は、アダムと懇意であるというのに性に奔放過ぎなのだ。それを望んだのはこちら側なので、それ以上は何も言えないのだが。

「へへ……アーサーのおちんぽ気持ちよかったよぉ……♡」
「おい、こら。ここで寝るな。おいっ、……くそ」

 アーサーとしても、溜まった性欲を処理して貰えるのは有り難い。けれども、どうしてもエリックは「アダムの所有物」という気がして、手を出すことに躊躇ってしまうのだ。不要とまでは言わないが、扱いづらいことは確かだった。

「……」

 ぴったりと密着している肌は、若い肉体らしく瑞々しく吸い付いてくる。引き剥がそうと肩に手を置いたところで、諦めて背中に腕を回した。
 アダムのように慕情があるわけでも、独り占めしたいと思ったわけでもない。それでも突き放すことができないのは、そういう役割としてエリックを連れているから、という理由だけではなかった。おそらくは、親愛の情。有り体に言えば、懐かれて悪い気がしなかったから。なんのことはない、たったそれだけのことなのだ。

「はあ」

 エリックからはいい匂いがする。幼い頃ぬいぐるみ相手にそうしたように、柔らかなエリックの身体を抱き締めながら、アーサーは目を閉じた。




「ん~!良く寝たぁ」
「そうかよ……」

 あれから小一時間ほど、二人はすやすやと惰眠を貪っていた。アーサーが目を開けた時、エリックに頭を抱き締められていて、それがまた心地よかった。抱き合って眠ったのは久し振りだったが、心身ともにリラックス出来たようだ。エリックはベッドの上で両腕両脚を伸ばしており、猫のようだと思った。

「アーサーのベッド暖かくて気持ちいい……」
「そうかい」
「むにゃ……」
「まだ寝るのか?おーい」

 相変わらずエリックはアーサーにべったりと引っ付いて離れない。しかし、エリックは特別アーサーを好いているというわけでもなかった。それはアーサーにも分かっていたし、エリックも自覚してるはずだ。なのでこれは、アダムの代わりをしてるだけなのだ。アーサーは「なぜ俺があいつの身代わりを」と憤りつつも、同じ位置に立てたことに少しだけ優越感を覚えていた。
 エリックはそんなアーサーの憂いなどお構いなく、まるで恋人のように密着している。アーサーは、引いてはルドガーやアイザック、ミハエルも、アダムですら、エリックを猫や栗鼠のように思っていた。愛玩動物。可愛い、愛でるだけの存在だ。

「……ねえ、アーサー」
「なんだ」

 だから、ちょっとだけ声が優しくなってしまった。柄にもなくアーサーは浮かれてしまった。エリックの頭を撫でたりして、いい気分になっていた。従順な子供はあまり好みではなかったが、こうも手放しで懐かれると悪い気はしない。アーサーは、もはやエリックに対して母性が目覚め始めていた。まさか自分が小動物を見て「可愛い」と思う日が来るなんてな、と自嘲したりもした。自分から抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。

「アダムさあ、いつ帰ってくるかな?」

 ――いい気分が台無しだ!

 ぶちん、と、アーサーは何かが切れた音が聞こえた気がした。それが堪忍袋の尾だったのか、怒りの沸点だったのかは、分かり兼ねたが。そもそもいい気分とはいったいなんだったのか、アーサーは自分に怒りを覚えた。歯がゆく、悔しかった。一瞬でもエリックに心を許してしまった己を恥じた。

「俺が知ってるわけないだろうが!ルドガーにでも聞け!」
「ひゃっ」

 怒りに任せてエリックの身体をベッドの上に放り投げ、部屋を大股で出ていく。エリックに付き合っていたせいで、朝飯を取るのが遅れてしまった。他のメンバーはとっくに食事を済ませ、それぞれ作業しているというのに。すでに腹の虫がぐうぐうと鳴いており、それが怒りを増長させている原因でもあった。

「ま、待ってよぉ、アーサー……」

 脱ぎ散らかした服を手繰り寄せ、着替えながら慌ててアーサーの後を追った。一人で寝るのも寂しいが、一人で食事するのはもっと寂しい。なんとかアーサーに追いつき、邪険にされながらも並んで食堂へ向かった。



....
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