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第109話 心

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賢者達が居た部屋を飛び出したユーリ。
意外にも足が速くカートは追いつく事が出来ない。
その姿を見失ってしまった。



「はぁ…はぁ」



クリスに会いたくても会えない悲しみが押し寄せていたが、修行の事情を聞き更にユーリは混乱していた。
クリスが生死をかけて戦っているのに力になれない不甲斐なさ、会えなくなるかもしれない不安に胸が締め付けられる。



そして心を落ち着かせようと思い、
神殿の広場にあるベンチに腰掛けた。



「クリス…
 私の気持ち分かってるのかな…」



過去の世界でクリスに命を救われてから、
一緒に楽しく過ごすのを夢見て生きてきた。
ようやく叶うと思ったが願いも叶わない。



手を額に当てて綺麗なテティスの空を見上げていると、そこに見知らぬ女性が近づいてくる。



「貴方は…
 ハイエルフの方ですか?」



ユーリに声をかけたのは最近になりもう一人の聖女と呼ばれ始めた人物、
ハイエルフのサラだった。



ユーリはその質問に一瞬戸惑うが賢者の言っていた言葉を思い出す。
賢者は周りに溶け込むために、
ユーリを更に高貴な姿にしておいたと言っていた。



「ハイエルフですよ…」



「やっぱりそうなのですね!
 私も同じ種族なので、
 お会いできて嬉しいです…」



そしてサラは満面の笑顔でユーリの手を取る。
突然のことでユーリは驚いてしまうが、
怪しまれないように平静を保った。



「ユーリさん、ハイエルフでしたら、
 ぜひ紹介したい人がいるのです」



するとサラは強引にユーリの手を引いて歩き出し、ユーリも断ることが出来ないまま付いて行ってしまう。
そしてこの出会いがユーリの今後を左右してしまうことになるとは思いもしない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



獣人の少年ガルムを救ったクリスは、
宿屋で賢者との通話を試みていた。


「おい、クリス聞こえるか?」


結局、昨日は一度も繋がらず、試練が何なのか全く分からなかったが、ようやく賢者との通信が回復した。


「良かった、やっと繋がった…」


「すまんな…
 遠距離メガネは見えていたが、
 通信機だけ繋がらなくてな…」


俺の視界は賢者の持つ遠距離メガネに繋がっているのを忘れていた。
これから視線は気をつけた方が良いかもしれない。


「聖剣の試練だが、対象者が旅立つと、
 聖剣に文字が刻まれるんだ…
 その文字が試練の内容だ」


一体どんな文字が刻まれたのか気になる。
その文字次第で試練の難易度が変わってしまう。


「その文字は、
 記憶の世界の聖剣に触れる、だ」


この世界の聖剣に触れるということは、
持ち主である人物と接触が必要ということになる。


「賢者、聖剣の持ち主って、
 やっぱり…」



「安心しな、クリス…
 まだ、アイツは聖剣を手にしていない」



「へ?」


そうなると一体誰が持っているのだろう?
当てもなく探すのは難しいにも程がある。


「私だよ…」


「賢者、今よく聞こえなかった…
 もう一回言って!」


「だから、この時代で聖剣持っているのは、
 私なんだよ!」


俺は驚きを隠せない。
まさかこの時代の聖剣の所持者である賢者に会いに行くなんて…


「それなら楽勝ですね…
 だって本人のアドバイス聞けますから」


本人に色々聞ける訳だから先回りも可能だ。
しかし賢者は、声を荒げながら言葉を発してきた。


「馬鹿者!
 この時代の私は転生者で英雄扱いだ…
会うためには功績を作らなければ会えない」


賢者と呼ばれるだけの偉大な人物に簡単に会うことは不可能だ。
俺はこの短い期間で、手っ取り早く功績をあげないといけない。


「まあ、私が気に入りそうな素材を
 持っていけば良いんだ…」


「なるほど…
 それなら直ぐに許可されるのですね」


これから賢者好みの仕事や魔物を退治をすることになる。
そして最短距離で賢者に会う事が可能だ。
何しろ本人のアドバイスがあるのは助かる。


「まずは、リブル山の火龍退治だな」


「嫌です…」


俺は何故か食い気味に断ってしまった。
流石に記憶の世界とはいえ龍退治は嫌だ。
普通に考えられば12歳の子供が龍に勝てるわけないだろう…


「お、お前、ちゃんと話は聞け!
 火龍は火龍でも幼体だから安全だ」


「いや、でも…」


そしてこの後、会話が数十分と続いたが、
賢者が全く引き下がらない様子から火龍退治を引き受けようと諦めた。


「わ、分かりました…」


「火龍の素材が手に入れば、
 私は必ずお前に会うよ…
 喉から手が出るほど欲しいからな」




賢者自身が教えてくれた火龍退治は、
クリスだけでなくある人物にも重要な意味を持っていた。
そしてその人物との出会いは、クリスにとって生涯忘れられない思い出となるのであった。
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