異世界転生興国記

青井群青

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たどり着いた集落にて

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 翌日になり、ヒロキは目を覚ます。日は上り良く晴れていたが朝とゆうよりは昼近くになっていた。起きてすぐに水筒の水を飲まずに軽く口の中をすすいだ。程なく昨晩に手製の水筒を設置していた木々を見に行くとしっかりと樹液が溜まっていた。水筒ひとつに付き半分近く溜まっていた。コップ3~4杯分はありそうである。一口飲んでみると、少し竹の青臭い匂いがしたが、ほのかに甘くすっきりして飲みやすかった。
 ヒロキは残りの木々の水筒も回収して白樺樹液をまとめると、ちょうど竹の水筒2本分になった。ヒロキは伐採で余った竹片を加工し水筒の栓を作り蓋をした。これで持ち運べるので腰から元々あった水筒を外して雑嚢にしまい竹の水筒を腰に括りつけた。ひとまずこの場所には用が無くなったので、昨夜に見えた灯りがあった方角に移動を開始した。

 川沿いをゆっくり1時間ほど歩いて下るとやがて粗末な木の杭に囲まれた集落が見えてきた。踏み固められた道に沿って歩を進めると幅2メートル程の簡素な造りの門が見えてきた。門の前には槍を持ち所々に金属をあしらった皮鎧を着た若い衛兵らしき人が一人で立っていた。衛兵はこちらに気がつくと槍を構えて警戒しながら近づいて来た。

「止まれ、何者だ!怪しい奴め!ここになんの用がある?」
ヒロキは努めて落ち着いて答えた。
「ヒロキと申します。旅の者ですが、食べるものを求めてここに来ました。出来れば何日か泊めさせていただけると助かるのですが・・・?」

 名乗ると衛兵は構えを解き答える。その表情は警戒は薄れたようだが、どこか面倒そうだった。
「そうか・・・。旅人か、名前はヒロキと言うのだな?すまなかったな俺の名はべリルだ。この集落で衛兵をしている。」そう言うとべリルは手招きしてこう続ける。
「ついて来い、村を案内する。空いている小屋があるから雨露はそこでしのぐと良い。ただ、ご覧の通り集落は活気も無くて貧しい。食べ物は期待できないぞ?何日か休んだら他所に行くことだ。川沿いを1時間下ると海に出る、そこから海沿いを三日くらい歩くと町がある。金があるなら町に行くといい、ここにいるだけ時間の無駄だ!」べリルは吐き捨てるようにそう言った。どこか口惜しそうである。

 ヒロキはべリルの話を神妙な面持ちで聞いたあとたずねた。
「過去に何があったのですか?あとお金はないです。」

「そうか・・・。ならば金を人に借りてでもここを離れた方がいい。あてがないなら俺が用立ててやろう。これは親切心で言っているんだ。以前はここの川向こうの少し上流に湖があり、その畔の城を中心に町があったんだ。俺もそこの町出身だ。これといった産業は無かったが良い町だったんだ。だが、約半年前の暑い日の祭りのあとに病が町に広まり当時の町の人間の三割と領主が死んだ。その時の惨状を見て領主の跡継ぎだったバカ息子が不吉だと根拠もなく騒ぎ、主だった者を連れて町を放棄した。そのバカ息子は、今頃俺がさっきお前に行くようにすすめた王都の親類を頼り暮らしていると聞いている。」

「なんともやりきれない話ですね。それとこの集落の関わりは何なのですか?」
ヒロキはべリルにたずねる。

「この集落の主だった者は大半が当時のバカ息子の町の放棄に反対した人々だ。特に強く諌めた者は家族ごと罪人に仕立てられてこの集落に押し込められたんだ。バカ息子曰くそんなに移りたくないなら勝手にこの集落で朽ち果てろ、ただし元の町に残ることは許さない。とな、ご丁寧にもとの町に通じる橋も落として行きやがった。それがこの集落がある由来だ。話はこれまでだ!これ以上はお前には関係ない。」

 ヒロキはあと少しだけたずねさせて欲しいと頼んだ。
「あと少しだけ聞かせてください。当時の病の状況とそれと元いた町に行ってみてもいいですか?」

 べリルは少しうんざりした顔をしたが答える。結構人が良いらしい。
「病の状況については俺は当時王都で兵士としていたからわからん。この集落の顔役の一人に俺の親父がいるから親父に聞いてくれ、あとで話しておく。俺は両親が心配でこの集落に転属してもらったんだよ。ついでにあればだが、食べ物ももらってきてやるが期待するなよ?町の跡地には旅人は特に禁止されていないから勝手にしろ。物好きなやつだな。先に食い物の調達と話をしてくるから、それまでこの小屋で待ってろ。」
そう言い残すとべリルはさっさと行ってしまった。
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