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第6話 野外実習はドラゴンの背中で
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穏やかな朝の光が、魔王城の尖塔を照らし出している。 私は新しい紫紺のドレスの裾を翻し、キッチンの勝手口から外へと出た。 手にはバスケット、足元は動きやすいブーツ(これもゼスト様が『室内履きでは足が冷えるだろう』と特注してくださった最高級品だ)。
今日の予定は、野外実習である。
座学や城内での基礎トレーニングも大切だが、やはり実地で学べることは多い。 それに、私が調合に使いたい薬草のストックが心許なくなってきていた。 魔王城の備蓄倉庫には、ドラゴンの肝だとか、マンドラゴラの根だとか、希少かつ劇薬な素材は山ほどあるのだが、止血草や解毒草といった「普通の薬草」が逆に不足しているのだ。 魔族の方々は頑丈すぎて、ちょっとした怪我なら唾をつけておけば治るらしく、初歩的な薬草の需要がないらしい。
「よし、天気も快晴。絶好のピクニック日和ね」
私は大きく伸びをした。 なんだか、遠足に行く前の子供のような高揚感がある。 王国にいた頃は、外出といえば公式行事か、あるいは人目を忍んでの素材採取(もちろん護衛なしの単独行)ばかりだったから、こうして「公認」で外に出られるのが嬉しいのだ。
「先生! 準備できたよ!」 「お待たせ、アリア先生」
背後から元気な声と、落ち着いた声がかかる。 振り返ると、そこには今日の引率生徒――ギルとルウが立っていた。
二人は冒険者風の身軽な服装に着替えている。 ギルは背中に大剣を背負い、ルウは腰に魔導書と短剣を提げている。 装備の手入れは行き届いており、準備万端といった様子だ。 ただ、一つだけ気になることがあるとすれば。
「……二人とも、その殺気立った雰囲気はどうしたの?」
彼らの周囲には、陽炎のようなオーラが立ち上っていた。 目は爛々と輝き、まるでこれから獲物を狩りに行く捕食者のようだ。 ピクニックに行く顔ではない。
「え? そうかな? いつも通りだよ、先生」
ギルがニカっと笑う。 その笑顔は爽やかだが、歯がキラリと光る様子は、やはり肉食獣を連想させる。
「今日は野外実習でしょ? 不測の事態に備えて、テンションを上げているだけだよ」
ルウがさらりと答える。 なるほど、危機管理意識が高いのは良いことだ。 『死の森』は危険地帯。いつ何時、魔獣に襲われるかわからない。 教師としては、彼らのその姿勢を褒めるべきだろう。
「感心ね。油断大敵、その心がけは立派です。でも、あまり気負いすぎないで。今日は自然観察と採取がメインですから」
「うん、わかってる。……『害虫駆除』も兼ねてるけどね」
ルウが小声で何か言ったような気がしたが、風の音にかき消されてよく聞こえなかった。
「それじゃあ、行きましょうか。目的地は森の北西部、『嘆きの谷』周辺です。あそこなら珍しい高山植物も見つかるはず」
「了解! ……でも先生、あそこまで歩いていくの?」
ギルが首を傾げる。 ここから『嘆きの谷』までは、大人の足でも半日はかかる距離だ。 もちろん、私は身体強化魔法を使えば一時間程度で走破できるが、せっかくの野外実習なのだから、景色を楽しみながら移動したい。
「そうね。少し遠いけれど、道中の生態系観察も勉強のうちよ」
「えー、めんどくせー。ショートカットしようぜ」
ギルは口笛を吹いた。 ヒュウッ! と高く鋭い音が、森の奥へと響き渡る。
ズズズズズ……。 直後、地面が微かに振動し始めた。 木々がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立つ。
「な、何事!?」
私が身構えた瞬間。 城壁の向こうから、巨大な影がヌッと姿を現した。
全身を覆う黒鉄の鱗。 岩山のように巨大な翼。 そして、黄金に輝く双眸。
――ドラゴンだ。 それも、ただのドラゴンではない。 文献でしか見たことのない、伝説級の魔獣『ブラック・エンシェント・ドラゴン』。 吐息一つで国を滅ぼすとされる、生ける災害である。
「グルルルルッ……」
ドラゴンは低い唸り声を上げながら、私たちの目の前――中庭の広場へと舞い降りた。 その風圧だけで、私の髪が乱れ、バスケットが飛びそうになる。
「ひっ……!」
さすがに足がすくんだ。 レッド・グリズリーとは格が違う。 これは、生物としての頂点に君臨する存在だ。 『解析』スキルが、危険信号(レッドアラート)を鳴らし続けている。 【危険度:測定不能】【推奨行動:全力逃走】
「おー、来た来た。いい子だ」
しかし、ギルは恐怖を感じるどころか、ドラゴンの鼻先に歩み寄り、ペチペチと叩いた。
「ポチ、お座り」
ズシンッ。 ドラゴンが、大人しくお座りをした。 ……ポチ? 今、この天災級の魔獣を、ポチと呼んだ?
「先生、これに乗っていこうぜ! こいつなら一っ飛びだ!」
ギルが得意げにドラゴンの首筋を撫でる。 ドラゴンは、気持ちよさそうに……いや、よく見ると、小刻みに震えながら、必死に媚びるような目をしている。 まるで、少しでも機嫌を損ねれば食われるとわかっている小動物のように。
「……ギル君。これは、あなたがテイムしたのですか?」
「ん? ああ、昨日ちょっと森の奥で喧嘩売ってきたんだけどさ。一発殴ったら言うこと聞くようになった」
一発。 エンシェント・ドラゴンを、一発。 私の生徒の物理攻撃力はどうなっているの。
「ほら、先生も乗って。怖くないよ、躾は完璧だから」
ルウが私の手を引く。 彼はすでに慣れた様子で、ドラゴンの翼を階段代わりにして背中に登っている。
拒否権はないようだ。 私はおっかなびっくり、ドラゴンの背中へと足をかけた。 鱗は温かく、そして硬い。 背中には、乗り心地が良さそうな鞍(これも特注品だろうか)が取り付けられていた。
「よし、出発だ! ポチ、飛ばせ!」
バサァァァッ!! 巨大な翼が羽ばたき、私たちの体が宙に浮いた。
◇
上空からの景色は、息を呑むほど美しかった。
眼下には、見渡す限りの樹海が広がっている。 青く輝く川、水晶の洞窟、色とりどりの花畑。 地上からは「死の森」とおどろおどろしく呼ばれている場所だが、空から見れば、そこは生命のエネルギーに満ち溢れた楽園だった。
「わあ……綺麗……」
風除けの魔法障壁が張られているおかげで、会話も普通にできる。 私は手すりを握りしめながら、夢中で下界を見下ろした。
「先生、あそこを見て。北の方角」
ルウが指差した先には、森の境界線が見えた。 その向こう側には、人間の領域――ルーンバルド王国がある。
「……そうね。あそこから、私は来たのね」
不思議と、感慨は薄かった。 もっと胸が痛むかと思ったけれど、今の私には、隣にいるこの子たちと、この美しい世界の方がずっと鮮やかに感じられる。
「あそこにいる人間たち、今頃大騒ぎしてるだろうな」
ギルがニヤリと笑う。
「先生がいなくなって、困ってるに決まってる。……ざまぁみろだ」
「ギル君、言葉遣い」
私は軽く注意したが、内心では少し同意していた。 私が抜けた穴は大きいはずだ。 彼らがどう対処しているのか、少し興味はある。 まあ、私にはもう関係のないことだが。
「ねえ先生。もし、あそこから人間が追いかけてきたらどうする?」
ルウが唐突に尋ねてきた。
「追いかけてくる? 私を?」
「うん。『戻ってきてくれ』とか、『やっぱりお前が必要だ』とか言って」
私は苦笑した。
「まさか。彼らは私を『無能』だと言って追い出したのよ? 今さら掌を返すなんて、プライドが許さないでしょう」
カイル殿下の性格を考えれば、自分の過ちを認めるくらいなら、国が傾く方を選ぶだろう。 それに、あのミナという聖女がいる限り、私に用はないはずだ。
「……でも、もし万が一、彼らがこの森に入ってきたら?」
ルウが食い下がる。 その瞳は、真剣そのものだ。
「そうね……。ここは危険な場所だから、無事では済まないでしょうね。迷子になって、魔獣に襲われて……。まあ、自業自得と言えばそれまでだけれど」
私は少し意地悪く言った。 人間不信教育の一環として、「迂闊に危険地帯に入る愚かさ」を強調しておく。
「ふうん。……『魔獣に襲われて』か。なるほど」
ルウが納得したように頷き、小さな手帳にメモを取る。 『採用案:魔獣による包囲殲滅。先生の許可(解釈による)取得済み』
……え? 何か不穏なメモが見えた気がするけれど、気流の乱れで視界が揺れたせいかしら。
「ポチ、高度を下げるぞ! 目的地の谷だ!」
ギルの号令で、ドラゴンが急降下を始めた。 ジェットコースターのような浮遊感に、私は小さな悲鳴を上げた。
◇
『嘆きの谷』に降り立った私たちは、ドラゴンのポチを待機させ(ポチは尻尾を振って見送ってくれた)、徒歩での散策を始めた。
ここは珍しい植生が多いエリアだ。 湿気を帯びた空気の中に、甘い花の香りと、ピリッとした魔素の刺激臭が混じっている。
「見て、二人とも。これが『月光草』よ。夜になると光る性質があって、鎮痛剤の原料になるの」 「へぇー。これ、すり潰して毒と混ぜたら、発光する毒薬ができるね」 「ルウ君、発想がアサシン寄りです。お薬の話をしています」
「先生、こっちの赤い実は?」 「それは『バースト・ベリー』。衝撃を与えると爆発するから気をつけて」 「マジか! これ投げて遊ぼうぜ!」 「ギル君、それは手榴弾です。遊び道具ではありません」
私の解説を、二人は独自の(主に戦闘的な)解釈で吸収していく。 まあ、知識を持つことは良いことだ。使い方は追々矯正していけばいい。
それにしても。 妙だ。
「……静かね」
私は周囲を見渡した。 『嘆きの谷』は、ハーピーやキメラといった好戦的な魔獣の巣窟として有名なはずだ。 なのに、鳥の鳴き声一つ聞こえない。 まるで、森全体が息を潜めて、何かを恐れているかのような静寂。
「そう? 平和でいいじゃん」
ギルが鼻歌交じりに、藪をガサガサとかき分ける。
ガサッ。 藪の奥から、巨大な影が飛び出した。 三つの頭を持つ獅子、キメラだ!
「危な……ッ!」
私が警告しようとした、その時。
ギッ! ギルが、キメラに向かって一瞬だけ視線を向けた。 ただそれだけ。 瞬きするほどの短い時間。
しかし、キメラは空中で硬直した。 ヒィッ……という情けない声を漏らし、そのまま地面にドサリと着地。 そして、ゴロンと腹を見せて寝転がり、尻尾をパタパタと振り始めた。
「……え?」
私は目を疑った。 凶暴なキメラが、まるで甘える子犬のように腹を見せている?
「ああ、こいつら、僕たちの『犬』だから」
ルウが淡々と言った。
「犬?」
「うん。この前、兄さんと散歩に来た時に、ちょっと躾けたんだ。『先生が来たら、全力で愛想を振りまけ。さもなくば絶滅させる』って」
「……躾の内容が過激すぎませんか?」
「ほら先生、撫でてあげてよ。噛まないから」
ギルに促され、私は恐る恐るキメラの腹に触れた。 剛毛だが、温かい。 キメラは「グルルン……」と喉を鳴らし、私の手に頬を擦り付けてくる。 その目は涙目で、必死に「僕は無害です! 善良な市民です!」と訴えているように見える。
……可愛い、と言えなくもない。 これだけの猛獣を手懐けるなんて、双子のカリスマ性は魔王様譲りね。
「すごいわ、二人とも。魔獣と心を通わせるなんて、なかなかできることじゃないわ」
私が褒めると、二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
(心を通わせたわけじゃないけどね。絶対的な恐怖で支配しただけだけど) (先生が喜んでるから、まあいいか)
そんな心の声は露知らず、私はキメラの頭を撫で続けた。 周囲の森からは、無数の視線を感じる。 狼、大蛇、怪鳥。 それら全てが、木陰からじっとこちらの様子を窺い、そして私たちが通り過ぎると、一斉に頭を下げて平伏していた。
まるで、女王陛下の行進のように。 私は気づいていなかった。 自分が今、魔界で最も安全で、最も権力のある存在として、生態系の頂点に祀り上げられていることに。
◇
採取も一段落し、私たちは見晴らしの良い丘の上で昼食をとることにした。 私が作ったお弁当を広げる。 サンドイッチに、唐揚げ、卵焼き。そしてデザートのフルーツ。 色とりどりの料理に、二人の目が輝く。
「うっひょー! 先生の飯だ!」 「いただきます。……毒見は不要だね、先生の手料理なら、毒が入っていても本望だ」
「変なこと言わないで、ルウ君。さあ、召し上がれ」
三人は和やかに食事を始めた。 青い空。美味しい空気。可愛い生徒たち。 これ以上の幸せがあるだろうか。
しかし。 その平和な時間の裏で、事態は確実に進行していた。
パクパクと唐揚げを頬張りながら、ルウが不意に動きを止めた。 その視線が、ふっと鋭くなる。
「……兄さん」
「ああ、わかってる」
ギルもサンドイッチを持つ手を止め、口元のマヨネーズを舐め取った。 二人の間で、音のない会話が交わされる。
(来たな。森の南端、第三警戒ライン突破) (人数は二十二。馬鹿正直に正面から入ってきやがった) (ポチの威圧で少し足止めしたけど、諦めずに進んでるみたいだね) (へっ、根性だけはあるじゃねぇか。それとも、よっぽど先生のことが欲しいのか?)
二人の瞳の奥に、昏い炎が灯る。
「先生、ちょっとトイレ行ってきていい?」
ギルが立ち上がり、爽やかに言った。
「僕も。ちょっと森の奥に面白い岩があったから、見てくる」
ルウも立ち上がる。
「あら、そう? あまり遠くへ行かないでね。迷子にならないように」
「大丈夫、すぐ戻るよ。……ちょっと『掃除』してくるだけだから」
二人は手を振り、森の中へと消えていった。 私はそれを笑顔で見送り、食後のお茶の準備を始めた。
◇
同時刻。 『死の森』の南端。
「はぁ、はぁ……なんだ、この森は……!」
銀狼騎士団の隊長、ガレスは、脂汗を流しながら剣を杖にして立っていた。 彼の周囲には、精鋭であるはずの部下たちが、泥まみれになって倒れ伏したり、嘔吐したりしている。
戦闘があったわけではない。 ただ、森に入った瞬間から、異常な重圧(プレッシャー)に晒され続けているのだ。
空気そのものが鉛のように重い。 どこからともなく聞こえる獣の唸り声。 そして、空を旋回する巨大な影――ドラゴンの咆哮。
「隊長ぉ、もう無理ですぅ。足が痛いし、服が汚れちゃいましたぁ」
聖女ミナが、輿の上で不満そうに声を上げる。 彼女だけは、強力な結界魔導具に守られているため、この瘴気の影響を受けていない。 それが余計に、騎士たちの神経を逆撫でする。
「ミナ様、もう少しのご辛抱を……。魔力探知によれば、アリアはこの奥にいるはずです」
ガレスは歯を食いしばった。 アリアを見つけ出し、連れ帰らなければ、王都は終わりだ。 それに、カイル殿下の命令は絶対だ。
「進むぞ! アリアさえ確保すれば、結界を張らせて安全に帰れる! あいつは俺たちの命令には逆らえないはずだ!」
騎士たちが重い体を起こし、再び歩き出そうとした、その時。
ザッ。
前方の霧の中から、二つの人影が現れた。
「……誰だ!」
ガレスが剣を構える。 現れたのは、まだ十歳にも満たないであろう、二人の少年だった。 一人は赤髪、一人は銀髪。 可愛らしい顔立ちだが、その瞳は、見ているだけで魂が凍りつくほど冷たい。
「やあ、人間たち」
銀髪の少年――ルウが、にこりと微笑んだ。
「ようこそ、僕たちの庭へ。……迷子かな? それとも、死に場所を探しに来たのかな?」
「子供……? 魔族か?」
ガレスは警戒した。 子供とはいえ、ここは死の森。油断はできない。
「我々はルーンバルド王国の騎士団だ! この森に逃げ込んだ罪人、アリア・ローズベリーの引き渡しを要求する!」
ガレスが高らかに宣言する。 その言葉を聞いた瞬間。
ドォンッ!!
赤髪の少年――ギルが踏み込み、地面が爆発した。 次の瞬間、ガレスの目の前にギルの顔があった。
「……今、なんて言った?」
ギルの手が、ガレスの喉元を掴み上げている。 大人の男を、片手で軽々と。
「罪人? 先生が? ……あんなに優しくて、あんなに傷ついている先生を、お前らはまだ侮辱するのか?」
ギルの指が食い込む。 ガレスは呼吸ができず、足をバタつかせた。
「ひっ、ひぃぃぃ!」 「た、隊長!?」
部下たちが武器を抜こうとするが、動けない。 ルウが指先だけで、空間を固定していたからだ。
「静かに。……先生がお茶をしてるんだ。悲鳴が聞こえたら、お茶が不味くなる」
ルウが唇に指を当てる。
「ねえ、兄さん。ここで殺しちゃダメだよ。あっけなさすぎる」
「……わかってるよ」
ギルは舌打ちをして、ガレスをゴミのように投げ捨てた。 ガレスは地面を転がり、激しく咳き込む。
「お前らには、最高の『おもてなし』を用意してやる」
ギルが見下ろす。
「森の奥まで来いよ。先生のいる場所まで。……そこが、お前らの処刑場だ」
双子はそう言い残すと、霧のように姿を消した。 後には、絶望的な恐怖と、明確な「死の宣告」だけが残された。
「……な、なんなんだ、今の化け物は……!」
ガレスは震える手で首をさすった。 逃げたい。今すぐ逃げ出したい。 だが、退路はすでに、無数の魔獣たちによって塞がれていた。
前へ進むしかない。 地獄への一本道を。
◇
「ただいまー、先生!」 「戻りました」
丘の上に、二人が戻ってきた。 その顔は、先ほどまでの殺意など微塵も感じさせない、無邪気な子供の笑顔だった。
「おかえりなさい。早かったわね」
私は淹れたてのハーブティーを差し出した。
「うん、ちょっと道端のゴミを片付けてきただけだから」 「森が綺麗になったよ、先生」
「あら、偉いわね。自然保護活動、感心です」
私は二人の頭を撫でた。 二人は嬉しそうに目を細める。
森の奥から、微かに悲鳴のような音が聞こえた気がしたが、きっと風の音だろう。 あるいは、先ほどのキメラが仲間と遊んでいるのかもしれない。
私は平和な午後を満喫していた。 すぐそこまで、かつての同僚たちが迫ってきているとも知らずに。 そして、彼らが今、私の可愛い生徒たちによって、徹底的な「絶望の淵」へと追い立てられているとも知らずに。
空には、ポチ(エンシェント・ドラゴン)が優雅に輪を描いている。 その影が、王国の騎士たちの上に、死神の鎌のように落ちていた。
今日の予定は、野外実習である。
座学や城内での基礎トレーニングも大切だが、やはり実地で学べることは多い。 それに、私が調合に使いたい薬草のストックが心許なくなってきていた。 魔王城の備蓄倉庫には、ドラゴンの肝だとか、マンドラゴラの根だとか、希少かつ劇薬な素材は山ほどあるのだが、止血草や解毒草といった「普通の薬草」が逆に不足しているのだ。 魔族の方々は頑丈すぎて、ちょっとした怪我なら唾をつけておけば治るらしく、初歩的な薬草の需要がないらしい。
「よし、天気も快晴。絶好のピクニック日和ね」
私は大きく伸びをした。 なんだか、遠足に行く前の子供のような高揚感がある。 王国にいた頃は、外出といえば公式行事か、あるいは人目を忍んでの素材採取(もちろん護衛なしの単独行)ばかりだったから、こうして「公認」で外に出られるのが嬉しいのだ。
「先生! 準備できたよ!」 「お待たせ、アリア先生」
背後から元気な声と、落ち着いた声がかかる。 振り返ると、そこには今日の引率生徒――ギルとルウが立っていた。
二人は冒険者風の身軽な服装に着替えている。 ギルは背中に大剣を背負い、ルウは腰に魔導書と短剣を提げている。 装備の手入れは行き届いており、準備万端といった様子だ。 ただ、一つだけ気になることがあるとすれば。
「……二人とも、その殺気立った雰囲気はどうしたの?」
彼らの周囲には、陽炎のようなオーラが立ち上っていた。 目は爛々と輝き、まるでこれから獲物を狩りに行く捕食者のようだ。 ピクニックに行く顔ではない。
「え? そうかな? いつも通りだよ、先生」
ギルがニカっと笑う。 その笑顔は爽やかだが、歯がキラリと光る様子は、やはり肉食獣を連想させる。
「今日は野外実習でしょ? 不測の事態に備えて、テンションを上げているだけだよ」
ルウがさらりと答える。 なるほど、危機管理意識が高いのは良いことだ。 『死の森』は危険地帯。いつ何時、魔獣に襲われるかわからない。 教師としては、彼らのその姿勢を褒めるべきだろう。
「感心ね。油断大敵、その心がけは立派です。でも、あまり気負いすぎないで。今日は自然観察と採取がメインですから」
「うん、わかってる。……『害虫駆除』も兼ねてるけどね」
ルウが小声で何か言ったような気がしたが、風の音にかき消されてよく聞こえなかった。
「それじゃあ、行きましょうか。目的地は森の北西部、『嘆きの谷』周辺です。あそこなら珍しい高山植物も見つかるはず」
「了解! ……でも先生、あそこまで歩いていくの?」
ギルが首を傾げる。 ここから『嘆きの谷』までは、大人の足でも半日はかかる距離だ。 もちろん、私は身体強化魔法を使えば一時間程度で走破できるが、せっかくの野外実習なのだから、景色を楽しみながら移動したい。
「そうね。少し遠いけれど、道中の生態系観察も勉強のうちよ」
「えー、めんどくせー。ショートカットしようぜ」
ギルは口笛を吹いた。 ヒュウッ! と高く鋭い音が、森の奥へと響き渡る。
ズズズズズ……。 直後、地面が微かに振動し始めた。 木々がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立つ。
「な、何事!?」
私が身構えた瞬間。 城壁の向こうから、巨大な影がヌッと姿を現した。
全身を覆う黒鉄の鱗。 岩山のように巨大な翼。 そして、黄金に輝く双眸。
――ドラゴンだ。 それも、ただのドラゴンではない。 文献でしか見たことのない、伝説級の魔獣『ブラック・エンシェント・ドラゴン』。 吐息一つで国を滅ぼすとされる、生ける災害である。
「グルルルルッ……」
ドラゴンは低い唸り声を上げながら、私たちの目の前――中庭の広場へと舞い降りた。 その風圧だけで、私の髪が乱れ、バスケットが飛びそうになる。
「ひっ……!」
さすがに足がすくんだ。 レッド・グリズリーとは格が違う。 これは、生物としての頂点に君臨する存在だ。 『解析』スキルが、危険信号(レッドアラート)を鳴らし続けている。 【危険度:測定不能】【推奨行動:全力逃走】
「おー、来た来た。いい子だ」
しかし、ギルは恐怖を感じるどころか、ドラゴンの鼻先に歩み寄り、ペチペチと叩いた。
「ポチ、お座り」
ズシンッ。 ドラゴンが、大人しくお座りをした。 ……ポチ? 今、この天災級の魔獣を、ポチと呼んだ?
「先生、これに乗っていこうぜ! こいつなら一っ飛びだ!」
ギルが得意げにドラゴンの首筋を撫でる。 ドラゴンは、気持ちよさそうに……いや、よく見ると、小刻みに震えながら、必死に媚びるような目をしている。 まるで、少しでも機嫌を損ねれば食われるとわかっている小動物のように。
「……ギル君。これは、あなたがテイムしたのですか?」
「ん? ああ、昨日ちょっと森の奥で喧嘩売ってきたんだけどさ。一発殴ったら言うこと聞くようになった」
一発。 エンシェント・ドラゴンを、一発。 私の生徒の物理攻撃力はどうなっているの。
「ほら、先生も乗って。怖くないよ、躾は完璧だから」
ルウが私の手を引く。 彼はすでに慣れた様子で、ドラゴンの翼を階段代わりにして背中に登っている。
拒否権はないようだ。 私はおっかなびっくり、ドラゴンの背中へと足をかけた。 鱗は温かく、そして硬い。 背中には、乗り心地が良さそうな鞍(これも特注品だろうか)が取り付けられていた。
「よし、出発だ! ポチ、飛ばせ!」
バサァァァッ!! 巨大な翼が羽ばたき、私たちの体が宙に浮いた。
◇
上空からの景色は、息を呑むほど美しかった。
眼下には、見渡す限りの樹海が広がっている。 青く輝く川、水晶の洞窟、色とりどりの花畑。 地上からは「死の森」とおどろおどろしく呼ばれている場所だが、空から見れば、そこは生命のエネルギーに満ち溢れた楽園だった。
「わあ……綺麗……」
風除けの魔法障壁が張られているおかげで、会話も普通にできる。 私は手すりを握りしめながら、夢中で下界を見下ろした。
「先生、あそこを見て。北の方角」
ルウが指差した先には、森の境界線が見えた。 その向こう側には、人間の領域――ルーンバルド王国がある。
「……そうね。あそこから、私は来たのね」
不思議と、感慨は薄かった。 もっと胸が痛むかと思ったけれど、今の私には、隣にいるこの子たちと、この美しい世界の方がずっと鮮やかに感じられる。
「あそこにいる人間たち、今頃大騒ぎしてるだろうな」
ギルがニヤリと笑う。
「先生がいなくなって、困ってるに決まってる。……ざまぁみろだ」
「ギル君、言葉遣い」
私は軽く注意したが、内心では少し同意していた。 私が抜けた穴は大きいはずだ。 彼らがどう対処しているのか、少し興味はある。 まあ、私にはもう関係のないことだが。
「ねえ先生。もし、あそこから人間が追いかけてきたらどうする?」
ルウが唐突に尋ねてきた。
「追いかけてくる? 私を?」
「うん。『戻ってきてくれ』とか、『やっぱりお前が必要だ』とか言って」
私は苦笑した。
「まさか。彼らは私を『無能』だと言って追い出したのよ? 今さら掌を返すなんて、プライドが許さないでしょう」
カイル殿下の性格を考えれば、自分の過ちを認めるくらいなら、国が傾く方を選ぶだろう。 それに、あのミナという聖女がいる限り、私に用はないはずだ。
「……でも、もし万が一、彼らがこの森に入ってきたら?」
ルウが食い下がる。 その瞳は、真剣そのものだ。
「そうね……。ここは危険な場所だから、無事では済まないでしょうね。迷子になって、魔獣に襲われて……。まあ、自業自得と言えばそれまでだけれど」
私は少し意地悪く言った。 人間不信教育の一環として、「迂闊に危険地帯に入る愚かさ」を強調しておく。
「ふうん。……『魔獣に襲われて』か。なるほど」
ルウが納得したように頷き、小さな手帳にメモを取る。 『採用案:魔獣による包囲殲滅。先生の許可(解釈による)取得済み』
……え? 何か不穏なメモが見えた気がするけれど、気流の乱れで視界が揺れたせいかしら。
「ポチ、高度を下げるぞ! 目的地の谷だ!」
ギルの号令で、ドラゴンが急降下を始めた。 ジェットコースターのような浮遊感に、私は小さな悲鳴を上げた。
◇
『嘆きの谷』に降り立った私たちは、ドラゴンのポチを待機させ(ポチは尻尾を振って見送ってくれた)、徒歩での散策を始めた。
ここは珍しい植生が多いエリアだ。 湿気を帯びた空気の中に、甘い花の香りと、ピリッとした魔素の刺激臭が混じっている。
「見て、二人とも。これが『月光草』よ。夜になると光る性質があって、鎮痛剤の原料になるの」 「へぇー。これ、すり潰して毒と混ぜたら、発光する毒薬ができるね」 「ルウ君、発想がアサシン寄りです。お薬の話をしています」
「先生、こっちの赤い実は?」 「それは『バースト・ベリー』。衝撃を与えると爆発するから気をつけて」 「マジか! これ投げて遊ぼうぜ!」 「ギル君、それは手榴弾です。遊び道具ではありません」
私の解説を、二人は独自の(主に戦闘的な)解釈で吸収していく。 まあ、知識を持つことは良いことだ。使い方は追々矯正していけばいい。
それにしても。 妙だ。
「……静かね」
私は周囲を見渡した。 『嘆きの谷』は、ハーピーやキメラといった好戦的な魔獣の巣窟として有名なはずだ。 なのに、鳥の鳴き声一つ聞こえない。 まるで、森全体が息を潜めて、何かを恐れているかのような静寂。
「そう? 平和でいいじゃん」
ギルが鼻歌交じりに、藪をガサガサとかき分ける。
ガサッ。 藪の奥から、巨大な影が飛び出した。 三つの頭を持つ獅子、キメラだ!
「危な……ッ!」
私が警告しようとした、その時。
ギッ! ギルが、キメラに向かって一瞬だけ視線を向けた。 ただそれだけ。 瞬きするほどの短い時間。
しかし、キメラは空中で硬直した。 ヒィッ……という情けない声を漏らし、そのまま地面にドサリと着地。 そして、ゴロンと腹を見せて寝転がり、尻尾をパタパタと振り始めた。
「……え?」
私は目を疑った。 凶暴なキメラが、まるで甘える子犬のように腹を見せている?
「ああ、こいつら、僕たちの『犬』だから」
ルウが淡々と言った。
「犬?」
「うん。この前、兄さんと散歩に来た時に、ちょっと躾けたんだ。『先生が来たら、全力で愛想を振りまけ。さもなくば絶滅させる』って」
「……躾の内容が過激すぎませんか?」
「ほら先生、撫でてあげてよ。噛まないから」
ギルに促され、私は恐る恐るキメラの腹に触れた。 剛毛だが、温かい。 キメラは「グルルン……」と喉を鳴らし、私の手に頬を擦り付けてくる。 その目は涙目で、必死に「僕は無害です! 善良な市民です!」と訴えているように見える。
……可愛い、と言えなくもない。 これだけの猛獣を手懐けるなんて、双子のカリスマ性は魔王様譲りね。
「すごいわ、二人とも。魔獣と心を通わせるなんて、なかなかできることじゃないわ」
私が褒めると、二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
(心を通わせたわけじゃないけどね。絶対的な恐怖で支配しただけだけど) (先生が喜んでるから、まあいいか)
そんな心の声は露知らず、私はキメラの頭を撫で続けた。 周囲の森からは、無数の視線を感じる。 狼、大蛇、怪鳥。 それら全てが、木陰からじっとこちらの様子を窺い、そして私たちが通り過ぎると、一斉に頭を下げて平伏していた。
まるで、女王陛下の行進のように。 私は気づいていなかった。 自分が今、魔界で最も安全で、最も権力のある存在として、生態系の頂点に祀り上げられていることに。
◇
採取も一段落し、私たちは見晴らしの良い丘の上で昼食をとることにした。 私が作ったお弁当を広げる。 サンドイッチに、唐揚げ、卵焼き。そしてデザートのフルーツ。 色とりどりの料理に、二人の目が輝く。
「うっひょー! 先生の飯だ!」 「いただきます。……毒見は不要だね、先生の手料理なら、毒が入っていても本望だ」
「変なこと言わないで、ルウ君。さあ、召し上がれ」
三人は和やかに食事を始めた。 青い空。美味しい空気。可愛い生徒たち。 これ以上の幸せがあるだろうか。
しかし。 その平和な時間の裏で、事態は確実に進行していた。
パクパクと唐揚げを頬張りながら、ルウが不意に動きを止めた。 その視線が、ふっと鋭くなる。
「……兄さん」
「ああ、わかってる」
ギルもサンドイッチを持つ手を止め、口元のマヨネーズを舐め取った。 二人の間で、音のない会話が交わされる。
(来たな。森の南端、第三警戒ライン突破) (人数は二十二。馬鹿正直に正面から入ってきやがった) (ポチの威圧で少し足止めしたけど、諦めずに進んでるみたいだね) (へっ、根性だけはあるじゃねぇか。それとも、よっぽど先生のことが欲しいのか?)
二人の瞳の奥に、昏い炎が灯る。
「先生、ちょっとトイレ行ってきていい?」
ギルが立ち上がり、爽やかに言った。
「僕も。ちょっと森の奥に面白い岩があったから、見てくる」
ルウも立ち上がる。
「あら、そう? あまり遠くへ行かないでね。迷子にならないように」
「大丈夫、すぐ戻るよ。……ちょっと『掃除』してくるだけだから」
二人は手を振り、森の中へと消えていった。 私はそれを笑顔で見送り、食後のお茶の準備を始めた。
◇
同時刻。 『死の森』の南端。
「はぁ、はぁ……なんだ、この森は……!」
銀狼騎士団の隊長、ガレスは、脂汗を流しながら剣を杖にして立っていた。 彼の周囲には、精鋭であるはずの部下たちが、泥まみれになって倒れ伏したり、嘔吐したりしている。
戦闘があったわけではない。 ただ、森に入った瞬間から、異常な重圧(プレッシャー)に晒され続けているのだ。
空気そのものが鉛のように重い。 どこからともなく聞こえる獣の唸り声。 そして、空を旋回する巨大な影――ドラゴンの咆哮。
「隊長ぉ、もう無理ですぅ。足が痛いし、服が汚れちゃいましたぁ」
聖女ミナが、輿の上で不満そうに声を上げる。 彼女だけは、強力な結界魔導具に守られているため、この瘴気の影響を受けていない。 それが余計に、騎士たちの神経を逆撫でする。
「ミナ様、もう少しのご辛抱を……。魔力探知によれば、アリアはこの奥にいるはずです」
ガレスは歯を食いしばった。 アリアを見つけ出し、連れ帰らなければ、王都は終わりだ。 それに、カイル殿下の命令は絶対だ。
「進むぞ! アリアさえ確保すれば、結界を張らせて安全に帰れる! あいつは俺たちの命令には逆らえないはずだ!」
騎士たちが重い体を起こし、再び歩き出そうとした、その時。
ザッ。
前方の霧の中から、二つの人影が現れた。
「……誰だ!」
ガレスが剣を構える。 現れたのは、まだ十歳にも満たないであろう、二人の少年だった。 一人は赤髪、一人は銀髪。 可愛らしい顔立ちだが、その瞳は、見ているだけで魂が凍りつくほど冷たい。
「やあ、人間たち」
銀髪の少年――ルウが、にこりと微笑んだ。
「ようこそ、僕たちの庭へ。……迷子かな? それとも、死に場所を探しに来たのかな?」
「子供……? 魔族か?」
ガレスは警戒した。 子供とはいえ、ここは死の森。油断はできない。
「我々はルーンバルド王国の騎士団だ! この森に逃げ込んだ罪人、アリア・ローズベリーの引き渡しを要求する!」
ガレスが高らかに宣言する。 その言葉を聞いた瞬間。
ドォンッ!!
赤髪の少年――ギルが踏み込み、地面が爆発した。 次の瞬間、ガレスの目の前にギルの顔があった。
「……今、なんて言った?」
ギルの手が、ガレスの喉元を掴み上げている。 大人の男を、片手で軽々と。
「罪人? 先生が? ……あんなに優しくて、あんなに傷ついている先生を、お前らはまだ侮辱するのか?」
ギルの指が食い込む。 ガレスは呼吸ができず、足をバタつかせた。
「ひっ、ひぃぃぃ!」 「た、隊長!?」
部下たちが武器を抜こうとするが、動けない。 ルウが指先だけで、空間を固定していたからだ。
「静かに。……先生がお茶をしてるんだ。悲鳴が聞こえたら、お茶が不味くなる」
ルウが唇に指を当てる。
「ねえ、兄さん。ここで殺しちゃダメだよ。あっけなさすぎる」
「……わかってるよ」
ギルは舌打ちをして、ガレスをゴミのように投げ捨てた。 ガレスは地面を転がり、激しく咳き込む。
「お前らには、最高の『おもてなし』を用意してやる」
ギルが見下ろす。
「森の奥まで来いよ。先生のいる場所まで。……そこが、お前らの処刑場だ」
双子はそう言い残すと、霧のように姿を消した。 後には、絶望的な恐怖と、明確な「死の宣告」だけが残された。
「……な、なんなんだ、今の化け物は……!」
ガレスは震える手で首をさすった。 逃げたい。今すぐ逃げ出したい。 だが、退路はすでに、無数の魔獣たちによって塞がれていた。
前へ進むしかない。 地獄への一本道を。
◇
「ただいまー、先生!」 「戻りました」
丘の上に、二人が戻ってきた。 その顔は、先ほどまでの殺意など微塵も感じさせない、無邪気な子供の笑顔だった。
「おかえりなさい。早かったわね」
私は淹れたてのハーブティーを差し出した。
「うん、ちょっと道端のゴミを片付けてきただけだから」 「森が綺麗になったよ、先生」
「あら、偉いわね。自然保護活動、感心です」
私は二人の頭を撫でた。 二人は嬉しそうに目を細める。
森の奥から、微かに悲鳴のような音が聞こえた気がしたが、きっと風の音だろう。 あるいは、先ほどのキメラが仲間と遊んでいるのかもしれない。
私は平和な午後を満喫していた。 すぐそこまで、かつての同僚たちが迫ってきているとも知らずに。 そして、彼らが今、私の可愛い生徒たちによって、徹底的な「絶望の淵」へと追い立てられているとも知らずに。
空には、ポチ(エンシェント・ドラゴン)が優雅に輪を描いている。 その影が、王国の騎士たちの上に、死神の鎌のように落ちていた。
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