『姉に全部奪われた私、今度は自分の幸せを選びます ~姉の栄光を支える嘘を、私は一枚ずつ剥がす~』

六角

文字の大きさ
15 / 20

第15話「あなたの幸せは、誰の犠牲?」

しおりを挟む
王宮の朝は、重苦しい緊張感に包まれていた。 空は昨日の嵐が嘘のように晴れ渡っていたが、その青さはどこか冷たく、突き刺さるような鋭さを持っている。 城壁の上には通常時の倍の数の衛兵が配置され、誰もが南の街道――隣国バルディア帝国へと続く道――を凝視していた。

「……まるで、戦争前夜だな」

隣を歩くレオンハルト様が、低い声で呟いた。 私たちは今、王宮の正門前、国賓を迎えるための赤絨毯の上に立っている。 監査官としての私の定位置は本来もっと後方だが、今回は「特別補佐官」として、宰相補佐である彼の隣に立つことを許されていた。 それだけ、事態が切迫しているということだ。

「相手は『暴風』の異名を持つ第二王子ですから。……戦争を仕掛けに来たのと変わらないのかもしれません」

私が答えると、レオンハルト様は苦々しげに頷いた。 バルディア帝国第二王子、アレクサンダー・フォン・バルディア。 軍事国家である帝国の覇権主義を象徴するような人物であり、同時に、異常なほどの「魔道具収集家」としても知られている。

姉セシリアが残した言葉。 『あの方への手土産』。 『あの人は、わたくしよりも貪欲で、わたくしよりも上手よ』。 行方不明になっている7個の『偽造魔石(反転の誓約器)』。 その点と線が、最悪の形で結びつこうとしている。

「見えたぞ!」

監視塔からの叫び声と共に、地響きのような音が聞こえ始めた。 蹄の音。車輪の音。そして、鎧が擦れ合う金属音。 街道の向こうから現れたのは、優雅な使節団の馬車列ではなかった。 黒塗りの装甲馬車を中心とした、完全武装の騎馬隊だった。 その数、およそ五百。 「護衛」と呼ぶにはあまりにも過剰で、あまりにも攻撃的だ。

「……威嚇射撃のつもりか」

カミュ団長が舌打ちをし、剣の柄に手をかけた。 近衛騎士たちの間に緊張が走る。 だが、相手は国賓だ。こちらから剣を抜くわけにはいかない。

黒い隊列は、王宮の門前で整然と停止した。 砂埃が舞う中、中央の巨大な馬車の扉が開く。 降り立ったのは、長身の男だった。 燃えるような赤髪。猛禽類を思わせる金色の瞳。 仕立ての良い軍服の上からでもわかる、鍛え上げられた肉体。 そして何より、その全身から発せられる圧倒的な「捕食者」のオーラ。

アレクサンダー王子。

彼は出迎えに並ぶ私たちを一瞥すると、獰猛な笑みを浮かべた。 その視線は、王妃陛下でも、レオンハルト様でもなく、真っ直ぐに私に向けられていた。 まるで、面白い獲物を見つけた猛獣のように。

「……ようこそ、リュナレイア王国へ」

王妃エレオノーラ陛下が進み出て、毅然とした態度で歓迎の辞を述べた。 アレクサンダー王子は、礼儀正しく、しかしどこか見下すような優雅さで一礼した。

「出迎え感謝する、王妃殿下。……急な訪問を許していただきたい。我が国の通商に関する『重要案件』について、一刻も早く協議したかったのでね」

「重要案件、ですか?」 「ああ。……それに、この国では最近、面白い『見世物』があったと聞いた。聖女が堕ち、無名の監査官が英雄になったとか。……その『主役』の顔も、ぜひ拝見したくてね」

彼は私の目の前まで歩み寄ると、値踏みするように顔を覗き込んだ。 至近距離で見ると、その瞳の奥には底知れない冷酷さが渦巻いているのがわかった。

「君か。リリア・アルヴェイン監査官は」

「……お初にお目にかかります、アレクサンダー殿下」

私は動揺を押し殺し、完璧なカーテシーを行った。 視線は逸らさない。 ここで目を逸らせば、負ける。

「ふうん。……噂より地味だな。だが、目はいい。飼い慣らされていない野良猫の目だ」

彼は不躾に私の顎に触れようとした。 その瞬間、レオンハルト様が私の前に割って入り、その手を制した。

「……殿下。我が国の監査官に対し、無礼な振る舞いはお控え願いたい」

「おっと。……これは失礼。宰相補佐殿の『所有物』だったかな?」 「彼女は誰のものでもない。王国の法を司る官吏だ」

レオンハルト様の声は絶対零度だ。 アレクサンダー王子は、楽しそうに喉を鳴らして笑った。

「法、か。……いい響きだ。だが、法などというものは、強者が弱者を縛るための鎖に過ぎんよ。……まあいい。夜の宴でゆっくり話そうじゃないか」

彼は踵を返し、案内役の後に続いて城内へと消えていった。 残された私たちは、嵐が通り過ぎた後のような疲労感に包まれていた。 だが、本当の嵐はこれからだ。 彼のポケットが微かに膨らんでいたのを、私は見逃さなかった。 そこから漏れ出る、禍々しい魔力の残滓。 間違いない。 彼は『持っている』。 行方不明の魔石を。

          ◇

使節団の到着から数時間後、王宮の会議室では緊急の対策会議が開かれていた。 集まったのは王妃陛下、レオンハルト様、カミュ団長、そして私。

「……奴の目的は明白だ」

レオンハルト様が、地図の上に駒を置いた。

「表向きは『通商条約の改正』。関税の撤廃と、鉱物資源の優先輸入権を求めてきている。……だが、真の狙いはその裏にある『技術供与』だ」 「技術供与?」 「ああ。条約案の付帯条項に、『魔道具開発に関する相互協力』という項目がある。……具体的には、我が国の研究者を帝国へ招聘し、共同研究を行うというものだ」

「研究者……まさか、ギルバートのことですか?」

私が尋ねると、レオンハルト様は頷いた。 「そうだ。奴らは、ギルバートの身柄を要求している。……『反転の誓約器』の製造技術を手に入れるためにな」

帝国がその技術を手に入れたらどうなるか。 軍事大国である彼らが、外交や戦争において「嘘を真実にする力」を持てば、周辺諸国はひとたまりもない。 歴史が書き換えられ、侵略が「正義」として正当化される。 悪夢だ。

「セシリアは……彼と取引をしていたのですね」

私は拳を握りしめた。 姉は自分の保身と野心のために、国の安全保障に関わる禁忌の技術を、他国へ売り渡そうとしていた。 彼女が言っていた『種』とは、このことだったのだ。 自分が失脚しても、帝国という強大な水やり係がいれば、その毒花は世界中で咲き誇る。

「拒否すれば、どうなりますか?」 「戦争の口実を与えることになる」

王妃陛下が沈痛な面持ちで答えた。

「帝国は今、軍備を増強している。我が国との国境付近でも軍事演習を繰り返しているわ。……条約交渉が決裂すれば、彼らは『非協力的な態度』を理由に、武力介入をちらつかせるでしょう」

外交的圧力。 しかも、相手の手には『魔石』という切り札がある。 もし交渉の場で、アレクサンダー王子が魔石を使って「我々の要求は正当である」と誓約し、それを真実として固定してしまったら? 国際社会において、リュナレイア王国は「正当な要求を拒む不誠実な国」として孤立させられる。

「……詰んでいますね」 「ああ。……普通に戦えばな」

レオンハルト様は私を見た。

「だが、相手は知らない。……我々が『解毒剤』を持っていることを」 「『真理のプリズム』……」

「そうだ。奴が魔石を使う瞬間こそが、最大の好機だ。……公開の場で、帝国の王子の不正を暴けば、彼らは国際的な信用を失う。戦争どころではなくなるはずだ」

ハイリスク・ハイリターン。 失敗すれば国が滅ぶ。成功すれば国を守れる。 私の肩に、再び国の運命が乗せられた。

「……やりましょう」

私は顔を上げた。

「今夜の歓迎の宴。……そこで彼に接触し、魔石を使わせます。私が挑発して、引きずり出してみせます」 「危険だぞ、リリア。相手はセシリアとは違う。……本物の怪物だ」

カミュ団長が心配そうに言う。 私は微笑んでみせた。

「怪物退治は、監査官の仕事ではありませんが……害獣駆除なら、得意分野です」

          ◇

夜。 『白薔薇の間』は、数日前の断罪劇が嘘のように、華やかな装飾で彩られていた。 だが、漂う空気はまるで違う。 貴族たちの笑顔は引きつり、会話は探り合いの囁き声ばかり。 会場の半分を占める帝国の軍人たちが、鋭い視線を周囲に配っているからだ。 ここは舞踏会会場ではない。 ドレスと軍服が入り乱れる、戦場だ。

私はレオンハルト様のエスコートで会場に入った。 今夜のドレスは、バルディア帝国の国旗色である深紅をあえて選んだ。 「迎合」ではなく「対抗」の意思表示として。

「……さあ、ショーの始まりだ」

レオンハルト様が私の腰に手を回し、ホールの中央へと導く。 音楽が始まる。 ワルツ。 だが、優雅な調べとは裏腹に、フロアの空気は張り詰めている。

数曲踊った後、予想通りの人物が近づいてきた。 アレクサンダー王子だ。 彼は手に持っていたワイングラスを従者に預け、無造作に私に手を差し出した。

「……一曲、願えるかな? 英雄殿」

拒否権はない。 私はレオンハルト様に目配せし、王子の手を取った。 その手は熱く、そして鋼のように硬かった。

踊り始めると、彼のリードは強引で、まるで私を振り回すようだった。 ステップを踏むたびに、体幹の強さを感じる。

「……意外だな」 王子が耳元で囁く。

「何がでしょう?」 「もっと怯えるかと思った。……あるいは、媚びてくるかと。セシリアのように」 「セシリアお姉様をご存じなのですか?」 「ああ。……『ビジネスパートナー』だった。優秀な女だったよ。自国の利益よりも、自分の欲望を優先できる人間は使いやすい」

彼は悪びれもせずに言った。 姉を「使いやすい道具」として評価する。 その傲慢さに、怒りが湧き上がる。

「……姉は、貴方に技術を売ったのですね。この国を裏切って」 「裏切り? 違うな。……彼女は『選んだ』のだよ。沈みゆく小国よりも、覇権を握る帝国と共に歩む未来を」

王子は私を引き寄せ、顔を近づけた。 金色の瞳が、蛇のように私を射抜く。

「君も選べ、リリア。……この国に未来はない。王は病弱、貴族は腐敗し、頼みの綱の宰相府も保守的すぎる。……私の元へ来い。君のその鋭い牙、私が有効に使ってやる」

勧誘。 それも、ヘッドハンティングなどという生易しいものではない。 「服従せよ」という命令だ。

「……お断りします」 私は即答した。

「ほう? 即決か。……条件も聞かずに?」 「条件など関係ありません。私は物ではありませんし、牙でもありません。……私は監査官です。不正を正し、嘘を暴くのが私の誇りです」

「誇り、か。……くだらん」 王子は鼻で笑った。

「誇りで腹が膨れるか? 正義で国が守れるか? ……力だ。力こそが全てだ。弱者は強者に食われ、強者の養分となることで初めて『意味』を持つ。それが自然の摂理だ」

彼はステップを止め、私を強く抱きしめたまま、会場を見渡した。

「見ろ、あの貴族たちを。……私の軍服を見ただけで震え上がっている。彼らは平和を愛しているのではない。自分の安寧を脅かされるのが怖いだけだ。……そんな豚どものために、君はその才能を浪費するのか?」

「……彼らは豚ではありません」 私は王子の腕の中で、必死に抵抗した。

「彼らは人間です。弱く、愚かで、間違いも犯すけれど……それでも懸命に生きている人間です。……貴方の言う『強者の論理』は、ただの略奪者の言い訳に過ぎません!」

「略奪者……! ははは! いいぞ、その目だ!」

王子は愉快そうに笑った。 私の反抗が、彼を逆に興奮させているようだ。

「気に入った。セシリアよりもずっといい。……あいつは所詮、自分のためにしか動けない女だったが、君は『他人のため』に牙を剥く。……その自己犠牲の精神、実に美しい」

彼は私の手首を掴み、強引にバルコニーへと連れ出した。 夜風が吹き込む。 護衛の騎士たちが動こうとするが、帝国の親衛隊がそれを阻む。 レオンハルト様が鋭い視線を送ってくるが、私は「まだ大丈夫」と目で合図した。 まだ、尻尾を出していない。

バルコニーに出ると、王子は私の手を放した。 そして、懐から何かを取り出した。

青く輝く、小さな石。 セシリアのブローチと同じ輝きを持つ、『反転の誓約器』の核。

「……やはり、持っていたのですね」 「ああ。セシリアが送ってきたサンプルだ。……素晴らしい性能だよ。これさえあれば、黒を白と言いくるめることも、侵略を解放と呼ぶこともできる」

王子は魔石を指で弄びながら、私を見た。

「君はこの石の『解毒剤』を持っているそうだな? ……クレイグという老いぼれが作ったおもちゃを」

心臓が跳ねた。 知られている。 情報が漏れている? いや、彼ほどの情報網があれば、クレイグの存在に辿り着くのは容易いことか。

「……だとしたら、どうしますか?」 「試してやろうと思ってね」

王子はニヤリと笑った。

「賭けをしよう、リリア。……今から私が、この石を使って『ある宣言』をする。君がその嘘を暴ければ、私は大人しく帰国しよう。条約も破棄してやる」 「……もし、暴けなければ?」 「君をもらう。……私の所有物として、帝国へ連れて行く。そして一生、私のためにその頭脳を使ってもらう」

「……断ると言ったら?」 「断れば、明日の夜明けと共に、国境に展開している我が軍が進行を開始する。……この王都は火の海だ」

脅迫。 卑劣極まりない。 だが、私に選択肢はない。

「……受けます」 私は言った。

「ただし、条件があります。……その『宣言』は、このバルコニーではなく、会場の中で、全員の前で行ってください」 「公開処刑がお望みか? ……いいだろう」

王子は満足げに頷き、私を会場へと連れ戻した。 音楽が止まる。 王子が手を挙げると、会場中の視線が集まった。

「皆様。……今夜の素晴らしい宴に感謝し、私から一つ、提案がある」

王子の声が響く。 彼は手の中の魔石を高々と掲げた。

「我が国とリュナレイア王国との友好を永遠のものとするため……私は今ここで、ある『真実』を誓約によって証明したい」

会場がざわめく。 セシリアの時と同じだ。 誰もが、その青い光に魅入られている。

「私が誓うのは……『この国の繁栄のために、最も必要なものは何か』という問いへの答えだ」

王子は私を見下ろし、そして言った。

「……『平和とは、強き者が弱き者を管理することで成立する』。……これが真実であると誓う」

哲学的な問い。 事実確認ではない。思想の是非だ。 本来、誓約器は個人の主観に基づく判定しかできない。 だが、この『反転の誓約器』を使えば、彼の歪んだ思想さえも、絶対的な「世界の真理」として青く光らせることができる。 もしこれが「真実」として判定されれば、帝国の支配思想が「神のお墨付き」を得ることになる。

「さあ、判定の時間だ」

王子が魔石に魔力を込める。 カッ! 石が強烈な青い光を放ち始めた。 会場の人々が息を呑む。 「青だ……」「やはり、強者が支配するのが正しいのか……」 洗脳が始まっている。

私はドレスの胸元に手をやった。 『真理のプリズム』。 今こそ、出番だ。 私はクレイグの教えを思い出した。 『迷いを捨てろ』。

でも、違う。 今回の相手は、セシリアのように「外部から操作」しているわけではない。 王子自身が魔石を持ち、王子自身の強大な魔力で強引に「真実」をねじ曲げている。 プリズムで「糸」は見えないかもしれない。

「……どうした? 出さないのか?」 王子が嘲笑う。 「それとも、君も認めるか? 力が正義だと」

私は震える手でプリズムを握りしめた。 違う。力だけが正義じゃない。 誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなんて、幸せじゃない。 それはただの搾取だ。 私は知っている。 スラムで泣いていた子供たちを。 姉に利用され、捨てられた人たちを。 彼らの痛みを知っているからこそ、私は……!

「……違います!」

私は叫んだ。プリズムを取り出すのではなく、自分の声で。

「貴方の言っていることは、ただの傲慢です! 平和は管理されるものではなく、一人一人が築き上げるものです!」

「言葉など無力だ! 見ろ、この光を! 世界が肯定している!」 王子が魔石をかざす。青い光が増幅し、私の視界を染める。

その時だった。 私の胸のプリズムが、勝手に熱を持った。 クレイグの言葉。 『このプリズムは、使用者自身の精神波を触媒にする』。 『お前自身が嘘のない状態であれば……』

私の精神。 「誰かの犠牲を許さない」という、純粋で、強烈な拒絶。 それがプリズムと共鳴した。

キィィィィン!!

プリズムから、鋭い音が鳴り響いた。 次の瞬間、プリズムから放たれたのは「映像」ではなかった。 一本の、鋭利な「光の矢」だった。

それは真っ直ぐに王子の手にある魔石へと飛び、衝突した。

パリンッ!!

乾いた音が響き渡る。 青い光が霧散し、王子の手の中で魔石が砕け散った。

「な……!?」

王子が目を見開く。 会場が静まり返る。 魔石が、割れた。 私の「真実(おもい)」が、王子の「偽りの真実」を物理的に粉砕したのだ。

「……壊れましたね」

私は荒い息を吐きながら告げた。

「貴方の真実は、あまりにも脆かったようです。……私の否定一つで壊れるほどに」

「……ば、馬鹿な……」 王子は砕けた石の破片を呆然と見つめた。 「王家の秘宝を……ただの感情の力で……?」

「感情ではありません。……意志です」 レオンハルト様が私の隣に立った。 彼は抜剣し、切っ先を王子に向けた。

「賭けは君の負けだ、アレクサンダー殿下。……魔石は砕けた。君の『真実』は証明されなかった」

「……くっ」

王子は顔を歪め、私とレオンハルト様を交互に睨んだ。 そして、フッと自嘲気味に笑った。

「……完敗だ。物理的に壊されるとはな」

彼は手を挙げ、親衛隊に剣を引くよう命じた。

「いいだろう。約束は守る。……今回は退こう」 彼は私の前に歩み寄り、砕けた魔石の欠片を私の掌に乗せた。

「だが、覚えておけ。……私は諦めていない。世界にはまだ『種』が残っている。……そして、君という存在もな」

彼は私の耳元で囁いた。 「君の幸せは、誰の犠牲の上に成り立つか。……いつか君自身が、その答えに苦しむ時が来るだろう」

王子はマントを翻し、会場を去っていった。 帝国の軍人たちもそれに続く。 嵐が去った後のホールに、私はへなへなと座り込んだ。

「……リリア!」 レオンハルト様が私を抱き起こす。

「やりました……守れました……」 「ああ。……見事だった」

彼は私を強く抱きしめた。 私の手の中にある砕けた魔石。 それは鋭く尖っていて、私の掌を少しだけ傷つけていた。 赤い血が滲む。 これが代償。 誰かを守るための戦いは、自分自身を傷つけることでもある。

「……あなたの幸せは、誰の犠牲?」

王子の言葉が、呪いのようにリフレインしていた。 私は勝った。 けれど、この問いへの答えは、まだ出ていない気がした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた

今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。 二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。 ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。 その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。 が、彼女の前に再びアレクが現れる。 どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

婚約破棄された令嬢は、もう誰の答えも借りません

鷹 綾
恋愛
 「君との婚約は破棄する。――君は、もう必要ない」 王太子から一方的に突きつけられた婚約破棄。 その理由は、新たに寵愛する令嬢の存在と、「君は優秀すぎて扱いづらい」という身勝手な評価だった。 だが、公爵令嬢である彼女は泣かない。 怒りに任せて復讐もしない。 ただ静かに、こう告げる。 「承知しました。――もう、誰の答えも借りませんわ」 王国のために尽くし、判断を肩代わりし、失敗すら引き受けてきた日々。 だが婚約破棄を機に、彼女は“助けること”をやめる。 答えを与えない。 手を差し伸べない。 代わりに、考える機会と責任だけを返す。 戸惑い、転び、失敗しながらも、王国は少しずつ変わっていく。 依存をやめ、比較をやめ、他人の成功を羨まなくなったとき―― そこに生まれたのは、静かで確かな自立だった。 派手な断罪も、劇的な復讐もない。 けれどこれは、 「奪われたものを取り戻す物語」ではなく、 「もう取り戻す必要がなくなった物語」。 婚約破棄ざまぁの、その先へ。 知性と覚悟で未来を選び取る、静かな逆転譚。

処理中です...