『姉に全部奪われた私、今度は自分の幸せを選びます ~姉の栄光を支える嘘を、私は一枚ずつ剥がす~』

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第18話「欠片が示す、犯人の輪郭」

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王都の朝は、不気味なほど静かだった。 普段なら市場の準備をする荷車の音や、商人たちの威勢のいい声が響き始める時間だ。 だが、今朝の通りには、人の気配がほとんどない。 たまに見かける市民たちは、一様に虚ろな目をし、教会の鐘の音に導かれるようにふらふらと歩いている。 その手には、セシリア・アルヴェインの肖像画が握られていたり、胸に粗末な青いガラス玉を下げていたりした。

「……ひどい有様ですね」

私は馬車の窓からその光景を眺め、カーテンを閉めた。 この馬車は、レオンハルト様が手配してくれた、ごく普通の商用馬車だ。 御者台には、変装した近衛騎士が座っている。 目的地は、貴族街の一等地にあるバークレイ侯爵邸。

「洗脳の深度が上がっている。……魔石の共鳴が、セシリアの『種』を持たない一般市民にまで波及し始めている証拠だ」

同乗しているレオンハルト様が、地図を見ながら低く言った。 彼は他の班の指揮を執りつつ、最も危険度が高い私のサポートに回ってくれている。

「急がなければなりませんね。……人の心が完全に壊れてしまう前に」 「ああ。……まずはミランダだ。彼女が持っている魔石を回収すれば、貴族街一帯に広がる『虚栄の波長』を断てる」

印章庫で手に入れたデータによれば、ミランダが持つ魔石は、七つの欠片の中でも特に「感情増幅」の出力が高いものだった。 おそらく、彼女自身の強いコンプレックスと承認欲求が、魔石にとって格好の餌になったのだろう。

馬車が止まった。 裏口付近の路地だ。 私たちはフードを目深に被り、音もなく降り立った。 バークレイ侯爵邸は、異様な雰囲気に包まれていた。 屋敷全体が、毒々しいほどの薔薇で飾られ、窓という窓から紫色の淡い光が漏れ出している。

「……行くぞ」

レオンハルト様が短く合図し、私たちは裏門の鍵を魔法で解錠して侵入した。 庭師や警備兵たちがいたが、彼らもまた夢遊病者のように彷徨っているだけだった。 私たちは彼らを刺激しないよう、植え込みの影を縫って本館へと進んだ。

          ◇

屋敷の中は、甘ったるい香水の匂いで充満していた。 廊下の壁には、ミランダの肖像画がずらりと並べられている。 どれも美化されすぎた、お姫様のような絵だ。 使用人たちは見当たらなかった。 おそらく、全員どこかの部屋に閉じ込められているか、あるいは「観客」としてミランダの側に侍らされているのだろう。

「二階の角部屋……あそこが一番、魔力反応が強い」

私が懐中時計型の探知機を確認して告げる。 ミランダの私室だ。 私たちは階段を駆け上がり、その豪奢な扉の前に立った。 中からは、ヒステリックな笑い声と、独り言が聞こえてくる。

「……もっと! もっと光を! わたくしが一番美しくなければならないのよ!」 「はい、お嬢様……とてもお綺麗です……」 「セシリア様よりも? リリアなんかよりも?」 「はい……世界で一番……」

メイドたちの怯えきった声。 私はレオンハルト様と顔を見合わせ、頷いた。 レオンハルト様が扉に手をかけ、一気に押し開ける。

「失礼する」

部屋の中は、目を覆いたくなるような惨状だった。 壁一面に鏡が設置され、数え切れないほどのドレスや宝石が床に散乱している。 そして、その中心に、ミランダがいた。 彼女は下着同然の姿で鏡の前に立ち、胸に青い魔石のペンダントを下げていた。 その目は血走り、頬はこけ、鬼気迫る形相で自分自身を見つめている。 周囲には、疲れ果てて床に座り込んだメイドたちが数人いた。

「誰!? ……あ、あなたたちは!」

鏡越しに私たちに気づいたミランダが、金切り声を上げて振り返った。 その瞬間、彼女の胸の魔石が激しく明滅し、紫色の衝撃波が放たれた。

「うわっ!」 私は咄嗟に腕で顔を庇ったが、衝撃で数歩後退らされた。 物理的な威力はないが、精神を直接揺さぶるような不快な波動だ。 『お前は醜い』『価値がない』というネガティブな感情が、頭の中に直接流れ込んでくる。

「よくも来たわね、リリア! 泥棒猫! わたくしの美しさを盗みに来たの!?」

ミランダが叫ぶ。 その声は、かつてのお茶会での嫌味な令嬢の声ではない。 魔石に取り憑かれた、怪物の咆哮だ。

「ミランダ様。……その石を渡しなさい。それは貴女を美しくはしません。貴女を食い潰しているだけです」 「黙りなさい! これはセシリア様がくださったの! 『あなたは誰よりも輝ける』って!」

彼女はペンダントを握りしめた。 魔石が彼女の指に食い込み、黒い血管のような紋様が首筋へと侵食している。 同化が進んでいる。 このままでは、彼女の精神が崩壊してしまう。

「レオンハルト様、彼女の動きを封じてください! 私がプリズムでリンクを切ります!」 「承知した!」

レオンハルト様が詠唱し、床から氷の蔦を出現させる。 蔦はミランダの手足を拘束しようと伸びるが、彼女は魔石の力で障壁を展開し、それを弾き返した。

「無駄よ! わたくしは選ばれたの! わたくしこそが、次期王妃にふさわしいのよ!」

ミランダが手を振ると、部屋中の宝石箱や鏡が浮き上がり、弾丸のように私たちへ飛んできた。 ポルターガイスト現象。 魔力の暴走だ。

「くっ……!」 レオンハルト様が氷の盾で防ぐ。 ガシャーン! という破壊音が響き、ガラス片が飛び散る。

「リリア、近づけない! 遠距離から狙えるか!?」 「無理です! あの石は彼女の『心の闇』をエネルギーにしています。……物理攻撃では壊せません!」

私は砕け散った鏡の破片に映る、自分の顔を見た。 そして、ミランダの顔を見た。 彼女は何を恐れている? 何を求めている?

『リリアなんかよりも』。 彼女は言った。 彼女はずっと、私を見ていた。 追放された私を蔑みながら、同時に、どんな状況でも折れない私を羨んでいたのではないか?

「……ミランダ様!」

私は飛来する香水瓶を避け、一歩踏み出した。

「貴女はずっと、コンプレックスの塊でしたね! 侯爵家に生まれながら、才能豊かな姉妹と比べられ、社交界ではセシリアの金魚のフンと呼ばれて!」 「だ、黙れぇ!!」

図星だったようだ。 攻撃が激化する。 だが、それは彼女の動揺の証拠だ。

「セシリアは貴女を友人だなんて思っていなかった! ただの『引き立て役』として利用していただけです! 貴女もそれに気づいていたはずでしょう!?」 「違う! セシリア様は……!」

「だから貴女は、私をいじめた! 家を追われた私を蔑むことで、自分の方がマシだと安心したかった! ……でも、本当は貴女自身が一番、自分を惨めだと思っていたのではないですか!?」

「やめろぉぉぉッ!!」

ミランダが絶叫し、魔力が爆発した。 レオンハルト様の氷壁にヒビが入る。 だが、私は止まらない。 心の傷口を抉らなければ、毒は抜けない。

「鏡を見てください、ミランダ様! 今の貴女は美しいですか!? それは貴女がなりたかった姿ですか!?」

私は懐から『真理のプリズム』を取り出し、彼女に向けた。 光の矢ではない。 これは鏡だ。 真実の姿を映し出す、冷酷な鏡。

「見なさいッ!!」

プリズムから放たれた光が、ミランダの目の前に巨大なスクリーンを作り出した。 そこに映ったのは、美化されたお姫様ではない。 髪を振り乱し、眼窩が落ち窪み、魔石に寄生されて醜く歪んだ、哀れな怪物の姿だった。

「……ひっ……」

ミランダは息を呑んだ。 自分の本当の姿を見て、硬直する。 魔石の光が明滅し、彼女への支配力が揺らぐ。

「……これが、わたくし……?」 「そうです。それが、嘘に食われた貴女の成れの果てです」

私は静かに近づいた。 防御魔法など必要ない。彼女はもう、攻撃する意思を失っている。

「でも、まだ戻れます。……その石を捨てれば」 「……捨てられない……。これがないと、わたくしは……ただの空っぽな……」 「空っぽなら、詰めればいいじゃないですか。……自分の力で」

私は彼女の目の前に立ち、そっと手を伸ばした。 彼女の首にかかったペンダントに触れる。 冷たく、禍々しい石。 でも、ミランダの体温も感じられた。

「貴女は、ルビーがお好きでしたね。……以前のお茶会で、貴女が着けていたネックレス。あれは不正な金で買ったものでしたが、貴女にはよく似合っていました」 「……え?」 「貴女には、華やかな赤が似合います。……こんな不気味な青色じゃなくて」

私が微笑むと、ミランダの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。 張り詰めていた虚栄心が決壊し、ただの弱い女の子の心が溢れ出す。

「……う、うわぁぁぁん!」

彼女が泣き崩れると同時に、魔石からパチンと音がした。 共鳴が止まったのだ。 私はすかさずペンダントを引きちぎり、プリズムの光で浄化した。 魔石は黒い煙を上げて沈黙し、ただの薄汚れたガラス片に戻った。

「……回収完了です」

私は魔石を布に包み、鞄に収めた。 部屋を覆っていた紫色の光が消え、朝の陽射しが差し込んでくる。 メイドたちが正気を取り戻し、「お嬢様!」と駆け寄ってくる。

ミランダは床に座り込み、子供のように泣きじゃくっていた。 レオンハルト様が氷壁を解き、肩の力を抜いた。

「……手荒なカウンセリングだったな」 「荒療治が必要な患者でしたから」

私はミランダにハンカチを投げ渡した。

「泣き止んだら、顔を洗ってください。……今の貴女、今までで一番マシな顔をしていますよ」

ミランダは驚いたように顔を上げ、鼻を啜りながら、それでも少しだけ照れくさそうにハンカチを握りしめた。 彼女が私の味方になることはないだろう。 でも、もう敵ではない。 ただの、少し面倒な隣人に戻っただけだ。

          ◇

屋敷を出ると、外の空気は少しだけ軽くなっていた。 貴族街を覆っていた重苦しい圧迫感が薄れている。 通信用の魔道具が震えた。 カミュ団長からだ。

『よう、リリア嬢。こっちは片付いたぜ』 豪快な声が響く。

『商業区のガレオン商会跡地……残党どもが魔石を使って暴徒を集めていたが、全員のしてやった。商会長の息子、トーマスが協力してくれてな。「親父の罪を償う」って、魔石の隠し金庫を開けてくれたよ』

「トーマス様が……。よかったです」 『おう。それと、スラムの方も部下から報告が入った。ガストン院長の隠し部屋から魔石を発見、回収済みだ。……ただ、こっちは少し厄介だったらしい。「聖女様がくれた希望の石だ」って、貧民たちが手放そうとしなくてな』

『どうやって解決した?』 レオンハルト様が尋ねる。

『食いもんだよ。王家の備蓄庫からパンとスープを運び込んで、「本物の希望はこっちだ」って配ったら、あっさり石を寄越しやがった。……現金なもんだが、それが人間ってもんだろ』

カミュ団長らしい解決法だ。 でも、それが一番正しいのかもしれない。 飢えた人に必要なのは、奇跡の石ではなく、温かいスープなのだから。

「残るは……近衛騎士詰め所ですね」 「ああ。ジェイクの件だ」

レオンハルト様の表情が曇る。 王宮内にある騎士団の詰め所。 そこは今、洗脳された騎士たちによって要塞化されている。 ジェイクは、その中心にいる。

『安心しろ。そっちは俺がこれから向かう。……馬鹿な部下の目を覚まさせるのは、上官の義務だからな』 カミュ団長の声には、悲壮感はなかった。 あるのは、揺るぎない信頼と覚悟だけ。

『リリア嬢、レオンハルトの旦那。あんたらは先に行っててくれ。……「本丸」の準備をしてな』 『……頼むぞ、カミュ』 『任せとけ!』

通信が切れる。 これで四つの魔石が回収された。 残るは三つ。 一つは近衛騎士詰め所(カミュ団長が対応中)。 一つは……まだ特定されていない場所にあったはずだが、印章庫の地図では「王宮の地下」を示していた。 そして最後の一つは、玉座の間にあるセシリアのもの。

「……王宮の地下?」 私は記憶を探った。 地下には牢獄や貯蔵庫があるが、魔石が置かれるような場所があっただろうか?

「……リリア。あれを見ろ」

レオンハルト様が空を指差した。 王宮の方角から、黒い煙が上がっている。 火事? いいえ、違う。 あれは……魔力の奔流だ。 どす黒い、ヘドロのような魔力が、王宮の地下から噴き出し、空を覆おうとしている。

「地下から……? まさか!」

私はハッとした。 王宮の地下深く。 そこには、王家の墓所がある。 歴代の王たちが眠る、最も神聖で、最も魔力が集まりやすい場所。

「セシリアは、死者を冒涜するつもりか……!?」

レオンハルト様が馬車を急がせるよう御者に命じる。 馬車が猛スピードで走り出す。

「墓所には、建国当初の『古い結界』の核があります。……もし魔石を使ってその核を汚染すれば、王宮の防御機能そのものを乗っ取ることができます!」 「防御どころではない。……王都全体の地脈を支配下に置く気だ」

レオンハルト様の顔色が蒼白になる。 地脈支配。 それが完成すれば、王都はセシリアの意のままになる巨大な魔法陣と化す。 住民の命を吸い上げ、彼女に無限の魔力を供給するシステム。 アレクサンダー王子が言っていた『種』の本当の意味は、これだったのか。 国家転覆どころではない。 国家そのものを「生贄」にする儀式だ。

「……急ぎましょう。地下の魔石を止めなければ、玉座の間のセシリアには手出しできません」 「ああ。……ジェイクの方はカミュに任せる。我々は地下へ向かうぞ!」

馬車が王宮の裏門へ滑り込む。 城内は騒然としていた。 黒い霧が回廊を這い回り、逃げ惑う使用人たちの悲鳴が響いている。 洗脳されていた衛兵たちも、この異様な事態に混乱し、統制を失っているようだった。

私たちは地下への入り口を目指して走った。 途中、何度か黒い霧が実体化し、魔物の形をとって襲いかかってきたが、レオンハルト様が氷の剣で切り伏せ、私がプリズムの光で浄化した。 連携は完璧だ。 言葉を交わさなくても、互いの呼吸がわかる。

「……ここだ」

王家墓所の入り口。 重厚な石扉は粉々に砕かれ、中から冷気と腐臭が漂ってくる。 私たちは足を踏み入れた。

地下墓所は、広大な迷宮のようだった。 歴代国王の石棺が並ぶ通路を抜けると、最深部に巨大なドーム状の空間が広がっていた。 その中央に、初代国王の棺が安置されている。 そして、その棺の上に、一人の男が立っていた。

ボロボロのローブ。 白髪交じりの髪。 そして、手には複雑な機械仕掛けの装置と、青く輝く魔石を持っていた。

「……ギルバート!?」

私が叫ぶと、男はゆっくりと振り返った。 クレイグの元弟子。 法廷の天井裏から突き落とされ、拘束されたはずの彼が、なぜここに?

「ヒヒッ……。来たか、邪魔者たち」

ギルバートは狂ったように笑った。 その半身は黒い魔力に侵食され、異形化している。

「拘束から逃げ出したのか……」 「逃げた? 違うね。……『あの方』が助けてくれたんだよ。アレクサンダー殿下がね!」

帝国の手引き。 やはり、まだ終わっていなかった。 王子は帰国したふりをして、裏で工作を続けていたのだ。

「見ろ! これぞ私の最高傑作! 『強制共鳴増幅炉』だ!」

ギルバートは装置を作動させた。 魔石が激しく明滅し、地下墓所の霊脈から魔力を吸い上げ始める。 黒い波動が広がり、空間が歪む。

「この装置で地脈を逆流させ、王都中の人間の精神をセシリア様の意識と直結させる! ……そうすれば、誰も彼女に逆らえなくなる! 完全なる平和! 完全なる支配だ!」

「……狂ってる」

レオンハルト様が吐き捨てるように言った。

「科学の発展だと? 貴様がやっていることは、ただの大量虐殺だ!」 「黙れ! 凡人に天才の思考が理解できるものか!」

ギルバートが手を振ると、周囲の石棺が開き、中から白骨化した王たちの遺体が起き上がった。 ネクロマンシー。 魔石の力で、死者すら兵隊に変えたのか。

「かかれ! 私の研究の養分となれ!」

スケルトンの軍団が襲いかかってくる。 数は百以上。 狭い地下空間で、この数は脅威だ。

「リリア、装置を狙え! 雑魚は私が引き受ける!」 「はい!」

レオンハルト様が前に出る。 「氷結界・展開!」 彼を中心に冷気が爆発し、迫り来るスケルトンたちを一瞬で凍りつかせる。 凄まじい魔力消費だ。 長くは持たない。

私はその隙を縫って、ギルバートへと走った。 私の武器は『真理のプリズム』。 でも、今回は光を当てるだけでは足りない。 あの装置を物理的に破壊し、魔石を回収しなければならない。

「させるかよ!」

ギルバートが装置から黒い雷撃を放つ。 私はスライディングで回避し、柱の影に飛び込んだ。 雷撃が石畳を焦がす。

「どうした、隠れているだけか? 監査官!」

ギルバートの嘲笑。 私は懐から、ミランダから回収した魔石を取り出した。 さらに、トーマスから、ガストンから回収した魔石も。 計三個。 これらを使えば……。

「……毒には毒を」

私はクレイグの教えを思い出した。 魔石同士は共鳴する。 ならば、回収した魔石を使って、ギルバートの持つ魔石に「逆位相の波長」をぶつければ? 共鳴過多(オーバーロード)を起こして、自壊させられるかもしれない。

「レオンハルト様! 私に合わせてください!」 私は叫びながら飛び出した。

「何を……!?」 「今です!」

私は三個の魔石を空中に放り投げた。 そして、プリズムを通して魔力を流し込む。 「共鳴反転……クラッシュ!」

三つの魔石が輝き、ギルバートの持つ魔石に向かって光の鎖を伸ばした。 ギルバートの装置が異音を立てる。 「な、何だ!? 出力が……制御できない!?」

「今だ、レオンハルト様!」

「承知ッ!!」

レオンハルト様が氷の剣を巨大化させ、跳躍した。 スケルトンたちを踏み台にし、ギルバートの頭上へと躍り出る。

「貴様の研究は、ここで打ち切りだ!」

一閃。 氷の大剣が、ギルバートの装置ごと魔石を両断した。

ドカァァァン!!

爆発。 黒い霧が霧散し、スケルトンたちがバラバラと崩れ落ちる。 ギルバートは吹き飛ばされ、壁に激突して動かなくなった。 真っ二つになった魔石が、床に転がる。 光を失った、ただの石ころ。

「……はぁ、はぁ……」

レオンハルト様が着地し、膝をつく。 魔力を使い果たしたようだ。 私もへたり込む。 なんとか、止めた。

「……回収完了、ですね」

私は砕けた魔石の破片を拾い上げた。 これで六つ。 地下の汚染も止まった。

「ああ。……残るは一つ」

レオンハルト様が天井を見上げる。 その視線の先、何百メートルも上空にある『玉座の間』。 そこに、最後の敵がいる。

「……行きましょう。リリア」 「はい」

私たちは立ち上がり、出口へと向かった。 戦いは最終局面へ。 もう、誰も私たちを止めるものはいない。 姉との、最後の対話が待っている。
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