死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角

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第一話:終わりの始まりは、砂糖菓子みたいな茶番劇の隣で

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「――スカーレット!君という女はなんて嫉妬深く、醜い心を持っているんだ!」

後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃。
それと共に、私の頭の中へ膨大な記憶が濁流となってなだれ込んできた。

(え……なに、これ……?)

目の前には婚約者であるはずのアルフォンス王太子殿下。
その金色の髪は太陽のように輝き、青い瞳は澄み渡る空のようだ。
まさに絵に描いたような王子様。

そして、その腕の中。
か弱い小動物のように守られる儚げな少女。
桜色の髪をふわふわと揺らし、潤んだ瞳でこちらを見つめる彼女こそ、平民出身でありながら聖なる力に目覚めた『聖女』セレスティア。

この国の誰もが憧れる完璧な二人。

そんな彼らが今、私――公爵令嬢スカーレット・ヴァーミリオンに向けて非難の言葉を投げかけている。

「セレスティアは君が階段から突き落としたと言っている!言い逃れはできないぞ!」

アルフォンス殿下の声がサロンに響き渡る。
突き落とした?
私が?
誰を?

混乱する頭で、か細い声で答えるセレスティアに視線を移した。

「……うぅ、アルフォンス様、もうおやめくださいまし。きっとスカーレット様もわざとではなかったはずですわ。私が至らないばかりにスカーレット様を不快にさせてしまったのです……」

(は……?)

なんだこの女。

涙目で殿下を見上げ許しを乞う姿は、男の庇護欲をこれでもかと掻き立てるだろう。
事実アルフォンス殿下はセレスティアの健気な姿に心を打たれたのか、私への怒りをさらに燃え上がらせている。

「セレスティア、君はなんて心が清らかなんだ!それに比べてスカーレット!君は聖女の優しさにも付け込むのか!」

ああ、もう。
うるさい、うるさい、うるさい。

ガンガンと痛む頭の中。
前世の記憶――日本のOLとして生きていた二十数年の人生が、パズルのピースのようにカチリ、カチリとはまっていく。

(思い出した……!)

ここは前世で私が夢中になってプレイしていた乙女ゲーム『君と紡ぐエターナル・ラブ』の世界だ。

そして私はヒロインであるセレスティアをいじめ抜き、最後には婚約者であるアルフォンス王太子から断罪され、処刑される運命にある悪役令嬢スカーレットなのだと。

(冗談じゃないわよっ!)

目の前の光景はゲームの序盤で、スカーレットがセレスティアに濡れ衣を着せられるイベントそのもの。
この後私は「反省しなさい!」とアルフォンス殿下に言われ、一週間自室での謹慎を命じられる。

それを皮切りに私の『悪行』はどんどんエスカレートし、卒業パーティーの場で満座の中に断罪される――それが正規のストーリーライン。

処刑……?
この私が?
こんな頭の悪そうなカップルの茶番に巻き込まれて、首を刎ねられるですって?

ふざけるのも大概にしてほしい。

怒りで体の芯が震えるのを感じながら私はゆっくりと顔を上げた。
気絶しそうなほどの怒りを完璧な笑みで塗り固める。
これだけは公爵令嬢として叩き込まれた教育の賜物だ。

「まあアルフォンス殿下。わたくしがセレスティアさんを?何かの間違いではございませんこと?」

「とぼけるな!この僕の目が黒いうちはセレスティアに指一本触れさせない!」

「ええ、存じ上げておりますわ。殿下はいつでもセレスティアさんの『近く』にいらっしゃいますものね」

皮肉を込めてそう言うとアルフォンス殿下の顔がカッと赤くなる。
私の婚約者でありながら彼は四六時中セレスティアの側に侍っているのだから自覚はあるのだろう。

すると今まで黙っていたセレスティアがおずおずと口を開いた。

「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」

「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」

(…………はぁ)

もうダメだこいつら。
完全に自分たちの世界に浸りきっている。
自分たちが正義で、私は『救済』されるべき哀れな悪女だと本気で信じ込んでいるのだ。

彼らにとってはこれが崇高な愛の物語なのかもしれない。
だが私にとってはただの迷惑千万な勘違いだ。

そしてその勘違いのせいで私の命が奪われるなんて、絶対に許せるはずがない。

「……承知いたしましたわ、アルフォンス殿下。謹慎処分、謹んでお受けいたします」

今は何を言っても無駄だ。
この場はおとなしく引き下がるしかない。

私は優雅にカーテシーをしてみせると踵を返した。
背後で「ふん、やっと反省する気になったか」「スカーレット様……」などと聞こえてくる声はすべて無視する。

自室に戻り扉を閉めた瞬間、私はその場にへなへなと崩れ落ちた。

「どうするのよ、私……!」

このままでは断罪エンドまっしぐらだ。
ヒロインと仲良くする?
無理に決まってる。あの白々しい女の顔を見るだけで吐き気がする。
アルフォンス殿下に媚びを売る?
もっと無理だ。あんな恋愛脳の男、こっちから願い下げだわ。

八方塞がり。
絶望がじわじわと心を蝕んでいく。

ゲームの記憶を必死に手繰り寄せる。
何か。
何か打開策はなかったか。
正規ルートがダメなら何か別の道が……。

(……待って)

あった。

確かあったはずだ。

ほとんどのプレイヤーが見向きもしなかった、あまりにも危険で、選択すれば即ゲームオーバーになりかねない禁断の選択肢。

それは――

「……裏ルート……」

そうだ。
この国の王太子ではなく、隣接する強大な帝国を治める、血も涙もないと恐れられる若き皇帝。

彼に接触するという、あまりにも無謀な道が。

ゴクリと乾いた喉が鳴る。
それは死地に飛び込むようなもの。

けれど。

このままあのバカップルの自己満足のために死ぬくらいなら――。

「やってやるわ……!」

私は拳を強く握りしめた。
窓の外では夕日が空を真紅に染めていた。
それはまるで私のこれからの運命を暗示しているかのようだった。
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