死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

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第四話:漆黒の皇帝と、勘違いの王子様

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友好式典当日。
王宮の大広間はまばゆいシャンデリアの光と、着飾った貴族たちの熱気で満ち溢れていた。

私は深紅のドレスに身を包み、壁際の目立たない場所に佇んでいた。
この一ヶ月、私は父の用意した専門家たちの下で徹底的な教育を受けた。
帝国の歴史、文化、そして何より皇帝ゼノンに関するあらゆる情報を脳に叩き込んできた。

今日の私はただの悪役令嬢スカーレットではない。
ヴァーミリオン公爵家の切り札として全てを賭けてこの場にいる。

「……見つけた」

人々の輪の中心、一段高くなった玉座に座る人物に私の視線は釘付けになった。

皇帝ゼノン・カフカ。

噂に違わぬ圧倒的な存在感。
夜の闇を溶かして固めたような漆黒の髪。
磨き上げられた黒曜石のごとき瞳。
寸分の隙もなくあつらえられた軍服は彼の鍛え上げられた体躯を完璧に際立たせている。

そしてその表情はまるで精巧な氷の彫刻のようだ。
周囲の喧騒などまるで意に介さず退屈そうに肘をついている。
誰もが彼を恐れ遠巻きに眺めているだけで、迂闊に近づこうとする者は一人もいない。

(あの人が、皇帝……)

ゴクリと喉が鳴る。
想像以上の威圧感に足がすくみそうだ。

私が彼に近づくにはこの人垣を抜けて衆人環視の中、真正面から進み出るしかない。
考えただけで心臓が早鐘を打つ。

(落ち着きなさいスカーレット。覚悟は決めたはずでしょう)

自分にそう言い聞かせ深呼吸をした、その時だった。

「――スカーレット!こんな所にいたのか!」

聞きたくもない声がすぐ側から聞こえた。
振り返るとそこには案の定アルフォンス殿下がセレスティアを伴って立っていた。

アルフォンス殿下は白を基調とした豪奢な礼服を身に纏い、今日も今日とて王子様然としている。
隣のセレスティアは純白のドレスでまるで本物の天使のような可憐さだ。

(うわ……来たわよ、勘違いカップルが)

心の中で悪態をつきながらも私は完璧な淑女の笑みを顔に貼り付けた。

「ごきげんよう、アルフォンス殿下、セレスティアさん。本日はお日柄も良く……」

「そんな挨拶はどうでもいい!」

アルフォンス殿下は私の言葉を遮ると仁王立ちで私を見下ろした。

「君が公爵邸で療養していると聞いて僕もセレスティアも、どれほど心配したか分かっているのか!」

「まあアルフォンス様。スカーレット様もきっと深く反省なさっていたのですよ。お顔の色も少し優れないようですし……ねえ、スカーレット様?」

セレスティアが心底心配しているという表情で私の顔を覗き込んでくる。
その瞳の奥に嘲るような光が宿っているのを私は見逃さない。

こいつら、私がやつれて惨めになっている姿を見に来たんだわ。
そして「可哀想なスカーレットを心優しい私たちが許してあげる」という自己満足に浸りたいだけ。

本当に胸糞が悪くなる。

「ご心配には及びませんわ。おかげさまで今はすっかり回復いたしましたので」

「そうか、それなら良かった!君もようやく己の過ちを悔い改める気になったのだな!」

アルフォンス殿下はなぜか満足げに頷いている。
話が全く噛み合っていない。

「スカーレット、君に良い知らせがあるんだ。卒業パーティーでは僕とセレスティアが、君が皆と和解できるよう取り計らってあげることにした!だからそれまで大人しくしているんだぞ!」

「ええスカーレット様。わたくしたちがついていますからもう何も心配いりませんわ」

(…………はぁ?)

もう開いた口が塞がらない。
この人たち本気で言ってるの?
私がお前たちの茶番劇にこれからも付き合ってやるとでも?

怒りを通り越してもはや哀れみすら感じてしまう。

ああ、なんて可哀想な人たち。
自分たちの見たいものしか見えず、自分たちの信じる『正義』が世界で唯一の真実だと思い込んでいる。

彼らの『悪役』はもうとっくに、彼らの手の届かない場所へ行こうとしているのに。

「……大変ありがたいお申し出ですわ。ですが」

私はそこで言葉を切り、ゆっくりと彼らの背後――玉座に座る漆黒の皇帝へと視線を移した。

「わたくしには少々野暮用がございまして」

「野暮用だと?僕の話を遮ってまで優先することがあるとでも言うのか!」

アルフォンス殿下が再び声を荒らげる。
周囲の貴族たちが何事かとこちらに注目し始めている。

好都合だわ。
注目は多ければ多いほどいい。

私はもはやアルフォンス殿下とセレスティアには目もくれず、ただ一点、玉座の皇帝だけを見据えた。

そしてゆっくりと一歩、踏み出した。

「スカーレット!?どこへ行く気だ!」

背後でアルフォンス殿下が叫んでいるが、もう私の耳には届かない。

人垣がモーゼの十戒のように割れていく。
誰もが信じられないという顔で私を見ている。
王太子殿下を無視して皇帝陛下の元へ向かうなど、狂気の沙汰だと。

分かっている。
これは大博打だ。
ここから先はもう引き返せない。

私の足音だけがやけに大きく広間に響く。

ついに玉座の前までたどり着いた。
見上げる先にいる皇帝ゼノンは、先ほどと変わらず退屈そうな表情のまま私を見下ろしていた。

いや、違う。

その黒曜石の瞳の奥に、ほんのわずかな――興味の色が浮かんでいるのを私は確かに見た。

彼は私とアルフォンス殿下のやり取りを全て見ていたのだ。

心臓が喉から飛び出しそう。
でももう後戻りはできない。

私は震える足を叱咤し、深紅のドレスの裾を優雅につまむと、帝国式の最も丁寧な礼をした。

「――謁見の栄を賜り、恐悦至極に存じます、皇帝陛下」

私の声は震えていなかっただろうか。
冷や汗が背中を伝うのが分かる。

一体何が始まるのか。
広間にいる全ての人間が固唾を飲んで私たちを見守っていた。
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