死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角

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第五話:これは取引、地獄の淵で交わす悪魔の契約

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しん、と静まり返った大広間。
全ての視線が玉座の皇帝と、その前に跪く私に突き刺さっている。

背後ではアルフォンス殿下が「なっ、スカーレット、貴様……!」と絶句している気配がする。
いい気味だわ。せいぜい驚いているがいい。

皇帝ゼノンは玉座に頬杖をついたまま、値踏みするように私を見下ろしている。
その氷のような視線は人の心の奥底まで見透かすようだ。

やがて彼の薄い唇がゆっくりと開かれた。

「……何の用だ、ヴァーミリオン公爵令嬢」

その声は深く、そして底冷えのするような冷たさだった。
空気がビリビリと震える。

ここで臆しては全てが終わる。
私は覚悟を決め顔を上げた。

「陛下にお渡ししたいものがございまして」

「ほう?この私にか」

面白そうに皇帝が片眉を上げる。

「この場で私に何かを差し出そうというのか。随分と度胸があるらしいな」

「身に余るお言葉、痛み入ります。ですがこの『贈り物』は陛下にとって、決して無価値なものではないと確信しておりますわ」

私は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
そこには私がゲームの知識を元に記した『嘆きの森』の鉱脈に関するごく一部の情報だけが書かれている。
全てを渡すのは取引が成立してからだ。

侍従がそれを受け取り皇帝の元へ運ぶ。
ゼノン陛下は羊皮紙にさっと目を通すと、初めてその表情をわずかに変えた。

ほんの少しだけ、その黒い瞳に興味とは違う……鋭い光が宿った。

「……命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか」

彼の言葉が私の心臓を直接掴むように響く。

「愚かで滑稽で、そして……実に唆る女だ、スカーレット」

その瞬間、ぞくりと背筋が震えた。
それは恐怖とは違う、何か別の感情。
この男は私の全てを見抜いている。
私の覚悟も打算も、生き残るためになりふり構わない浅ましさも、全て。

その上で私を『面白い』と判断したのだ。

私は賭けに勝った。
第一関門は突破したのだ。

「……陛下におかれましてはわたくしの置かれた状況、すでにご存知のことと存じます」

「ああ。婚約者に裏切られ濡れ衣を着せられ、王宮の笑いものになっている哀れな令嬢、だったか」

彼の言葉には同情の色など微塵もない。
ただ事実を淡々と述べているだけだ。

「わたくしには力がございません。ですが陛下のお力になれる『知識』がございます。どうか、わたくしを……あなたの庇護下に置いてはいただけないでしょうか」

これが私の精一杯の懇願だった。
プライドも何もかも捨てた生き残るための叫び。

広間がざわめきに包まれる。
一国の王太子の婚約者が隣国の皇帝に公の場で庇護を求めたのだ。
前代未聞のスキャンダルだ。

アルフォンス殿下の顔が怒りで真っ赤になっているのが視界の端に見える。

「スカーレット!貴様正気か!帝国に媚びを売るとはアステリア王国の貴族として恥を知れ!」

その罵声すら今の私には心地よかった。
そうよ、もっと怒りなさい。
あなたの知らないところで物語はもう、あなたの手から離れてしまったのだから。

皇帝ゼノンはアルフォンス殿下を一瞥すらせず、ただ私だけを見つめている。
やがて彼は満足そうにその美しい唇を歪めた。

それは悪魔の笑みだった。

「良いだろう」

その一言で広間のざわめきがピタリと止んだ。

「お前を私の**『籠の中の真紅の鳥』**として、この手ずから愛でてやろう」

彼はゆっくりと玉座から立ち上がると、階段を降りて私の目の前までやってきた。
そして跪く私の顎に冷たい指を添え、ぐいと顔を上げさせる。

間近で見る彼の顔は人間離れした美しさだった。
吸い込まれそうな漆黒の瞳。

「ただし勘違いするな。お前は私の所有物だ。他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」

耳元で囁かれた独占欲に満ちた声。
息もできないほどの甘い命令に、私の心臓がドクンと大きく跳ねた。

(……え?)

なんだろう、この感覚。
もっと冷酷で打算的な関係になると思っていたのに。

彼の瞳の奥に揺らめくのはただの興味や支配欲だけではない。
もっと熱くもっと濃い……まるで執着のような色が、確かに見えた。

「さあ立て。私の隣に来い、スカーレット」

皇帝ゼノンはそう言うと私の手を取って立ち上がらせた。
そして呆然とする私を促し彼の隣……玉座の横へと導く。

それはこの国の誰にも許されない、絶対的な彼の領域。

私はまだ状況が飲み込めないまま彼の隣に立つ。
目の前には信じられないものを見たという顔で立ち尽くす貴族たち。
そして顔を真っ赤にして今にも殴りかかってきそうなアルフォンス殿下と、青ざめた顔で震えるセレスティアの姿があった。

彼らはまだ知らない。
自分たちが主役だと思っていた物語が今この瞬間、根底から覆されたことを。

そして私もまだ知らなかった。
この冷酷非情な皇帝陛下からの息も詰まるほどの甘い溺愛が、この日から始まるということを。

これから始まる新たな日々への期待と少しの不安を胸に、私はそっと隣に立つ漆黒の皇帝を見上げた。
彼は満足げな笑みを浮かべていた。
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