死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角

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第七話:これが皇帝陛下の溺愛…ですか?(物理的に距離が近すぎます)

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「こちらがスカーレット様のお部屋でございます」

侍従に案内された部屋は私の予想を遥かに超えていた。
天蓋付きの巨大なベッド。
ベルベットのソファセット。
陽光が降り注ぐ大きな窓。

ヴァーミリオン公爵家の私の部屋も相当なものだと思っていたが、ここはまるで王女の部屋だ。

「……本当に私がこの部屋を?」

「はい。陛下がご自身の部屋の次に良い部屋を用意するよう、と」

侍従はにこやかに答えるが、その目が少し泳いでいる。
きっと内心では驚き呆れているに違いない。

そして問題は立地だ。
廊下に出て右を向けば重厚な扉がある。
あれが陛下の執務室。

(……物理的に距離が近すぎるわよ)

壁一枚隔てた向こうにあの皇帝がいる。
そう考えただけで息が詰まりそうだ。
これはもう監視以外の何物でもない。

私の大使館での生活はその日から始まった。
そしてそれは私の想像を絶する『監視』生活でもあった。

朝、目を覚ますとすでに侍女が待機している。
彼女たちが用意するドレスに着替え朝食のために食堂へ向かうと……。

「おはようスカーレット。よく眠れたか」

なぜかそこにはすでにゼノン陛下が座っているのだ。
広大な食堂の長テーブルの端と端、ではない。
すぐ隣の席だ。

「へ、陛下!?なぜここに……」

「私の館で食事をするのに理由がいるのか?」

「い、いえ、そうではございませんが……!」

陛下は私が席に着くのを待ってから食事に手をつける。
側近たちは遠巻きに、信じられないものを見るような目で私たちを眺めている。

朝食だけではない。
昼食も。
午後のティータイムも。
そして夕食も。

ぜんぶ、陛下と一緒だった。

「私の鳥がちゃんと餌を食べているか確認するのは、飼い主の当然の義務だろう?」

彼は悪びれもせずそう言い放つ。
その度に私は言葉を失う。

(これって、もしかして……溺愛……なの?)

いやいや違う。絶対に違う。
これはただの執着だ。珍しいペットを手に入れて飽きるまで弄んでいるだけ。
そうに違いない。そう思わなければ私の心臓がもたない。

「陛下はお仕事はよろしいのですか?」

「ああ。お前を見ながらでも仕事はできる」

執務室から大量の書類を持ち出してティータイムのテーブルで仕事を始める陛下。
優雅にお茶を飲む私の隣で彼は涼しい顔でペンを走らせる。

近すぎる。
とにかく距離感がバグっているのだ、この皇帝は。

私が読書をすればいつの間にか背後のソファに座って私の頭上から本を覗き込んでくる。
庭園を散歩すれば一歩後ろをついてくる。

「ひっ……!」

「どうした」

「い、いえ、何でもございません!」

あまりにも気配を消して近づいてくるものだから心臓に悪い。
もはやストーカーの域に達しているのではないだろうか。

そんな生活が数日続いた頃。

その頃、王宮では――。

「スカーレットが帝国大使館に軟禁されているに違いない!」

アルフォンス殿下は自室でそう叫んでいた。

「漆黒の皇帝め、我が国の公爵令嬢を人質に取り何かを企んでいるのだ!僕としたことがまんまと騙されるところだった!」

(完全に被害妄想の世界に入っちゃってるわね……)

どこからか聞きつけた情報によると彼は本気で私が帝国に囚われた悲劇のヒロインだと思い込んでいるらしい。

「まあアルフォンス様、なんてお優しいのでしょう。スカーレット様もきっと殿下の救いを待っていらっしゃいますわ」

隣では聖女セレスティアがうっとりと彼を見つめている。

「ああ、待っていてくれスカーレット!この僕が必ず君を悪の皇帝から救い出してみせるぞ!」

「はいアルフォンス様!わたくしもお祈りしております!」

……うん。
もう好きにしてほしい。
その壮大な勘違いがどういう結末を迎えるのか、ちょっとだけ見てみたい気もする。

クスクスと笑いがこみ上げてくるのを必死で紅茶と共に飲み下した。

そんなある日の夜。
部屋でくつろいでいるとノックの音がした。
入ってきたのはやはりゼノン陛下だった。

「スカーレット」

「陛下。何かご用でしょうか」

「明日は街に出る」

「街に……ですか?」

「ああ。お前のための服を買いに行くぞ」

彼はそれが決定事項であるかのように淡々と告げた。

(服を……買いに?)

私の頭の中に一つの単語が浮かんだ。
それはこの状況に全くそぐわない甘い響きを持つ言葉。

デート……?

いやいやいや、ありえない!
これはきっと私の『鳥籠』を飾るための衣装選びだ。
そうに決まってる。

でも。

「……楽しみにしておけ」

そう言って部屋を出ていった彼の口元が、ほんの少しだけ笑っていたように見えたのはきっと気のせいだ。

私の心臓は期待と不安でまたしても大きく音を立て始めていた。
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