死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角

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第十話:皇帝陛下から贈られた『首輪』は、甘すぎる独占欲の証

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『首輪』という単語が私の頭の中をぐるぐると回っている。
あの皇帝のことだ。
本当に物騒なものを贈ってくる可能性は否定できない。

(どうしよう……もし本当に鎖付きの首輪だったら……)

それを着けさせられて大使館の中を引きずり回されたりしたら……!
いや、さすがにそれはないか。いや、ありえるかもしれない。
一人で勝手にパニックに陥っていると、コンコン、と部屋の扉がノックされた。

「……っ!」

心臓が喉から飛び出しそうになった。
恐る恐る「どなたですか」と尋ねると「私だ」という低い声が返ってくる。

陛下だ。
こんな夜更けに一体何の用……。
まさか例の『首輪』を持ってきたのでは!?

私は覚悟を決め扉を開けた。
そこに立っていた陛下は手には何も持っていなかった。
ほっとしたのも束の間、彼の後ろに控えていた侍従が小さなベルベットの箱を捧げ持っているのが目に入る。

(……きた)

終わった。私の人生、終わったわ。

「入れ」

陛下は当然のように部屋に入ってくるとソファに深く腰掛けた。
そして侍従から箱を受け取ると私に「こっちへ来い」と手招きする。

足が鉛のように重い。
まるで断頭台へ向かう罪人のような気分で私は陛下の前まで歩み寄った。

「陛下、これは……」

「父君から聞いているのだろう?」

陛下は楽しそうに目を細めている。
私が怯えているのを面白がっているのだ。
なんて性格の悪い皇帝なんだろう!

私は観念し目をぎゅっとつむった。
陛下がゆっくりと箱を開ける気配がする。

「目を開けろ」

命令され恐る恐る目を開ける。
そして箱の中身を見て私は息を呑んだ。

そこにあったのは――。

鎖でも革でもなく。
私の瞳と同じ燃えるような真紅の宝石が中央で輝く、それは美しいネックレスだった。
繊細なプラチナのチェーンにはダイヤモンドが散りばめられ、月明かりを浴びてキラキラと輝いている。

「……きれい……」

思わずため息が漏れた。
想像していた物騒なものとは似ても似つかない。
国宝級といっても過言ではない芸術品のようなネックレスだ。

「お前に贈る最初の**『首輪』**だ」

陛下は満足そうにそう言った。

(これが……『首輪』?)

「どうやらつまらない勘違いをしていたようだな」

私の表情から全てを読み取ったのだろう。
陛下はくつくつと喉で笑った。
悔しいけれどその通りだ。

「立て。つけてやる」

「えっ、いえ、自分で……!」

「私の言うことが聞けないのか?」

その一言で私は何も言えなくなった。
おとなしく彼の前に立つと陛下は私の背後に回り込んだ。

彼の指先がうなじに触れる。
ひんやりとした感触にびくりと肩が震えた。

カチリ、と留め具の音がして私の首に冷たい重みが加わる。
彼の指が髪を優しくかき分ける感触。
耳元で聞こえる彼の吐息。

もう私の心臓は限界だった。
顔が熱くてどうにかなってしまいそうだ。

「……よく似合う」

背後から囁くような声。
陛下は私の肩に手を置くと鏡の方へと体を向けさせた。

鏡に映る自分の姿に私はハッとした。
深紅の宝石はまるで私のために作られたかのように、白い肌に映えている。
そしてその後ろには満足げな笑みを浮かべる皇帝の姿。

それはまるで獲物を手に入れた王者のようだった。

「これで、お前が誰のものか誰の目にも明らかだな」

彼の言葉がすとんと胸に落ちてくる。
このネックレスはただの装飾品ではない。
私は皇帝ゼノン・カフカの所有物であるということを示す、甘い呪いの証なのだ。

この男の底なしの独占欲。
それをこんなにも美しい形で示されるなんて。
恐怖よりも先に胸の高鳴りを覚えてしまっている自分に、私は戸惑いを隠せない。

「さて」

私の心を見透かすように陛下が口を開いた。

「褒美はやったぞ」

彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
吐息がかかるほどの距離で黒曜石の瞳が私を捕らえて離さない。

「お前は私に、何を返してくれる?」

その声は悪魔のように甘く、そして抗えない響きを持っていた。
え、返すって……何を?
私の頭は完全にフリーズしてしまった。

意味深な言葉の真意を測りかねて、ただただ彼の瞳を見つめ返すことしかできない。
私の真っ赤な顔を見て彼は楽しそうに、その美しい唇の端を吊り上げた。
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