死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角

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第三十話:母の日記、そして本当の想い

私は震える手で日記帳のページをめくった。
そこに綴られていたのは若き日の皇后リリアーナの、喜びと苦悩、そして深い愛情の記録だった。

『――今日、愛するあの方との間に新しい命が宿っていることが分かった。男の子だそうだ。あの方はまるで子供のようにはしゃいで私を抱きしめてくれた。この子にはゼノン、と名付けよう。強くそして優しい子に育ちますように』

『――ゼノンが生まれた。なんて可愛らしいのだろう。漆黒の髪はあの方にそっくり。でも瞳の色は私と同じ真紅だ。この赤い瞳がこの子の未来を曇らせることがありませんように』

日記はゼノン陛下への深い愛情で満ち溢れていた。
しかしページが進むにつれてその内容は次第に暗い影を帯びていく。

『――宮廷での側室たちの嫌がらせが日に日に酷くなる。私だけなら耐えられる。でもゼノンにまで危害が及ぶことだけは許せない』

『――あの方は私とゼノンを守るため必死に戦ってくれている。だが敵はあまりにも多い。私が、あの方の、そしてこの国の弱点になってしまっている』

そして最後の日記。
それは彼女が死を覚悟した日に書かれたものだった。

『――愛するゼノンへ。
母はもうすぐあなたのそばを離れなければなりません。
どうか私を許さないで。
私を憎んで。そして強く生きて。
あなたはこの国の未来の光なのだから。

いつかあなたが本当に心を許せる運命の女性と出会ったなら。
その時は私のことなど忘れてその人を全力で愛しなさい。

あなたの赤い瞳は呪いなどではない。
それは私とあなたを繋ぐ愛の証。
私はいつでも空の上からあなたを見守っています。

愛しています、私のたった一人の愛しい息子』

日記を読み終えた時、私の頬は涙でぐしょぐしょになっていた。
なんて強い人なのだろう。
そしてなんて深い愛情なのだろう。

彼女は夫と息子を守るため自ら死を選んだのだ。
そして息子の未来を誰よりも願っていた。

(そうだったんだ……)

私は何も分かっていなかった。
陛下の心の傷の本当の深さを。
そして彼がどれだけ母親を愛していたのかを。

皇太后の言葉なんて気にする必要はなかったのだ。
私が彼の母親に似ていること。
それは呪いなんかじゃない。
陛下にとっては愛する母と私を繋ぐ大切な絆だったのかもしれない。

なのに私は勝手に傷ついて彼を拒絶してしまった。
なんて愚かなことをしたのだろう。

私は日記帳を抱きしめベッドから飛び出した。
彼に会わなければ。
会って謝って、そして伝えなければ。

私の本当の気持ちを。

私は夢中で城の廊下を走った。
向かう先はもちろん彼の執務室だ。

扉を勢いよく開ける。
そこに彼はいた。
窓の外を見つめ静かに佇んでいた。

「陛下……!」

私の声に彼がゆっくりと振り返る。
その顔はひどく憔悴していた。

「……読んだか」

「はい……」

私は彼に駆け寄りその胸に思い切り飛び込んだ。

「ごめんなさい……!ごめんなさい陛下……!」

私は子供のように声を上げて泣いた。

「わたくし何も分かっていませんでした……!あなたの苦しみも悲しみも何も……!ただ自分のことばかりで……!」

そんな私を彼は黙って抱きしめてくれた。
その腕は少し震えていた。

「……馬鹿な女だ。お前はいつもそうだ」

彼の声は優しかった。

「私の方こそすまなかった。お前を追い詰めてしまった」

「いいえ……!」

私は彼の胸に顔を埋めたまま首を振る。

「わたくし決心しました」

私は顔を上げ彼の瞳をまっすぐに見つめた。

「わたくし、あなたの本当の『家族』になりたいです。あなたの過去も未来も全てを分かち合える、たった一人のあなたの妻に、なりたいです」

私の言葉に彼が息を呑んだのが分かった。

「……後悔、しないか」

「しません。絶対に」

私の瞳に揺るぎない決意が宿っているのを彼は感じ取ってくれたのだろう。
彼は諦めたようにふっと笑うと、私の頬にそっと手を添えた。

そして彼の唇がゆっくりと私の唇に重なった。
それは今までで一番優しくて、そして愛に満ちたキスだった。
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