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第8話:一筋の光、第二王子
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ゼノン様による「ヒロイン撃退(物理的に)」計画を、なんとか阻止してから数日。
私の学園生活は、針の筵(むしろ)そのものだった。
リリアナは、私を見るたびに怨嗟の籠った視線を送ってくるし、彼女を取り巻く攻略対象者たち――騎士団長の息子や宰相の息子――も、私を「リリアナ様をいじめる悪女」として、遠巻きに非難している。
そして何より、ゼノン様の過保護…いや、監視が、日に日にエスカレートしていた。
休み時間ごとに教室に現れるのは当たり前。
私が誰かと話そうものなら、その相手を氷の視線で射殺さんばかりに睨みつける。
おかげで、私の周りからは誰もいなくなった。
完全に、孤立無援。
『もう、いっそ断罪された方が楽だったかもしれない…』
そんな風に、弱音を吐いてしまった、ある日の昼下がり。
私は、学園の図書館の奥、あまり人が来ない書架の陰で、一人ため息をついていた。
ゼノン様は今日、王宮での会議があるため、学園には来ていない。
束の間の、平和な時間。
…まあ、私の護衛と称して、シルヴァーグ公爵家の屈強な騎士たちが、図書館の入り口を固めているのだけれど。
「はぁ…」
もう一度、重いため息をついた、その時だった。
「おや? こんな場所で、麗しのご令嬢がため息とは。何か悩み事かな?」
明るく、軽やかな声が頭上から降ってきた。
驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは、見覚えのある人物だった。
輝くような金髪に、空を映したような青い瞳。
人懐っこい笑みを浮かべた、優美な顔立ち。
「…アラン殿下」
この国の第二王子、アラン・フォン・エルクハルト。
彼もまた、『聖女と騎士たちのラプソディ』の攻略対象者の一人だった。
ゲームでの彼は、誰にでも優しい、いわゆる「キラキラ王子様」キャラだ。
「俺の顔を覚えていてくれたなんて、光栄だな。ヴァレンシュタイン公爵令嬢、イザベラ嬢」
彼は優雅に微笑むと、私の隣の椅子に、ごく自然に腰を下ろした。
「ひっ…!」
近すぎる!
思わず、身を固くする私を見て、アラン殿下はくすくすと笑った。
「そんなに警戒しないでほしいな。ただ、君があまりにも美しい薔薇のようだったから、つい声をかけてしまっただけさ」
「は、はぁ…」
さらり、と口説き文句を告げる彼。
ゼノン様とは、正反対のタイプだ。
太陽と氷。光と影。
「それにしても、君の婚約者殿はいないのか? いつも、君の隣にぴったりとくっついているというのに」
「ええ、本日は公務で…」
「そうか。それは、好都合だ」
アラン殿下は、にっこりと笑う。
その笑顔は、どこか悪戯っぽい響きを帯びていた。
「少し、君と話がしてみたかったんだ」
「…私と、ですか?」
「ああ。君は、いつもつまらなそうな顔をしているからね。あの氷の公爵と一緒にいて、本当に楽しいのかい?」
ストレートな物言いに、私は言葉に詰まる。
楽しいわけがない。毎日がサバイバルだ。
私の表情から何かを察したのか、アラン殿下は同情するように眉を下げた。
「…大変だな、君も」
「え…」
「政略結婚とはいえ、相手があれでは、心も休まらないだろう。シルヴァーグ公爵は、有能だが、いかんせん人間味というものが欠けているからな」
まるで、私の心の中を見透かしたような言葉。
初めてだった。
私のこの状況を、理解してくれる人に出会ったのは。
「あ、あの…」
思わず、何かが込み上げてくる。
ずっと一人で抱えてきた不安や恐怖が、彼の優しさに触れて、少しだけ溶けていくような気がした。
「俺でよければ、話くらいは聞くよ? 溜め込んでいると、毒だからね」
彼はそう言うと、私の手を、そっと取った。
「君のような美しい花が、萎れてしまうのは見たくない」
その温かい手に、涙が出そうになる。
この人は、私の味方になってくれるかもしれない。
この地獄のような状況から、私を救い出してくれる、一筋の光かもしれない。
私が、縋るような思いで彼を見つめ返した、その時だった。
ゴオォォッ…
どこからか、凄まじい冷気が流れてきた。
図書館の中なのに、まるで真冬の屋外にいるかのような、肌を刺す寒気。
そして。
「――その汚い手を、俺のイザベラから離せ」
地獄の底から響いてくるような、低い、低い声。
振り返るまでもない。
この声の主は、一人しかいない。
会議で、王宮にいるはずの、ゼノン・シルヴァーグ公爵が。
そのアイスブルーの瞳に、燃え盛る嫉妬の炎を宿して、そこに立っていた。
私の学園生活は、針の筵(むしろ)そのものだった。
リリアナは、私を見るたびに怨嗟の籠った視線を送ってくるし、彼女を取り巻く攻略対象者たち――騎士団長の息子や宰相の息子――も、私を「リリアナ様をいじめる悪女」として、遠巻きに非難している。
そして何より、ゼノン様の過保護…いや、監視が、日に日にエスカレートしていた。
休み時間ごとに教室に現れるのは当たり前。
私が誰かと話そうものなら、その相手を氷の視線で射殺さんばかりに睨みつける。
おかげで、私の周りからは誰もいなくなった。
完全に、孤立無援。
『もう、いっそ断罪された方が楽だったかもしれない…』
そんな風に、弱音を吐いてしまった、ある日の昼下がり。
私は、学園の図書館の奥、あまり人が来ない書架の陰で、一人ため息をついていた。
ゼノン様は今日、王宮での会議があるため、学園には来ていない。
束の間の、平和な時間。
…まあ、私の護衛と称して、シルヴァーグ公爵家の屈強な騎士たちが、図書館の入り口を固めているのだけれど。
「はぁ…」
もう一度、重いため息をついた、その時だった。
「おや? こんな場所で、麗しのご令嬢がため息とは。何か悩み事かな?」
明るく、軽やかな声が頭上から降ってきた。
驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは、見覚えのある人物だった。
輝くような金髪に、空を映したような青い瞳。
人懐っこい笑みを浮かべた、優美な顔立ち。
「…アラン殿下」
この国の第二王子、アラン・フォン・エルクハルト。
彼もまた、『聖女と騎士たちのラプソディ』の攻略対象者の一人だった。
ゲームでの彼は、誰にでも優しい、いわゆる「キラキラ王子様」キャラだ。
「俺の顔を覚えていてくれたなんて、光栄だな。ヴァレンシュタイン公爵令嬢、イザベラ嬢」
彼は優雅に微笑むと、私の隣の椅子に、ごく自然に腰を下ろした。
「ひっ…!」
近すぎる!
思わず、身を固くする私を見て、アラン殿下はくすくすと笑った。
「そんなに警戒しないでほしいな。ただ、君があまりにも美しい薔薇のようだったから、つい声をかけてしまっただけさ」
「は、はぁ…」
さらり、と口説き文句を告げる彼。
ゼノン様とは、正反対のタイプだ。
太陽と氷。光と影。
「それにしても、君の婚約者殿はいないのか? いつも、君の隣にぴったりとくっついているというのに」
「ええ、本日は公務で…」
「そうか。それは、好都合だ」
アラン殿下は、にっこりと笑う。
その笑顔は、どこか悪戯っぽい響きを帯びていた。
「少し、君と話がしてみたかったんだ」
「…私と、ですか?」
「ああ。君は、いつもつまらなそうな顔をしているからね。あの氷の公爵と一緒にいて、本当に楽しいのかい?」
ストレートな物言いに、私は言葉に詰まる。
楽しいわけがない。毎日がサバイバルだ。
私の表情から何かを察したのか、アラン殿下は同情するように眉を下げた。
「…大変だな、君も」
「え…」
「政略結婚とはいえ、相手があれでは、心も休まらないだろう。シルヴァーグ公爵は、有能だが、いかんせん人間味というものが欠けているからな」
まるで、私の心の中を見透かしたような言葉。
初めてだった。
私のこの状況を、理解してくれる人に出会ったのは。
「あ、あの…」
思わず、何かが込み上げてくる。
ずっと一人で抱えてきた不安や恐怖が、彼の優しさに触れて、少しだけ溶けていくような気がした。
「俺でよければ、話くらいは聞くよ? 溜め込んでいると、毒だからね」
彼はそう言うと、私の手を、そっと取った。
「君のような美しい花が、萎れてしまうのは見たくない」
その温かい手に、涙が出そうになる。
この人は、私の味方になってくれるかもしれない。
この地獄のような状況から、私を救い出してくれる、一筋の光かもしれない。
私が、縋るような思いで彼を見つめ返した、その時だった。
ゴオォォッ…
どこからか、凄まじい冷気が流れてきた。
図書館の中なのに、まるで真冬の屋外にいるかのような、肌を刺す寒気。
そして。
「――その汚い手を、俺のイザベラから離せ」
地獄の底から響いてくるような、低い、低い声。
振り返るまでもない。
この声の主は、一人しかいない。
会議で、王宮にいるはずの、ゼノン・シルヴァーグ公爵が。
そのアイスブルーの瞳に、燃え盛る嫉妬の炎を宿して、そこに立っていた。
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