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第14話:静かなる逆襲
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アラン殿下との「偽りの逢い引き」作戦は、表面上は順調に進んでいるように見えた。
私たちは学園の公認カップルのようになり、ゼノン様は変わらず不気味な沈黙を保っている。
しかし、異変は、全く別の場所で起きていた。
「――なんだと!? ボーフォール侯爵が、横領の罪で捕らえられた!?」
アラン殿下との密談中、彼の側近である騎士がもたらした報告に、殿下は驚きの声を上げた。
「はい。今朝方、王家の監査役が突然、侯爵家を訪れ、不正の証拠を突きつけたと…」
「馬鹿な! ボーフォール侯爵は、長年、我が派閥を支えてきた清廉な人物だ! 不正など働くはずがない!」
ボーフォール侯爵は、アラン殿下の母親である王妃の実家筋にあたる、有力な貴族だ。
彼の失脚は、アラン殿下にとって大きな痛手となる。
事件は、それだけでは終わらなかった。
「殿下! 大変です! 今度はラクロワ子爵が、禁制品の密輸の容疑で拘束されました!」
「何!? ラクロワ子爵も、俺の支持者だぞ!」
「さらに、モンテスパン男爵家が、多額の負債を抱えて倒産したとの情報が…!」
次から、次へと。
まるで、ドミノ倒しのように、アラン殿下を支持する貴族たちが、スキャンダルや不運に見舞われ、失脚していく。
そのどれもが、あまりにもタイミングが良すぎる。
まるで、誰かが裏で糸を引いているかのように。
「……ゼノン、か」
アラン殿下は、奥歯をギリ、と噛みしめた。
その顔には、いつもの余裕の笑みはなく、焦りと怒りが浮かんでいる。
「奴め…! 俺と直接対決するのを避け、俺の周りの人間から、一人、また一人と潰していく気か…!」
なんて、えげつないやり方。
直接的な暴力よりも、よほど狡猾で、陰湿な攻撃だ。
私は、その手口に、背筋が凍る思いがした。
ゼノン様は、怒りを表に出さない代わりに、水面下で、静かに、しかし確実に、敵を社会的に抹殺していたのだ。
「申し訳ありません、殿下…私のせいで…」
私がアラン殿下との関係を公にしたことで、ゼノン様を刺激してしまったのかもしれない。
しかし、アラン殿下は、私の言葉に首を横に振った。
「いや、君のせいではないさ。俺が、奴を甘く見ていた。…奴は、俺が想像していた以上に、危険な男だ」
彼は、悔しそうに拳を握りしめる。
彼の派閥は、この短期間で、半壊状態に追い込まれてしまった。
このままでは、彼の王位継承の道さえ、危うくなるかもしれない。
「こうなったら、悠長なことは言っていられないな…」
アラン殿下は、決意を秘めた目で、私を見つめた。
「イザベラ嬢。もう一度だけ、君の力を借りたい。…いや、これは、命令だ」
「…殿下?」
「ゼノンの書斎に、忍び込んでもらう」
彼の言葉に、私は息をのんだ。
「ですが、危険すぎると…」
「危険は承知の上だ! だが、もうこれしか、奴を止める手立てはない! 奴の力の秘密を暴き、それを公表すれば、奴の権威は失墜する! それしか、逆転の目はないんだ!」
アラン殿下は、焦っていた。
追い詰められているのだ。
私も、同じだった。
このまま、アラン殿下が失脚すれば、私を守ってくれる盾はいなくなる。
そうなれば、私は再び、ゼノン様の鳥かごの中に戻るしかない。
今度こそ、二度と逃げられない、完全な監禁生活が待っているだろう。
『やるしかない…』
危険なのは、わかっている。
でも、もう、後戻りはできないのだ。
「…わかりましたわ。やってみます」
私がそう答えると、アラン殿下は少しだけ、安堵した表情を見せた。
「すまない、イザベラ。この埋め合わせは、必ずする」
彼はそう言って、一枚の羊皮紙を私に手渡した。
「これは、シルヴァーグ公爵邸の見取り図だ。それから、書斎にかけられているであろう、基本的な魔法防御の解き方も記しておいた。だが、これ以上の罠がある可能性も高い。くれぐれも、慎重に行動してくれ」
「はい…」
私は、震える手で、その羊皮紙を受け取った。
決行は、明日の夜。
シルヴァーグ公爵家で、月に一度の定例の晩餐会が開かれる日。
その喧騒に紛れて、書斎に忍び込むのだ。
私の運命は、この作戦にかかっている。
成功か、破滅か。
息詰まるような緊張感の中で、私は、ふと、あることに気がついた。
首にかけている、翠玉のネックレス。
ゼノン様から、一番最初に贈られたものだ。
普段は、ひんやりと冷たいこの宝石が、なぜか、ほんのりと、温かい。
『…気のせいかしら』
私は、その微かな温かさに、言いようのない胸騒ぎを覚えながら、決戦の夜に向けて、心を固めるのだった。
私たちは学園の公認カップルのようになり、ゼノン様は変わらず不気味な沈黙を保っている。
しかし、異変は、全く別の場所で起きていた。
「――なんだと!? ボーフォール侯爵が、横領の罪で捕らえられた!?」
アラン殿下との密談中、彼の側近である騎士がもたらした報告に、殿下は驚きの声を上げた。
「はい。今朝方、王家の監査役が突然、侯爵家を訪れ、不正の証拠を突きつけたと…」
「馬鹿な! ボーフォール侯爵は、長年、我が派閥を支えてきた清廉な人物だ! 不正など働くはずがない!」
ボーフォール侯爵は、アラン殿下の母親である王妃の実家筋にあたる、有力な貴族だ。
彼の失脚は、アラン殿下にとって大きな痛手となる。
事件は、それだけでは終わらなかった。
「殿下! 大変です! 今度はラクロワ子爵が、禁制品の密輸の容疑で拘束されました!」
「何!? ラクロワ子爵も、俺の支持者だぞ!」
「さらに、モンテスパン男爵家が、多額の負債を抱えて倒産したとの情報が…!」
次から、次へと。
まるで、ドミノ倒しのように、アラン殿下を支持する貴族たちが、スキャンダルや不運に見舞われ、失脚していく。
そのどれもが、あまりにもタイミングが良すぎる。
まるで、誰かが裏で糸を引いているかのように。
「……ゼノン、か」
アラン殿下は、奥歯をギリ、と噛みしめた。
その顔には、いつもの余裕の笑みはなく、焦りと怒りが浮かんでいる。
「奴め…! 俺と直接対決するのを避け、俺の周りの人間から、一人、また一人と潰していく気か…!」
なんて、えげつないやり方。
直接的な暴力よりも、よほど狡猾で、陰湿な攻撃だ。
私は、その手口に、背筋が凍る思いがした。
ゼノン様は、怒りを表に出さない代わりに、水面下で、静かに、しかし確実に、敵を社会的に抹殺していたのだ。
「申し訳ありません、殿下…私のせいで…」
私がアラン殿下との関係を公にしたことで、ゼノン様を刺激してしまったのかもしれない。
しかし、アラン殿下は、私の言葉に首を横に振った。
「いや、君のせいではないさ。俺が、奴を甘く見ていた。…奴は、俺が想像していた以上に、危険な男だ」
彼は、悔しそうに拳を握りしめる。
彼の派閥は、この短期間で、半壊状態に追い込まれてしまった。
このままでは、彼の王位継承の道さえ、危うくなるかもしれない。
「こうなったら、悠長なことは言っていられないな…」
アラン殿下は、決意を秘めた目で、私を見つめた。
「イザベラ嬢。もう一度だけ、君の力を借りたい。…いや、これは、命令だ」
「…殿下?」
「ゼノンの書斎に、忍び込んでもらう」
彼の言葉に、私は息をのんだ。
「ですが、危険すぎると…」
「危険は承知の上だ! だが、もうこれしか、奴を止める手立てはない! 奴の力の秘密を暴き、それを公表すれば、奴の権威は失墜する! それしか、逆転の目はないんだ!」
アラン殿下は、焦っていた。
追い詰められているのだ。
私も、同じだった。
このまま、アラン殿下が失脚すれば、私を守ってくれる盾はいなくなる。
そうなれば、私は再び、ゼノン様の鳥かごの中に戻るしかない。
今度こそ、二度と逃げられない、完全な監禁生活が待っているだろう。
『やるしかない…』
危険なのは、わかっている。
でも、もう、後戻りはできないのだ。
「…わかりましたわ。やってみます」
私がそう答えると、アラン殿下は少しだけ、安堵した表情を見せた。
「すまない、イザベラ。この埋め合わせは、必ずする」
彼はそう言って、一枚の羊皮紙を私に手渡した。
「これは、シルヴァーグ公爵邸の見取り図だ。それから、書斎にかけられているであろう、基本的な魔法防御の解き方も記しておいた。だが、これ以上の罠がある可能性も高い。くれぐれも、慎重に行動してくれ」
「はい…」
私は、震える手で、その羊皮紙を受け取った。
決行は、明日の夜。
シルヴァーグ公爵家で、月に一度の定例の晩餐会が開かれる日。
その喧騒に紛れて、書斎に忍び込むのだ。
私の運命は、この作戦にかかっている。
成功か、破滅か。
息詰まるような緊張感の中で、私は、ふと、あることに気がついた。
首にかけている、翠玉のネックレス。
ゼノン様から、一番最初に贈られたものだ。
普段は、ひんやりと冷たいこの宝石が、なぜか、ほんのりと、温かい。
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