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第16話:砕け散る未来予想図
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絶望。
私の計画も、希望も、すべてがこの男――ゼノン・シルヴァーグの手のひらの上で踊らされていたに過ぎなかった。
監視用のネックレス。
私を守るという名目の、敵を自動的に排除する結界。
彼の用意した鳥かごは、私が思っていたよりもずっと巧妙で、そして残酷だった。
「さあ、イザベラ。教えてもらおうか」
私の前に跪いたゼノン様が、冷たい好奇心を宿した瞳で私を見つめる。
「お前は、俺を裏切ってまで、何を知りたかったんだ?」
もう、おしまいだ。
隠し通すことなど、何もできない。
ならば、いっそ。
いっそ、すべてをぶちまけてしまった方が、楽になれるかもしれない。
私は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
そして、心の奥底から、叫びを絞り出した。
「知りたかったからに決まっているでしょう!?」
「…ほう?」
「あなたが、いつ、私を捨てるのか! いつ、あの聖女様に心移りして、私を断罪するのか! その未来が、いつ来るのかを知りたかったのよ!」
堰を切ったように、言葉が溢れ出す。
「私は知っているんです! あなたが、桜色の髪の聖女、リリアナ・スチュアートに恋をして、彼女を虐げた私を、卒業パーティーの日に大勢の前で断罪することを!」
「……」
「国外追放か、処刑か…! そんな未来、冗談じゃない! 私は、ただ、死にたくなかっただけなの! あなたから逃げて、生き延びたかっただけなのよ!」
これが、私の真実。
私の、必死の抵抗の理由。
どうだ。
未来のお前の行動を、すべて言い当ててやったぞ。
驚いたか。恐ろしいか。
私は、半ばやけくそになって、彼の反応を待った。
きっと彼は、未来を知る私を不気味に思い、気味悪がって、今度こそ私を排除しようとするだろう。
しかし。
ゼノン様の反応は、私の予想を、遥か斜め上に裏切るものだった。
彼は、私の告白を聞き終えると、心底、困惑した顔で、首を傾げたのだ。
「……すまない、イザベラ」
彼は、真剣な表情で、言った。
「話の筋が、まったく見えないのだが」
「……はい?」
「まず、その…リリアナ?とかいう女だが」
彼は、記憶を探るように、わずかに眉を寄せる。
「誰だ、それは」
「……………え?」
今、なんて?
誰だ、それは…って、言った?
「さ、桜色の髪の…聖女様ですわよ!? この間、薔薇園であなたが脅した…!」
「ああ、あの平民か」
彼は、思い出したようにポンと手を打った。
「やけに馴れ馴れしく、お前に絡んできた無礼な女だな。名前など、知らん」
名前すら、覚えていなかった。
あの、物語のヒロインの名前を。
私の頭の中が、真っ白になる。
じゃあ、心変わりは? 恋に落ちるのは?
「それから、もう一つ」
ゼノン様は、私の両肩を掴み、まっすぐに私の瞳を見つめた。
「俺が、お前を、断罪…?」
彼の声には、信じられないという響きと、そして、ほんの少しの傷ついたような色が混じっていた。
「なぜ、俺が、そんなことをする?」
「え…」
「俺が、愛する唯一の女を、自らの手で断罪する…と? イザベラ、お前は、俺のことを、その程度の男だと思っていたのか?」
愛する、唯一の女…?
何を言っているの、この人は。
私の知っているゲームのシナリオと、あまりにも、違いすぎる。
「で、ですが、ゲームでは…!」
「ゲーム?」
「私が前世でプレイした乙女ゲームでは、あなたがヒロインと恋に落ちて、悪役令嬢の私を断罪するのが、正規ルートだったのです!」
ああ、もう、しっちゃかめっちゃかだ。
前世のことまで口走ってしまった。
しかし、ゼノン様は、そんな私の突拍子もない言葉を、馬鹿にしたりはしなかった。
彼は、ただ静かに、私の言葉を受け止めている。
そして、深く、深いため息をついた。
「…なるほどな」
彼は、何かを理解したようだった。
「どうやら、俺と君の間には、とてつもなく大きな、勘違いと情報の齟齬があるらしい」
「勘違い…?」
「ああ。お前が信じているその“未来”とやらが、そもそも、根本から間違っている」
彼は、そう断言した。
そのアイスブルーの瞳には、揺るぎない確信が宿っている。
私の知っている未来が、間違い…?
じゃあ、私が今まで必死に回避しようとしてきた、あの断罪イベントは?
私の絶望は、すべて、無意味だったとでも言うの?
頭が、理解を拒否する。
私の世界が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「イザベラ。お前が、なぜそんな奇妙な“未来”を信じているのかは、今は問わん」
彼は、私の頬を包み込むと、言った。
「だが、一つだけ、真実を教えてやろう」
その声は、どこまでも真摯で、そして、切実だった。
「俺が、お前以外の女を愛することなど、天地がひっくり返ってもあり得ん。俺が、お前を手放すくらいなら、この世界ごと、滅ぼす」
それは、今まで私が聞いてきた、どの言葉よりも、狂っていて。
そして、どの言葉よりも、真実味を帯びて、私の心に突き刺さった。
私の未来予想図は、どうやら、一枚の絵画ですらなかった。
それは、ただの、子供の落書きだったのかもしれない。
私の計画も、希望も、すべてがこの男――ゼノン・シルヴァーグの手のひらの上で踊らされていたに過ぎなかった。
監視用のネックレス。
私を守るという名目の、敵を自動的に排除する結界。
彼の用意した鳥かごは、私が思っていたよりもずっと巧妙で、そして残酷だった。
「さあ、イザベラ。教えてもらおうか」
私の前に跪いたゼノン様が、冷たい好奇心を宿した瞳で私を見つめる。
「お前は、俺を裏切ってまで、何を知りたかったんだ?」
もう、おしまいだ。
隠し通すことなど、何もできない。
ならば、いっそ。
いっそ、すべてをぶちまけてしまった方が、楽になれるかもしれない。
私は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
そして、心の奥底から、叫びを絞り出した。
「知りたかったからに決まっているでしょう!?」
「…ほう?」
「あなたが、いつ、私を捨てるのか! いつ、あの聖女様に心移りして、私を断罪するのか! その未来が、いつ来るのかを知りたかったのよ!」
堰を切ったように、言葉が溢れ出す。
「私は知っているんです! あなたが、桜色の髪の聖女、リリアナ・スチュアートに恋をして、彼女を虐げた私を、卒業パーティーの日に大勢の前で断罪することを!」
「……」
「国外追放か、処刑か…! そんな未来、冗談じゃない! 私は、ただ、死にたくなかっただけなの! あなたから逃げて、生き延びたかっただけなのよ!」
これが、私の真実。
私の、必死の抵抗の理由。
どうだ。
未来のお前の行動を、すべて言い当ててやったぞ。
驚いたか。恐ろしいか。
私は、半ばやけくそになって、彼の反応を待った。
きっと彼は、未来を知る私を不気味に思い、気味悪がって、今度こそ私を排除しようとするだろう。
しかし。
ゼノン様の反応は、私の予想を、遥か斜め上に裏切るものだった。
彼は、私の告白を聞き終えると、心底、困惑した顔で、首を傾げたのだ。
「……すまない、イザベラ」
彼は、真剣な表情で、言った。
「話の筋が、まったく見えないのだが」
「……はい?」
「まず、その…リリアナ?とかいう女だが」
彼は、記憶を探るように、わずかに眉を寄せる。
「誰だ、それは」
「……………え?」
今、なんて?
誰だ、それは…って、言った?
「さ、桜色の髪の…聖女様ですわよ!? この間、薔薇園であなたが脅した…!」
「ああ、あの平民か」
彼は、思い出したようにポンと手を打った。
「やけに馴れ馴れしく、お前に絡んできた無礼な女だな。名前など、知らん」
名前すら、覚えていなかった。
あの、物語のヒロインの名前を。
私の頭の中が、真っ白になる。
じゃあ、心変わりは? 恋に落ちるのは?
「それから、もう一つ」
ゼノン様は、私の両肩を掴み、まっすぐに私の瞳を見つめた。
「俺が、お前を、断罪…?」
彼の声には、信じられないという響きと、そして、ほんの少しの傷ついたような色が混じっていた。
「なぜ、俺が、そんなことをする?」
「え…」
「俺が、愛する唯一の女を、自らの手で断罪する…と? イザベラ、お前は、俺のことを、その程度の男だと思っていたのか?」
愛する、唯一の女…?
何を言っているの、この人は。
私の知っているゲームのシナリオと、あまりにも、違いすぎる。
「で、ですが、ゲームでは…!」
「ゲーム?」
「私が前世でプレイした乙女ゲームでは、あなたがヒロインと恋に落ちて、悪役令嬢の私を断罪するのが、正規ルートだったのです!」
ああ、もう、しっちゃかめっちゃかだ。
前世のことまで口走ってしまった。
しかし、ゼノン様は、そんな私の突拍子もない言葉を、馬鹿にしたりはしなかった。
彼は、ただ静かに、私の言葉を受け止めている。
そして、深く、深いため息をついた。
「…なるほどな」
彼は、何かを理解したようだった。
「どうやら、俺と君の間には、とてつもなく大きな、勘違いと情報の齟齬があるらしい」
「勘違い…?」
「ああ。お前が信じているその“未来”とやらが、そもそも、根本から間違っている」
彼は、そう断言した。
そのアイスブルーの瞳には、揺るぎない確信が宿っている。
私の知っている未来が、間違い…?
じゃあ、私が今まで必死に回避しようとしてきた、あの断罪イベントは?
私の絶望は、すべて、無意味だったとでも言うの?
頭が、理解を拒否する。
私の世界が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「イザベラ。お前が、なぜそんな奇妙な“未来”を信じているのかは、今は問わん」
彼は、私の頬を包み込むと、言った。
「だが、一つだけ、真実を教えてやろう」
その声は、どこまでも真摯で、そして、切実だった。
「俺が、お前以外の女を愛することなど、天地がひっくり返ってもあり得ん。俺が、お前を手放すくらいなら、この世界ごと、滅ぼす」
それは、今まで私が聞いてきた、どの言葉よりも、狂っていて。
そして、どの言葉よりも、真実味を帯びて、私の心に突き刺さった。
私の未来予想図は、どうやら、一枚の絵画ですらなかった。
それは、ただの、子供の落書きだったのかもしれない。
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