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第18話:ヒロインからの黒い招待状
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ゼノン様との話し合い(という名の尋問)は、一旦、中断となった。
私は、彼の書斎から解放されたものの、自室での軟禁という、新たなステージへと駒を進めることになった。
部屋の前には、シルヴァーグ公爵家の騎士が見張りとして立ち、窓には魔法的な錠がかけられている。
物理的にも、魔法的にも、完璧な鳥かご。
『まあ、書斎に忍び込んだのだから、当然の処遇よね…』
ベッドの上で、私はため息をついた。
頭の中は、ぐちゃぐちゃに混乱している。
ゼノン様が、ずっと私を想っていた?
私の知らないところで、命を救ったことがある?
そして、私の知っている未来は、根本から間違っている…?
「…わからないわ」
何もかもが、わからない。
一体、何を信じればいいのか。
コンコン、と控えめなノックの音。
「イザベラ様、お食事をお持ちいたしました」
入ってきたのは、私の侍女のアンナだった。
彼女は、心配そうな顔で、食事の乗ったワゴンを押してくる。
「アンナ…」
「イザベラ様、大丈夫でございますか? ゼノン様が、ひどく恐ろしい形相で…」
「ええ、大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」
私は、力なく微笑んだ。
アンナは、昔から私に仕えてくれている、信頼できる侍女だ。
この城の中で、唯一、私が心を許せる相手かもしれない。
「さあ、イザベラ様。少しでも、お召し上がりください。元気を出さないと」
アンナに促され、私はスープに口をつけた。
味は、よくわからなかった。
食事が終わる頃、アンナが、ふと、思い出したように口を開いた。
「そういえば、イザベラ様。先ほど、お部屋の掃除をしておりましたら、このようなものが…」
彼女が、エプロンのポケットから取り出したのは、一通の、封筒だった。
上質な羊皮紙でできた、簡素な封筒。
しかし、宛名は、確かに「イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン様」と書かれている。
「手紙…? 誰から?」
「それが、差出人の名前はなく…窓の隙間に、挟まっておりましたの」
魔法で施錠された窓の隙間に?
つまり、普通の人間には届けられない方法で、この手紙はここへ来たということだ。
嫌な予感が、胸をよぎる。
私は、アンナから手紙を受け取ると、震える手で封を切った。
中には、一枚の便箋。
そこに書かれていたのは、流れるように美しい、しかし、どこか冷たさを感じさせる筆跡だった。
『親愛なるイザベラ様へ』
その書き出しに、私の心臓が、ドクン、と大きく跳ねた。
『突然のお手紙、失礼いたします。』
『あなたが今、大変な苦境に立たされていること、お察しいたします。』
『ですが、どうか絶望なさらないでください。あなたには、まだ、道が残されておりますわ。』
回りくどい言い方。
一体、誰が、何のために。
私は、息をのんで、続きを読む。
『ゼノン・シルヴァーグ公爵の、本当の姿をご存じですか?』
『彼こそが、このエルクハルト王国を、内側から蝕む、真の“悪”なのです。』
“悪”という言葉に、私の背筋がぞっとする。
『もし、あなたが、彼の秘密を知り、彼の手から逃れたいと本気で願うのなら。』
『今宵、月が一番高く昇る頃、時計塔の頂上へ、お一人でお越しください。』
『そこで、あなたに、すべての真実をお話しいたしますわ。』
そして、手紙の最後には、こう結ばれていた。
『あなたの、味方より。――リリアナ・スチュアート』
リリアナ…!
あの、ヒロインが、なぜ?
彼女は、私を敵視していたはず。
ゼノン様を、私から奪うと、宣戦布告までしたのに。
それなのに、今度は、私の「味方」を名乗り、ゼノン様を「悪」だと言い切る。
一体、どういうこと?
彼女の目的は、何?
ゼノン様と結ばれることじゃなかったの?
『これは、罠…?』
私を、おびき出すための、罠かもしれない。
時計塔に行けば、リリアナと、彼女に加担する誰かが待ち構えていて、私を亡き者にしようと…。
でも。
もし、これが、罠ではないとしたら?
もし、彼女の言うことが、本当だとしたら?
ゼノン様が、本当に、この国を蝕む“悪”だとしたら…?
私は、手紙を握りしめたまま、葛藤した。
ゼノン様の話と、リリアナの話。
どちらが、真実で、どちらが、嘘なのか。
わからない。
でも、確かめなければならない。
このまま、何も知らずに、鳥かごの中で生き続けるのは、もう嫌だ。
「アンナ」
私は、決意を固めて、侍女を呼んだ。
「お願いがあるの。この部屋から、抜け出すのを手伝ってほしいの」
「イザベラ様!? し、しかし、ゼノン様の命令が…!」
「お願い、アンナ。私、行かなければならない場所があるの」
私の真剣な瞳に、アンナは、一瞬、ためらった。
しかし、彼女は、私がただの我儘で言っているのではないことを、察してくれたようだった。
「…わかりました。イザベラ様。このアンナ、命に代えましても」
彼女は、静かに、しかし強く、頷いてくれた。
黒い招待状を、私は強く握りしめる。
ヒロインが待つ、時計塔へ。
そこにあるのが、真実か、それとも、さらなる絶望か。
確かめるために、私は、再び、危険な闇の中へと、足を踏み出す。
私は、彼の書斎から解放されたものの、自室での軟禁という、新たなステージへと駒を進めることになった。
部屋の前には、シルヴァーグ公爵家の騎士が見張りとして立ち、窓には魔法的な錠がかけられている。
物理的にも、魔法的にも、完璧な鳥かご。
『まあ、書斎に忍び込んだのだから、当然の処遇よね…』
ベッドの上で、私はため息をついた。
頭の中は、ぐちゃぐちゃに混乱している。
ゼノン様が、ずっと私を想っていた?
私の知らないところで、命を救ったことがある?
そして、私の知っている未来は、根本から間違っている…?
「…わからないわ」
何もかもが、わからない。
一体、何を信じればいいのか。
コンコン、と控えめなノックの音。
「イザベラ様、お食事をお持ちいたしました」
入ってきたのは、私の侍女のアンナだった。
彼女は、心配そうな顔で、食事の乗ったワゴンを押してくる。
「アンナ…」
「イザベラ様、大丈夫でございますか? ゼノン様が、ひどく恐ろしい形相で…」
「ええ、大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」
私は、力なく微笑んだ。
アンナは、昔から私に仕えてくれている、信頼できる侍女だ。
この城の中で、唯一、私が心を許せる相手かもしれない。
「さあ、イザベラ様。少しでも、お召し上がりください。元気を出さないと」
アンナに促され、私はスープに口をつけた。
味は、よくわからなかった。
食事が終わる頃、アンナが、ふと、思い出したように口を開いた。
「そういえば、イザベラ様。先ほど、お部屋の掃除をしておりましたら、このようなものが…」
彼女が、エプロンのポケットから取り出したのは、一通の、封筒だった。
上質な羊皮紙でできた、簡素な封筒。
しかし、宛名は、確かに「イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン様」と書かれている。
「手紙…? 誰から?」
「それが、差出人の名前はなく…窓の隙間に、挟まっておりましたの」
魔法で施錠された窓の隙間に?
つまり、普通の人間には届けられない方法で、この手紙はここへ来たということだ。
嫌な予感が、胸をよぎる。
私は、アンナから手紙を受け取ると、震える手で封を切った。
中には、一枚の便箋。
そこに書かれていたのは、流れるように美しい、しかし、どこか冷たさを感じさせる筆跡だった。
『親愛なるイザベラ様へ』
その書き出しに、私の心臓が、ドクン、と大きく跳ねた。
『突然のお手紙、失礼いたします。』
『あなたが今、大変な苦境に立たされていること、お察しいたします。』
『ですが、どうか絶望なさらないでください。あなたには、まだ、道が残されておりますわ。』
回りくどい言い方。
一体、誰が、何のために。
私は、息をのんで、続きを読む。
『ゼノン・シルヴァーグ公爵の、本当の姿をご存じですか?』
『彼こそが、このエルクハルト王国を、内側から蝕む、真の“悪”なのです。』
“悪”という言葉に、私の背筋がぞっとする。
『もし、あなたが、彼の秘密を知り、彼の手から逃れたいと本気で願うのなら。』
『今宵、月が一番高く昇る頃、時計塔の頂上へ、お一人でお越しください。』
『そこで、あなたに、すべての真実をお話しいたしますわ。』
そして、手紙の最後には、こう結ばれていた。
『あなたの、味方より。――リリアナ・スチュアート』
リリアナ…!
あの、ヒロインが、なぜ?
彼女は、私を敵視していたはず。
ゼノン様を、私から奪うと、宣戦布告までしたのに。
それなのに、今度は、私の「味方」を名乗り、ゼノン様を「悪」だと言い切る。
一体、どういうこと?
彼女の目的は、何?
ゼノン様と結ばれることじゃなかったの?
『これは、罠…?』
私を、おびき出すための、罠かもしれない。
時計塔に行けば、リリアナと、彼女に加担する誰かが待ち構えていて、私を亡き者にしようと…。
でも。
もし、これが、罠ではないとしたら?
もし、彼女の言うことが、本当だとしたら?
ゼノン様が、本当に、この国を蝕む“悪”だとしたら…?
私は、手紙を握りしめたまま、葛藤した。
ゼノン様の話と、リリアナの話。
どちらが、真実で、どちらが、嘘なのか。
わからない。
でも、確かめなければならない。
このまま、何も知らずに、鳥かごの中で生き続けるのは、もう嫌だ。
「アンナ」
私は、決意を固めて、侍女を呼んだ。
「お願いがあるの。この部屋から、抜け出すのを手伝ってほしいの」
「イザベラ様!? し、しかし、ゼノン様の命令が…!」
「お願い、アンナ。私、行かなければならない場所があるの」
私の真剣な瞳に、アンナは、一瞬、ためらった。
しかし、彼女は、私がただの我儘で言っているのではないことを、察してくれたようだった。
「…わかりました。イザベラ様。このアンナ、命に代えましても」
彼女は、静かに、しかし強く、頷いてくれた。
黒い招待状を、私は強く握りしめる。
ヒロインが待つ、時計塔へ。
そこにあるのが、真実か、それとも、さらなる絶望か。
確かめるために、私は、再び、危険な闇の中へと、足を踏み出す。
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