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第20話:敵との一時休戦協定
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アラン殿下と別れ、私は再び、アンナの手引きでシルヴァーグ公爵邸へと戻った。
軟禁されている自室のベッドに横たわりながら、私は、これからのことを考えていた。
アラン殿下は、大人しくしていろと言った。
でも、本当に、それでいいのだろうか。
黒幕の正体がわかるまで、ただ、待っているだけでいいのだろうか。
それでは、何も変わらない。
結局は、誰かに守られ、誰かの決定に従うだけだ。
それは、もう、嫌だ。
『私が、動かなければ』
自分の運命は、自分で切り開く。
そのために、私は、一つの決断を下した。
それは、最も危険で、最も困難な道。
ゼノン・シルヴァーグと、直接、話をすること。
彼を、信じる、信じないではない。
ただ、情報を共有し、今のこの異常な状況を、彼がどう考えているのかを知る必要がある。
彼が、本当に“悪”なのか、それとも、彼もまた、黒幕の被害者なのかを、見極めなければならない。
私は、ベッドから起き上がると、部屋の扉を、強く、叩いた。
「開けなさい! ゼノン様に、お話があります!」
扉の外に立つ見張りの騎士は、一瞬、戸惑ったようだった。
「イザベラ様、しかし、公爵様からは、誰とも会わせるなと…」
「婚約者である、私の頼みが聞けないというの!? これは、命令よ!」
私は、ありったけの威厳を込めて、叫んだ。
公爵令嬢としての、プライドを、すべて使って。
私の気迫に圧されたのか、騎士は、「…少々、お待ちください」と言って、その場を走り去った。
おそらく、ゼノン様の許可を取りに行ったのだろう。
数分後。
扉が、静かに開かれた。
そこに立っていたのは、他でもない、ゼノン様、本人だった。
「…何の用だ、イザベラ」
彼の声は、静かだったが、その瞳は、私の真意を探るように、鋭く光っている。
「お話があります。二人きりで」
「…いいだろう。入れ」
彼は、私を部屋の中に招き入れた。
そこは、彼の私室のようだった。
書斎と同じく、本がびっしりと並んでいるが、どこか生活感が感じられる。
彼は、私をソファに座るように促すと、自分も、その正面に腰を下ろした。
「それで? 俺を呼びつけてまで、話したいこととは、何だ?」
「単刀直入に申し上げます」
私は、覚悟を決めて、彼をまっすぐに見つめた。
「あなたを、失脚させようとしている、黒幕が存在します」
私の言葉に、ゼノン様の眉が、わずかに動いた。
「…知っている」
「え…」
「お前が気づくより、ずっと前からな。俺の周りで、不審な動きがあることくらい、とうに把握している」
彼は、やはり、気づいていたのだ。
そして、その上で、静観していたとでもいうのか。
「なぜ、何もしないのですか!?」
「泳がせているだけだ。尻尾を掴むためにな」
「そんな悠長なことをしている間に、アラン殿下の派閥は、半壊しましたわ! 私が原因で!」
「あの王子など、どうでもいい。自業自得だ」
彼の冷たい言葉に、私は、カッとなった。
「どうでもよくなどありません! このままでは、私たち、いえ、この国が、その黒幕のせいで、滅茶苦茶にされてしまうかもしれないのですよ!?」
「……」
「あなたを、信じていいのか、まだ、わかりません。あなたが、本当に、私の知らないところで、何か恐ろしいことをしているのかもしれない、という疑いも、消えてはいません」
私は、一度、言葉を切った。
そして、震える声で、続ける。
「でも…! でも、このまま、何もせずに、誰かの思惑通りに動かされるのは、もう、ごめんなのです」
私は、ソファから立ち上がると、彼の前に立った。
そして、深く、深く、頭を下げる。
「お願いします、ゼノン様」
私の、人生で、初めての、心からの願い。
「私と、一時的に、手を組んでください」
沈黙。
時が、止まったかのような、静寂が、部屋を支配する。
やがて、彼のため息が、聞こえた。
「…頭を上げろ、イザベラ」
私は、おそるおそる、顔を上げた。
彼の瞳は、驚きと、そして、今まで見たことのない、何か別の感情に、揺れていた。
「お前は、本当に、俺を飽きさせない女だな」
彼は、ふっと、口元に、かすかな笑みを浮かべた。
「いいだろう。その提案、乗ってやる」
「! 本当ですか!?」
「ああ。ただし、条件がある」
彼は、立ち上がると、私の腕を掴んだ。
「今後、お前は、俺の許可なく、俺の側から離れることは許さん。俺の目の届く範囲で、行動しろ」
「それは…」
「これが、最低限の譲歩だ。俺の婚約者が、二度も俺を裏切り、敵と密会するなど、本来であれば、許されることではないからな」
彼の瞳は、笑っていなかった。
これは、取引だ。
対等な、契約。
でも、それで、よかった。
守られるだけの人形ではなく、私も、当事者として、この戦いに参加できるのなら。
「…わかりましたわ。その条件、飲みましょう」
私がそう答えると、彼は、満足げに頷いた。
「交渉成立だな、俺の、“共犯者”」
彼は、アラン殿下が言ったのと同じ言葉を、口にした。
しかし、その響きは、全く違うものに聞こえた。
こうして、私と、冷徹なはずの婚約者は、奇妙な、一時休戦協定を結んだ。
敵対していた二人が、見えない共通の敵を倒すために、初めて、同じ方向を向く。
それが、さらなる波乱の幕開けになることなど、この時の私は、まだ知る由もなかった。
軟禁されている自室のベッドに横たわりながら、私は、これからのことを考えていた。
アラン殿下は、大人しくしていろと言った。
でも、本当に、それでいいのだろうか。
黒幕の正体がわかるまで、ただ、待っているだけでいいのだろうか。
それでは、何も変わらない。
結局は、誰かに守られ、誰かの決定に従うだけだ。
それは、もう、嫌だ。
『私が、動かなければ』
自分の運命は、自分で切り開く。
そのために、私は、一つの決断を下した。
それは、最も危険で、最も困難な道。
ゼノン・シルヴァーグと、直接、話をすること。
彼を、信じる、信じないではない。
ただ、情報を共有し、今のこの異常な状況を、彼がどう考えているのかを知る必要がある。
彼が、本当に“悪”なのか、それとも、彼もまた、黒幕の被害者なのかを、見極めなければならない。
私は、ベッドから起き上がると、部屋の扉を、強く、叩いた。
「開けなさい! ゼノン様に、お話があります!」
扉の外に立つ見張りの騎士は、一瞬、戸惑ったようだった。
「イザベラ様、しかし、公爵様からは、誰とも会わせるなと…」
「婚約者である、私の頼みが聞けないというの!? これは、命令よ!」
私は、ありったけの威厳を込めて、叫んだ。
公爵令嬢としての、プライドを、すべて使って。
私の気迫に圧されたのか、騎士は、「…少々、お待ちください」と言って、その場を走り去った。
おそらく、ゼノン様の許可を取りに行ったのだろう。
数分後。
扉が、静かに開かれた。
そこに立っていたのは、他でもない、ゼノン様、本人だった。
「…何の用だ、イザベラ」
彼の声は、静かだったが、その瞳は、私の真意を探るように、鋭く光っている。
「お話があります。二人きりで」
「…いいだろう。入れ」
彼は、私を部屋の中に招き入れた。
そこは、彼の私室のようだった。
書斎と同じく、本がびっしりと並んでいるが、どこか生活感が感じられる。
彼は、私をソファに座るように促すと、自分も、その正面に腰を下ろした。
「それで? 俺を呼びつけてまで、話したいこととは、何だ?」
「単刀直入に申し上げます」
私は、覚悟を決めて、彼をまっすぐに見つめた。
「あなたを、失脚させようとしている、黒幕が存在します」
私の言葉に、ゼノン様の眉が、わずかに動いた。
「…知っている」
「え…」
「お前が気づくより、ずっと前からな。俺の周りで、不審な動きがあることくらい、とうに把握している」
彼は、やはり、気づいていたのだ。
そして、その上で、静観していたとでもいうのか。
「なぜ、何もしないのですか!?」
「泳がせているだけだ。尻尾を掴むためにな」
「そんな悠長なことをしている間に、アラン殿下の派閥は、半壊しましたわ! 私が原因で!」
「あの王子など、どうでもいい。自業自得だ」
彼の冷たい言葉に、私は、カッとなった。
「どうでもよくなどありません! このままでは、私たち、いえ、この国が、その黒幕のせいで、滅茶苦茶にされてしまうかもしれないのですよ!?」
「……」
「あなたを、信じていいのか、まだ、わかりません。あなたが、本当に、私の知らないところで、何か恐ろしいことをしているのかもしれない、という疑いも、消えてはいません」
私は、一度、言葉を切った。
そして、震える声で、続ける。
「でも…! でも、このまま、何もせずに、誰かの思惑通りに動かされるのは、もう、ごめんなのです」
私は、ソファから立ち上がると、彼の前に立った。
そして、深く、深く、頭を下げる。
「お願いします、ゼノン様」
私の、人生で、初めての、心からの願い。
「私と、一時的に、手を組んでください」
沈黙。
時が、止まったかのような、静寂が、部屋を支配する。
やがて、彼のため息が、聞こえた。
「…頭を上げろ、イザベラ」
私は、おそるおそる、顔を上げた。
彼の瞳は、驚きと、そして、今まで見たことのない、何か別の感情に、揺れていた。
「お前は、本当に、俺を飽きさせない女だな」
彼は、ふっと、口元に、かすかな笑みを浮かべた。
「いいだろう。その提案、乗ってやる」
「! 本当ですか!?」
「ああ。ただし、条件がある」
彼は、立ち上がると、私の腕を掴んだ。
「今後、お前は、俺の許可なく、俺の側から離れることは許さん。俺の目の届く範囲で、行動しろ」
「それは…」
「これが、最低限の譲歩だ。俺の婚約者が、二度も俺を裏切り、敵と密会するなど、本来であれば、許されることではないからな」
彼の瞳は、笑っていなかった。
これは、取引だ。
対等な、契約。
でも、それで、よかった。
守られるだけの人形ではなく、私も、当事者として、この戦いに参加できるのなら。
「…わかりましたわ。その条件、飲みましょう」
私がそう答えると、彼は、満足げに頷いた。
「交渉成立だな、俺の、“共犯者”」
彼は、アラン殿下が言ったのと同じ言葉を、口にした。
しかし、その響きは、全く違うものに聞こえた。
こうして、私と、冷徹なはずの婚約者は、奇妙な、一時休戦協定を結んだ。
敵対していた二人が、見えない共通の敵を倒すために、初めて、同じ方向を向く。
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