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第13話 うだつの上がらない男の、初めての決断
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監禁生活一日目の夜は、静寂と冷気だけが友だった。 私が押し込められたのは、屋敷の北側にある客間だ。 かつては貴賓室だったらしいが、今は家具もまともにない空っぽの部屋。 窓には鉄格子こそないものの、外には武装した衛兵が立っており、扉の前にも見張りの気配がある。
「……寒いわね」
私は薄い毛布を肩に巻きつけ、窓の外を見上げた。 雪はやんでいたが、月は厚い雲に隠れている。 私の心と同じだ。 出口が見えない。
アーネストは「最後の賭け」に出ると言って屋敷を出て行ったきり、戻っていない。 彼が何をしようとしているのか、私には分からない。 ただ、彼の監察官としての地位、あるいは命そのものを危険に晒すような行動であることだけは確かだ。
そして、レオン。 毒と過労で倒れた彼がどうなったのか、情報を得る手段もない。 ミシェルは「医者を呼ぶ」というカノンの訴えを聞き入れただろうか。 それとも、このまま彼が衰弱死するのを待っているのか。
不安が、黒いインクのように心に滲んでいく。 私は膝を抱え、自分の体温だけで暖を取ろうとした。
グゥゥゥ……。
お腹が鳴った。 そういえば、昨夜のフィナンシェ以来、まともな食事をしていない。 アーネストと食べたクリーム煮込みは、味わう間もなく中断されてしまった。 空腹は、思考を鈍らせ、勇気を奪う。 悪役令嬢として、どんな逆境でも優雅に振る舞うと決めていたけれど、生理的な欲求には抗えない。
「……何か、作らなきゃ」
無意識に呟いて、ハッとする。 ここには厨房も、食材も、火もない。 あるのは冷たい床と、埃っぽいカーテンだけ。 料理ができないということが、これほどまでに私の無力感を増幅させるとは思わなかった。
その時だった。
ガチャリ。
扉の鍵が開く音がした。 私は弾かれたように顔を上げる。 ミシェルか? それとも食事を運んできた衛兵か?
扉がゆっくりと開く。 廊下の明かりを背負って立っていたのは、予想外の人物だった。
「……レオン、様?」
そこにいたのは、レオン・ド・グランシェ子爵だった。 その姿を見て、私は息を呑んだ。
酷い有様だった。 顔色はまだ紙のように白く、目の下には深い隈がある。 着ているシャツは煤で黒く汚れ、袖口は焦げている。 そして何より目についたのは、彼の手だ。 指のあちこちに白い布――おそらくシーツを裂いたもの――が巻かれ、そこから赤い血が滲んでいる。
彼は震える足取りで部屋に入ってきた。 その手には、銀色の盆が握られている。 盆の上には、湯気を立てるスープ皿が一つと、スプーン。
「……衛兵にお金を渡して、通してもらった」
レオンは掠れた声で言い、盆をサイドテーブルに置いた。 カチャン、と大きな音が鳴る。 盆を持つ手が震えていたせいだ。
「レオン様、お体は……! 寝ていなければダメですわ!」
私は彼に駆け寄り、体を支えた。 熱い。 まだ高熱がある。 立っているのが不思議なくらいだ。
「……寝てなんかいられないさ」
彼は私の肩を借りて、椅子にドサリと座り込んだ。 荒い息を吐きながら、彼はスープ皿を指差した。
「……食え。腹、減ってるだろ」
私は皿の中身を見た。 それは、お世辞にも美味しそうとは言えない代物だった。 色は茶色く濁っている。 具材は大小バラバラで、中には生焼けのように見える塊もある。 表面には灰のような黒い粒――焦げカス――が浮いている。 そして、匂い。 焦げた匂いと、生姜の強烈な香り、そして微かな血の匂い。
「これは……?」
「『スープ』だ。……名前なんてない。俺が作った」
「あなたが?」
私は驚愕して彼を見た。 レオン・ド・グランシェ。 上げ膳据え膳で育ち、厨房になんて一度も入ったことのない貴族。 あの「うだつの上がらない」彼が、料理を?
「……カノンに、作り方を聞いたんだ。お前が最初に作った、あの骨のスープ……どうやって作るんだって」
彼は包帯だらけの手を恥ずかしそうに隠した。
「でも、難しかった。火は熱いし、包丁は滑るし……お前みたいに魔法で温度を見ることなんてできない」
彼は自嘲気味に笑った。
「鍋は焦がすわ、指は切るわ、塩の量は分からなくなるわ……散々だ。カノンが横で悲鳴を上げていたよ」
想像できた。 病身の主人が、ふらふらの体で包丁を握り、鬼気迫る形相で野菜と格闘する姿が。 カノンが止めるのも聞かず、必死に鍋をかき混ぜる姿が。
「どうして……そんな無理を?」
「……悔しかったんだ」
レオンは膝の上で拳を握りしめた。 滲んだ血が、包帯を赤く染める。
「俺は、何も知らなかった。領民が何を食べているのか、お前がどんな思いで料理を作っていたのか。……アーネスト殿に言われて、初めて気づいた。『数字の源は食事だ』って言葉の意味が」
彼は顔を上げ、私を真っ直ぐに見た。 その瞳は、熱に潤んでいたが、もう逃げてはいなかった。
「お前は、ずっと戦っていた。鍋と包丁で。……俺は、ただ部屋に籠もって、酒を飲んで、可哀想な自分に酔っていただけだ」
「レオン様……」
「だから、俺も戦おうと思った。……まずは、お前と同じ場所に立つことから」
彼はスープを顎でしゃくった。
「味見してくれ。……不味いとは思うが、毒は入ってない」
私はスプーンを手に取った。 手が震える。 この一杯のスープに込められた、彼の不器用で、重すぎるほどの想い。 それは、どんな高級料理よりも尊いものに思えた。
私はスープをすくい、口に運んだ。
「……っ」
正直、味は酷かった。 塩辛い。 野菜は硬い部分と崩れた部分が混在している。 焦げた苦味が口いっぱいに広がる。 そして、生姜の入れすぎで舌が痺れるほど辛い。
貴族の料理ではない。 素人の、失敗作だ。
けれど。
喉を通った瞬間、カッと熱いものが胃袋に落ちた。 それは、ただの温度ではない。 彼の体温。彼の必死さ。彼の覚悟。 それらが、冷え切っていた私の内臓を、直接鷲掴みにして温めていくような感覚。
涙が、溢れた。 止まらなかった。
「……どうだ?」
レオンが不安そうに尋ねる。
「……塩辛いですわ」
私は泣き笑いのような顔で答えた。
「それに、焦げ臭いし、野菜の切り方も雑。……こんな料理、王都のレストランなら即刻クビですわ」
「……だよな」
彼は肩を落とした。
「でも」
私は二口目を口に運んだ。 涙の味が混ざって、さらに塩辛くなったけれど、世界で一番美味しいと思った。
「……温かいです。すごく」
私はスプーンを動かし続けた。 三口、四口。 食べるたびに、体の中に力が湧いてくる。 生きる力。 誰かに想われているという実感。
「ありがとう、レオン様」
私が言うと、彼は目を見開いた。 そして、照れくさそうに鼻を擦った。
「……礼を言われるようなもんじゃない」
「いいえ。これは、私が食べた中で、一番『勇気』の味がするスープです」
私はスープを最後の一滴まで飲み干した。 空になった皿を見て、レオンはホッとしたように息を吐いた。
「……そうか。なら、作った甲斐があった」
彼は立ち上がろうとしたが、よろめいて再び椅子に手をついた。
「レオン様!」
「大丈夫だ。……少し、目眩がしただけだ」
彼は頭を振り、私に向き直った。 その顔つきが変わった。 病人のそれではなく、領主の顔に。
「セシリア。……ここを出るぞ」
「え? でも、ミシェルが……」
「知ったことか。ここは俺の屋敷だ。俺の許可なく、客人を監禁することなど許さん」
彼は懐から、一丁の古い鍵を取り出した。 それは、屋敷のすべての扉を開けることができる、当主のマスターキー。
「アーネスト殿は、命懸けで外へ行った。……あいつが戻ってくるまで、俺たちが中で指をくわえて待っているわけにはいかない」
「でも、どうやって? 外には衛兵が……」
「正面突破だ」
レオンはニヤリと笑った。 それは、初めて見る、彼の悪戯っ子のような、そして頼もしい笑顔だった。
「俺には武器はない。魔法も使えない。……だが、俺には『味方』がいる」
「味方?」
「ああ。お前が作ってくれた、最強の味方がな」
* * *
私たちは部屋を出た。 廊下の突き当たりに、ミシェルの部下である見張りの男が立っていた。 彼は私たちが部屋から出てきたのを見て、槍を構えた。
「おい、勝手に出るな! 部屋に戻れ!」
「道を開けろ」
レオン子爵が静かに言った。 ボロボロの服、包帯だらけの手。 見た目は弱々しい。 だが、その声には、不思議な威圧感があった。
「俺はグランシェ子爵、この屋敷の主だ。貴様らに命令される覚えはない」
「はん、落ちぶれ貴族が。ミシェル様の命令だ。大人しくしねぇと……」
男が槍を突き出そうとした、その時。
バッ!
廊下の陰から、数人の影が飛び出した。 トム、カノン、そして年配の執事。 彼らは手に、モップやフライパン、火かき棒を持っていた。
「旦那様に無礼を働くな!」
執事が叫び、モップで男の足を払った。 男がバランスを崩す。 そこにトムが体当たりを食らわせる。
「な、なんだお前ら!?」
「使用人の反乱だ!」
カノンが叫び、男の顔に小麦粉の袋を投げつけた。 バフッ! 白い粉が舞い散り、男が視界を奪われて咳き込む。
「今だ! 旦那様、セシリア様、行ってください!」
「ありがとう!」
私とレオンは、粉煙の中を駆け抜けた。 屋敷の中は、ちょっとした戦場になっていた。 あちこちで、使用人たちが衛兵たちに「嫌がらせ」をしていたのだ。 床に油を撒く、階段から水を流す、鍋を打ち鳴らして大声を出す。 武器を持たない彼らの、精一杯の抵抗。 そのすべてが、私たちの逃走を助けてくれていた。
「みんな……」
私の胸が熱くなる。 彼らは、ただ給金のために働いているのではない。 この屋敷を守るために、戦ってくれているのだ。
私たちは裏口から外へ出た。 外はまだ薄暗い。 冷たい風が頬を打つ。
「どこへ行くのですか?」
「製粉所だ」
レオンが走る。 その足取りは、病み上がりとは思えないほど力強かった。
「製粉所? どうして?」
「バルガスたちが待っている。……そこで、迎え撃つ」
「迎え撃つって、何を……」
その時。 遠くから、鐘の音が聞こえた。 カン、カン、カン、カン! けたたましい連打。 それは、領地の緊急事態を告げる警鐘だった。
「……来たか」
レオンが足を止めて、街道の方角を睨んだ。
「何が来たのです?」
「『封鎖』だ」
彼の言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。 街道の方から、何台もの馬車が列をなしてやってくるのが見えた。 しかし、それは商人の馬車ではない。 巨大な資材を積んだ荷馬車と、武装した兵士たち。 掲げている旗は、銀翼商会の紋章と……もう一つ。 三つの盾をあしらった、ハミルトン伯爵家の紋章。
彼らは、街道の入り口――領地と外部を繋ぐ唯一の道――に、資材を下ろし始めた。 柵を作り、バリケードを築いている。
「街道を……塞いでいる?」
「ああ。通行税の未払いを口実に、街道を封鎖しに来たんだ」
レオンがギリリと歯を噛み締めた。
「これで、商隊は入れない。旅人も通れない。……この領地は、完全に陸の孤島になる」
物流の遮断。 それは、経済的な死刑宣告だ。 塩も売れない。食料も入ってこない。 ただでさえ倉庫が焼けて食料がないのに、これでは冬を越す前に全員が餓死する。
「なんて卑劣な……!」
「行くぞ、セシリア。……あそこが、俺たちの最後の防衛線だ」
私たちは製粉所へと走った。
* * *
製粉所の広場には、バルガス率いる男たちが集結していた。 彼らは農具を手に持ち、街道を塞ごうとする伯爵家の私兵たちと睨み合っていた。
「ここを通すわけにはいかねぇ!」 「帰れ! ハイエナども!」
怒号が飛び交う。 しかし、相手はプロの兵士だ。装備の質が違う。 数でも負けている。 今にも衝突が始まりそうな、一触即発の空気。
そこへ、私たちが到着した。
「待てぇぇぇっ!」
レオンが大声で叫んだ。 その声は裏返っていたが、広場全体に響き渡った。
「領主、レオン・ド・グランシェだ! 双方、武器を引け!」
領民たちが振り返る。 「領主様!」「生きてたのか!」
対する伯爵家の兵士たちの中から、馬に乗った指揮官が進み出た。 立派な甲冑を着た、傲慢そうな男だ。
「ほう、死にかけの子爵が出てくるとは。……何の用だ? 我々は正当な権利を行使しているだけだぞ」
指揮官は一枚の羊皮紙を掲げた。
「貴殿の領地は、通行税および商会への返済が滞っている。よって、債権者であるハミルトン伯爵家の命により、資産保全のために街道を管理下に置く。……文句があるなら、金を耳を揃えて返してから言え」
「金なら返す!」
レオンが叫び返した。
「だが、今はまだ期限前だ! 貴様らがやっていることは、不当な実力行使だ! 即刻、バリケードを撤去しろ!」
「期限? ハッ、そんなものは書き換えればどうとでもなる」
指揮官は嘲笑った。
「それに、お前のような無能な領主に、この土地を管理する資格はない。……さっさと退け。さもなくば、反逆者として排除する」
彼が手を挙げると、兵士たちが剣を抜いた。 殺気。 本気の殺気だ。 彼らは、領民を殺してでもここを制圧するつもりだ。
バルガスたちが怯む。 「くそっ、本気かよ……」
レオンの足が震えているのが見えた。 彼は怖いのだ。 当然だ。彼は戦士ではない。ただの、優しすぎる青年だ。 でも、彼は一歩も引かなかった。
彼は私を背中に庇い、両手を広げて兵士たちの前に立った。
「……通さん」
彼は言った。
「この先には、俺の民がいる。俺の家族がいる。……俺が生きている限り、貴様らの一歩たりとも侵入は許さん!」
その姿は、かつての「うだつの上がらない」彼ではなかった。 不格好で、震えていて、包帯だらけで。 でも、誰よりも気高い、本物の貴族の姿だった。
「……レオン様」
私は胸が締め付けられるような思いで彼を見つめた。 彼を変えたのは、私だ。 私の料理が、私の言葉が、彼の心に火をつけた。 なら、私も彼と共に燃え尽きるまでだ。
私は前に出た。 彼の隣に並び立つ。
「あら、レオン様だけではありませんわ」
私は優雅に微笑んでみせた。 ドレスは泥だらけだけれど、心は錦だ。
「この悪役令嬢セシリア・ヴァレリーもいます。……私を敵に回すと、怖いですわよ? 何しろ、王都の社交界を震撼させた女ですから」
ハッタリだ。 でも、今の私たちにはハッタリと、そして『意地』しかない。
指揮官は不愉快そうに顔を歪めた。
「……いいだろう。まとめて踏み潰してやる。全軍、突撃!」
兵士たちが動き出す。 地響きのような足音。 迫りくる刃。
私たちは終わるのか? ここで、無惨に踏みにじられて?
いいえ。 諦めない。 私は、あのスープの味を思い出した。 塩辛くて、焦げ臭くて、でも温かい『生』の味。 あれを飲んだ私たちは、もう負けない。
「……構えろ!」
バルガスが吼える。 領民たちが農具を構える。
衝突の瞬間。
ヒュオオオオオオッ!!
突然、上空から風切り音が聞こえた。 そして、私たちの目の前の地面に、何かが突き刺さった。
ドォォォォォン!!
爆発的な衝撃波が広がり、兵士たちが吹き飛ばされる。 土煙が舞い上がる。 地面に突き刺さっていたのは、一本の巨大な『氷の槍』だった。 太陽の光を浴びて、ダイヤモンドのように輝く氷柱。
「……な、なんだ!?」
指揮官が馬を制御しながら叫ぶ。
「間に合ったか」
煙の向こうから、一人の男が歩いてきた。 肩で息をしているが、その足取りは揺るぎない。 手には、白く輝く杖。
「……アーネスト様!」
私が叫ぶと、彼は眼鏡を押し上げ、不敵に笑った。
「随分と騒がしいな。……私の許可なく、道路交通法違反のバリケードを設置するとは、いい度胸だ」
彼は一人で、軍隊の前に立ちはだかった。
「会計監察局、アーネスト・カレル。……ただいまより、この違法占拠者たちに対する『強制執行』を開始する」
役者は揃った。 うだつの上がらない領主。 悪役令嬢。 そして、氷の監察官。
三人寄れば、文殊の知恵どころか、嵐を呼ぶ。 台所から始まった革命は、いよいよクライマックスへと突入する。
「……さあ、反撃の時間よ、レオン様」
私が言うと、レオンは力強く頷いた。
「ああ。……俺たちの領地を、取り戻すぞ!」
「……寒いわね」
私は薄い毛布を肩に巻きつけ、窓の外を見上げた。 雪はやんでいたが、月は厚い雲に隠れている。 私の心と同じだ。 出口が見えない。
アーネストは「最後の賭け」に出ると言って屋敷を出て行ったきり、戻っていない。 彼が何をしようとしているのか、私には分からない。 ただ、彼の監察官としての地位、あるいは命そのものを危険に晒すような行動であることだけは確かだ。
そして、レオン。 毒と過労で倒れた彼がどうなったのか、情報を得る手段もない。 ミシェルは「医者を呼ぶ」というカノンの訴えを聞き入れただろうか。 それとも、このまま彼が衰弱死するのを待っているのか。
不安が、黒いインクのように心に滲んでいく。 私は膝を抱え、自分の体温だけで暖を取ろうとした。
グゥゥゥ……。
お腹が鳴った。 そういえば、昨夜のフィナンシェ以来、まともな食事をしていない。 アーネストと食べたクリーム煮込みは、味わう間もなく中断されてしまった。 空腹は、思考を鈍らせ、勇気を奪う。 悪役令嬢として、どんな逆境でも優雅に振る舞うと決めていたけれど、生理的な欲求には抗えない。
「……何か、作らなきゃ」
無意識に呟いて、ハッとする。 ここには厨房も、食材も、火もない。 あるのは冷たい床と、埃っぽいカーテンだけ。 料理ができないということが、これほどまでに私の無力感を増幅させるとは思わなかった。
その時だった。
ガチャリ。
扉の鍵が開く音がした。 私は弾かれたように顔を上げる。 ミシェルか? それとも食事を運んできた衛兵か?
扉がゆっくりと開く。 廊下の明かりを背負って立っていたのは、予想外の人物だった。
「……レオン、様?」
そこにいたのは、レオン・ド・グランシェ子爵だった。 その姿を見て、私は息を呑んだ。
酷い有様だった。 顔色はまだ紙のように白く、目の下には深い隈がある。 着ているシャツは煤で黒く汚れ、袖口は焦げている。 そして何より目についたのは、彼の手だ。 指のあちこちに白い布――おそらくシーツを裂いたもの――が巻かれ、そこから赤い血が滲んでいる。
彼は震える足取りで部屋に入ってきた。 その手には、銀色の盆が握られている。 盆の上には、湯気を立てるスープ皿が一つと、スプーン。
「……衛兵にお金を渡して、通してもらった」
レオンは掠れた声で言い、盆をサイドテーブルに置いた。 カチャン、と大きな音が鳴る。 盆を持つ手が震えていたせいだ。
「レオン様、お体は……! 寝ていなければダメですわ!」
私は彼に駆け寄り、体を支えた。 熱い。 まだ高熱がある。 立っているのが不思議なくらいだ。
「……寝てなんかいられないさ」
彼は私の肩を借りて、椅子にドサリと座り込んだ。 荒い息を吐きながら、彼はスープ皿を指差した。
「……食え。腹、減ってるだろ」
私は皿の中身を見た。 それは、お世辞にも美味しそうとは言えない代物だった。 色は茶色く濁っている。 具材は大小バラバラで、中には生焼けのように見える塊もある。 表面には灰のような黒い粒――焦げカス――が浮いている。 そして、匂い。 焦げた匂いと、生姜の強烈な香り、そして微かな血の匂い。
「これは……?」
「『スープ』だ。……名前なんてない。俺が作った」
「あなたが?」
私は驚愕して彼を見た。 レオン・ド・グランシェ。 上げ膳据え膳で育ち、厨房になんて一度も入ったことのない貴族。 あの「うだつの上がらない」彼が、料理を?
「……カノンに、作り方を聞いたんだ。お前が最初に作った、あの骨のスープ……どうやって作るんだって」
彼は包帯だらけの手を恥ずかしそうに隠した。
「でも、難しかった。火は熱いし、包丁は滑るし……お前みたいに魔法で温度を見ることなんてできない」
彼は自嘲気味に笑った。
「鍋は焦がすわ、指は切るわ、塩の量は分からなくなるわ……散々だ。カノンが横で悲鳴を上げていたよ」
想像できた。 病身の主人が、ふらふらの体で包丁を握り、鬼気迫る形相で野菜と格闘する姿が。 カノンが止めるのも聞かず、必死に鍋をかき混ぜる姿が。
「どうして……そんな無理を?」
「……悔しかったんだ」
レオンは膝の上で拳を握りしめた。 滲んだ血が、包帯を赤く染める。
「俺は、何も知らなかった。領民が何を食べているのか、お前がどんな思いで料理を作っていたのか。……アーネスト殿に言われて、初めて気づいた。『数字の源は食事だ』って言葉の意味が」
彼は顔を上げ、私を真っ直ぐに見た。 その瞳は、熱に潤んでいたが、もう逃げてはいなかった。
「お前は、ずっと戦っていた。鍋と包丁で。……俺は、ただ部屋に籠もって、酒を飲んで、可哀想な自分に酔っていただけだ」
「レオン様……」
「だから、俺も戦おうと思った。……まずは、お前と同じ場所に立つことから」
彼はスープを顎でしゃくった。
「味見してくれ。……不味いとは思うが、毒は入ってない」
私はスプーンを手に取った。 手が震える。 この一杯のスープに込められた、彼の不器用で、重すぎるほどの想い。 それは、どんな高級料理よりも尊いものに思えた。
私はスープをすくい、口に運んだ。
「……っ」
正直、味は酷かった。 塩辛い。 野菜は硬い部分と崩れた部分が混在している。 焦げた苦味が口いっぱいに広がる。 そして、生姜の入れすぎで舌が痺れるほど辛い。
貴族の料理ではない。 素人の、失敗作だ。
けれど。
喉を通った瞬間、カッと熱いものが胃袋に落ちた。 それは、ただの温度ではない。 彼の体温。彼の必死さ。彼の覚悟。 それらが、冷え切っていた私の内臓を、直接鷲掴みにして温めていくような感覚。
涙が、溢れた。 止まらなかった。
「……どうだ?」
レオンが不安そうに尋ねる。
「……塩辛いですわ」
私は泣き笑いのような顔で答えた。
「それに、焦げ臭いし、野菜の切り方も雑。……こんな料理、王都のレストランなら即刻クビですわ」
「……だよな」
彼は肩を落とした。
「でも」
私は二口目を口に運んだ。 涙の味が混ざって、さらに塩辛くなったけれど、世界で一番美味しいと思った。
「……温かいです。すごく」
私はスプーンを動かし続けた。 三口、四口。 食べるたびに、体の中に力が湧いてくる。 生きる力。 誰かに想われているという実感。
「ありがとう、レオン様」
私が言うと、彼は目を見開いた。 そして、照れくさそうに鼻を擦った。
「……礼を言われるようなもんじゃない」
「いいえ。これは、私が食べた中で、一番『勇気』の味がするスープです」
私はスープを最後の一滴まで飲み干した。 空になった皿を見て、レオンはホッとしたように息を吐いた。
「……そうか。なら、作った甲斐があった」
彼は立ち上がろうとしたが、よろめいて再び椅子に手をついた。
「レオン様!」
「大丈夫だ。……少し、目眩がしただけだ」
彼は頭を振り、私に向き直った。 その顔つきが変わった。 病人のそれではなく、領主の顔に。
「セシリア。……ここを出るぞ」
「え? でも、ミシェルが……」
「知ったことか。ここは俺の屋敷だ。俺の許可なく、客人を監禁することなど許さん」
彼は懐から、一丁の古い鍵を取り出した。 それは、屋敷のすべての扉を開けることができる、当主のマスターキー。
「アーネスト殿は、命懸けで外へ行った。……あいつが戻ってくるまで、俺たちが中で指をくわえて待っているわけにはいかない」
「でも、どうやって? 外には衛兵が……」
「正面突破だ」
レオンはニヤリと笑った。 それは、初めて見る、彼の悪戯っ子のような、そして頼もしい笑顔だった。
「俺には武器はない。魔法も使えない。……だが、俺には『味方』がいる」
「味方?」
「ああ。お前が作ってくれた、最強の味方がな」
* * *
私たちは部屋を出た。 廊下の突き当たりに、ミシェルの部下である見張りの男が立っていた。 彼は私たちが部屋から出てきたのを見て、槍を構えた。
「おい、勝手に出るな! 部屋に戻れ!」
「道を開けろ」
レオン子爵が静かに言った。 ボロボロの服、包帯だらけの手。 見た目は弱々しい。 だが、その声には、不思議な威圧感があった。
「俺はグランシェ子爵、この屋敷の主だ。貴様らに命令される覚えはない」
「はん、落ちぶれ貴族が。ミシェル様の命令だ。大人しくしねぇと……」
男が槍を突き出そうとした、その時。
バッ!
廊下の陰から、数人の影が飛び出した。 トム、カノン、そして年配の執事。 彼らは手に、モップやフライパン、火かき棒を持っていた。
「旦那様に無礼を働くな!」
執事が叫び、モップで男の足を払った。 男がバランスを崩す。 そこにトムが体当たりを食らわせる。
「な、なんだお前ら!?」
「使用人の反乱だ!」
カノンが叫び、男の顔に小麦粉の袋を投げつけた。 バフッ! 白い粉が舞い散り、男が視界を奪われて咳き込む。
「今だ! 旦那様、セシリア様、行ってください!」
「ありがとう!」
私とレオンは、粉煙の中を駆け抜けた。 屋敷の中は、ちょっとした戦場になっていた。 あちこちで、使用人たちが衛兵たちに「嫌がらせ」をしていたのだ。 床に油を撒く、階段から水を流す、鍋を打ち鳴らして大声を出す。 武器を持たない彼らの、精一杯の抵抗。 そのすべてが、私たちの逃走を助けてくれていた。
「みんな……」
私の胸が熱くなる。 彼らは、ただ給金のために働いているのではない。 この屋敷を守るために、戦ってくれているのだ。
私たちは裏口から外へ出た。 外はまだ薄暗い。 冷たい風が頬を打つ。
「どこへ行くのですか?」
「製粉所だ」
レオンが走る。 その足取りは、病み上がりとは思えないほど力強かった。
「製粉所? どうして?」
「バルガスたちが待っている。……そこで、迎え撃つ」
「迎え撃つって、何を……」
その時。 遠くから、鐘の音が聞こえた。 カン、カン、カン、カン! けたたましい連打。 それは、領地の緊急事態を告げる警鐘だった。
「……来たか」
レオンが足を止めて、街道の方角を睨んだ。
「何が来たのです?」
「『封鎖』だ」
彼の言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。 街道の方から、何台もの馬車が列をなしてやってくるのが見えた。 しかし、それは商人の馬車ではない。 巨大な資材を積んだ荷馬車と、武装した兵士たち。 掲げている旗は、銀翼商会の紋章と……もう一つ。 三つの盾をあしらった、ハミルトン伯爵家の紋章。
彼らは、街道の入り口――領地と外部を繋ぐ唯一の道――に、資材を下ろし始めた。 柵を作り、バリケードを築いている。
「街道を……塞いでいる?」
「ああ。通行税の未払いを口実に、街道を封鎖しに来たんだ」
レオンがギリリと歯を噛み締めた。
「これで、商隊は入れない。旅人も通れない。……この領地は、完全に陸の孤島になる」
物流の遮断。 それは、経済的な死刑宣告だ。 塩も売れない。食料も入ってこない。 ただでさえ倉庫が焼けて食料がないのに、これでは冬を越す前に全員が餓死する。
「なんて卑劣な……!」
「行くぞ、セシリア。……あそこが、俺たちの最後の防衛線だ」
私たちは製粉所へと走った。
* * *
製粉所の広場には、バルガス率いる男たちが集結していた。 彼らは農具を手に持ち、街道を塞ごうとする伯爵家の私兵たちと睨み合っていた。
「ここを通すわけにはいかねぇ!」 「帰れ! ハイエナども!」
怒号が飛び交う。 しかし、相手はプロの兵士だ。装備の質が違う。 数でも負けている。 今にも衝突が始まりそうな、一触即発の空気。
そこへ、私たちが到着した。
「待てぇぇぇっ!」
レオンが大声で叫んだ。 その声は裏返っていたが、広場全体に響き渡った。
「領主、レオン・ド・グランシェだ! 双方、武器を引け!」
領民たちが振り返る。 「領主様!」「生きてたのか!」
対する伯爵家の兵士たちの中から、馬に乗った指揮官が進み出た。 立派な甲冑を着た、傲慢そうな男だ。
「ほう、死にかけの子爵が出てくるとは。……何の用だ? 我々は正当な権利を行使しているだけだぞ」
指揮官は一枚の羊皮紙を掲げた。
「貴殿の領地は、通行税および商会への返済が滞っている。よって、債権者であるハミルトン伯爵家の命により、資産保全のために街道を管理下に置く。……文句があるなら、金を耳を揃えて返してから言え」
「金なら返す!」
レオンが叫び返した。
「だが、今はまだ期限前だ! 貴様らがやっていることは、不当な実力行使だ! 即刻、バリケードを撤去しろ!」
「期限? ハッ、そんなものは書き換えればどうとでもなる」
指揮官は嘲笑った。
「それに、お前のような無能な領主に、この土地を管理する資格はない。……さっさと退け。さもなくば、反逆者として排除する」
彼が手を挙げると、兵士たちが剣を抜いた。 殺気。 本気の殺気だ。 彼らは、領民を殺してでもここを制圧するつもりだ。
バルガスたちが怯む。 「くそっ、本気かよ……」
レオンの足が震えているのが見えた。 彼は怖いのだ。 当然だ。彼は戦士ではない。ただの、優しすぎる青年だ。 でも、彼は一歩も引かなかった。
彼は私を背中に庇い、両手を広げて兵士たちの前に立った。
「……通さん」
彼は言った。
「この先には、俺の民がいる。俺の家族がいる。……俺が生きている限り、貴様らの一歩たりとも侵入は許さん!」
その姿は、かつての「うだつの上がらない」彼ではなかった。 不格好で、震えていて、包帯だらけで。 でも、誰よりも気高い、本物の貴族の姿だった。
「……レオン様」
私は胸が締め付けられるような思いで彼を見つめた。 彼を変えたのは、私だ。 私の料理が、私の言葉が、彼の心に火をつけた。 なら、私も彼と共に燃え尽きるまでだ。
私は前に出た。 彼の隣に並び立つ。
「あら、レオン様だけではありませんわ」
私は優雅に微笑んでみせた。 ドレスは泥だらけだけれど、心は錦だ。
「この悪役令嬢セシリア・ヴァレリーもいます。……私を敵に回すと、怖いですわよ? 何しろ、王都の社交界を震撼させた女ですから」
ハッタリだ。 でも、今の私たちにはハッタリと、そして『意地』しかない。
指揮官は不愉快そうに顔を歪めた。
「……いいだろう。まとめて踏み潰してやる。全軍、突撃!」
兵士たちが動き出す。 地響きのような足音。 迫りくる刃。
私たちは終わるのか? ここで、無惨に踏みにじられて?
いいえ。 諦めない。 私は、あのスープの味を思い出した。 塩辛くて、焦げ臭くて、でも温かい『生』の味。 あれを飲んだ私たちは、もう負けない。
「……構えろ!」
バルガスが吼える。 領民たちが農具を構える。
衝突の瞬間。
ヒュオオオオオオッ!!
突然、上空から風切り音が聞こえた。 そして、私たちの目の前の地面に、何かが突き刺さった。
ドォォォォォン!!
爆発的な衝撃波が広がり、兵士たちが吹き飛ばされる。 土煙が舞い上がる。 地面に突き刺さっていたのは、一本の巨大な『氷の槍』だった。 太陽の光を浴びて、ダイヤモンドのように輝く氷柱。
「……な、なんだ!?」
指揮官が馬を制御しながら叫ぶ。
「間に合ったか」
煙の向こうから、一人の男が歩いてきた。 肩で息をしているが、その足取りは揺るぎない。 手には、白く輝く杖。
「……アーネスト様!」
私が叫ぶと、彼は眼鏡を押し上げ、不敵に笑った。
「随分と騒がしいな。……私の許可なく、道路交通法違反のバリケードを設置するとは、いい度胸だ」
彼は一人で、軍隊の前に立ちはだかった。
「会計監察局、アーネスト・カレル。……ただいまより、この違法占拠者たちに対する『強制執行』を開始する」
役者は揃った。 うだつの上がらない領主。 悪役令嬢。 そして、氷の監察官。
三人寄れば、文殊の知恵どころか、嵐を呼ぶ。 台所から始まった革命は、いよいよクライマックスへと突入する。
「……さあ、反撃の時間よ、レオン様」
私が言うと、レオンは力強く頷いた。
「ああ。……俺たちの領地を、取り戻すぞ!」
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