もう二度と、冷徹侯爵の花嫁にはなりません

なつめ

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第10話 凍った男の焦り


 それを聞いたのは、朝の執務が半ばに差しかかった頃だった。

 窓の外は薄曇りで、王都の空はまだ春の青さを見せていない。ヴァレンティア侯爵邸の書斎にはいつも通り火が入り、暖炉の炎は安定した熱を放っていた。机の上には整然と並んだ報告書。北街道の補修、税の納付状況、商会間の軋轢、王城から下りてきた通達。どれも見るべきものばかりで、本来ならセドリックの思考はそこから逸れないはずだった。

 だが、この数日、その「本来」が機能しない。

 紙を開けば活字のあいだから、リリアーナの声が立ちのぼる。
 愛のない結婚は結構です。
 欲しかったのは謝罪ではなく、あの時のあなたの言葉でした。
 その言葉は、紙よりも硬く、インクよりも深く、彼の胸のどこかへ刺さったまま抜けない。

 それでも表面だけはいつも通りだった。
 報告を聞けば判断を返す。
 署名すべき書類へは迷いなく名を書く。
 部下に向ける声は静かで短く、感情の波は見せない。

 そうしていれば、少なくとも外側はまだ凍っていられる。

「旦那様」

 ローレンスが、控えめに声をかけた。

 年老いた執事の声音はいつも通りだったが、その「旦那様」の中に、報告書とは違う種類の重さが混じっていた。セドリックはペンを置かずに応じる。

「何だ」
「ご報告がございます」
「言え」

 ローレンスは扉のそばから一歩進み、数秒だけ言葉を選ぶような沈黙を置いた。
 その短さで、書類の話ではないと分かる。

「伯爵家のほうで、動きがございます」
「……リリアーナ嬢か」
「はい」

 その名を聞いた瞬間、ペン先が紙の上で止まった。
 動きを止めたのは手だけで、顔は上げない。上げれば何かが出る気がしたからだ。

「内容は」
「母方のご親族のもとへ、しばらく身を寄せる準備を進めているようです」
「親族」
「西の丘陵地に薬草院を持つ叔母君でございます」
「……アデル夫人か」
「ご存じで」
「名前だけは」

 それだけを答えたが、実際には名前だけではなかった。

 アデル・フォルネという女がいることは、結婚前の調査で知っていた。母方の遠縁。社交の中心ではなく、西の土地にこもり、小さな療養施設と薬草園を営む女。表向きは気まぐれな貴族夫人の道楽に見えたが、継続年数と人の出入りから、それなりに機能していることは把握していた。

 だが、その名が今ここでリリアーナと結びつくとは思っていなかった。

「静養の名目か」
「恐らくは」
「恐らく、では話にならん」
「失礼いたしました。伯爵家内部では“婚約の件で心労が重なったため、母方のもとで静養させる”という形を整えつつあるようです」
「……」
「返書も既に届いております」
「早いな」
「先方も迎え入れる意向があるものと」

 そこでようやく、セドリックは顔を上げた。

 ローレンスは静かに立っている。無表情。だが長年仕える執事特有の、主人の呼吸の僅かな乱れを見逃さない目をしていた。

 王都を離れる。

 その意味が、紙の上の活字のように整然とは理解できなかった。もっと生々しく、もっと感覚的に、体の奥へ冷たく落ちていく。

 リリアーナが王都を離れる。
 伯爵家の屋根の下から出て、西の丘陵へ行く。
 侯爵邸でも、伯爵邸でもない場所へ。

 前世では、彼女はずっと手の届く場所にいた。

 同じ屋敷の中に。
 同じ王都の中に。
 夜会へ出れば視界の端に。
 食卓へ向かえば向かいに。
 庭へ出れば、遠くからでも姿を見つけられる場所に。

 距離はあった。触れようとはしなかった。言葉も足りなかった。だが、それでも彼女は常に「見える場所」にいた。
 必要なら護衛を増やせた。
 危険があれば人を回せた。
 熱を出したと聞けば医師を増やせた。
 自分が隣へ行かずとも、手は届くと、勝手に思っていた。

 だが今度は違う。

 西の丘陵は王都から数日かかる。天候が悪ければもっと。小さな薬草院。周囲にいるのは貴族社会のしきたりより、土地の事情で生きている人間たち。王都の目は届きにくい。ヴァレンティア侯爵の名も、距離と地の利の前では鈍る。

 何より。

 何より、彼女は自分の意思でそこへ行くのだ。

 その事実が、胸の奥をきつく締めた。

「出立は」
「まだ確定ではございません。しかし伯爵家では奥方が既に衣類の選別を始め、私物を一部まとめさせているとか」
「いつ聞いた」
「今朝です」
「……そうか」

 声は静かだった。だが喉の内側がわずかに焼ける。

 私物をまとめる。

 その光景が、ありありと浮かぶ。
 彼女の白く細い指が、ドレス棚の前で立ち止まる。
 侯爵家へ嫁ぐために整えられた衣装ではなく、旅に耐える実用品を選ぶ。
 華やかな髪飾りではなく、必要最低限のものだけを箱へ入れる。
 そうして少しずつ、王都から、自分の視界から、消える準備をする。

 消える。

 その二文字が頭に浮かんだ瞬間、胸の中心を何かが掠めた。

 前世の最後の夜が、予告もなく蘇る。

 血の匂い。
 冷えた石畳。
 腕の中で急速に失われていく熱。
 呼んでも、もう戻らない呼吸。
 自分の名前ではなく、彼女の名を何度も呼ぶ、自分の掠れた声。

 逝くな。

 あの時、そう言った。
 言っても意味がない時に。
 届かない時に。
 奪われたあとでしか、口にできなかった。

 今、西へ行くという報告を聞いた時に胸へ走った冷たさは、あの時とよく似ていた。

 いや、同じではない。
 あの時は失った。
 今はまだ失っていない。
 だが、手の届く場所から消えるという意味では、同じ方向を向いている。

 ローレンスが主人の沈黙を見守っていた。やがて低く問う。

「いかがなさいますか」
「……」
「静養であれば、不自然ではございません」
「不自然かどうかの話ではない」

 思ったより強く声が落ちた。
 ローレンスが僅かに目を細める。セドリックはすぐに呼吸を整えた。

「失礼いたしました」
「構いません」

 老執事は淡々と続けた。

「旦那様は、行かせたくないのでございますか」

 その問いは簡潔だった。だからこそ、真ん中を刺す。

 行かせたくない。

 それを、今の自分はどういう意味で思っているのか。

 危険だからか。
 責任があるからか。
 婚約者が王都を離れれば外聞が悪いからか。
 それとも。

 セドリックは答えなかった。答えられないということが、そのまま答えに近いと分かっていたからだ。

 ローレンスも追及はしなかった。ただ一礼して言う。

「追加で探らせますか」
「……いや」
「では」
「彼女の周辺だけでいい。露骨な監視はするな」
「かしこまりました」

 執事が下がり、書斎に静けさが戻る。

 その静けさの中で、セドリックはようやく息を吐いた。肺の底に冷たいものが溜まっているような感覚だった。

 行かせたくない。

 その思いは、否定しても消えなかった。

     *

 午後、王城へ顔を出す必要があった。

 本来なら延期できる種類の用件ではない。北街道の件で、一部の領主と役人の顔合わせが入っていた。侯爵家当主として不在にするわけにはいかない。セドリックはいつも通りの時間に屋敷を出て、いつも通りの装いで馬車に乗り、いつも通りの無駄のない足取りで城へ入った。

 何も変わっていないように見せることは得意だった。

 王城の回廊は高く、冷たい石の匂いがする。人の声は反響し、絹の衣擦れや剣帯の金具の音まで遠く響く。会議の席でも彼は冷静だった。資料を読み、意見を述べ、必要な修正を入れる。誰も異変には気づかなかっただろう。

 だが一度だけ、他領の若い伯爵が「では、婚約者をしばらく王都から遠ざけておくのも一案ですな」と軽く笑いながら言った時、セドリックは自分でも驚くほど鋭くその男を見た。

 ほんの一瞬で済んだが、場の空気が微かに揺れた。

「……侯爵?」
「失礼。続けろ」

 それだけで済ませた。だが内側では、自分でも整理のつかない苛立ちが脈打っていた。

 王都から遠ざける。
 安全のために。
 都合のために。
 外聞のために。

 そういう理屈で、これまで何度も自分は彼女との距離を正当化してきた。
 だが今、その理屈を他人の口から軽く言われた瞬間、喉元へ刃を突きつけられたような不快感が走った。

 安全のため、ではない。
 都合のため、でもない。
 少なくとも、今のこのざわつきは、それだけでは説明がつかない。

 会議が終わり、回廊を一人で歩く。磨かれた床へ靴音が淡く反響する。高窓の外は曇天で、光は薄い。春なのに、城の中はまだ冬の名残を抱えた冷たさがあった。

 中庭に面した回廊で、ふと足が止まる。下を見れば、花壇の端に小さな薬草区画があった。王城の侍医たちが使うためのものだろう。装飾の花ではなく、地味な草の列。そこへ目が吸い寄せられる。

 彼女はああいう場所が好きだった。

 それを初めて認識したのは、前世の五年目あたりだったか。侯爵邸の裏庭で、リリアーナが薬草区画へしゃがみ込み、庭師と何か話しているのを窓越しに見た。ドレスの裾を少し持ち上げて、土に触れないよう気をつけながら、それでも目だけは珍しく柔らかく笑っていた。

 あんなふうに笑うのかと、その時少しだけ驚いた。

 自分の前ではほとんど見なかった顔だった。
 社交の笑みではなく、義務の微笑でもなく、ただ興味あるものに触れている時の静かなやわらかさ。

 あの笑みを見て、何を思った。

 綺麗だと思った。
 そして同時に、自分がその笑みを持っていないことも悟った。

 だから近づかなかった。
 見ているだけだった。

 今、西の丘陵の薬草院へ行くと知って、彼女がどんな顔をするかまで想像できてしまう。王都でも侯爵邸でもなく、自分の視線のない場所で、薬草の匂いの中で、あの静かな笑みを少しずつ取り戻すのかもしれない。

 その想像は、本来なら安心に繋がるべきだった。

 彼女が穏やかに過ごせるなら、それでいい。
 前世で与えられなかった安らぎを、今世では別の場所で得られるなら、それを妨げる理由はない。

 なのに。

 なのに、胸の奥で最初に起こったのは安堵ではなかった。

 焦りだった。

 冷たい、どうしようもない焦り。

 もし彼女が王都を離れ、そのままそこで穏やかさを取り戻し、自分のいない未来に慣れてしまったらどうなる。

 もし侯爵家も、伯爵家も、婚約も、全部なくした場所で呼吸を整えた彼女が、“あの人がいないほうが楽だ”と本当に知ってしまったら。

 それはきっと、正しい。
 正しいに決まっている。
 前世の彼女を思えば、そう結論づけられて当然だ。

 だが、そうなってほしくないと、身体のどこかが激しく拒んだ。

 そこで初めて、セドリックは自分が何を恐れているのかを真正面から見た。

 責任ではない。

 婚約者を守らなければ、ではない。
 自分が黙っていたせいで危険へ晒した、だから今度は遠ざけてはならない、という後悔だけではない。

 もっと身勝手で、もっと冷たくて、もっと人間らしいものだ。

 失いたくない。

 あの女を、自分のいない場所で落ち着かせたくない。
 自分の手の届かない場所へ行かせたくない。
 自分を必要としないまま、穏やかになってほしくない。

 それは保護ではなかった。
 責任でもなかった。
 正義ですらない。

 執着だった。

 その言葉が胸の中で形を持った時、セドリックはしばらく動けなかった。

 回廊の石壁は冷たい。窓の外では風が低く鳴っている。中庭の薬草はまだ小さく、春の光も弱い。それでも世界は淡々と進んでいるのに、自分だけが一歩も動けない。

 執着。

 今まで、そこへ名前をつけなかった。
 つけたくなかったのかもしれない。
 責任と言い換えていれば、まだ自分はまともでいられたからだ。
 婚約者を守る。
 妻を危険から遠ざける。
 そういう言葉は綺麗だ。整っている。侯爵としての理屈にも収まる。

 だが今、彼女が離れると知って最初に胸を焼いたものは、そんな綺麗な理屈ではない。

 行かせたくない。

 それだけだ。

 誰のためでもなく。
 家のためでもなく。
 責任でも義務でもなく。

 自分が、嫌なのだ。
 彼女が、自分の視界の外で、自分なしの未来を選ぶことが。

 その認識は、吐き気がするほど鮮明だった。

「旦那様」

 護衛の一人が少し離れた場所から控えめに呼ぶ。
 セドリックはようやく視線を上げた。

「馬車のご用意が」
「ああ」

 短く応じ、歩き出す。
 足取りは変わらない。
 外から見れば、いつもの侯爵だ。

 だが、先ほどまでと違うのは、自分が今どんな醜い感情を抱えているかを、もう誤魔化せないことだった。

     *

 屋敷へ戻ったのは、日が暮れかけた頃だった。

 空は一日じゅう曇ったままで、夕方になっても赤みはほとんど差さない。ヴァレンティア侯爵邸の石壁は冷えた色を保ち、玄関脇の灯火だけがやわらかく揺れている。

 外套を脱ぎ、手袋を外し、いつものように書斎へ向かう。
 何も乱れていないように見せたかった。
 けれど、ローレンスがすぐ後ろに控える気配の中、自分の呼吸が普段よりほんの少し浅いことは隠しきれない気がした。

 書斎の扉が閉まる。
 静けさ。
 暖炉の火。
 机の上に積まれた報告書。

 だが今日はもう、それらを処理する気にはなれなかった。

「ローレンス」
「はい」
「西の丘陵まで、早馬なら何日だ」
「天候が良ければ二日半、通常の馬車で三日から四日ほどかと」
「……そうか」

 二日半。
 三日。
 その距離が、やけに具体的に胸へ落ちた。

「伯爵家の動きは、明日も」
「注視いたします」
「露骨にはするな」
「承知しております」
「それから」
「はい」
「……彼女が本当に出るなら、出立の日を誤るな」
「かしこまりました」

 ローレンスはそこで一度黙り、それから慎重に言った。

「止められますか」
「……」
「いえ、差し出がましいことを」
「止める、か」

 セドリックは低く繰り返した。
 止める。
 その言葉は簡単だ。
 侯爵家当主としてなら、方法はいくらでもある。伯爵家へ圧をかける。名目を潰す。婚約者の静養など不要だと外から抑える。あるいは、もっと強引に囲うことも。

 だが、それで何になる。

 前世と同じだ。
 彼女の意思を聞かず、自分の理屈だけで配置を決めるなら、また同じ沈黙の繰り返しになる。
 それでは意味がない。
 意味がないどころか、今度こそ本当に彼女は自分を切り捨てるだろう。

 分かっている。

 分かっているのに、焦りは消えない。

「……止めるつもりはない」
「はい」
「だが」
「はい」
「行かせたくもない」

 言ったのは、たぶん初めてだった。
 他人に向けて。
 言葉として。

 ローレンスは一瞬だけ目を伏せた。驚いたのか、納得したのか、その両方か。だがすぐにいつもの執事の顔へ戻る。

「旦那様」
「何だ」
「それは、責任ですか」
「違う」

 今度は、答えるのに迷わなかった。

「責任ではない」
「……」
「私の問題だ」

 ローレンスは深く一礼した。それ以上は問わない。賢い男だ。

 扉が閉まり、セドリックは一人になる。

 自分の問題。

 その言葉の中身を今ならはっきり言える。
 執着だ。
 彼女が手の届く場所から消えることへの焦り。
 前世では死によって奪われた。今世では彼女の意思で離れていくかもしれない。その二つは同じではないのに、身体はどちらにも同じ冷たさを覚える。

 それがどれほど身勝手でも、否定できない。

 彼は机へ向かった。
 白い便箋を引き寄せる。
 前に書きかけた説明の書簡はまだ途中だった。
 君にとって、私が冷たい男に見えていたことを、今日初めて本当の意味で理解した。
 その一文の先へ、まだ続きはない。

 続けなければならない。

 もし彼女が西へ行くのだとしても、その前に。
 いや、行くからこそ、その前に。
 このままでは、本当に手の届かないところへ行ってしまう。距離だけでなく、心まで。

 行かせたくない。
 だが閉じ込めたくもない。
 ではどうする。

 答えは一つしかなかった。

 言葉を尽くすしかない。

 説明する。
 沈黙の理由を。
 言わなかったことの過ちを。
 そして、今、自分が彼女を失いたくないと思っていることを。

 そこまで考えて、セドリックは初めて、自分の中のその最後の思いが、責任や償いの言葉では包めないものだと認めた。

 失いたくない。

 彼女が生きていることを確かめたいからだけではない。
 危険から守りたいからだけでもない。
 自分のいない場所で安らぐ彼女を想像して、胸が焦げるからだ。

 それは、醜い。
 だが、真実だ。

 彼はペンを取った。
 インクの先が白い紙へ触れる。

 今さらだ。
 遅すぎる。
 それでも、今さらだからこそ、もう綺麗な理屈で誤魔化すわけにはいかなかった。

 外では夜の風が、庭木の枝を鳴らしている。春前の乾いた音だ。まだ寒い。まだ季節は途中だ。だが、途中だからこそ、間に合うものが少しはあるかもしれない。

 セドリックは白い紙に次の一行を書き始めた。

 君が王都を離れようとしていると知って、私は初めて、自分が君を守りたいだけではなく、失いたくないのだと認めた。

 文字を見つめる。
 綺麗ではない。
 整ってもいない。
 だが、ようやく嘘ではなかった。

 凍ったままの男が、初めて自分の焦りに名前をつけた夜だった。

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