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第40話 返せなかった言葉たち
その朝、ヴィルレオは夜明けより少し前に目を覚ました。
もはや、眠れぬこと自体には慣れつつあった。眠れない夜は痛みを増幅させる。余計なことを考えさせる。だが、眠れぬまま朝の気配が窓辺へ滲み始める、その静かな時間だけは、最近の彼にとって妙に逃げにくいものになっていた。
別邸の客室は薄く冷えている。暖炉の火は夜半に落とされ、今は灰の中にかすかな熱を残すだけだ。窓の外では、湖のほうから来る風がまだ朝の匂いを運んできていない。空は白く、世界が輪郭だけで出来ているような時間だった。
ヴィルレオは寝台の縁へ腰を下ろし、しばらく動かなかった。
昨日の午後、回廊の日だまりの中で本を読んだ。花を見て、茶を飲んで、リュゼリアは「そばにいるだけなら」と言った。その先でようやく、二人は夫婦ではなく、一人の男と一人の女として、何でもない話を少しずつ重ね始めている。
穏やかだった。
その穏やかさは、本物だった。
けれど夜になると、別のものが胸の奥へ残った。
返していない。
そう思ったのだ。
謝罪はした。遅すぎると知りながら、謝ろうともした。愛していると、自分の胸の中ではようやく認めた。彼女の望みも、少しずつだが聞こうとし始めた。
それでも、まだ足りない。
足りないどころではない。肝心なものが、ごっそり抜け落ちたままだった。
感謝だった。
あの長い年月の中で、彼女が差し出していたものに対して、本来ならその場で返すべきだった言葉。受け取ったと伝えるべきだった言葉。うれしかった、助かった、きれいだった、ありがたかった、そういうごく当たり前の返事たち。
彼はそれを一つも返してこなかった。
返さないまま飲み込み、当たり前の顔で受け取り、役目のように処理し、気づけば彼女に「あなたの愛など要りません」と言わせるところまで来てしまった。
ヴィルレオは顔を上げ、まだ冷たい客室の空気をゆっくり吸い込んだ。
謝罪だけでは届かない。
愛だけを今さら差し出しても遅い。
だとしたら、せめて返せなかった言葉だけでも、いま生きているうちに返さなければならないのではないか。
そう思った瞬間、喉の奥が妙に乾いた。
彼は、感謝を言うことに慣れていないわけではない。政務の場では必要があれば礼を言う。家臣にも、王城の者にも、功績に対して言葉を与えることはある。
だが、それはあくまで役割の中の礼だった。
リュゼリアに対して返すべきだったのは、そういう言葉ではない。
もっと小さく、もっと個人的で、もっと遅れてはいけなかった言葉たちだ。
茶をありがとう。
花を整えてくれてありがとう。
あの夜、声をかけてくれてありがとう。
北方帰りの汁物をありがとう。
食べやすいものを選んでくれてありがとう。
待っていてくれてありがとう。
好きでいてくれてありがとう。
そういう、いまさら胸へ浮かべるだけで痛みの混じる言葉ばかりだった。
ヴィルレオは立ち上がる。窓辺へ歩き、カーテンを少しだけ開けた。
朝の光が薄く差す。
庭の白と青の花は、まだ朝露を抱いたまま揺れていた。花壇を見ただけでリュゼリアの顔を思い出すようになって久しい。もうそれは否定のしようもない。あの女は花の中にも、茶の中にも、食卓の香りの中にも、自分の気配を静かに残していた。彼はその気配を当たり前のように受け取ってきた。
返せなかった言葉は多すぎる。
多すぎるからこそ、今日、ひとつでも口にしなければならない。
◇
朝食のあと、リュゼリアは窓辺の居間へ移っていた。
今日は回廊ではなく、館の中だ。空はよく晴れたが、そのぶん風が冷たく、医師も午前のうちはまだ外へ出ぬよう言っていた。長椅子に薄い灰青の毛布をかけ、背へ柔らかな枕を当て、本を一冊膝の上へ置いている。読むつもりらしいが、実際にはページはまだほとんど進んでいないようだった。
窓辺からは白と青の花壇が見える。光はきれいで、室内の木の床へ明るい帯を落としていた。暖炉にはまだ小さな火がある。別邸の午前は、病人のための部屋でさえ、王都の本邸よりずっと生活の匂いがした。
ヴィルレオは扉の前で一瞬だけ立ち止まる。
入って何を言うのか、頭の中では何度か繰り返したはずなのに、喉のところまで来ると言葉の形が崩れる。
愛している、と今さら言うより難しい気がした。
ありがとう、と。
そのたった五文字が。
彼はノックをした。
「……どうぞ」
リュゼリアの声が返る。
部屋へ入ると、彼女が本から顔を上げる。薄い色の瞳に、穏やかな光が乗っていた。王都にいた頃、彼女はよくこうして何かを手にしていたのに、彼はその姿をほとんど見ていなかったな、と不意に思う。
「具合は」
まずはいつもの問いが口をつく。
「朝より少し楽よ」
「そうか」
それだけで終わりそうになって、ヴィルレオは自分で唇を閉じた。今日は違う。ここでいつものやり取りだけをして立ち去れば、また同じことの繰り返しだ。
リュゼリアは小さく首を傾げる。
「どうかなさいました?」
彼女は最近、彼のこういう微妙な沈黙の違いによく気づくようになった。いや、昔から気づいていたのかもしれない。ただ、昔の彼はその視線へ応じなかった。
ヴィルレオは少しだけ息を整える。
「……話がある」
「ええ」
「謝罪ではない」
その一言に、リュゼリアの睫毛がほんのわずかに揺れた。
「そう」
「だが、たぶん……聞いて気分のいいものでもない」
自分で言ってから、その不格好さに胸の中で苦くなる。もっとましな前置きがあっただろうにと思う。だが今さら言い直す気にもなれなかった。
リュゼリアは本を閉じ、しおりを挟んで膝の脇へ置く。
「聞くわ」
その言い方は穏やかだった。構えすぎてもいないし、無防備でもない。いまの彼女らしい受け止め方だと思う。
ヴィルレオは椅子を少し引き、いつものように近すぎぬ場所へ座った。
しばらく、沈黙が落ちる。
窓の向こうで花が揺れる。どこか遠くで扉が閉まる音がした。暖炉の火が小さく爆ぜる。そういう些細な音ばかりがある中で、彼はようやく口を開いた。
「……返していない言葉が多すぎる」
リュゼリアは黙って彼を見る。
「お前がこれまでしてきたことに、俺は何も返さなかった」
「……」
「返すべき時に」
そこでヴィルレオは一度だけ視線を落とした。だがすぐに上げる。今日は逃げるつもりはなかった。
「だから、今さらだとわかっている。わかっているが、消えたままにするのは……違う気がした」
リュゼリアの指先が毛布の上でほんの少しだけ動く。
「たとえば」
ヴィルレオは低く言った。
「雨の日に書斎へ持ってきた茶と、塩の効いた焼き菓子」
リュゼリアの表情が、かすかに動く。
それは本当に小さな動きだった。驚きなのか、痛みなのか、それとももう忘れたと思っていた記憶へ触れられた戸惑いなのか。彼女自身にもすぐにはわからなかっただろう。
「覚えていらしたの」
ごく静かな声でそう言う。
「覚えている」
ヴィルレオは答える。
「当時は、いらないと言った」
その一言に、リュゼリアの目がほんの少し伏せられる。彼女も覚えていたのだろう。忘れるはずがないのかもしれない。ああいう些細な拒絶こそ、長く残る。
「だが、夜になって食べた」
ヴィルレオは続ける。
「ちょうどよかった。塩気も、固さも。胃に重くなかった」
そこで一拍、言葉を失うように間が空く。
「……ありがとうと、その時言うべきだった」
リュゼリアは何も言わなかった。
けれど、その沈黙は拒絶ではなかった。驚きと、少しの痛みと、何より「そんなことまで覚えていたの」という戸惑いが混ざった沈黙だった。
「それから」
ヴィルレオはまた言う。
「北方から戻った夜の汁物も」
今度はリュゼリアの唇が、かすかに動いた。
「王都の大食堂で出たもの?」
「ああ」
「根菜の、薄いスープ」
「そうだ」
あの夜、長旅と冷えで頭痛がしていた。食欲はほとんどなかった。だから食卓に着いても、皿の前でしばらく手が止まっていた。けれど、最初に出てきた温かな汁物だけは、不思議なくらい喉を通った。
その時も彼は何も言わなかった。
ただ黙って飲み、少しだけ食べられたことに自分で内心安堵し、それを当たり前のように終わらせた。
「助かった」
ヴィルレオは低く言う。
「あれがなければ、その夜は何も食えなかった」
リュゼリアの指先が、今度はもう少しはっきり毛布を掴んだ。
「……そう」
やっと返ってきたその一語は、少しだけ掠れていた。
「そういうことも、言うべきだった」
ヴィルレオは言う。
「お前が花を替えていたことも知っていた。玄関の匂いも、廊下の光の入り方も、食卓の香草が変わることも」
リュゼリアは目を見開いた。
「知って、いたの?」
「全部ではない」
ヴィルレオは正直に言う。
「だが、違いがあることはわかっていた」
そこまで口にしたあと、自分でもその告白がどれほど醜いか思い知る。
違いがあることは知っていた。
けれど、それを“誰が整えているか”までは考えなかった。
考えなかったから、礼も言わず、当たり前のようにそこへ座っていた。
「わかっていたのに」
リュゼリアが小さく言う。
その声には責めというより、ひどく淡い驚きが滲んでいた。
「ああ」
ヴィルレオは頷く。
「わかっていたのに、口にしなかった」
「どうして」
その問いは鋭くはない。むしろ、静かな真実への問いだった。
どうして。
ヴィルレオ自身、何度も自分へ問うたことだ。愛していたのに。うれしかったのに。助かっていたのに。なぜその場で、それをそのまま返せなかったのか。
「……口にしたら」
彼はゆっくりと言った。
「受け取ったことになる」
リュゼリアの眉がわずかに寄る。
「受け取っては、いけなかったの?」
「いけなかったわけではない」
ヴィルレオは首を振る。
「だが、受け取れば、返さなければならないと思った」
それは酷く未熟な告白だった。
自分でも、子どもじみていると思う。だが、それ以上うまい言い換えは見つからなかった。
「返さなければならない?」
「気持ちも、言葉も」
ヴィルレオは窓の外へ一瞬だけ目をやり、また彼女を見た。
「お前が差し出しているものが、ただの役目ではないと認めることになる」
リュゼリアはその言葉を聞き、しばらく動かなかった。
昔の彼がどういうふうに臆病だったのかを、今さらこんなかたちで知ることになるとは思っていなかったのだろう。彼女の目には、驚きと、あまりに遅い理解への痛みが静かに浮かんでいる。
「だから」
ヴィルレオは低く続ける。
「見えていても見ないふりをした」
そこまで言ったところで、暖炉の火が小さく音を立てた。別邸の静けさの中で、その音だけがやけに大きく聞こえる。
「だが、お前が差し出していたものは、全部、うれしかった」
その一言に、リュゼリアの喉がごくわずかに動く。
「食べやすいものを選んでくれたことも」
「……」
「疲れている日に茶の温度がちょうどよかったことも」
「……」
「花があるだけで、屋敷の空気がましになることも」
「……」
「王城から戻った夜、食卓でお前がそこにいると、妙に落ち着いていたことも」
そこで、彼は少しだけ息を止めたように見えた。こんな言葉を口にするのは、おそらく彼自身にも簡単ではないのだろう。
「全部、返すべきだった」
リュゼリアは、もう窓の外を見ていなかった。
まっすぐヴィルレオを見ていた。
その視線は、昔のように期待を込めて差し出されるものではない。それでも、いまこの瞬間だけは確かに彼の言葉を受け止めようとしている目だった。
「……欲しかったわ」
ぽつりと、リュゼリアは言った。
ヴィルレオの呼吸が止まる。
「その時に、聞きたかった」
「……ああ」
彼はすぐに頷いた。
「わかっている」
「ええ。もうわかっているのね」
リュゼリアの声は、責めるよりも、どこか疲れたやさしさに近かった。
「だから、余計に痛いの」
その一言が、まっすぐ胸へ落ちる。
余計に痛い。
そうだろう。いまこうして返される言葉は、彼女が欲しかった当時にはなかった。だからこそ、うれしくないわけではないのに、その“うれしさ”は必ず痛みと混ざるのだ。
「……すまない」
反射のように謝罪が出かける。
だがその瞬間、リュゼリアがごく小さく首を振った。
「今日は、それは違うでしょう?」
ヴィルレオは口を閉じた。
たしかにそうだった。今日のこれは、謝罪の話ではない。返せなかった言葉を、ようやく返そうとしている話だ。
彼は黙って頷き、気を取り直すように息を吸った。
「もう一つある」
リュゼリアは待つ。
「お前が夜会で客の名前を先に教えてくれたこと」
リュゼリアの目が少しだけ見開かれる。
「え……」
「俺は覚えたつもりでいても、似た家名が続くと時々混ざる」
ヴィルレオは淡々と言う。
「お前はいつも、その前に小さく順番を囁いた」
あまりに些細なことで、彼女自身ももう忘れたと思っていたのかもしれない。リュゼリアはしばらく息を詰めたような顔をしていた。
「助かっていた」
ヴィルレオが言う。
「お前のおかげで何度も取り違えずに済んだ」
そこまで聞いて、リュゼリアは本当に驚いたように小さく笑ってしまう。
「そんなことまで」
「そんなこと、ではない」
ヴィルレオの返しはすぐだった。
「俺にとっては、そういうものの積み重ねだった」
その言葉の“積み重ね”が、今までどれほど無言で通り過ぎてきたのかを思うと、二人のあいだに短い沈黙が落ちる。
やがてリュゼリアが、静かに言った。
「……返せなかったのは、あなただけじゃないわ」
ヴィルレオが顔を上げる。
「どういう意味だ」
「わたくしも、言えなかったことがあるの」
リュゼリアは少しだけ視線を落とし、自分の手元を見る。
「あなたが食卓にいらっしゃるだけで、ほっとしていた日があったわ」
「……」
「帰りが遅い夜に、廊下で足音を聞くと安心したこともある」
「……」
「ほんの少し、こちらを見てくださっただけで、それだけで一日分の救いみたいに感じたことも」
その一つひとつは、昔の彼が聞いていたなら、たぶんもっと早くに何かが変わっていたのかもしれない。あるいは、やはり変わらなかったのかもしれない。それはもうわからない。
ただ、いまこうして互いに返せなかった言葉を置き合う時間があることだけは、確かな事実だった。
「でも、言えなかった」
リュゼリアは言う。
「怖かったから」
「何が」
「そんなことを言ってしまったら、きっとあなたにとって重いだろうと思っていたの」
ヴィルレオは目を伏せる。
その通りだったのかもしれない。あの頃の彼にとっては。
「だから」
リュゼリアは小さく息をついた。
「お互い様なのかもしれないわね。返せなかった言葉が多すぎたのは」
その言葉は、慰めではなかった。
事実の確認に近い。
返せなかった言葉たち。
その多さが、二人のあいだに長い空白を作った。
それでも、いまこうして一つずつ言葉にしていること自体が、何かの終わりというより、ようやく始まった遅い会話のようにも思えた。
◇
午後の後半、日差しは少しだけ傾き、回廊の床へ長い影が伸び始めた。
リュゼリアは居間から回廊へ出るほどの元気はなかったが、窓辺の日だまりは十分にあたたかい。ヴィルレオは、彼女が疲れた様子を見て、それ以上話を続けなかった。昔の彼なら、ここで気づかずに会話を重ねていたかもしれない。今は違う。彼女の呼吸の浅さを見て、きちんと引くことを少しずつ覚えている。
ただ、引く前に一つだけ、彼は言った。
「……ありがとう」
その言葉は、本当に小さかった。
けれど、飾りも逃げもなく、まっすぐだった。
リュゼリアは少しだけ目を見開き、それから、ゆっくりと微笑んだ。
「ええ」
それだけを返す。
昔のように、その一言だけで全部が満たされるわけではない。
けれど、返ってこなかった言葉が、完全に消えてしまう前に、ようやく一つだけ戻ってきた。その事実を、彼女は静かに受け取った。
外では白と青の花が揺れている。
冬の名残を抱いた光が、その花弁の上だけをやわらかく照らしていた。
その光の中で、返せなかった言葉たちは、今さらながら、少しずつ声を持ち始めていた。
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