夫の不倫相手に「妻の座を譲れ」と言われたので、譲る代わりに全部置いていきます 〜行き先は老舗旅館。追いかけてきても、もう遅いです〜 

なつめ

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第14話 あなたの名前で呼ばれる


 夕方の帳場には、昼とは違う種類の緊張が流れていた。

 朝の忙しさは、音の数が多い。湯気の立つ鍋、食器の触れ合う音、部屋ごとの食事時間、送迎、風呂、子どもの眠気。いくつもの小さな波が一度に押し寄せて、それを皆でさばいていく感じがある。だが夕方は違う。音は朝より少ないのに、空気の密度が少しだけ濃い。宿へ戻ってくる客を迎える準備、夕食の流れ、風呂上がりの湯上がり処の整え、貸切風呂の札、部屋ごとの灯り。どれも表向きは静かだが、一つずれると館全体の印象に響く。そんな時間だった。

 帳場の窓の外では、川が夕方の光を細く受けていた。

 昼間は白く光っていた水が、いまは少しだけ青みを帯びて、石の間を静かに流れている。対岸の木立ちには薄い影が落ち始めていて、空はまだ明るいのに、宿の中だけが先に夕方へ入り込んでいくようだった。廊下の行灯には、まだ火が入っていない。けれど、もう少ししたら、それぞれの足元へやわらかな灯りを落とし始めるのだろう。

 澄乃は帳場の脇の小机で、客室案内の仮の見直し案を一度閉じた。

 今日の午後だけで、ずいぶん色々なことを見た。予約表の癖、客室の細かな綻び、厨房の流れ、篠田の帳場のさばき方、伊織の判断の速さ。まだ一日も経っていないのに、ここには手を入れられる場所がいくつもあると分かった。その発見は嬉しかったが、同時に、少しだけ落ち着かない気持ちも残っていた。

 ここで自分は、何と呼ばれるのだろう。

 そんなことを考えてしまう自分に、澄乃は少し呆れていた。

 呼び名なんて、仕事の本質ではない。そんなことくらい分かっている。それなのに、一度気になり始めると、胸の奥で小さな棘のように引っかかって離れない。久世家を出て、水篝館へ来て、働かせてほしいと頼み、条件を交わし、今日一日だけでもずいぶん呼吸は楽になった。けれど、まだ自分の輪郭が定まっていない感じがある。

 久世家では、呼ばれ方にいつも役割がくっついていた。

 奥さん。奥さま。若奥さま。久世さん。昌親さんの奥さん。お嫁さん。

 それらは間違いではないのだろう。実際、自分はその役割を担っていた。だが、どの呼び方にも澄乃そのものはほとんどいなかった。妻として、嫁として、家の中の一つの場所として呼ばれているだけで、自分の名前が丸ごとここにある感じは薄かった。

 祖母だけが、昔からきちんと「澄乃」と呼んでくれた。

 結婚してからも、祖母はたまに電話口で「澄乃、あんた、ちゃんと眠ってるの」と言った。名字や役割の前に、まず名前が来る呼び方だった。祖母が亡くなってから、その呼び方に守られていたことに気づくまで、少し時間がかかった。

「ええと」

 篠田が帳場の引き出しから小さな記入用紙を取り出しながら言った。

「従業員用の連絡欄に、仮のお名前を入れておこうと思うのですが」

 その一言に、澄乃は顔を上げた。

 仮のお名前。

 言われてみれば当然だ。住み込み扱いにするか、宿泊費から引く形にするか、正式な取り決めは今夜詰めると言われている。それでも館内で連絡を回す以上、呼び名は必要だ。部屋番号だけでは仕事が動かない。

「お名前、どういたしましょう」

 篠田の問いは穏やかだった。けれど澄乃は、思った以上にすぐ答えられなかった。

 喉のところで言葉が一度止まる。

 久世。

 その名字が頭へ浮かぶ。だが、もうそれを自分の名前として口に出したくなかった。役所の手続きや書類上はまだ整理が必要だとしても、水篝館でまでその名字を名乗ることに、どうしても心が向かない。

 では、杠。

 それが生まれた時からの名前だ。自分の名字だ。けれど、それをここで口にすると、なぜか急に背筋が硬くなる気がした。名字だけでは、まだ少し距離がある。過去の自分と現在の自分のあいだに、薄い襖が一枚残るような感じがする。

 澄乃はわずかに目を伏せた。

「……その」

 と、言いかけた時だった。

「澄乃さんでいいだろ」

 不意に背後から声がした。

 振り向くと、帳場の奥から伊織が来るところだった。夕方の見回りから戻ったばかりなのか、羽織の襟元に外気の匂いが少しだけ残っている。篠田が「ああ、そのほうが分かりやすいですね」と自然に頷く。

「では、澄乃さんで」

 さらりとそう言われた瞬間、澄乃の胸の真ん中へ、ひどく静かなものが落ちた。

 澄乃さん。

 ただ、それだけの呼び方だ。

 奥さんでもない。久世さんでもない。誰かの付属物としての名前でも、誰かの家に属するための名字でもない。役割でも、体裁でもなく、自分の名前だけがそこへ置かれた。

 こんなに、楽なのかと思った。

 たったそれだけのことが。

「……はい」

 返事は少し遅れて出た。自分でも少し驚くほど声がやわらかい。

 篠田は記入用紙へさらさらと文字を書き込んでいく。

『澄乃さん』

 そこに生まれた小さな字を見ただけで、澄乃は妙に息がしやすくなった。紙の上に書かれた名前が、自分の居場所をほんの少しだけ輪郭づける。自分はここで、誰かの役割ではなく、名前で呼ばれるのだと分かる。

 伊織はそれ以上何も言わず、帳場の横へ置かれていた部屋割り表を手に取った。まるで何でもないことを言っただけ、という顔だ。だが、その何でもない一言がどれほどありがたいかを、澄乃は言葉にできなかった。

「澄乃さん」

 ほどなくして、若い仲居の一人が帳場へ顔を出した。

「すみません、五番のお部屋の花なんですけど、今の位置だと窓開けた時にちょっと危ないかもしれなくて」

 名前で呼ばれる。

 それだけのことに、また胸が微かに揺れる。

 澄乃は立ち上がった。

「見に行きます」

 廊下を歩きながら、さっきの呼び名がまだ耳に残っている。五番の部屋は一階の角で、川に近いぶん風が通りやすい。窓辺の花はたしかに、障子を開ける勢いによっては倒れる位置にあった。澄乃は花台を半歩内側へずらし、枝の向きを少しだけ変える。

「これでどうでしょう」

 仲居の少女は、ほっとしたように頷いた。

「ありがとうございます、澄乃さん」

 また。

 その呼び方に、いちいち心が反応する自分が少し可笑しい。だが、笑い飛ばすにはまだ少し新しすぎる。

 部屋を出て廊下を戻る途中、澄乃はふと足を止めた。

 窓へ映った自分の顔は、昼より少しやわらかい。何かが劇的に変わったわけではない。疲れた顔だし、やせた頬もそのままだ。けれど、名前で呼ばれた時の自分の表情は、役割を差し出していた頃の顔とは違う気がした。

 帳場へ戻ると、篠田が別の帳面を開いていた。

「澄乃さん、こちらの常連さんへのお茶請けなのですが、いつものものが今夜切れてしまっていて。代わりに何がよさそうか、一緒に見ていただけますか」

「はい」

 自然に返事をする。

 名前のあとにすぐ仕事が続く。その流れが心地よかった。同情や慰めのために名前を使われるのではなく、ただその人を呼ぶための言葉として、当たり前に置かれる。それがこんなに救いになるとは、正直、来るまで思っていなかった。

 考えてみれば、久世家で自分の名前はどのくらい呼ばれていたのだろう。

 義父はたいてい「君」か「澄乃さん」だったが、それも家の機能を担う人間に向ける丁寧さの延長だった気がする。義母は人前では「澄乃さん」と呼びながら、家の中では「あのね」「ちょっと」や「あなた」で済ませることのほうが多かった。昌親は――そういえば、自分の名前を呼ばれた記憶があまりない。必要な時は「おい」とか「なあ」とか、それで足りていた。足りていた、と思われていた。

 夫婦なのに。

 名前を呼ばない関係が普通になっていた。

 そのことに、今さらのように気づく。

 昔、結婚したばかりの頃、一度だけ自分から「澄乃って呼んでくれないの」と軽く言ったことがあった。昌親はその時、少しだけ面倒そうに笑って、「今さら照れるだろ」と言った。冗談めいた返しだったので、それ以上言わなかった。だが今になって思えば、あの時すでに、名前で呼ばれないことへの寂しさは始まっていたのかもしれない。

「澄乃さん」

 今度は廊下の向こうから別の声がした。板場の若い調理人が、小鉢を載せた盆を持って立っている。

「これ、六番へお持ちしてもいいですか。今お部屋に入って大丈夫そうかだけ確認お願いしたくて」

「六番は、さっきお風呂へ向かわれたので、もう少しあとがいいかもしれません」

「助かります」

 調理人はそう言って引き返していく。短いやり取りだ。けれど一つ一つが、澄乃という名前の周りへ新しい輪郭を作っていく。

 夕方の館内は少しずつ灯りを増やし始めた。行灯に火が入り、廊下の端々がやわらかく照らされる。川は光を失い、その代わりに音が深くなる。窓の外の気配が薄れていくぶん、館内の声や足音が少しだけ近く聞こえた。

 そんな中、伊織は相変わらず必要な言葉しか口にしなかった。

「澄乃さん、二番の客室、湯呑み一つ追加で」

「澄乃さん、食事処の入口、案内札を入れ替えといて」

「澄乃さん、今の電話、送迎は明朝七時十五分で伝えていいか確認して」

 どれも短く、実務的だ。気遣いを大仰に包まない。だが同時に、そこには一度も「気の毒な人だから軽い仕事だけ振る」という空気がなかった。必要なことを、必要な量だけ、ちゃんと人として渡してくる。そのことが、澄乃の心を少しずつほどいていく。

 必要以上に同情されないのは、こんなにも楽なのだ。

 もしここで伊織が、腫れ物に触るみたいに遠慮したり、逆に過度に優しく扱ったりしていたら、澄乃はきっとかえって居心地を悪くしていただろう。痛ましい事情のある女として受け取られるのではなく、いま目の前で仕事をしている人間として扱われる。その中にだけ、最低限の気遣いが混じっている。ちょうどいい。驚くほど。

 食事処の膳が順に出ていく頃、客の一人が帳場へ寄った。

 年配の女性だった。帯をきちんと結び、穏やかな顔をしている。

「ねえ、ちょっとお願いできるかしら」

「はい」

 澄乃が出ると、女性は少しだけ声を低めた。

「連れが先に休んでしまって、できれば明朝のお粥を少なめにしていただきたいの。こういうこと、誰に言えばいいのかしらって思って」

「承ります」

 澄乃は自然に答え、メモを取る。

「お名前を確認してもよろしいですか」

 女性が部屋番号を告げる。その時、食事処のほうから別の客がこちらへ向けて「奥さん」と呼びかけた。たぶん澄乃に向けてではなく、近くにいた別の女性客へかけた声だ。だが、その音だけで一瞬体が強張りかける。肩の奥に古い癖が戻りそうになる。

 その時、帳場の奥から伊織の声が飛んだ。

「澄乃さん、終わったらこっち」

 呼ばれて、澄乃ははっと息を戻した。

 澄乃さん。

 たったそれだけで、いま自分がどこに立っているのかが分かる。奥さんではない。久世家の嫁でもない。ここでは、自分は澄乃なのだ。

「はい、すぐに」

 答えた声は、少しだけ明るかったかもしれない。

 夕食の波が引いていく頃には、足も肩もさすがに疲れていた。だが、嫌な疲れ方ではなかった。人の名前や部屋番号や流れを追い続けた疲労はある。けれど、久世家で一日中誰かの気分の変化を浴び続けた夜の疲れ方とは、まるで種類が違う。肉体の表面にくる疲れで、心の芯を削るものではない。

 片づけが落ち着いたあと、篠田が小さく湯呑みを差し出してくれた。

「お疲れさまでした、澄乃さん」

 その呼び方が、もう朝ほど強く胸を打つわけではない。けれど、その代わりに、静かに自分の中へ馴染み始めているのが分かる。

「ありがとうございます」

「今日は初日なのに、随分助けていただいてしまって」

「こちらこそ、色々教えていただいています」

「そう言ってくださると嬉しいです」

 篠田の笑みは控えめだがあたたかい。その横で、若い仲居も盆を片づけながら「澄乃さん、明日も朝いらっしゃいますよね」と気軽に声をかけてきた。まるで最初からいた人のような自然さで。その自然さが、ありがたかった。

 帳場の灯りが少し落とされ、夜の館内が深くなっていく。

 伊織は最後の確認を終えてから、澄乃のほうを見た。

「今日はここまででいい」

「はい」

「疲れたか」

「少しだけ。でも、心地いいほうです」

 正直にそう答えると、伊織は短く頷いた。

「ならよかった」

 それから、ほんの一拍置いて続ける。

「お疲れ、澄乃さん」

 その言い方は、昼間の指示の時とは少し違った。仕事の流れの中の呼びかけではなく、一日の終わりに向けたちゃんとした呼び方。必要以上に優しくはない。ただ、自然で、まっすぐだった。

 澄乃はその場で少しだけ目を見開き、それから静かに頭を下げた。

「お疲れさまでした」

 胸の奥に、やわらかなものが降りてくる。

 名前で呼ばれる。

 たったそれだけの積み重ねが、こんなにも人をほどくのかと、澄乃は半ば呆れるような気持ちで思う。だが事実だった。名字に夫の家がまとわりつかず、役割名でも呼ばれない。その当たり前が、久しぶりすぎて、今の自分には少し眩しい。

 部屋へ戻る廊下で、澄乃は障子へ映る自分の影を見た。細く、まだ少し疲れていて、けれどどこか昨日とは違う。形そのものは同じでも、影の輪郭が少しだけやわらいでいる気がする。

 名前で呼ばれるたび、自分の中の固い結び目が、ひとつずつほどけていく。

 久世家を出てから、ずっと胸のどこかで身構えていたものが、水篝館の夜の空気の中で少しずつ緩んでいく。誰かの家に属するための呼び名ではなく、ただ一人の人間の名前で呼ばれること。それが、こんなにも静かな救いになるとは思わなかった。

 澄乃は自分の部屋の前で立ち止まり、そっと息を吐いた。

 呼ばれるたび、自分に戻る。

 そんな感覚が、今夜はもうはっきりあった。


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