私のかわいそうな王子様

七瀬美織

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第一章 初恋

第九話 竜騎士の契約 ①

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 私が寝込んだのは、隣国ゲンタリオスから宰相閣下が到着した当日だった。でも、最初から私は公式行事は不参加だから関係ない。翌日には、ベイルクス先生の診立て通り私は元気になった。

 王太子殿下は、病床の国王陛下の代理で、主賓をもてなす立場になる。だから、父上のお仕事内容は、団長と副団長の実質二人分になっていた。
 母上は、王族として参加する以外に、外交の根回しに忙殺されていた。実は、晩餐会や舞踏会まで差配していたらしい。王太子妃殿下が、体調不良を理由に自分の役割を全て母上に丸投げしたそうだ。

 私は、公式行事が終わるまで、自室に籠っていた。アレクシリスと一緒のお勉強もお休みだ。ゲンタリオス国の使者一行が城内に滞在しているので、移動の警備要員の近衛騎士団も、教師役の文官達も忙しいからだ。それでも毎日、両親は私に会いに来てくれた。



 お昼寝の枕元で、二人の微かな声がした。

「 …… サンドラ、先代の治世から、三親等以内の婚姻は国内法で禁止されているのですよね」
「ええ、父の代から、貴族法も合わせて正式に変わり、近親婚を禁止したわ。それまでは、親と兄弟姉妹以外でしたら婚姻可能たったから、上位貴族が血脈を重んじて近親婚を繰り返し、子供が産まれ難いのを重く受けての法改正よ」

 婚姻法の話? う、うん、眠気が …… 。

「ただ、 …… は知っているのでしょうか?」
「 …… この騒ぎが終わったら、確認してみましょう」
「シシィと話してみて、感じたのですが、どうやら …… は、本当の …… 。彼らの望み通りに、シシィが …… 可能でしょうから …… 。しかし、 …… あるとは思えませんし …… 」
「恋は、 …… 王家は、ある意味、 …… いるから …… 」
「 …… だとしても、マリーを不幸にするなら、私は許すつもりは無いよ」

 うん? 私?!

「グレイル。シシィはシリスティアリスの息子なのよ。彼が真に望むなら、私は反対しないわ」
「君は、そうだね。うん、わかっているよ。しかし、私はマリーの父親だ。当然、反対するよ。マリーは、誰にもやらない!」
「あら、妬けちゃうわ。グレイルは、私の事なんてマリーの次なのね?」
「サンドラ …… 」

 う~ん。半分以上話の内容が分からなかった。昼寝中の娘の枕元でイチャつかないで下さい。



 隣国の宰相閣下の滞在は六日間。隣国からの外交案件は実務的で多岐に渡りっていた。隣国の宰相閣下は、なかなかの手腕を発揮しているらしい。
 一日目は歓迎式典。二日目から四日目の昼間は、会談で案件を協議して、夜は上位貴族と順番に晩餐会を、五日目は王宮で舞踏会を行う。そして、六日目に帰国する予定だ。

 お昼寝の時間、またしてもパッチリ目覚めてしまった。テラスの窓のカーテンをめくり、そっと中庭を眺めた。『妖精の庭』の水先案内、蝶の群れはもう何日も現れていない。
 ああ、シドにもらった妖精について書かれた本が読みたかったのに …… 。



 そして、事件は舞踏会の直前に起きた。



 私が、事件を知ったのは、舞踏会の翌日のお昼だった。父上が、私を自室まで迎えに来た。

「マリー、落ち着いて聴いて下さいね」
「はい。父上」

 父上は、母上と私に丁寧な口調で話すクセがある。ちょっと、他人行儀に聞こえるけど、家族仲は問題ないよ。
 ファルザルク王国は、封建的で貴族は階級に厳しい。父上は、優秀な近衛騎士だけど子爵家の次男では王女の配偶者として相応しくないと、上位貴族に猛反対された。
 結婚する為に、両親は様々な条件を上位貴族から突きつけられた。父上は、王族には数えられず、爵位も騎士爵のみ、結婚して三年以内に子供をもうけなければ離婚する事とか、胸くそが悪くなる内容ばかりだった。

 こんな理不尽な要求を受け入れて、二人は結婚した。現在のファルザルク王家に、上位貴族を抑え込む力が無かったせいだ。

 今でも、父上を引きずり下ろして、王女の配偶者を狙う貴族達がいる。だから、父上は、隙を与えない為に、家族だけになってもあまり口調を変えたりしない。父上は、本当に誠実で真面目な人なのだ。
 だけど、母上の事は、サンドラ、私は、マリー、アレクシリスを、シシィと愛称で呼ぶのは、家族の約束だからだ。この件で、文句を言ってきた貴族は、氷の王女を敵にまわす事になる。

 何があったのだろう? 人払いをして、エルシアと、護衛騎士の親子も同席しているけど、みんな険しい顔をしている。

「昨夜の舞踏会が行われる前、王太子殿下にシシィが呼び出されました。その場には、ゲンタリオスの宰相閣下も同席されていた。王太子殿下は、その場でシシィとゲンタリオス国の第一王女殿下との婚約を、舞踏会で正式に発表すると仰せになった」
「そんな! 陛下や母上が、お許しになったのですか?!」
「いいえ、王太子殿下の独断です。しかし、舞踏会で発表されていれば、取り消すのは難しかったでしょうね」
「では、婚約発表はされなかったのですか?」
「ええ、婚約発表はされませんでした。ここからが本題です。落ち着いて聴いて下さいね」
「はい」
「側にいた護衛騎士の証言では、シシィは、自分は国を出る事は出来ないと、王太子殿下に申し上げたそうです。シシィは、将来必ず騎士に相応しい大人になって、竜族の若者、杜若かきつばたと正式な『竜騎士の契約』を交わす事を、『精霊誓約』した。だから、竜騎士になる自分は、国外に出ることも、ゲンタリオスの王女殿下と結婚することも出来ないと宣言したそうです」

 ええっと、何だか物凄く大変な事になってない? 『竜騎士の契約』とか、『精霊誓約』って何?!


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