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第一章 初恋
第二十二話 竜騎士の歴史
しおりを挟む急がないと竜族との会談に遅刻しそうなので、最初からエルシアに抱っこしてもらった。
今日は、護衛騎士が少なめで、父上やイトラスも護衛の頭数だから頼れないのだ。
「エルシア、疲れませんか?」
「身体強化系の魔術を使えますから平気です」
エルシアって、そんな事も出来るんだ!
「父上、会談はどこで行われるのですか?」
「『囁きの森』、竜族の竜騎士団寮です。こちらからは、王太子殿下、アレクシリス殿下、マリーと、私が出席します」
「母上は会談に出席しないのですか?」
「出席者は、王族の代表、当事者、『精霊の姫君』、護衛兼教育係代表です。竜族は、他の者の出席を認めていないのです」
「母上、またふて寝していませんか?」
「サンドラは、グラトン室長を過労死させるわけにはいかないので、執務室でお仕事です。会談が終わったら、報告に一緒に行きましょう」
「はい。父上」
「竜族は、長の蘇芳殿と、杜若殿と藍白殿に、非番の竜族の竜騎士達です。話の流れ次第で、後から、竜騎士団長と副団長も参加する予定です」
アレクシリスの運命が決まる会談だ。
『精霊の種』どうか力を貸して! 私は、心の中で呼びかけた。
『いいわよ、マリー姫。軽めに竜族の知識と、蘇芳対策を教えてあげる』
「!?」
「マリー様、どうかいたしましたか?」
「な、なんでもありません」
エルシアが、心配そうに私の顔を見ていた。私の呼吸が、驚きで一瞬止まったからだ。
『脳内会議みたいな感じだから、マリー姫は、普通にしててね』
ーーーーり、了解です。それにしても、小ホールでは、色々とやらかしていただいたのですね。
『ごめんなさい! つい、調子に乗りました! 王宮の精霊達まで、ストレス解消とばかりに一緒になって弾けちゃったの。でも、マリーの魔力をそんなに使わずに済んだから許してね』
ーーーー私の為にしてくれたのでしょう? ありがとうございます。『精霊の種』さんは、まだ生まれる前なのに、そんな事をして大丈夫なのですか?
『わたしは、精霊王に言わせると、規格外なのですって』
ーーーー規格外? 異世界転生者の精霊だから?
『それもあるけど、時間が無いから、その話はまた今度ね』
ーーーーえ、はい。
この世界には、知性を持つ様々な種族が存在する。
しかし、他の大陸に住んでいたり、人間の生存不可能な場所など、生活圏が交わらず互いの交流は少ない。広大な世界には、未だ前人未到の地が数多く存在し、そんな秘境に住んでる一族の一つに竜族がいた。
竜は、大空の覇者にして、全ての生物の頂点に君臨する最強の種族だった。自らを神々の剣と呼び、強靭な巨体と豊富な魔力で、太古の昔、魔族を滅ぼしたと言われている。実際に、竜族はどこでどんな生活をしているのか子細は全く謎だった。
その、謎に包まれた竜族と人族の交流が始まったのは、竜族が幾つもの部族に別れて敵対し、争いに発展したのがきっかけだった。
もし、世界最強の竜族間で戦争を行えば、世界中が破壊し尽くされてしまうだろう。遥かな太古、竜族同士の争いで、崩壊して海に沈んだ大陸の伝説があるほどなのだ。
そこで、どういう理屈なのか竜族は、人族を間に介すことにした。
『これ、約八百年前の事だけど、それには『誓約の女神』が深く関わっているのよ』
ーーーー『誓約の女神』って、アレクシリスと杜若の誓約を成立させた『誓約の精霊』と関係あるのですか?
『そうよ。『誓約の女神』は『誓約の精霊』の長。彼女は、世界を守るため、一計を案じたのよ』
当時、人族の国々も戦乱の世であった。そこで、敵対している人族の国に、敵対する竜族がそれぞれ味方をする。竜族が己れと共に戦う人族のを選び、半身とする契約を結ぶ。契約を結んだ竜族を『契約竜』、人族を『契約者』と呼び、共に『竜騎士』を名乗り共に戦う。後に、『契約戦争』と呼ばれた大戦だ。
『竜騎士の契約』は、竜族にとって魔力や能力の枷になり、世界を壊す事なく戦える。人族にとって竜族の大きな力が武器になる。竜の背に乗り、大空を自由に飛べる高揚感に人は酔いしれた。
しかし、『契約竜』の制約の枷は、互いに悲劇をもたらした。
『契約竜』は、能力に関して制約が多く、奮える力も魔力も通常の半分以下となり、その背に『契約者』を乗せなければ、魔法も発動できず戦えない。その為、契約戦争では、多くの人族側の竜騎士が犠牲になった。『契約竜』は、枷に縛られ戸惑いの中で戦った。それ故、多くの『契約竜』は己の『契約者』を護りきれなかった。頭部さえ無事ならば、持ち前の生命力と魔法で生き延びられる竜族と違い、人族はあまりに脆弱な生き物だった。
契約は、互いに生涯ただ一度限り。寿命の違い、考え方の違い、習慣の違い、様々な障害と戦いの果て、竜族も人族の国々も、戦いの虚しさを学んだ。
多くの『契約竜』は『契約者』を喪って、ひっそりと余生を暮らしている。『契約竜』を失った『契約者』も同様だったが、もう生きている者はいない。
契約戦争が終結してからも、竜騎士は存在する。しかし、竜騎士団を組織出来る程の人数が居る国は、そう多くない。
ファルザルク王国は、別名 『竜騎士王国』と呼ばれ他国から一目置かれた存在だった。
ーーーー竜騎士の歴史、壮絶なお話ですね。以前は、自分の記憶のように知識が引き出せていたきがしますが、今は歴史書を読んでいる様な感覚です。
『わたしと、知識を共有している状態が異常なのだから、徐々に正常に戻っているのかもしれないわね』
ーーーーそうなのですか。
『知識は、これくらいでいいかしら? あと、蘇芳対策よね?』
ーーーーぜひ、聞きたいです!
『蘇芳は、子供と涙が苦手なの』
ーーーー?!
『それだけ。あとは、貴女の父上に任せて大丈夫よ』
ーーーーええ~?
私は、なんとなく、竜族の長の蘇芳が苦手だった。アレクシリスの部屋で、ミニチュア雷を落とされたからかな?
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