【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス

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それは恋文ではなく報告書です

 翌日の昼過ぎ。私はまたレイさんと、店のカウンターを挟んで向かい合って座っていた。
 カウンターの上には、昨日と同じ、なんの変哲もないグレーの封筒。表には、これまた変わらず、角ばった文字で「ミアさんへ」と書かれている。

「昨日ミアさんに言われたことを守って、書き直してみたんです!」

 レイさんは、背筋をぴんと伸ばし、両手をきちんと膝に揃えて、きらきらと期待に満ちた目でこちらを見つめている。そのまっすぐすぎる視線に、私は思わず小さく苦笑して、封筒をトントンと指で叩いた。

「……まずひとつ言わせてもらうと、レイさん」

「は、はいっ」

「封筒、地味すぎです。恋文なのに、まったくときめきがないわ」

 レイさんは封筒を見てハッとし、慌てて懐からペンとメモを取り出した。  

「そ、そうなんですね!? でも、落ち着いた色のほうが、丁寧な感じがするかなって……」

「それは仕事の場合です。恋文なら、もっと気持ちが伝わるものを選ばなきゃ」

 私は軽くため息をつきながら、封筒を手に取ると、封を切り、中の便箋を開いた。

(……えっ、これ……?)

 そこに並んでいたのは、想像の斜め上を行く「文章」だった。私は思わず絶句し、顔をバッと上げてレイさんを見た。 

「昨日ミアさんに、ポエムはダメ出しされたから、やめたんです!」

 レイさんは「どうだ!」と言わんばかりに、得意げに顎を上げている。

(……か、箇条書き……?) 

 そこには、丁寧な字で「ミアさんの好きなところ」が一行ずつ綴られていた。

 
 ミアさんへ
   
・ミアさんの、人柄がにじむような美しい字が好きです。
・ミアさんの、言葉の選び方が、いつも素敵で好きです。
・ミアさんの、凛として丁寧な話し方が好きです。
・ミアさんの、透き通るような声が好きです。
・ミアさんの、ミルクティーみたいな髪の色が好きです。
・ミアさんの、僕の下手くそな手紙にも、真剣に向き合ってくれるところが好きです。
 
 ミアさん、好きです。

 レイより

   
(……言った。確かに昨日、『どんなミアさんが好きなのか、ちゃんと言葉にして』って言ったわ……) 

 思わず、口元に手を当てて笑いそうになるのをこらえる。私は便箋をそっと伏せて、ひとつ深呼吸してから、レイさんの方に向き直った。

「……レイさん」

「は、はいっ」

 背筋をさらにぴんと伸ばすレイさんに、思わず口元がほころぶ。

「まず、努力は……とても伝わりました」

「本当ですか!? やった……!」

 嬉しそうに目を輝かせるその顔を見てしまうと、厳しいことは言いにくくなってしまう。でも、言わなくちゃいけない。

「……ただ、これでは『報告書』です」

「……ほ、報告書……?」

 ぴたりと笑顔が止まり、レイさんが瞬きを繰り返す。

「好きなところをちゃんと伝えよう、っていう姿勢は素晴らしいわ。でも、『ミアさんの~が好きです』って文を箇条書きで並べるのは、気持ちを伝えるには少し味気ないというか……機械的すぎるの」

「うっ……そ、そうかもしれません……」

 しょんぼりと肩を落とす姿が、ますます子犬のようで困ってしまう。私は少しだけ言葉を和らげながら、続けた。

「ひとつひとつの『好き』には、ちゃんと気持ちがこもってると思うの。だからこそ、それを『どうしてそう思ったのか』とか、『いつ、そう感じたのか』みたいに、エピソードをあなたの言葉でつなげていくといいわ」

 レイさんは、じっと私の顔を見つめたあと、慌ててペンを取ると、猛烈な勢いでメモを書きはじめた。

「そっか……『感想』じゃなくて、『気持ち』を書くんですね……!」

 私はくすっと笑って、うなずいた。

「わかりました、ミアさん。じゃあ、また書き直してきます!」

(……この人、すごいな。落ち込むどころか、もう次に向けて全力で前向きだなんて)

 私が呆れるより先に、レイさんがぱっと顔を上げて言った。

「でも……さっきミアさん、言いましたよね?」

「え?」

「ひとつひとつの『好き』には、ちゃんと気持ちがこもってると思うって」

 ぐっと身を乗り出して、まっすぐ私を見る。

「じゃあ、僕の気持ち……伝わったってことですよね!?」

「っ……!」

 しまった。そこだけピンポイントで拾わないでほしい。

「い、いえ、それはあくまでも……その……手紙として、表現の意図が……」

「でも、伝わったんですよね!? やった……!」

 嬉しそうに笑う顔が、あまりに無邪気すぎて、なぜかこっちが負けた気になる。

「レイさん」

「はいっ」

「私はあくまで、第三者の立場から、『添削アドバイザー』としての意見を述べているだけですから」

「はいっ!」

 満面の笑みで元気よく返事をするレイさん。

(通じてない。絶対に通じてない……)

 私はそっと、再びため息をついた。
 
 

 
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