運命力ゼロの悪役令嬢

黒米

文字の大きさ
15 / 79
第2章 王立ルミナス学院 1年目

第14話 セレナ・ヴェルディアの運命

しおりを挟む
王立ルミナス学院の測定室は、あの日と変わらず静かで冷たい空気に包まれていた。

壁には脳波グラフと量子場の解析図が並び、中央には球体型の測定装置が鎮座している。

クラリスは、妹セレナの手を握りながら部屋へと入った。
セレナの手は少し汗ばんでいて、指先が震えていた。

「大丈夫よ。」
クラリスの言葉に、セレナは小さく頷いた。

測定官が無言で装置の準備を始める。
銀の紋章が刻まれた制服を着た技術者たちが、淡々と動きながらセレナを椅子へと導いた。

「セレナ・ヴェルディア様、こちらへどうぞ」

セレナはクラリスの手を離し、ゆっくりと装置の前に座った。

銀髪が光に照らされ、淡く揺れる。

クラリスは、あの日の自分を思い出していた。あの瞬間、世界が変わった。
妹も、今その扉の前に立っている。

「脳波安定。量子揺らぎ、同期開始」

無機質な声が響き、装置が静かに起動する。空間に光の波が広がり、空気が震える。

クラリスは、祈るような気持ちで妹を見つめていた。
セレナは目を閉じ、静かに呼吸を整えている。

数秒の沈黙の後――

装置の上部に、数値が浮かび上がった。
「運命力:89」

室内の空気が一瞬で変わった。
技術者たちがざわめき、測定官が記録を取り始める。

「89……非常に高い数値であり、素晴らしい結果でございます」

クラリスは、思わず笑みを浮かべた。
「セレナ、すごいわ。あなた、本当に立派よ」

セレナは目を開け、数値を見つめた。
「……姉様には届かなかったのね」

クラリスは頷き、妹の手を握った。
「ええ。でも誇っていいわ。あなたはあなたの道を歩いていけるわ」

その言葉に、セレナの瞳が潤んだ。
「ありがとう、姉様」

控室の外では、父ヴァルターが結果を聞いて静かに頷き、母リヴィアは胸を撫で下ろしていた。

こうして、セレナ・ヴェルディアの運命力測定は、無事に終わった。

そして、姉妹は手を取り合いながら、学院の廊下を歩いていった。

*

測定が終わった後、学院の門を出たヴェルディア家の一行は、馬車に乗り込み、王都の中心へと向かった。

空は澄み渡り、夏の陽光が石畳の通りを照らしていた。

街路樹の葉が風に揺れ、広場の噴水が涼しげな音を奏でている。

「今日は、少しだけ王都を見て回りましょう」
リヴィアが微笑みながら言った。

セレナは、測定の緊張が抜けたのか、少しだけ表情が柔らかくなっていた。
クラリスの隣に並びながら、街並みを見上げる。
「姉様、ここって……晩餐会のときに通った通り?」
「ええ。王宮へ向かう道よ。でも今日は、ただの観光客よ。」

クラリスは、妹の手をそっと握った。その手は、測定前よりも少しだけ力強くなっていた。

一行は、広場のカフェに立ち寄った。テラス席に座り、紅茶と焼き菓子を注文する。

「セレナ、どうだった?測定は」
リヴィアが優しく尋ねる。

「うん……心配だったけど、姉様がいてくれたから、頑張れた」
セレナはそう言って、クラリスに笑いかけた。

クラリスは微笑み返す。

ヴァルターは黙って紅茶を口に運びながら、街の様子を見ていた。
通りには、貴族の馬車、商人の荷車、そして測定結果を話題にする市民たちの声が混ざっていた。

「運命力89だってさ。ヴェルディア家の次女だろ?」
「姉が94で妹が89か……すごい家系だな」 
「結局、貴族だから高いんだろうな」

その言葉が、クラリスの耳に届いた。

カフェを出た後、一行は書店に立ち寄った。
クラリスは、量子理論の入門書を手に取った。セレナは背伸びをして同じように入門書を手に取る。

「セレナ。まだ早いと思うわ。私が使い終わったら、こっちをあげる」
セレナは少し不貞腐れたような顔をしたが、クラリスと顔を見合わせるとすぐに笑った。

夕暮れが近づく頃、馬車は再びヴェルディア邸へと向かっていた。窓の外には、王都の灯りが少しずつ灯り始めていた。

クラリスは、妹の肩にそっと頭を寄せながら、静かに目を閉じた。

*

クラリスたちが王都の観光をしていた頃…

王宮の一室。

重厚な扉が閉じられ、外の喧騒は完全に遮断されていた。

窓辺には王妃エレオノーラが立ち、遠く王立ルミナス学院の塔を見下ろしていた。
その瞳は冷静で、計算された光を宿している。

「セレナ・ヴェルディア。運命力89――予想以上ね」

その言葉に、宰相ヴィクトル・ハインツが資料を手にして応じた。
「はい。姉クラリスが94、妹が89。安定した高数値を持つ家系と見て間違いないかと。特に、妹の方はまだ幼く、今後の伸びしろも期待できます」

エレオノーラはグラスの縁を指でなぞりながら、静かに言った。
「クラリスは、数字は申し分ないけれど……やっぱり自我が強い。あの目は、従順には育つことはないわ」

ヴィクトルは頷く。
「セレナは、姉に強く影響を受けているようですが、性格的には柔らかく、扱いやすい印象です。今のうちに王宮との関係を築いておくべきかと」

そのとき、扉が開き、第一王子レオニスが姿を現した。

「セレナの測定結果、聞いたよ。89か。悪くない」
彼は椅子に腰を下ろし、帳簿を開いた。

「クラリスは、僕の婚約者としては申し分ない数字だが……少し扱いにくそうだ。妹の方が素直なら、選択肢としてはありだろう」

エレオノーラは微笑む。
「ええ。あなたに本当にふさわしい娘を選んだらいいわ」

ヴィクトルは静かに言葉を継ぐ。
「セレナは、来年学院に入学するとのことですので、少しずつ接触を図るのがよろしいかと。制度の象徴としてどちらが真にふさわしいか、ゆっくり見極めればよいと考えております」

レオニスは帳簿を閉じ、立ち上がった。
「どちらが“ふさわしい”かは、数字だけでは決まらない。だが、数字が低い者には、そもそも選ばれる資格がない」

エレオノーラは頷いた。
「クラリスが揺らげば、セレナを。それだけのことよ。運命に選ばれた者は、常に入れ替わる可能性がある」

そして、王族のあやしげな密談は静かに終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

もちもちほっぺ
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

処理中です...