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第4章 王立ルミナス学院 3年目
第35話 学院祭準備
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学院祭まで、あと一週間。
王立ルミナス学院は、まるで別の場所のように活気づいていた。
中庭には色とりどりの旗が掲げられ、回廊には装飾の布が風に揺れている。
生徒たちは忙しそうに走り回り、準備の声があちこちで飛び交っていた。
クラリスは、生徒会室の一角で、出展者リストと進行表を見つめていた。
その目は真剣で、資料に向ける手は迷いなく動いていた。
(私は、制度の象徴。けれど、それだけじゃ足りない。誰かの期待に応えるだけじゃなく、自分の言葉で、自分の姿で、示さなきゃ)
副会長リュシアが、クラリスの隣に立っていた。
彼女は、クラリスの手元を見て、静かに微笑んだ。
「ずいぶん慣れてきたわね。最初の頃よりも、ずっと頼もしくなった」
クラリスは、少しだけ照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。先輩の考え方を聞いてから、少しずつ……自分の中で整理できてきた気がします」
「それなら、よかったわ」
リュシアは、窓の外を見ながら言った。
「制度の中で、自分のやるべきことを見つけるのは、簡単じゃない。でも、見つけた人は、強くなるわ」
クラリスは、窓の外に広がる学院の景色を見つめた。
そこには、笑い合う生徒たち、協力し合う姿、そして制度の“外”で生きる人々の姿があった。
(私は、数字で選ばれた。でも、今ここにいるのは、私が選んだから。誰かに言われたからじゃない。私が、やりたいと思ったから)
そのとき、扉が開き、ロジーナが顔を出した。
「クラリス様、出展者の最終確認、終わりました。あとは、配置図の修正だけです」
「ありがとう、ロジーナ。助かるわ」
クラリスは立ち上がり、資料を手に取った。
リュシアは、二人のやり取りを見ながら、静かに言った。
「クラリスさん。学院祭の開会式、あなたに挨拶をお願いしたいの。制度の象徴としてじゃなく、学院の一人の生徒である“クラリス・ヴェルディア”として」
クラリスは、驚いたように目を見開いた。
「私が……?」
「ええ。あなたの言葉で、今の学院を、今の制度を、どう見ているか。それを、みんなに伝えてほしいの」
クラリスは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「……分かりました。私の言葉で、伝えます。私がどう生きているかを」
リュシアは、満足げに微笑んだ。
「それでこそ、王国の未来を担う人よ」
クラリスは、窓の外に目を向けた。
春の風が、学院の塔を優しく撫でていた。
(私は、制度の象徴。でも、それだけじゃない。私は、私自身として、ここに立つ)
そして、学院祭の幕が、静かに上がろうとしていた。
*
重厚な扉が閉じられた室内には、王族直属の警備が控えていた。
窓の外には王都の灯が広がり、静かな夜の帳が学院を包み込んでいる。
レオニス・グランフェルドは、窓辺に立ち、遠くの王宮の塔を見下ろしていた。
背筋は伸び、表情は変わらない。だが、瞳の奥には、わずかな揺らぎがあった。
生徒会長アリステア・フォルドは、机の上に資料を広げていた。
その隣には、外部連携担当セドリック・ハインツが控えている。
「クラリス君の発言、制度の象徴としては危うい」
アリステアが静かに口を開いた。
「副会長に影響されすぎている。良くない方向に行こうとしている」
セドリックは、資料を閉じながら答えた。
「ですが、生徒、そして王国の民からの支持は高まっています。演習以降、彼女の名は王都でも“希望”として語られています。“象徴”としての役割は、むしろ果たしているとも言えます」
レオニスは、窓から目を離さずに言った。
「希望は、制御できなければ脅威になる。制度は盤石でなければならない。
クラリスが“自我”を持ち始めたなら、それはもう象徴ではない」
アリステアは頷いた。
「学院祭の開会式。彼女の言葉が制度にとって有益かどうか……見極める必要があります。もし、制度の正しさを疑わせるような発言があれば、王族としての立場から介入が必要になるかもしれません」
セドリックは、静かに言葉を継いだ。
「その場合、代わりはすでに用意されています。妹のセレナ・ヴェルディア。運命力も高く、性格も従順。制度の安定には、彼女のほうが適しているかもしれません」
レオニスの瞳が、わずかに揺れた。
だが、すぐにその光は冷静さを取り戻す。
「クラリスが制度の象徴であり続けるなら、それでいい。だが、もし逸脱するなら――計画を動かすまでだ」
アリステアは、資料を整えながら言った。
「制度は、個人の感情で揺らいではならない。それが、王国の秩序を守る者の責務だ」
レオニスは、窓の外に再び目を向けた。
その先には、学院の塔が静かに立っていた。
(クラリス・ヴェルディア。お前は、何を言うつもりだ?)
*
寮の廊下は静まり返っていた。
窓の外には、月が淡く輝き、中庭のチューリップが風に揺れている。
セレナは、自室の机に向かっていた。
開かれた剣術の教本には、クラリスから教わった基本の構えが丁寧に書き込まれている。
彼女は、指先でその図をなぞりながら、そっと息を吐いた。
(姉様は、学院祭でみんなの前に立つんだ……)
その姿を思い浮かべるだけで、胸が少しだけ高鳴る。
誇らしさと、ほんの少しの焦りが混ざった感情。
(私は、まだ何もできていない。剣も、勉強も、姉様みたいには……)
セレナは、机の端に置かれた銀の懐中時計に目を向けた。
それは、クラリスがかつて使っていたものを譲り受けた、大切な時計。
そっと蓋を開けると、秒針の音が静かに響いた。
(でも、姉様は言ってくれた。“あなたはあなたでいい”って)
その言葉が、胸の奥に温かく残っていた。
セレナは、教本を閉じて立ち上がった。窓辺に歩み寄り、夜空を見上げる。
(私も、頑張らなきゃ。姉様の隣に立つためじゃなくて――私自身のために)
月の光が、彼女の銀髪を優しく照らしていた。
王立ルミナス学院は、まるで別の場所のように活気づいていた。
中庭には色とりどりの旗が掲げられ、回廊には装飾の布が風に揺れている。
生徒たちは忙しそうに走り回り、準備の声があちこちで飛び交っていた。
クラリスは、生徒会室の一角で、出展者リストと進行表を見つめていた。
その目は真剣で、資料に向ける手は迷いなく動いていた。
(私は、制度の象徴。けれど、それだけじゃ足りない。誰かの期待に応えるだけじゃなく、自分の言葉で、自分の姿で、示さなきゃ)
副会長リュシアが、クラリスの隣に立っていた。
彼女は、クラリスの手元を見て、静かに微笑んだ。
「ずいぶん慣れてきたわね。最初の頃よりも、ずっと頼もしくなった」
クラリスは、少しだけ照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。先輩の考え方を聞いてから、少しずつ……自分の中で整理できてきた気がします」
「それなら、よかったわ」
リュシアは、窓の外を見ながら言った。
「制度の中で、自分のやるべきことを見つけるのは、簡単じゃない。でも、見つけた人は、強くなるわ」
クラリスは、窓の外に広がる学院の景色を見つめた。
そこには、笑い合う生徒たち、協力し合う姿、そして制度の“外”で生きる人々の姿があった。
(私は、数字で選ばれた。でも、今ここにいるのは、私が選んだから。誰かに言われたからじゃない。私が、やりたいと思ったから)
そのとき、扉が開き、ロジーナが顔を出した。
「クラリス様、出展者の最終確認、終わりました。あとは、配置図の修正だけです」
「ありがとう、ロジーナ。助かるわ」
クラリスは立ち上がり、資料を手に取った。
リュシアは、二人のやり取りを見ながら、静かに言った。
「クラリスさん。学院祭の開会式、あなたに挨拶をお願いしたいの。制度の象徴としてじゃなく、学院の一人の生徒である“クラリス・ヴェルディア”として」
クラリスは、驚いたように目を見開いた。
「私が……?」
「ええ。あなたの言葉で、今の学院を、今の制度を、どう見ているか。それを、みんなに伝えてほしいの」
クラリスは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「……分かりました。私の言葉で、伝えます。私がどう生きているかを」
リュシアは、満足げに微笑んだ。
「それでこそ、王国の未来を担う人よ」
クラリスは、窓の外に目を向けた。
春の風が、学院の塔を優しく撫でていた。
(私は、制度の象徴。でも、それだけじゃない。私は、私自身として、ここに立つ)
そして、学院祭の幕が、静かに上がろうとしていた。
*
重厚な扉が閉じられた室内には、王族直属の警備が控えていた。
窓の外には王都の灯が広がり、静かな夜の帳が学院を包み込んでいる。
レオニス・グランフェルドは、窓辺に立ち、遠くの王宮の塔を見下ろしていた。
背筋は伸び、表情は変わらない。だが、瞳の奥には、わずかな揺らぎがあった。
生徒会長アリステア・フォルドは、机の上に資料を広げていた。
その隣には、外部連携担当セドリック・ハインツが控えている。
「クラリス君の発言、制度の象徴としては危うい」
アリステアが静かに口を開いた。
「副会長に影響されすぎている。良くない方向に行こうとしている」
セドリックは、資料を閉じながら答えた。
「ですが、生徒、そして王国の民からの支持は高まっています。演習以降、彼女の名は王都でも“希望”として語られています。“象徴”としての役割は、むしろ果たしているとも言えます」
レオニスは、窓から目を離さずに言った。
「希望は、制御できなければ脅威になる。制度は盤石でなければならない。
クラリスが“自我”を持ち始めたなら、それはもう象徴ではない」
アリステアは頷いた。
「学院祭の開会式。彼女の言葉が制度にとって有益かどうか……見極める必要があります。もし、制度の正しさを疑わせるような発言があれば、王族としての立場から介入が必要になるかもしれません」
セドリックは、静かに言葉を継いだ。
「その場合、代わりはすでに用意されています。妹のセレナ・ヴェルディア。運命力も高く、性格も従順。制度の安定には、彼女のほうが適しているかもしれません」
レオニスの瞳が、わずかに揺れた。
だが、すぐにその光は冷静さを取り戻す。
「クラリスが制度の象徴であり続けるなら、それでいい。だが、もし逸脱するなら――計画を動かすまでだ」
アリステアは、資料を整えながら言った。
「制度は、個人の感情で揺らいではならない。それが、王国の秩序を守る者の責務だ」
レオニスは、窓の外に再び目を向けた。
その先には、学院の塔が静かに立っていた。
(クラリス・ヴェルディア。お前は、何を言うつもりだ?)
*
寮の廊下は静まり返っていた。
窓の外には、月が淡く輝き、中庭のチューリップが風に揺れている。
セレナは、自室の机に向かっていた。
開かれた剣術の教本には、クラリスから教わった基本の構えが丁寧に書き込まれている。
彼女は、指先でその図をなぞりながら、そっと息を吐いた。
(姉様は、学院祭でみんなの前に立つんだ……)
その姿を思い浮かべるだけで、胸が少しだけ高鳴る。
誇らしさと、ほんの少しの焦りが混ざった感情。
(私は、まだ何もできていない。剣も、勉強も、姉様みたいには……)
セレナは、机の端に置かれた銀の懐中時計に目を向けた。
それは、クラリスがかつて使っていたものを譲り受けた、大切な時計。
そっと蓋を開けると、秒針の音が静かに響いた。
(でも、姉様は言ってくれた。“あなたはあなたでいい”って)
その言葉が、胸の奥に温かく残っていた。
セレナは、教本を閉じて立ち上がった。窓辺に歩み寄り、夜空を見上げる。
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月の光が、彼女の銀髪を優しく照らしていた。
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