運命力ゼロの悪役令嬢

黒米

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第6章 王立ルミナス学院 5年目

第61話 素敵なサプライズ

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生徒会室。

重厚な扉の先には、円形の会議卓の上には新学期の資料が整然と並んでいる。
窓の外では、草木が風に揺れ、学院の鐘が遠くで響いていた。

クラリスは、副会長としていつも通りの場所に座る。
銀髪を丁寧に編み込みながら資料を整えていた。

(新学期……今年こそは、もっとがんばらなきゃ)
胸の奥に小さな決意を抱きながら、彼女は視線を上げる。

会議卓の中央に立つのは、レオニス・グランフェルド。
白金の髪が春の光を受けて淡く輝く。

「新学期を迎え、我々生徒会は学院の運営にさらに力を入れる必要があると思う。」
その声は、静かでありながら、講堂の鐘のように響いた。
「そのために――新しいメンバーを迎えることにした。」

クラリスの指先が、資料の上で止まる。

(新しいメンバー……?そんな話、聞いていない)
胸の奥に、わずかなざわめきが広がる。

レオニスが扉に視線を向け、低く告げる。
「入れ。」

扉が静かに開く。

春の光を背に、銀髪を揺らしながら見慣れた一人の少女が顔を見せる。
制服の裾を整え、深く一礼するその姿――クラリスの胸が強く脈打った。

「セレナ・ヴェルディアです。これから、生徒会の一員として、皆様のお力になれるよう頑張ります」

クラリスの瞳が揺れる。
(セレナが……?生徒会に?)

驚き、誇らしさ、そして――突然の出来事に、複雑な感情が胸を締めつける。

ミレーユが、涼しい笑みを浮かべながら言った。
「まあ、素敵なサプライズね。ヴェルディア姉妹が並ぶなんて、みんなの話題はこれで持ちきりね」

ルークが、腕を組みながら軽口を叩く。
「おいおい、力入れすぎだろ。とんでもないな。」

カイは、冷静な声で言葉を添える。
「おおよそ学院の方針だろう。……理由は?」

視線は、レオニスに向けられていた。
「再測定で95を記録した。学院としても、彼女を生徒会に迎えるのが最適と判断した。」

クラリスの胸に、冷たいものが走る。
(95……私とほぼ同じ数字。それだけ……?)
うれしさと不安が入り混じり、言葉が出ない。

レオニスが会議を締める。
「以上だ。詳細な役割分担は次回の会議で決める。」

そうして、レオニスはセレナを連れて生徒会室を後にした。

*

生徒会室を後にしたクラリスは、静かな足音を響かせながら歩いていた。
(セレナが、生徒会に……教えてくれても良かったのに)

驚きと誇らしさが胸を満たす。
妹と一緒に学院で何かができることは、素直にうれしい。

けれど――その奥に、冷たい影が潜んでいた。

(みんなの反応からして、レオニス様以外に誰も知らなかった?)
(学院の判断?……いいえ、多分もっと上)

足を止め、窓辺に手を添えた。

(95……私とほぼ同じ数字。だから選ばれた?)
(制度の象徴としての私の立場は……揺らいでいるの?)

胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
誇らしさと不安が、せめぎ合うように心をかき乱していた。

深く息を吸い込み、歩き出す。
石畳に響く足音が、回廊に響く。

そのとき――背後から軽やかな足音が近づいてくる。

「クラリス」
涼やかな声が、静かな回廊に溶ける。

振り返ると、栗色の髪を揺らしながらミレーユが立っていた。
「少し、いい?」

彼女は、まるで何でもないことを話すような調子で歩み寄る。
クラリスは、わずかに眉をひそめながら頷いた。

「……何か、あったの?」
クラリスは少し警戒している。

ミレーユは、唇に笑みを浮かべたまま、ゆっくりと答える。
「王都で、あなたの講演会の話が広まっているわ。あまりうまくいかなかったって」

クラリスの胸に、冷たいものが走る。
「……そんなに広まっているの?」

「ええ。それだけじゃないわ」
ミレーユの声が、わずかに低くなる。
「妹のセレナが再測定で95を記録したことも、もう王都中の噂よ。『姉より妹のほうがふさわしいのでは』――そんな声まで出始めている」

クラリスは、息を呑んだ。
「……どうして、そんな話が……」

ミレーユは、肩をすくめ、意味深な笑みを浮かべる。
「さあ、誰かが上手に広めているんじゃない?王都の人って噂好きだから」

クラリスは、何かを言おうとしたが、喉の奥で言葉が絡まり、出てこない。

ミレーユは、軽やかに回廊を歩き出す。
「気をつけてね、クラリス。あなたの言動や行動――みんな、見ているわ」

*

「クラリス様」
また後ろから声を掛けられ、振り返るとロジーナがいる。

「ロジーナ、どうしたの?」

「いえ、ぼーっとしてらしたので、どうされたのかと」

「そうね…、少し考え事をしていたの」
そう言いながら、クラリスは歩き始める。

「セレナ様のことですか?私もびっくりしちゃいました」

「私も。セレナったら何にも言ってくれないんだもの」
すこし不貞腐れたような態度をとるクラリスとそれを見て笑うロジーナ。

「驚かせたかったんですよ、きっと」

「そうね。でも、セレナのことでちょっと他に気になることがあるの」
不貞腐れた態度から一転、真剣な顔をしてロジーナに顔を向ける。
「セレナの再測定のときのことよ。覚えてる?」

「セレナ様の再測定ですか?何かありましたか?」
何か彼女が気になることがあっただろうかと考えるロジーナ。

その様子を見て、少し考えたクラリスは何かを決心したような表情をして、口を開く。
「うーん、やっぱりこれは私一人で調べてみることにするわ。何かわかったら協力をお願いできる?」

「そうですか…。お役に立てず、申し訳ないです…。いつでも相談してくださいね」
そう言って自分の寮の部屋のほうに行くロジーナ。

その背中を見ながらクラリスは、先ほどのロジーナの反応を思い返す。
(セレナの再測定の時のアレに、気づいていなかった。)
(何もなかったら、無駄に苦労を掛けるだけだし…。万が一、彼女が巻き込まれないように…。)

そうして、クラリスは静かに回廊を進んでいった。
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